決して安くない弁護士費用。いざという時に備えてベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。
離婚、相続、労働問題、刑事事件被害、ネット誹謗中傷など、幅広い事件で弁護士費用の補償が受けられます。
【ベンナビ弁護士保険が選ばれる3のポイント】
- 保険料は1日あたり約96円
- 通算支払限度額1,000万円
- 追加保険料0円で家族も補償
保険内容について詳しく知りたい方は、WEBから資料請求してみましょう。
KL2020・OD・037
かつて私が勤務していた会社は、それなりの頻度で「管理職から降格する」という処分を実際に行っていた。
「マネジメント能力に問題がある」
「プロジェクト遂行能力に難あり」
とされた社員に対し、一旦管理職にした社員を、ヒラ社員に戻す処置である。
実際、その判断はほとんどの場合正解だった。
社員のやる気を何より損なうのは、無能な上司の出す下らない指示だったからだ。
同じチームであっても、管理職を変えるだけで人がいきいきと働きだす、という状況を目の当たりにして、私は「管理職を取り替えることを躊躇してはならない」と学んだ。
実際、経営学の大家であるピーター・ドラッカーは、次のように述べている。
重要な仕事をこなせない者をそのままにしておいてはならない。動かしてやることが組織と本人に対する責任である。仕事ができないことは本人のせいではない。だが動かしてやらなければならない。
(経営者の条件 ダイヤモンド社)
部下の無能の原因は、ほとんどの場合上司にある。
異動は断固たる処置として必要だ。
しかし、「降格」には、別の問題が伴う。
降格されたものの報酬の問題だ。
管理職とヒラ社員では、例えば、1000万円もらう管理職と、700万円程度の一般社員と言った具合に、大きく報酬の額が異なる。
場合によっては、年収換算で倍くらいの開きがあることもある。
降格された方は、「前年度の報酬額が大きかったので、住民税の負担が結構キツイ」と、寂しそうに語っていた。彼は一時的に、昇格前よりも年収が下がってしまっていたのである。
一般的に、労働者は、強固に権利が保護されており、使用者は簡単に解雇を行うことはできない。
しかしよく考えれば「報酬額を大きく下げる」という行為によって、実質的に彼を退職に追い込むこともできるわけだ。
つまり、「降格」という処分は仕方ないにしても、「減給はどこまで許されるのか、いくら下げると法律に違反するのか」という疑問は残る。
なお、余談だが労働基準法の第九十一条にはこう書かれている。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
労働基準法 第九十一条
しかし上記の管理職の減給は「制裁」と言うよりも、「役職を外されたことによる減俸」である。
また、会社の就業規則には「減俸」についてしっかりと書かれていた。
例えば以下のような具合である。
第◯条(給与の決定)
給与は、ランクに応じて月額をもって定める。
第◯条(ランク及び給与の改定)
①ランク及び給与の改定は、前年4月から当年3月までの勤務成績・本人の能力を勘案して評価を行い、毎年4月に職責に応じてランクを決定する。
②評価の結果、現ランクの要件を満たしていないと判断された場合にはランクを降格させる場合がある。この場合は降格後のランクによる。
③特別の事情がある者に対しては、前条にかかわらず臨時改定を行う場合がある。
これによれば、「ランクの要件」を決めてあれば、自由に減俸が可能であるように読めそうである。果たしてどこまでが許されることであり、どこからが禁止なのか。
そこで今回も法律のプロである弁護士に「減俸」について、法的にはどのような判断となるのかを聴いた。
弁護士法人ネクスパート法律事務所
代表弁護士 佐藤 塁 (左)
代表弁護士 寺垣 俊介 (右)
質問1)会社は、勝手に減俸してよいのでしょうか。
回答)まず原則として、労働者は会社との間で雇用契約を締結する際に、雇用条件を決めています。そのため、会社は社員に対して、雇用条件を一方的に「不利益に変更」をすることを勝手にやってよいわけではありません。
特に、仕事の内容や業務の結果が変わらないのに「能力が低い」などの抽象的な理由で勝手に減俸をすることは、懲戒処分としての減給・減俸が認められないのはもちろんのこと、前述の「ランクを降格」する事由にもあたらないでしょう。
質問2)どうすれば「能力が低い」という理由で減俸できるのでしょう。
回答)「能力が低い」という理由で直接減俸することは、懲戒処分として行うことになり、非常にハードルが高いので控えるべきです。前述の話でいえば、「ランク要件」に基づく降格の問題として、事実上の減俸をした方が現実的です。
まずは、どのような点で能力が低いため、ランク降格の要件にあたるのかを具体的に確認する必要があります。
例えば、採用時に一定の売上をいつまでに達成するという話をしていたにも関わらず、決められた期日に50%の売上しか達成していなかったのであれば、そのことを客観的に示すことが必要です。ただし、このようなことも会社が後付けでやってしまうとトラブルになりやすいので、先ほどの話でいえば、「ランクの要件」に●%に達成しない場合には降格させるなどと決めておくことが大切です(これも達成不可能な数字にしてはいけません。)。
また、目標値に達成しない場合に改善に向けた行動をとらないことなどがあれば、それを指導し、きちんと始末書やメール等で記録に残すことが必要です。再三注意しても改善されない、改善しようともしない場合には、その改善に向けた行動をとらないことが、能力が低いことにあたるとして具体的にランク要件にいれておくとよいでしょう。
上記のような場合には、能力が低いこととの関係で事実上の減俸が認められるケースもあるかもしれません。
なお、上記のような目標値に達成しない場合に改善に向けた行動をとらないことなどがあれば、それを指導し、再三注意しても改善されない場合には、戒告等の軽微な懲戒処分を科し、それでも全く改善されない場合にはより重い減給処分を科すことも検討できます。
ただ、これには非常に時間がかかります。
質問3)それでは、配転などで仕事の内容を変えれば、給料を下げて良いのでしょうか?
回答)会社の就業規則に「業務の都合により出張、配置転換、転勤を命じることができる」と定めておけば、配転命令もある程度会社の裁量で可能ですが、職種、勤務内容、勤務場所が個別に労働条件で決まっている場合には、決められた職種、勤務内容、勤務場所で勤務することが労働条件の内容となっているので、配転をするには原則として、本人の同意が必要です。
例えば先日「アリさんマークの引越社」を相手取った裁判がありました。
営業からシュレッダー係へ同意なく配置転換させられた社員が、「配置転換は不当である」と主張した裁判です。労働者側が勝訴といってもよい内容で和解を勝ち取りました。
成績などを基準に配転をしたいのであれば、前提として就業規則に「業務の都合により出張、配置転換、転勤を命じることができる」と定めておき、さらに、個別に入社時に「こういうことをしたら配転するよ」という取り決めをし、その方の同意を予めとっておくとよいでしょう。
質問4)では「管理職」を能力不足であるという理由で、降格することもできないのでしょうか。
回答)こちらも「管理職」に昇格させる時に、「降格」の条件を予め提示しておくことが重要です。
「ランクによって給料が決まる」「ランクの要件が明確で、本人が同意している」ことを取り決めておけば、問題はありません。
なるほど。要するに、
という原則を守っていればよいということなのだろう。
考えてみれば、恐ろしいほど当たり前の話である。
採用時にも、昇進昇格のときにも、「良い結果が出なかった時のこと」を想定しなければならないのが、会社なのだ。
決して安くない弁護士費用。いざという時に備えてベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。
離婚、相続、労働問題、刑事事件被害、ネット誹謗中傷など、幅広い事件で弁護士費用の補償が受けられます。
【ベンナビ弁護士保険が選ばれる3のポイント】
保険内容について詳しく知りたい方は、WEBから資料請求してみましょう。
KL2020・OD・037
本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
※あなたの弁護士に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。
詳しくはあなたの弁護士の理念と信頼できる情報提供に向けた執筆体制をご覧ください。
※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。