自賠責保険における後遺障害慰謝料の支払基準と算定方法

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
自賠責保険における後遺障害慰謝料の支払基準と算定方法

自賠責保険(じばいせきほけん)とは、原付を含む全ての自動車を対象に加入が義務付けられている保険であり、人身事故における最低限の補償を目的としています。強制保険とも呼ばれますが補償範囲は後遺障害や通常の傷害、または被害者が死亡した場合に限られるため物損事故に対する損害の補償はされません。

平成27年度における自賠責保険の支払状況を確認すると、支払総額となる8,426億円のうち、後遺障害に関する支払いが2,363億円になっています。

自賠責保険における後遺障害慰謝料の支払基準と算定方法

参照元:損害保険料率算出機構 2016年度 自動車保険の概況

交通事故によって後遺障害を負った被害者は加害者へ慰謝料や損害賠償金を請求するべきですが、自賠責保険金に関しては補償内容によって限度額が定められています。また、傷害事故と死亡事故でも補償範囲と限度額が決められていますので、今回は自賠責保険における一通りの補償内容を説明していきます。

自賠責保険は強制保険

自賠責保険は自動車損害賠償保障法により、自動車やバイクの所有者が絶対に加入する保険になっています。また、自賠責保険に対して個人の任意で加入する保険のことを一般的に『任意保険』といいます。

自賠責保険に加入しないと法律違反になる

自賠責保険に加入していなかった場合、事故を起こさなくても未加入であることが発覚すれば1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。また、無保険による運転は交通違反にもなり、違反点数6点の免許停止処分がなされますので重い違反であるといえるでしょう。

(責任保険又は責任共済の契約の締結強制)

第五条  自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。

引用元:自動車損害賠償保障法 第5条

第八十六条の三  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一  第五条の規定に違反した者

二  第二十三条の九第一項の規定に違反して、その職務に関して知り得た秘密を漏らし、又は自己の利益のために使用した者

三  第八十四条の二第二項又は第三項の規定に違反した者

引用元:自動車損害賠償保障法 第86条の3

自賠責保険の保障範囲

自賠責保険の補償範囲について、下記表で概略を説明します。自賠責保険の支払限度額に関しては『後遺障害』『傷害』『死亡』の3種類に分かれます。なお、それぞれの支払限度額は被害者1人に対するものです。

交通事故の種類 主な補償内容 自賠責保険の支払限度額
後遺障害を負った事故 後遺障害慰謝料
後遺障害逸失利益
75万円~3,000万円
(後遺障害の認定等級による)
また、要介護の場合は
4,000万円まで
通常の傷害事故 治療費・看護料・休業損害など 120万円まで
死亡事故 葬儀費・死亡逸失利益・死亡慰謝料 3,000万円まで

任意保険は自賠責保険の不足分を補うために加入する

上記の通り、自賠責保険金では限度額が設定されている上、支払の対象は後遺障害やケガなどの対人賠償に限られます。

仮に交通事故によって自分が加害者になった場合、被害者が所有している車両を破損したり、被害者の治療費や休業損害が120万円を超えたりした場合、自賠責保険で補償しきれない部分を補う必要があります。なので、自賠責保険に加えて任意で自動車保険に加入するべきでしょう。任意保険は自賠責保険の補償範囲を超える損害にも対応するものです。

自賠責保険における後遺障害の補償内容と限度額

後遺障害の保障内容から細かく見ていきますが、後遺障害に関する慰謝料や損害賠償は『後遺障害慰謝料』と『後遺障害逸失利益』の2つがあります。

後遺障害慰謝料の支払限度額と相場

自賠責保険における後遺障害慰謝料の支払限度額と相場を以下の表に記載しました。認定された後遺障害等に応じて支払限度額が75万円〜3,000万円で定められています。また、常に介護が必要な場合は最大で4,000万円になります。

また、相場については自賠責保険による基準になっていますが、そのほかにも『任意保険基準』と裁判事例に基づく『弁護士基準』の相場が定められています。自賠責保険は最低限の補償を目的とした保険なので、他の2つの相場基準と比較すると慰謝料額は低くなっています。

後遺障害等級(要介護) 第1級 第2級
支払限度額 4,000万円 3,000万円
自賠責保険基準 1,600万円 1,163万円
後遺障害等級 第1級 第2級 第3級 第4級 第5級 第6級 第7級
支払限度額 3,000
万円
2,590
万円
2,219
万円
1,889
万円
1,574
万円
1,296
万円
1,051
万円
自賠責保険基準 1,100
万円
958
万円
829
万円
712
万円
599
万円
498
万円
409
万円
後遺障害等級 第8級 第9級 第10級 第11級 第12級 第13級 第14級
支払限度額 819
万円
616
万円
461
万円
331
万円
224
万円
139
万円
75
万円
自賠責保険基準 324
万円
255
万円
187
万円
135
万円
93
万円
57
万円
32
万円

後遺障害等級に認定されるための条件については「後遺障害等級の認定基準」で取り上げていますので、合わせてご確認いただければと思います。

後遺障害逸失利益の支払基準

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が原因で仕事ができなくなったことで減少する将来的な収入に関する損害のことです。精神的苦痛に対する慰謝料や休業中の収入減少(休業損害)とは別に、今後の人生において失うことが予測される収入に対しても損害賠償金が支払われます。

後遺障害逸失利益の支払基準は以下の通りです。被害者の基礎収入に加えて後遺障害等級の程度や年齢が損害賠償金を決める基準になります。

<後遺障害逸失利益の算定方法>
後遺障害逸失利益=
1年あたりの基礎収入 × 後遺障害該当等級の労働能力喪失率 × ライプニッツ係数

労働能力喪失率

労働能力喪失率は認定された等級に応じて定められています。詳細は以下表の通りですが、等級が高いほど重い症状になるため労働能力喪失率が高くなっています。

【表:後遺障害等級における労働能力喪失率】

後遺障害等級 1級 2級 3級 4級 5級 6級 7級
労働能力喪失率 100% 100% 100% 92% 79% 67% 56%
後遺障害等級 8級 9級 10級 11級 12級 13級 14級
労働能力喪失率 45% 35% 27% 20% 14% 9% 5%

ライプニッツ係数

ライプニッツ係数は被害者の年齢(労働能力喪失年数)に応じた値になります。年齢が若いほど今後の人生において働けるはずだった年数が長くなるため、ライプニッツ係数が高くなります。

そのほか、慰謝料の算定基準になる3種類の相場や後遺障害に関係する損害賠償金の算定方法については「後遺障害等級認定で獲得できる慰謝料」にて解説しています。

自賠責保険における傷害事故の補償内容と限度額

自賠責保険における傷害事故の補償内容と限度額

続いて通常の傷害事故に関連する自賠責保険の補償内容について見ていきましょう。後遺障害とは別のカテゴリーで考えられますが、後遺障害等級に認定されるまでの治療費については、傷害に関する損害賠償金で扱われるため覚えておく必要があります。

傷害に関する損害賠償金(自賠責保険金)の限度額は120万円

傷害に関する自賠責保険の限度額は120万円で定められています。以下で記載されている個別の支払い基準を見ていただくと分かるように、治療に関する出費や損害は多くの種類があるため限度額を超えることもあります。その場合は加害者側の任意保険より補償されることになります。

傷害事故における損害対象と支払基準

自賠責保険における傷害の補償内容と支払基準は以下表の通りです。治療費以外にも交通事故に関連する書類の発行費も一部請求可能になります。

損害対象(治療関係費) 支払基準
治療費 診察料や手術料、または投薬料や
処置料、入院料等の費用など。
治療に要した、必要かつ妥当な実費が支払われる。
看護料 原則として12歳以下の子供に
近親者が付き添い、医師が看護の
必要性を認めた場合における
入通院、または自宅での看護料。
入院の場合1日:4,100円
自宅看護か通院の場合 1日:2,050円。
※必要かつ妥当な実費が認められることもある。
諸雑費 入院中に要した雑費。 1日:1,100円(原則)
通院交通費 通院に要した交通費。 通院に要した、必要かつ妥当な実費が支払われる。
義肢等の
 費用
義肢や義眼、眼鏡、補聴器、
松葉杖などの費用。
必要かつ妥当な実費が支払われる。
※眼鏡の費用は50,000円が限度。
診断書等の
 費用
診断書や診療報酬明細書などの
発行手数料。
発行に要した、必要かつ妥当な実費が支払われる。
損害対象(その他) 支払基準
文書料 交通事故証明書や印鑑証明書、
住民票などの発行手数料。
発行に要した、必要かつ妥当な実費が支払われる。
休業損害 事故の傷害で発生した収入の減少。
(有給休暇の使用、家事従事者を含む)
1日:5,700円(原則)
※それ以上の収入があることを立証できれば、19,000円を限度として実額が支払われる。
入通院
 慰謝料
交通事故による精神的・肉体的な
苦痛に対する補償のことで『傷害慰謝料』とも呼ばれます。
1日:4,200円
※対象日数は実治療日数の2倍と入通院期間を比較して、少ない方の日数が適用される。

参照元:国土交通省 自動車総合安全情報 傷害による損害

自賠責保険における死亡事故の補償内容と限度額

後遺障害とは別の扱いになりますが、被害者が死亡した場合に自賠責保険で可能な範囲の補償についても見ていきましょう。

被害者が死亡した場合の自賠責保険の限度額は3,000万円

死亡した被害者とその家族に支払われる慰謝料や損害賠償金の限度額について、自賠責保険では3,000万円だと定められていますが、死亡に至るまでに支払った治療費などについては傷害事故に関する損害対象になるため、別枠で最高120万円までの補償がなされます。

死亡事故における損害対象と支払基準

死亡事故に関する損害対象は『葬儀費』『死亡逸失利益』『死亡慰謝料』の3種類に分かれます。

葬儀費

祭壇や通夜、火葬などに関する費用が対象になります。支払限度額は原則60万円になりますが、それ以上の出費があった場合において書面などで立証できれば最高で100万円までの請求が可能です。

死亡逸失利益

死亡逸失利益は基本的に後遺障害逸失利益と考え方は同じですが、将来的に得たはずの収入から、支出するはずであった被害者(死亡者)の生活費を控除する必要があります。死亡逸失利益の算定方法と生活費控除率の基準について以下の通りです。

<死亡逸失利益の算定方法>
死亡逸失利益=
1年あたりの基礎収入 ×(1-生活費控除率) × ライプニッツ係数

【表:被害者の立場に応じた生活費控除率】

被害者の立場 生活費控除率
男性(未成年も含む) 50
女性(主婦や未成年も含む) 30
一家の支柱(被扶養者が1人の場合) 40
一家の支柱(被扶養者が2人以上の場合) 30

死亡慰謝料

死亡慰謝料については自賠責保険の場合、死亡者本人に対する慰謝料と請求する権利がある遺族の人数によって請求額が異なります。自賠責保険における死亡慰謝料額の基準は以下表で記載されています。

【表:自賠責保険基準における死亡慰謝料の請求額】

死亡者本人に対する慰謝料 350万円
死亡者に扶養されていた場合 200万円
慰謝料を請求する遺族が1人の場合 550万円
慰謝料を請求する遺族が2人の場合 650万円
慰謝料を請求する遺族が3人以上の場合 750万円

自賠責保険金の受け取り方は後遺障害等級の申請方法によって異なる

傷害事故や死亡事故と合わせて後遺障害に関する補償内容について一通り説明しましたが、被害者にとって慰謝料や損害賠償金の請求方法が重要になってきます。

基本的には後遺障害等級の認定を受ける必要があるため等級認定の申請を行います。ただし、注意事項として申請方法によって自賠責保険金を受け取るタイミングが異なることをあらかじめ知っておくべきでしょう。

事前認定の場合は示談金とまとめて支払われる

後遺障害等級認定の申請方法の一つである『事前認定』は、任意保険会社に手続きを任せる方法であるので被害者側の負担は少なくなりますが、一括の支払いになるため示談交渉が終わるまで自賠責保険金を受け取ることができません。

通常、事前認定では示談金として任意保険会社より自賠責保険金を示談交渉後に受け取ることになりますが、任意保険会社側は支払いを極力おさえようとする目的で慰謝料額を下げられる可能性もあるため、事前認定での等級認定申請はあまりオススメできません。
参照元:「事前認定のメリット・デメリット

被害者請求の場合は示談交渉の前に支払われる

対して『被害者請求』の場合は等級認定後に自賠責保険金を受け取ることができます。示談交渉前に自賠責保険金をもらえるメリットだけでなく、被害者請求では等級認定の申請を有利に進めるための資料を被害者自身で集めることもできます。手間はかかりますが被害者請求を利用した方が、適切な等級認定を受けられる可能性が高くなるでしょう。
参照元:「被害者請求がオススメできる理由

3年の請求期間(時効)に注意すること

また、損害賠償金(保険金)を請求する権利には時効が定められています。一般的な交通事故において、事故発生日の翌日から起算して3年が経過すると自賠責保険金を請求するがことができなくなってしまいます。また、後遺障害の場合は症状固定が確定された日から3年になりますが、ひき逃げなど加害者が不明の場合は事故発生日の翌日から20年経過すれば損害賠償請求権を失います。

(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

第七百二十四条  不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

引用元:民法 第724条

基本的には3年の時効はありますが、いくつかの対処方法はあります。例えば自賠責保険会社より治療費の一部をもらったり時効中断書を提出したりすれば時効は中断し、新たに3年の時効期間が始まります。

被害者請求を利用する上では弁護士の相談がオススメ

後遺障害等級の申請では被害者請求での手続きが確実ですが、医学的な資料などを被害者自身で集める必要があるので被害者側の負担が大きくなります。

被害者だけでの対応が難しい場合は、交通事故案件に詳しい弁護士に依頼する方が良いでしょう。弁護士に依頼することで『弁護士基準』になる高額の慰謝料請求も可能になりますが、弁護士基準と自賠責保険基準を比較した慰謝料額については「交通事故慰謝料の計算と獲得手順」にて解説しているのでご参考ください。

まとめ

自賠責保険における後遺障害の補償について解説しましたが、お分かりいただけましたでしょうか。自賠責保険だけでは補償範囲が限られているため、加害者側の任意保険会社へ慰謝料や損害賠償金を請求する必要があります。任意保険会社との示談でも弁護士による介入で交渉を有利に進められるので、困ったら一度は弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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KL2020・OD・037

この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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