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KL2020・OD・037
強制性交等罪(きょうせいせいこうとうざい)とは、暴行または脅迫を用いて被害者の性器・肛門・口腔内に性器を挿入する行為(強姦・強制性交など)を罰する刑法第177条から第180条に定められた法律です。
以前は強姦罪(ごうかんざい)とされていましたが、2017年7月13日に施行された改正刑法により、強制性交等罪に変更されました。
多くの人が注目した性犯罪の大幅改正は1907年(明治40年)の制定以降初めてで、なんと110年ぶりです。
時代に合わせ厳罰化された強制性交等罪が強姦罪から変更された点は下記の通りです。
この記事では改正された強制性交等罪について、その罰則から、どう変更されたのか、新設された監護者性交等罪(かんごしゃせいこうとうざい)、そして改正後の課題まで解説していきます。
ここでは強制性交等罪について解説していきます。
強制性交等罪とは、暴行または脅迫を用いて、被害者の性器・肛門・口腔に性器を挿入する行為(性交など)を行った場合に適用されます。
(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
引用元:刑法 第177条
また相手が13歳未満である場合、暴行・脅迫がなくとも成立するとしています。
条文にある“暴行”や“脅迫”の程度は、『刑法第一七七條にいわゆる暴行又は脅迫は相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであることを以て足りる。』(1949(昭和24)年5月10日最高裁判所判決)と解されています。
暴行や脅迫は、被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度で足り、犯行当時の状況や被害者の属性 (被害者の年齢、性別、加害者の素行、経歴など)によっては、殴ったり蹴ったりという直接の暴力や「抵抗したら殺す。」などの直接的な脅迫がない場合であっても暴行・脅迫があったと認定される可能性があるでしょう。
強制性交等罪でいわれる性交等には、性器に性器を挿入する性交だけでなく、肛門性交・口腔性交も適用対象とされます。
肛門に性器を挿入するアナルセックス、口に性器をふくむオーラルセックスも該当し、必ずしも性器への挿入であるセックスだけと限定されていません。
性的適合手術によって形成された性器であっても適用されると考えられます。
以前の強姦罪では被害対象が女性だけと限られていましたが、強制性交等罪では性別による制限を受けません。
被害者は女性に限られませんし、加害者が男性とも限りません。
なお、婚姻関係の間柄であったとしても、強制性交等罪や強制わいせつ罪の構成要件に該当すれば犯罪は成立します。
しかし、一般的に婚姻関係があれば通常は同意の下で行われるという考えのもと、実際に犯罪が成立するケースは少ないというのも実情です。
本来、法律上では婚姻関係や恋人関係があれば強制性交等罪を免責するという規定はありませんので、婚姻関係があればただちに不処罰となるわけではないということは十分留意するべきでしょう。
強制性交等罪の法定刑は、5年以上の有期懲役とされており、非常に重い罪と言えます。
(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
引用元:刑法 第177条
有期懲役とは懲役のことで、原則1ヶ月以上20年以下です。
(懲役)
第十二条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
引用元:刑法 第12条
つまり5年以上の有期懲役とは、5年以上20年以下の懲役のことです。
強制性交等罪は懲役刑しか定められておらず、法定刑が懲役3年以上であれば執行猶予もつきません。
そのため、強制性交等罪で起訴された場合、量刑判断で減刑とならない限り、実刑判決を受けて刑務所に収監されることになります。
強制性交等罪の着手時期、既遂(犯罪の成立)とされる時期、未遂となる段階はこちらです。
着手 |
性交等に向けられた暴行や脅迫を開始した時点 |
既遂(犯罪の成立) |
暴行・脅迫によって被害者が犯行困難な状態で性交等を行う |
未遂 |
性交等に向けられた暴行や脅迫を開始した時点から強制性交等に至らなかった場合 |
また被害者が13歳未満であった場合、暴行・脅迫は要求されませんので、性交等行為の開始が着手であり、既遂となります。
未遂罪の場合は、量刑判断において刑が減刑される可能性があります。
もっとも、強制性交等罪は法定刑自体が重いため、減刑されても重い刑が科せられる可能性があることは変わりません。
強制性交等罪の公訴時効は10年です。
公訴時効とは、検察が事件を刑事裁判で裁くために起訴できる期限のことで、犯罪行為を終えた瞬間から始まります。一般的に知られている時効のことです。
強制性交等罪と関連する罪は、強制性交等致死傷罪(きょうせいせいこうとうちししょうざい)、準強制性交等罪(じゅんきょうせいせいこうとうざい)、強制わいせつ罪などです。
下記で詳しく解説していきましょう。
強制性交等致死傷罪とは、強制性交等罪、準強制性交等罪、監護者性交等罪に該当する行為を行った結果、被害者を死傷させた場合に問われます。
第百八十一条
・・・
2 第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。
引用元:刑法 第181条の2項
強制性交等致死傷罪を犯した場合、法定刑は無期または6年以上の懲役と極めて重い罪となっています。
強制性交等致死傷罪が成立するのは、性交等そのものまたはこれに向けられた暴行・脅迫行為と人の死亡・傷害の結果との間に因果関係がある場合です。
性交等に至らなくとも、これに向けられた暴行・脅迫行為(未遂行為)によって人が死亡・負傷した場合も成立します。
なお、強制わいせつ行為またはこれに向けられた暴行・脅迫により、人が死亡・負傷した場合には、強制わいせつ致死傷罪(無期又は3年以上の懲役刑)が成立します。
準強制性交等罪とは、被害者が薬理作用などによって抵抗困難な状態にあることに乗じて性交等を行った場合に適用されます。
同様の状態に乗じて性交等ではなく、わいせつ行為を行った場合は準強制性わいせつ罪が成立します。
(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
引用元:刑法 第178条
罪名が“準”となっているので、一見軽い罪のように思えるかもしれませんが、強制性交等罪と同じ罰則であるため、大きな違いはなく、手段によるものです。
準強制性交等罪の条文にある“心神喪失”と“抗拒不能(こうきょふのう)”は実務的には被害者の状態で区別されています。
例えば、大量の飲酒や睡眠薬でまったく意識のない状態であれば心神喪失、意識はあるものの抵抗できない状態であれば抗拒不能に該当すると思われます。
なお、被害者を騙し、錯誤に陥らせて性交等を行った場合も、抗拒不能による準強制性交等・準強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
場合によっては脅迫等による強制性交等・強制わいせつ罪が成立するでしょう。
また、被害者に対して不利益を与える旨を伝えて抵抗困難な状態に陥らせた場合は、準強制性交等や準強制わいせつではなく、脅迫による強制性交等・強制わいせつ罪が成立するものと考えられます。
ここでは強姦罪から変更された5つのポイントについて解説していきます。
強制性交などを罰する法律は、改正前の名称が強姦罪でした。強姦罪の“強姦”とは、“暴力によって女性を犯す”という意味があります。
改正で被害者の適用範囲が拡大され、性別が無関係となったために、性交等とするのが適切と考えられたようです。
一般的に言われている“性交”は、男女の生殖行為なので、罪名として不適切であるとの声も聞かれます。
強制性交等罪の大きな特徴は、被害の範囲が拡大されたことです。暴行または脅迫を用いて(13歳未満であれば暴行・脅迫は不要)下記に性器を挿入すれば強制性交等罪が成立します。
強制性交等罪に改正される前の強姦罪では、男性器が女性器に挿入されることで既遂とされていました。
肛門性交や口腔性交では強姦罪の要件を満たしていないため、強姦既遂罪が成立することはなかったのです。
しかし、性器挿入行為がなくとも強姦既遂と評価すべき事案はあるという判断のもと、法改正で既遂罪成立の範囲が拡大されたのです。
強制性交等罪の被害対象は女性にとどまらず、男性も含まれます。
以前の強姦罪では、被害対象は女性のみであり、被害に遭ったのが男性の場合は強制わいせつ罪にとどまり、成立しないとされていました。
今回の法改正で被害者の性別は関係ないことになりましたので、被害者が誰であれ構成要件に該当する行為があれば犯罪が成立することになります。
改正前の強姦罪では、事件化するのに被害者の訴えが必要な『親告罪』でしたが、改正後は告訴が不要な『非親告罪』となりました。
そのため、捜査機関は、被害者による告訴の有無にかかわらず、事件として立件し、起訴することが可能となりました。
また、今回の改正法は、原則として改正前の犯罪行為にもさかのぼって適用されます。
改正前は、事件として立件するかどうかが被害者の告訴の有無に委ねられており、被害者の心理的負担が大きいといった問題がありました。
非親告罪になることで、処罰対象が拡大すると共に、被害者の心理的負担が軽減されるなどの効果が期待できるでしょう。
一方で『被害者の意思に反した事件化は、プライバシーの侵害となるのではないか』との指摘もあるようです。
強制性交等罪の罰則は5年以上の有期懲役と、強姦罪の法定刑である3年以上の有期懲役から厳罰化されました。
そのため、強制性交等罪では減刑されない限り執行猶予がつきません。
執行猶予は、法定刑が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金にしか適用されないからです。
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
引用元:刑法 第25条
表:改正前と改正後の罰則比較
改正前 |
強姦罪 |
3年以上の有期懲役 |
改正後 |
強制性交等罪 |
5年以上の有期懲役 |
準強姦罪 |
3年以上の有期懲役 |
準強制性交等罪 |
5年以上の有期懲役 |
||
強姦致死傷罪 |
無期または5年以上の有期懲役 |
強制性交等致死傷罪 |
無期または6年以上の懲役 |
改正刑法で、強制性交等罪以外にも変更されたポイントをここでご紹介していきましょう。
改正刑法で新設されたのが、監護者性交等罪と監護者わいせつ罪です。
(監護者わいせつ及び監護者性交等)
第百七十九条 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による。
引用元:刑法 第179条
監護者とは子どもを監護し保護している者を指し、法的な監護権のみならず事実上の監護者も含まれます。
親はもちろん、養親や養護施設などの職員も該当すると考えられるでしょう。
しかしこの監護者には教師が含まれないと解されており、実情に即してないのではないかとの指摘がなされています。
改正刑法では、強制わいせつ罪も非親告罪とされました。
被害者の告訴がなくとも捜査機関は事件として立件し、必要な捜査を行って起訴することができます。(刑法 第176条)
ここでは、実際に強制性交等罪で逮捕された事例をご紹介します。
自宅に女性を連れ込み乱暴したとして、強制性交等罪の疑いで男性が逮捕されました。女性が現場から逃げ通報、発覚したということです。
【参考元】産経ニュース|強制性交罪 山梨県内で初適用 富士吉田署、容疑の65歳男を逮捕
親の立場を利用して、実子に対し性的暴行を加えようとした父親が、監護者性交未遂の疑いで逮捕されました。
このように、親の立場を利用して子どもに対し性的暴行を加えれば、監護者性交等罪や、監護者わいせつ罪に問われることになりますし、未遂であっても逮捕されます。
福岡県警朝倉署は、少年に対し暴行をした男性を、強制性交等の疑いで逮捕しました。強制性交等罪は、被害者が男性であっても適用され逮捕されます。
時代に合わせ性犯罪は厳罰化されましたが、いまだ多くの課題が残されています。
しかし改正刑法の付則には、『施行後3年をめどに性犯罪の実態に合わせた施策の在り方について検討を加える』とあるため、さらに変更されることも考えられるでしょう。
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