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KL2020・OD・037
放火罪(ほうかざい)とは、火を放つことで不特定多数の生命、身体、財産に危険をもたらす犯罪のことで、放火した対象により罰則が異なります。
放火罪の被害や影響の大きさを考慮し、現住建造物等放火罪では死刑または無期もしくは5年以上の懲役と定められており、殺人罪と同等の重さです。
この記事では、放火罪の定義や種類を紹介し、罰則や放火罪の構成要件、焼損(焼けて壊れること)の定義について解説いたします。
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目次
総務省の報道資料『平成28年(1月~12月)における火災の状況』によると、2016(平成28)年の総出火件数は3万6,831件、出火原因別では1位が放火で3,586件、放火の疑い5,814件を合わせると15.8%が放火ではないかと言われています。
【参考元】平成28年(1月~12月)における火災の状況|総務省
ここでは、放火罪について解説していきます。
放火罪は大きなくくりで分けると2種類あり、故意・過失によって分類されます。
故意による |
放火罪 |
過失による |
失火罪 |
故意に火を放てば放火罪、過失で火災を起こした場合は失火罪(しっかざい)に問われることになるでしょう。
冒頭でご紹介したように、放火罪は放火した対象により罰則が異なります。
対象 |
人のいる建物 |
人のいない建物 |
建物以外への放火 |
問われる罪 |
現住建造物等放火罪 |
非現住建造物等放火罪 |
建造物等以外放火罪 |
刑法 |
刑法第108条 |
刑法第109条 |
刑法第110条 |
罰則 |
死刑または無期もしくは5年以上の懲役 |
・2年以上の有期懲役 |
・他人の所有物を焼損・公共の危険を生じさせれば1年以上10年以下の懲役 |
人のいる建物に放火した場合に問われる現住建造物等放火罪は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役と定められ、殺人罪と同等の重い罪です。
人のいない建物、建物以外に放火した場合は、その放火した対象が自分の所有物なのか、他人の所有物なのか、また放火したことで他の建物に燃え移るなど公共への危険が生じた場合と生じなかった場合でも罰則が異なります。
放火罪が成立するのは積極的な放火行為に及んだ場合が通常ですが、自身が放火行為を行っていない場合でも放火罪が成立する場合があります。
例えば、火の不始末が原因で着火させた本人や、警備員などの管理施設に責任を負っている人には消火活動を行う義務や、消防署に通報すべき義務があります。
その義務を負った者が、建物などへの着火や、焼損に至らしめることを認識しつつ放置・容認した結果、建物などが焼損に至った場合に、不作為による放火罪が成立する可能性があるのです。
上記のケースは積極的な放火行為ではありませんが、下記の要素がそろうことで、不作為による放火が成立し得るでしょう。
1958(昭和33)年9月9日に最高裁判所で行われた裁判では、火災を引き起こす状況を予見でき、発見した際も過失の発覚を恐れ立ち去った男性に不作為による放火罪が成立しています。
男性は
などで結果、営業所ほか現住家屋6棟等を焼燬(しょうき)させました。
火を起こしてしまった本人であることと、会社の従業員で消化義務があるにもかかわらずこれを放置したことが不作為に該当したということです。
裁判年月日 昭和33年 9月 9日 裁判所名 最高裁第三小法廷 事件番号 昭31(あ)3929号 |
火災やボヤを発見した人すべてに消火義務が生じるわけではありませんが、消防法では火災・ボヤを発見した者に消防署等への通報義務を課しています。
他に通報し得るような発見者がおらず、自分が119番通報しなければ火災が燃え広がってしまうという状況であれば、火災の発見者には一定の通報義務(作為義務)があるといえるでしょう。
もし発見者が通報せずに放置した場合、不作為の放火罪が成立する可能性もあります。
また、常識的にも火災が拡大すれば人命が失われるなどの深刻な結果となりかねません。
したがって、火事を発見した際は必ず119番通報するとともに、周囲に火災が発生した旨を知らせてください。
ゴミなどに放火をすれば、建物以外に放火をしたとして建造物等以外放火罪が成立すると考えられるでしょう。
しかし周囲に燃え広がる危険性(公共の危険)が生じなければ、器物損壊罪が成立します。
例えば、ゴミなどに放火してもそれが、広い土地の真ん中であれば、周囲に燃え広がる危険がないという理由から建造物等以外放火罪が成立しません。
器物損壊罪は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料と定められています。
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
引用元:刑法第261条
ここでは放火罪の保護法益、客体、着手時期について解説していきましょう。
放火罪を定めることによって守っているものは人の命、身体、財産です。保護法益の重大性に応じて放火罪の刑罰は重い罰則が設定されています。(現住>非現住>建造物等以外)
被害を受ける対象です。放火罪は客体によって罪の重さが異なります。
人のいる建物 |
現住建造物等放火罪 |
・人が住居に使用している建物 |
人のいない建物 |
非現住建造物等放火罪 |
・人が居住していない空き家など |
建物以外 |
建造物等以外放火罪 |
自動車・オートバイ・犬小屋・家具・ゴミ |
放火罪には放火目的でガソリンなどを準備したことで問われる放火予備罪、火を放ったが焼損に至らなかった場合に適用されるのが放火未遂罪です。
しかし焼損させる意思を持って着火せずとも、焼損させる現実的危険性を作り出した場合に放火罪が成立するとした判例があります。
1983(昭和58)年7月20日横浜地裁で行われた裁判では、過失による着火でしたが、“実際に意思を持って着火に当たってなくとも放火罪実行の着手があった”とし、現住建造物等放火罪が成立しました。
自殺しようとした男性が、自宅の床にガソリン6.4リットルを撒き、誤ってタバコの火に引火させてしまった事件です。
裁判年月日 昭和58年 7月20日 裁判所名 横浜地裁 事件番号 昭58(わ)603号
事件名 現住建造物等放火被告事件 裁判結果 有罪(確定) 文献番号 1983WLJPCA07200010
引火性の強いガソリン等を大量に撒いていた場合、それだけで焼損結果を生じさせる現実的危険性が発生していますので、ガソリンを撒いた時点で放火未遂罪が成立する可能性があります。
放火罪は対象物が焼損すれば成立となりますが、火を放ったどの段階を焼損とし、既遂(きすい。未遂に対して、犯行が完全に成立した状態)とされるのでしょうか。
放火罪が既遂となる定義は
があります。
ここでは、焼損の定義を解説します。
独立燃焼説とは火を放った瞬間に目的物へ燃え移り、独立して燃焼を継続しうる状態に達した時点を焼損とし、既遂とされます。(1948(昭和23)年11月2日最高裁判決)
つまり、火を放ち、独立して燃えた状態を維持できた段階で放火罪が成立しているとする説です。
燃え上がり説は、目的物の重要な部分の燃焼が開始した時点を焼損としていますが、燃え上がった時期の判定が困難などの指摘がなされています。
効用喪失説では、火力により目的物の重要部分が焼失、本来の効用を失う程度に毀損(きそん)された時点を焼損としています。
毀棄説は火力によって目的物が一部損壊に達した時点で既遂としています。
独立燃焼説は、放たれた火が目的物へ燃え移り、独立して燃えた状態とされ、他の説に対し明確です。
独立燃焼説 |
放たれた火が目的物へ燃え移り、独立して燃えた段階で既遂 |
燃え上がり説 |
目的物の重要な部分の燃焼開始を放火とする |
効用喪失説 |
目的物の重要な部分が焼失、本来の効用を失う程度の焼損を放火とする |
毀棄説 |
目的物の一部損壊によって既遂とされ、効用喪失説より既遂時期が早い |
燃え上がり説・効用喪失説・毀棄説は似ていますが、燃え上がり説が焼損開始を既遂とするのに対し、効用喪失説・毀棄説は損壊の段階を既遂としているのが違いとなります。
放火罪の罰則が殺人罪と同等の重さであるのは、木造の家屋が多かった日本の歴史も大きく関係しています。
放火罪はたやすくできてしまう犯罪ですが、それにより人が死傷すれば未成年であっても14歳以上は大人と同等の罪に問われます。18歳以上であれば死刑判決が下される可能性もあります。
防火対策が進んだ今であっても、放火は不特定多数の人命、身体、財産を損なう重大な犯罪であることに違いはありません。
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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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