私文書偽造の構成要件と逮捕後の手続き|私文書偽造の具体例と判例

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例えばあなたと同姓同名の弁護士がいることが分かり、その弁護士を装って弁護士資格を付した文書を作成した場合、あなたは罪に問われるのでしょうか。

こういった行為は「私文書偽造罪」が成立する可能性があり、作成した文書をつい誰かに渡してしまうと「偽造私文書行使罪」に問われる可能性があります。

刑法154条以下には文書偽造の罪が規定されており、私文書偽造については159条~161条によって判断されていきます。

警視庁の公開する平成28年度の犯罪統計資料によれば、文書偽造罪の認知件数は1,821件、そのうち検挙件数が1,633件、検挙人数が1,261人となっています。

(参考:平成28年度犯罪統計資料

文書偽造罪は、他の犯罪に比べれば件数が少なく、日常的にはあまり馴染みのない犯罪かもしれません。しかし、文書偽造罪は「文書を偽造・変造」することによって成立するため、作った文書を本来の用法通りに使うつもりがなくても罰せられるおそれがあります。

今回は、文書偽造罪のうち、公務所または公務員が作成すべき文書以外のものを偽造・変造した際に問題になる「私文書偽造罪」について、詳しくご紹介していきたいと思います。


私文書偽造罪とは

私文書偽造罪とは、「行使の目的で」「公務所または公務員でない人の印章や署名を利用し」「権利・義務・事実証明に関する文書等を」「偽造・変造したこと」によって成立する挙動犯です。

分かりやすく言えば、行使の目的を持って契約書などを偽造・変造すると成立する犯罪で、結果を問わず作成した時点で既遂となるので、冗談でもこのような行為をすることはおすすめできません。


(私文書偽造等)

第百五十九条  行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

2  他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。

3  前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

(虚偽診断書等作成)

第百六十条  医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。

(偽造私文書等行使)

第百六十一条  前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。

 前項の罪の未遂は、罰する。

引用:刑法159条~161条

まずは、私文書偽造罪がどのような罪なのかについて、基本的な知識をご紹介いたします。


私文書偽造罪の4つの種類と構成要件

私文書偽造罪は、細かく分けると「有印私文書偽造罪」と「有印私文書変造罪」「無印私文書偽造罪・無印私文書変造罪」「偽造私文書行使罪」の4種類があります。

有印私文書偽造罪

159条1項に規定された、私文書の有形偽造の罪です。

※「有形偽造」とは作成権限のない人が他人名義の文書を作成することをいい、「無形偽造」とは作成権限のある人が真実に反する内容の文書を作成することをいいます。

構成要件

  1. 行使の目的で
  2. 他人の印章もしくは署名を使用して、または偽造した他人の印章もしくは署名を使用して
  3. 権利、義務もしくは事実証明に関する文書もしくは図画を
  4. 偽造したこと

有印私文書偽造罪のポイント

「他人」とは

公務所または公務員でない者のことをいい、必ずしも私人に限られません。例えば公務員であっても、公務員である身分に基づく職務の執行と離れて作成した文書は「私文書」にあたります。

「権利、義務に関する文書」とは

権利や義務の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせる目的の意思表示を内容とする文書のことをいい、借用証書や債権証書、銀行の作成した無記名定期預金証書、外国人登録原票などが典型例です。

「事実証明に関する文書」とは

実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書(大判大正9年12月24日)で、郵便局に対する転居届や書画の真筆性を記載した箱書、衆議院議員候補者の推薦状、私立大学の入学選抜試験答案などが判例上認められています。

作成名義人を欺罔

字が読めないことを利用するなど証書の作成名義人を欺罔し、その内容を偽った署名押印をさせて契約証書を作成したなどの場合であっても、文書偽造罪は成立します。

「偽造」とは

作成権限を有しない人が、他人名義を冒用して文書を作成することをいいます。実質的に名義人と作成者の人格の同一性に齟齬がある場合、偽造と判断されることになります(最判昭和59年2月17日、最決平成5年10月5日)。

したがって、架空人名義の履歴書を作成した場合などでも、「偽造」と判断される可能性があります。

有印私文書変造罪

159条2項に規定された、私文書の変造の罪です。

構成要件

  1. 行使の目的で
  2. 他人が押印しまたは署名した権利、義務または事実証明に関する文書又は図画を
  3. 変造したこと

有印私文書変造罪のポイント

ポイントになるのは「変造」で、真正文書に変更を加える権限のない人が他人名義の真正文書の非本質部分に変更を加え、新たな証明力を作出することをいいます。例えば、「1万円」と書かれた文書に0を足して「10万円」とするのが変造にあたります。

無印私文書偽造罪・無印私文書変造罪

159条3項に規定された、虚偽文書の作成(無形偽造)に関する罪です。159条1項・2項以外の文書(印章または署名がなされていない私文書や私図画など)を偽造・変造した場合に問題になります。

構成要件

  1. 行使の目的で(※目的犯のため)
  2. 権利、義務または事実証明に関する文書又は図画を
  3. 偽造、または変造したこと


無印私文書偽造罪・無印私文書変造罪のポイント

  • 印章または署名がない文書が客体になる犯罪です。
  • 文書の内容として、一般人が記載内容を真実と誤信する程度に虚偽の事項を記載した文書である必要があります。

偽造私文書行使罪

159条・160条の偽造私文書を行使した場合の罪です(161条)。

偽造私文書行使罪のポイント

「行使」とは、偽造・変造または虚偽作成に関わる文書を真正文書もしくは内容の真実な文書として他人に認識させ、または認識しうる状況に置くことをいいます(最判昭和28年12月25日)。

文書の本来の用法に従って使用することは要せず、例えば学歴などを自慢するため偽造文書を第三者に交付するような行為でも行使にあたります。

行使の相手方は事情を知らない自然人であることが必要です。


私文書偽造罪の時効

私文書偽造罪の時効は5年で、これは行為の終了時点から進行します(刑事訴訟法253条)。私文書偽造罪の場合は、犯罪行為=「他人の印章等を使用して権利・義務・事実証明に関する文書等を偽造・変造すること」なので、文書が出来上がった時点から時効が進行するということになります。

ただし、私文書偽造罪とその行使罪は別の犯罪なので、例えば偽造文書を作って5年間放置した後にこれを使用したなどのケースでは、使用の時点から偽造文書行使罪の時効(有印私文書は5年、診断書・無印私文書は3年)が進行することになります。

結局のところは作成自体の時効が成立しても行使してしまったら意味がないと言えるでしょう。


私文書偽造罪の具体例・判例

以上が私文書偽造罪の基礎知識になりますが、ここからは、私文書偽造罪の具体例と判例をご紹介いたします。

架空人名義の履歴書等を提出・行使したケース(最決平成11年12月20日)

XがAという偽名で就職しようと考えて、虚偽の氏名・生年月日・住所・経歴等を記載し、Xの顔写真を貼り付けた押印のあるA名義の履歴書等を作成して提出・行使したという事件です。

裁判所は

「これらの文書の性質、機能等に照らすと、たとえ被告人の顔写真が貼り付けられ、あるいは被告人が右各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、これらの文書に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかであるから、名義人と作成者との人格の同一性に齟齬を生じさせたものといえ、被告人の各行為について有印私文書偽造、同行使罪が成立する」

と判断しました。

名義人の承諾を得て他人が名義人の署名をしたケース(最決昭和56年4月8日)

交通事件原票中の供述書について、名義人の承諾を得て他人が名義人の署名をしたことが私文書偽造罪になるかが争われた事件です。

裁判所は「交通事件原票中の供述書は、その文書の性質上、作成名義人以外の者がこれを作成することは法令上許されないものであって、右供述書を他人の名義で作成した場合は、あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても、私文書偽造罪が成立する」と判断しています。

替え玉受験や肩書きの冒用

入学選抜試験の答案が「事実証明に関する文書」にあたるということは既にご紹介したとおりですが、いわゆる替え玉受験のケースでは、替え玉を依頼した人もされた人も罪に問われることになります。

判例では「入学選抜試験の答案は、試験問題に対し、志願者が正解と判断した内容を所定の用紙の解答欄に記載する文書であり、それ自体で志願者の学力が明らかになるものではないが、それが採点されて、結果が志願者の学力を示す資料となり、これを基に合否の判定が行われます。

この合格の判定を受けた志願者が入学を許可されるのであるから、志願者の学力の証明に関するものであって、『社会生活に交渉を有する事項』を証明する文書に当たる」とされており(最決平成6年11月29日)、文書の性質上、替え玉依頼者の承諾があったとしても、有印私文書偽造・同行使罪が成立すると考えられます。

また、冒頭の例のように、同姓同名の資格者の肩書きを冒用してその資格を付した文書を作成したケース(最決平成5年10月5日)でも、文書の性質上肩書きが重要な意味を持つ場合(冒頭の例であれば、弁護士の肩書きで作成した「経過報告書」「和解書」など)には有印私文書偽造・同行使罪が成立すると考えられます。

ただ、飲食店等の予約カードやホテルでの宿泊カードのように、肩書きが特に意味を持たない場合であれば、有印私文書偽造等の罪に問われない可能性もあります。


私文書偽造罪で逮捕される経緯

私文書偽造罪は、文書を作成し終わった時点で既遂になり処罰の対象になるものですが、実際にどのような経緯で犯罪が発覚し、逮捕に至るのでしょうか。

ここでは、私文書偽造罪で逮捕される経緯について整理してみました。

私文書偽造等の行為自体はだれにも知られていない場合には逮捕されることはほとんどないが、使ってしまったらアウト

私文書を偽造する行為自体は誰にも知られずに私文書を偽造したならば、いきなり逮捕されることはほとんどありません。

しかし、私文書偽造罪は、「偽造文書を作成すること自体は罪に問われない可能性もあるが、使ってしまえば罪に問われる可能性が非常に高い」犯罪だといえます。

私文書偽造罪の被害者とは

私文書偽造罪は、「被害者」が分かりにくい犯罪です。他人の名義を騙ったなどの事情があれば誰が被害者なのかはすぐに分かるかと思いますが、私文書偽造罪は作成自体により犯罪が成立するので、被害者がいないというケースも当然あります。

こういった場合には、事情を知っている知人が告訴したり、偽造文書を使用したことで犯罪が発覚したりするので、逮捕に至る経緯は個々の事案ごとに異なるといえます。

どんなときに犯罪が発覚するのか

私文書偽造罪が発覚しやすいのは、文書を偽造している段階よりも、偽造文書を使用した段階といえます。

例えば虚偽の契約書を作って他人に見せる・渡すといった行為をした段階が分かりやすいかと思いますが、そうでなくとも警察の捜査によって文書偽造罪が発覚するケースも多くあります。

警察の捜査によって私文書偽造罪が発覚した場合には、あらかじめ裁判所に逮捕状を請求し、発布された逮捕状をもって逮捕に至ることが多いので(※もちろん現行犯逮捕等のケースもあります)、そのようなケースでは私文書偽造罪について充分な嫌疑があり、捜査もかなり進んだ状況であると言えるでしょう。

私文書偽造罪で逮捕された後の手続き

通常、罪を犯して逮捕されると、以下のような流れで手続きが進んでいきます。


逮捕後の手続きに関しては、刑法ではなく刑事訴訟法が規定しているので、ここで簡単にご紹介したいと思います。

逮捕

逮捕には、通常逮捕(刑事訴訟法199条)・緊急逮捕(210条)・現行犯/準現行犯逮捕(212条)の3種類があります。

一般的によく利用されるのが通常逮捕と現行犯逮捕で、通常逮捕はあらかじめ取得した令状に基づき逮捕を行う類型、現行犯逮捕は犯罪が現に行われている際に逮捕を行う類型です。

詳しくは「逮捕されるまでとされた後の流れ|逮捕されてしまった時にすべきこと」をご覧ください。

勾留

いずれかの方法により逮捕されると、48時間以内に検察庁へ送検され(刑事訴訟法203条)、その後検察官から捜査に必要がある場合には勾留請求がなされます(204条・205条)。

勾留期間は最大で10日間とされていますが、1度だけ延長が可能で、勾留延長となるとさらに最大10日間(合計20日間/逮捕から勾留まで最大3日間かかるため、この場合は最大23日間)の身体拘束になりますので、被疑者にとって大きな制約といえます(208条)。

起訴

勾留期間が終わると、起訴(公訴提起)か不起訴かを検察官が判断しますが、起訴されると身柄拘束が続き、不起訴や処分保留、起訴猶予等になると釈放されるという分岐点になります。

起訴後は公判手続き(裁判)が始まり、判決によって処罰や処遇が決まることになります。
参考:刑事事件の主な手続きの流れ|逮捕されてしまったときの対処法2選

まとめ

いかがだったでしょうか。

私文書偽造罪は偽造文書を作成するだけで成立する犯罪なので、悪ふざけなどで安易にこれを行ってしまうと思わぬ処罰を受ける可能性が高くなります。

また、処罰を考慮するにあたり、文書自体の性質によって偽造・変造といった内容が判断されていくことになりますので、もし私文書偽造罪の責任を問われそうな場合には、弁護士へ相談してしっかりとした法的主張を練りましょう。

本記事が、少しでもお役に立てれば幸いです。

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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。

※あなたの弁護士に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。

※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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