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KL2020・OD・037
夫婦げんかで口論からDVに発展するケースは珍しくありません。DVにより妻・夫へ怪我を負わせれば「傷害罪」、怪我がなくても暴力をふるえば「暴行罪」として逮捕される可能性があります。
自宅で妻に暴行したとして、警視庁小岩署は6日、東京都江戸川区上篠崎4、会社員、牧野和男容疑者(59)を傷害容疑で逮捕した。妻は搬送先の病院で約2時間後に死亡した。
逮捕容疑は5日午後11時15分ごろ、妻で会社員の美紀さん(57)に平手打ちなどの暴行を加えて床に転倒させ、頭にけがをさせたとしている。牧野容疑者は「給料を巡って口論となり、かっとなった」と供述し、容疑を認めているという。(引用元:毎日新聞)
この記事では、DVで逮捕されるケースと逮捕された時の警察への対応について紹介します。
記事の執筆者 鷹橋 公宣(たかはし きみのり 振り込め詐欺や銀行員の巨額横領事件などの捜査を担当してきた元知能犯刑事。警察署勤務時代は幅広い事件を担当。現在は退職し、法律事務所などのコンテンツを中心に執筆活動を続けるWEBライターとして活動中。noteでは警察のウラ話やお役立情報を発信。 |
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DVを裁く法律といえば「DV防止法では?」と考えている方も少なくありませんが、これは間違いです。
実は、DV防止法はDV被害者を保護するためのもので、DV加害者に罰を与える目的の法律ではありません。
DV行為は、これが刑法上の暴行罪や傷害罪等の個別の犯罪行為に該当する場合、同罪で処罰されるというのが通常です。
DVの加害者に対して科せられる罪名を確認しておきましょう。
配偶者に対して暴力を加え、配偶者に怪我が生じた場合は刑法第204条の「傷害罪」が成立します。法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
DV加害者に科せられるもっとも典型的な犯罪で、負傷の程度が重大であればたとえ初犯であっても実刑判決となる可能性もあります。
また、暴力暴言など精神的な虐待によって、配偶者がうつ病などの精神的疾患を発症発症した場合も傷害罪が成立する可能性があります。
暴行を加えたが怪我するまでにはいたらなかった、殴る・蹴るなどの直接の暴力ではなく物を投げる・耳元で大声を出す・服の襟首をつかむなどの粗暴な行為があった場合は、刑法第208条の「暴行罪」に該当する余地があります。
こちらもDV事件で適用される典型的な犯罪ですが、法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。
DVにより配偶者を殺害してしまった場合、殺意が客観的に認められれば刑法199条の「殺人罪」、殺意が認められない場合には刑法第205条の「傷害致死罪」が成立します。
殺意の有無は、犯行の態様から客観的に認定されるものであり、加害者が「殺意はなかった」と主張していても、客観的に殺意があって然るべきという状況であれば、殺意があったものと認定されます。
例えば、殺意の有無を判断する考慮要素として、凶器の有無、加害行為の態様、加害部位、救護措置の有無、前後の言動、動機などが挙げられますがこれに限られるものではありません。
配偶者が個人で所有している物を故意に壊した場合は、刑法第261条の「器物損壊罪」が成立します。
法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です。
ここで注意しておきたいのが器物損壊罪があくまで故意犯であること、対象が相手の所有物であることです。
相手が不注意で物を壊したに過ぎない場合には器物損壊罪は成立しません。また、壊した物品が家庭内の家具・家電製品などであり所有関係が明確でない場合も器物損壊罪となるかは不透明です。
器物損壊罪となるのは、例えば配偶者の衣服等の相手の所有物であることが明らかな物品を故意に破壊したケースです。
DV防止法は「加害者を処罰するための法律ではない」と説明しましたが、唯一、DV加害者に対する罰則を規定しているのが「保護命令違反」です。
裁判所が決定した接近禁止命令・電話等禁止命令などの保護命令に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
裁判所の命令に違反した場合には、違法性が明確であることから、警察に証拠とともに被害申告すると、刑事事件として立件されやすいと考えられています。
なお、DV防止法において罰則が規定されている行為は、保護命令違反のほか、被害者による虚偽の保護命令の申立てなどがあります。
DV事件を起こしてしまい、警察に逮捕されるパターンは主に2つです。
警察に逮捕されるケースとその後の対応をみていきましょう。
DVの被害を配偶者が警察に申告し、警察が刑事事件として立件した場合に、捜査の結果、犯罪事実の嫌疑があると判断される場合には警察が裁判所の令状を取って逮捕に至ることがあります。このケースが通常逮捕です。
例えば、配偶者が過去の暴力被害について録音・録画などを、負傷についての診断書と供に警察に提出したような場合には、このような処理がされる可能性は相当程度あるといえます。
DV被害者が警察に通報し、現場に到着した警察官において犯罪事実が明らかと判断された場合、そのまま逮捕(現行犯逮捕)となる可能性があります。
なお、その場で現行犯逮捕されなくても任意同行を求められ、取調べの結果嫌疑が固まったような場合には、そのまま逮捕状を請求されて、逮捕(通常逮捕)される可能性もあります。
一昔前は「家庭の問題」「民事不介入」といった理由で警察が事件として取り扱わないことも結構あったようですが、現在の警察は積極的にDV事案を事件化する方針のようです。
そのため、配偶者が負傷しているなど現実的な被害が発生している場合、「単なる夫婦げんかである」と主張しても刑事事件として立件されてしまう可能性は大いにあります。
DVで逮捕された後の流れについて紹介します。
逮捕後は一般的に以下のような流れに進んでいきます。
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警察に逮捕されると、まず行われるのが「弁解録取」です。
逮捕の理由(被疑事実)について認めるのか、反論があるのか、弁護士を選任する意思はあるのかを簡単に聴取したのち、警察署の留置場で身柄を拘束されます。
新規留置の手続きを受けたのち、警察署内の取調室で警察官による取調べを受けます。
また、被疑者写真の撮影、指紋・DNAの採取が実施されるのもこのタイミングです。
DVの被疑者となった場合、どのような対応ができるのかについて紹介します。
逮捕されてから勾留されるまでは外部とは一切の連絡手段が断たれてしまいますが、当番弁護士制度を利用することで一度だけ無料で弁護士を呼ぶことができます。
この制度は被疑者の弁護人選任権を逮捕直後から保障するための制度です。逮捕されて右も左もわからないという状況であれば、まずは弁護士と接見し、今後についてのアドバイスを受けるべきでしょう。
当番弁護士は、逮捕後どのタイミングでも呼べます。取調べの担当官に「当番弁護士を呼びたい」と依頼しても良いですし、留置場の留置係に同様の依頼をしても良いです。先ほどお伝えした通り当番弁護士の面談は無料なので、積極的に活用してください。
刑事手続の被疑者には警察や検察での取り調べにおいて、自分が不利になるような供述を言わなくてよい権利が保障されています。
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
○2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
○3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
引用元:憲法38条
被疑者は黙秘権を行使したことで刑事手続で積極的な不利益を受けることはありません。
そのため、言いたくないこと、話したくないことは、積極的に話す必要はありません。しかし、黙秘権を行使した場合、積極的に自白をした場合に比して相対的に処分が重くなることはあり得ます(これは自白したことが被疑者にとって有利に働くことがあるためです)。
事件について黙秘するべきか、自白するべきか、否認するべきかは事案に応じて異なります。そのため、黙秘権を行使するかどうかを含めて、どのように対応するべきかは上記当番弁護士の助言を受けるなどして慎重に検討しましょう。
配偶者はあなたの所有物ではありません。そのため、何らかの理由があったとしてもDVは絶対に許されるものではないでしょう。一昔前は「家庭の問題」「民事不介入」などとして事件化しなかった問題も、昨今では刑事事件として処理されることも多いです。
DVで逮捕された場合には、速やかに弁護人と接見し、身の振り方についてよく相談しましょう。
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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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