追い出し部屋|自己都合退職の強要は整理解雇の要件に当てはまらず違法

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
追い出し部屋|自己都合退職の強要は整理解雇の要件に当てはまらず違法

追い出し部屋(おいだしべや)とは、会社都合退社ではなく自己都合退社に追い込むために、リストラ候補の社員を配属する部署のことです。

今の労働契約法では、客観的に合理的な理由がないと合法的に解雇できないため、会社は、解雇の要件を満たさない場合でも、主に人件費に対して会社への貢献が少ない人を自主的に退社させるために、追い出し部屋に配置することがあります。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用元:労働契約法第十六条

これまで長い間会社に貢献してきたのにもかかわらず、違法な手段でそれとなく自己都合退社にさせられようとしている側は堪ったものではありません

今回は、追い出し部屋に送られやすい人の特徴・手法・事例をお伝えしたうえで、社員を追い出し部屋に送る企業のメリットと、送られてしまった際の対処法をお伝えします。

不当解雇に合わないために、知っておくべき知識は他にも沢山あります。

不足している知識についてもご確認頂くことをお勧めします。

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追い出し部屋に送られやすい人の特徴

まず、追い出し部屋に送られやすい人の特徴を確認していきましょう。

人件費が割高な人

年齢は高いが出世の可能性のない人や、役職がついている人など会社への貢献の割に人件費が高い人が追い出し部屋に送られやすいようです。

日本企業はこれまで終身雇用でやってきたので、特に中年以降の方は会社のため若いうちから現在まで貢献されてきたことでしょう。

企業も生き残りをかけて活動しているので、情だけで社員を置いておくわけにもいきません。

しかし、身体が衰えて昔のように働けなくなり、転職しにくくなってから追い出し部屋に送られた側としては堪ったものではありません。

グループ会社から降りてきた人

親会社から来た人は、売上への貢献が少なくても辞めさせられないため、追い出し部屋に送り自己都合退社を期待します。

偉い人に嫌われた人

人間は理屈の生き物ではないので、偉い人に嫌われて嫌がらせで追い出し部屋に送られることもあるようです。

泣き寝入りするだろうと思われている人

追い出し部屋は客観的に合理的な理由を欠いているため、従業員に訴えられたら負ける可能性があります。そのため、法的手段に出そうな人は、追い出し部屋送りになりにくいでしょう。

追い出し部屋を苦痛に感じそうな人

また、追い出し部屋に送られても「何もしないで給料を貰えるなんてラッキー」と思うような人は、少なくとも辞めさせる目的では追い出し部屋に送られはしないでしょう。ただ、飼い殺しにする目的で送られる可能性はあります。

追い出し部屋の手法

リストラ候補の社員を自己都合退社に追い込んでいく手法を確認していきましょう。

仕事を与えない(ほどほどに与える)

退屈に耐えられない人や、将来のために仕事をしてスキルを身につけたいという人にとっては、仕事を貰えないのは苦痛でしょう。

実は、仕事を与えないのはパワハラの6つのタイプのうち過小な要求型パワハラに当てはまり、不法行為責任を問われる可能性があります。

詳細は『パワハラとは|6つのタイプとパワハラ問題解決のための全知識』をご覧ください。

労働条件を悪くして「転職した方が良いかも」と思わせる

  • 労働時間延長
  • 一時帰休
  • 労働時間短縮による賃下げ

などにより、労働条件を悪くすることでターゲットの社員に「転職先を探したほうが良いかも」と思わせていきます。

追い出し部屋にはもっともらしい名称がつけられる

追い出し部屋には、次のようなもっともらしい名称がつけられますが、実際は転職先を探させたり、単調な仕事しか与えられなかったりします。追い出し部屋には次のような名前が付けられます。

  • キャリア開発室
  • キャリア支援センター
  • 人材開発室
  • プロジェクト支援室

「スキルアップのため」などと言い労働者を人材会社に行かせる

退職勧奨に該当する言葉を使わないで社員に事実上退職を勧めるような手口も最近では見られます。スキルアップにかこつけて、リストラしたい社員を人材会社に行かせて適性診断を受けさせます。一問一答の問いに答えていくわけですが、最終的には「今の会社の外に活躍の場を探したほうが良い」との結果が出てくるようです。

参照元:PRESIDENT Online|「追い出し部屋」はもう古い! リストラの最新手法

追い出し部屋の事例

ここでは、実際にあった追い出し部屋の例をお伝えします。

事例1|大和証券 150万円の損害賠償

大和証券からグループ会社に出向させられた男性が、追い出し部屋で働かされたとして、200万円の給与支払い及び損害賠償を請求したケースです。上告審で会社側に150万円の支払いが命じられました。

事例2|アストラゼネカ人事異動取り消しを求め労働審判

大阪市の大手製薬会社アストラゼネカに勤務する社員が、追い出し部屋に配置されたことを不当として、人事異動の取り消しを求める労働審判を申し立てました。代理人の弁護士は、減給の根拠が就業規則に記入されていないため、労働契約上の根拠が無いと主張したようです。

参照元:日本経済新聞『「追い出し部屋異動は不当」 アストラゼネカ社員が労働審判

社員を追い出し部屋に入れる企業側のメリット

ここでは、なぜ企業が追い出し部屋を作って社員を辞めさせようとするのか、そのメリットを整理していきます。

法律を守っていては解雇できない社員を辞めさせられる

従業員の解雇について労働契約法で次のように定められています。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用元:労働契約法第16条

つまり、退職理由が客観的合理性と社会通念上相当であると認められないような場合、解雇は無効になります。

企業は例えば以下のような理由で、簡単に解雇することはできません。

  • ノルマが達成できないから
  • 欠勤が2~3日続いたから
  • 労働基準監督署に通報されたから
  • 人件費と労働能力が見合わないから

他にも、例えば懲戒事由のない社員を合法に解雇するのであれば、整理解雇の4要件を守らねばなりません。

人員整理の必要性

人員を削減しないと経営が成り立たない場合でないと解雇はできません。会社の利益に貢献していなくても、倒産しそうでない限り人員整理の必要性はないと判断されます。

解雇回避努力義務の履行

解雇は最終手段です。解雇をする前に、役員報酬カット、希望退職者募集、採用の抑制などから始めなければなりません。

解雇者選定の合理性

合理的で公平な人選基準がなければ解雇はできません。気に入らないから追い出し部屋に送るのは合理性があるとはいえないでしょう。

手続きの妥当性

解雇の際は、対象となる労働者が納得できるよう説明や協議などの手続きを踏まねばなりません。

つまり企業は従業員を法律上簡単に解雇することはできないのです。もし社会的合理性を欠き、社会通念上相当と認められない理由で解雇した場合、労働者から解雇の無効性を主張される可能性があります。

また、法律上正当な理由で解雇する場合にも、使用者は労働者に対して解雇予定日から30日以上前に解雇通知を行う必要があります。

30日以上前に解雇通知が行われなかった場合、解雇通知手当を支払うことが企業に定められています。

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

引用元:労働基準法第20条1,2項

こういった観点からも、会社が従業員を解雇する場合には、細心の注意を要します。

会社としては、可能であれば会社が従業員を解雇する形(会社都合退職)ではなく、従業員自身の意思で退職する形(自己都合退職)を取ってもらうことが望ましいと考える傾向にあります。

自己都合で退社させられるので退職金を節約できる

リストラ候補の社員が自己都合で辞めてくれると、会社は退職金を節約できます。

大学卒で勤続年数30年の人が会社都合で退職した場合は、8,560,000円の退職金が出ます。一方、自己都合で退職した場合は7,490,000円の退職金しか受け取れません。

上記のケースの場合、自己都合で辞めてくれると、会社は退職金を1,000,000円以上節約できます。

見せしめにすることで他の社員に緊張感を持たせることが出来る

他人の不幸を間近に見ることでモチベーションが上がる人もいます。仕事を失えば自分が困るだけではなく家族を養えなくなりますから、油断している社員のやる気(危機感)に火がつきます。

追い出し部屋の違法性

追い出し部屋の具体的な違法性は次の3点にあります。

パワハラ

既にお伝えしたように、パワハラ6つのタイプのうち「過小な要求型パワハラ」に該当します。

退職強要

会社側から一方的に労働契約を破棄することを解雇といいます。一方退職強要は、手続き上解雇にしないために労働者の意志で退職することを強いることをいいます。

不当配置転換

配置転換は従業員の合意がなければできませんが、退職と追い出し部屋の二択を迫った場合などは不当配置転換に該当する可能性があります。

追い出し部屋に入れられた際の対処法

ここでは、追い出し部屋に送られてしまったときの詳しい対処法をお伝えします。

証拠を集めておく

追い出し部屋に入れられた場合は、会社に残るにせよ転職するにせよ、証拠を残しておくようにしましょう。メールのやり取りを保存しておくのも有効ですが、ボイスレコーダーで相手の発言を記録したほうが決定的な証拠になるかと思います。

追い出し部屋は違法だと会社に伝える

追い出し部屋が違法だと知らずにやっている場合もありますから、追い出し部屋は違法ですと伝えるのもいいでしょう。

ただ、相手はあなたに自己都合退職を望んでいるので、応じない場合もありますし、会社に残ったところで良い待遇は期待できないように思います。

退職間際の場合はそのまま居座るのもアリ

退職まであと数年の場合は、追い出し部屋に居座るのもアリかもしれません。転職しても待遇が悪くなるのであれば、今のまま定年まで逃げ切ったほうが得な場合もあります。

会社都合の退職にする

ここまででお伝えしたように、追い出し部屋は退職強要に該当する可能性がありますから、自己都合ではなく会社都合で退職しましょう。その方が退職金と失業保険を多く貰えます。

転職活動をする(若い方向け)

もし若い場合は、不当配置転換を取り消してもらうために戦うのもありですが、転職してしまったほうが生産的かと思います。

なぜなら、残ったところであなたがリストラ候補の烙印を押されたことに変わりはないので、出世や昇給が対して期待できないからです。

終身雇用の時代でしたら転職しないでも1つの企業にずっと面倒を見てもらえましたが、今は大企業も倒産する可能性がありますし、転職市場も流動的になっていきます。

どのみち稼ぐためのスキルを身に着けないことには、遅かれ早かれ必要とされなくなりますので、転職をするなりスキルを身につけるなりして社外でも欲しがられる人材になるよう努力した方が、長期的に見て食いっぱぐれずに済むでしょう。

まとめ

追い出し部屋は違法ですが、仮に不当配置転換を主張し社内に残ったところで、リストラしようとしていた人物の待遇が良くなるとは考えにくいように思います。

給料は貰えるので、あなたが定年間近ならそのまま居座るのもいいでしょうが、若いのであればスキルを身に着けて他の会社に移動することも考えた方が建設的でしょう。

会社都合で退社したり、慰謝料を請求したりするためにも証拠は残しておきましょう。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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