遺留分は遺言に優先する|遺留分を侵害する遺言は無効になる場合も?

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弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
遺留分は遺言に優先する|遺留分を侵害する遺言は無効になる場合も?

遺留分は、兄弟姉妹を除く法定相続人である配偶者・子・直系尊属に保障された最低限の遺産の取り分のことを言い、相続廃除や相続欠格に該当しない限り、被相続人の意思であっても簡単に奪うことができません。

そのため、被相続人がこの遺留分を奪うような内容を遺言で残していたとしても、遺留分を侵害する部分の遺言については、遺留分減殺請求を受けるとその限度で無効として扱われ、当該部分は遺留分権利者に当然に権利帰属することになります。

とはいえ、遺留分権利者は遺留分を請求するか否かの選択権があり、遺留分を求める必要がないのであれば請求しないということも可能です。この場合、遺留分を侵害する内容の遺言であっても、結果としてその内容通りに相続がなされることもあります。

今回は、少し複雑な「遺留分と遺言の関係」について、基本的な考え方と具体例をご紹介したいと思います。

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遺言と遺留分の関係

遺言が被相続人の財産処分の自由を保障する制度であるのに対し、遺留分は残された遺族の生活保障的な意味合いを持つ制度です。

日本の相続では、基本的には被相続人の財産処分の自由を尊重する制度設計がなされていますが、この例外とも言えるものが遺留分で、たとえ被相続人であっても簡単には遺留分を奪うことができません。

まずは、遺言と遺留分の関係を紐解いてみたいと思います。

遺留分は優先度がとても高い

遺留分は非常に優先度の高い制度で、時には被相続人の財産処分の自由に優先する保護が与えられるものでもあります。

これは、遺留分制度が「残された遺族にも一定の生活保障が必要であること」と「被相続人の相続財産には相続人の潜在的な持分が含まれていることが多いこと」を考慮して整備されたためであり、被相続人の財産の一定割合に関しては、被相続人の財産処分の意思に優先して遺留分を保障することとされています。

ただ、遺留分の権利については、行使するか否か、また放棄するか否かも権利者である相続人の意思に委ねられていますので、実際の相続のケースによって遺留分と遺言との関係性は少しずつ変わってくるでしょう。

遺言でできること

遺言でできるのは、大きく次の5つのことになります。

①遺産相続に関することの指定

相続人の廃除や相続分の指定といった相続に関する指定ができます。

②遺産分割方法の指定など

遺産分割方法や一定期間の遺産分割の禁止など、遺産分割に関する指定ができます。

③相続財産の処分の指定

遺贈など相続財産をどのように処分したいのかを決めることができます。遺贈と相続分の指定とは区別が少し難しいですが、「相続人へ○○へ譲る」といった文言の場合には、相続分の指定と考えることも多いです。

④認知

結婚していない女性との間にできた子について、遺言によって認知をすることができます。非嫡出子であっても認知されていれば相続権が発生しますので、このような子に財産を遺したい場合には、きちんと認知をすることが大切です。

⑤遺言の執行に関する指定

遺言執行者の指定や後見人等の指定、相続人の担保責任などの指定ができます。

遺留分を侵害する遺言があった場合はどうなるか

遺留分を侵害する遺言があったとしても、遺言自体が法に則って作成されている場合には、それだけで無効にはならないとされています。

ただし、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使した場合には、遺留分を侵害する内容の部分に関しては、その限りで無効とされることから、これらの扱いの違いをきちんと押さえておく必要があります。

ここでは、遺留分を侵害する遺言があった場合にどのような判断がなされるかを、具体例とともにご紹介いたします。

原則として遺留分を侵害する部分は無効になる

遺言は被相続人の最後の財産処分の意思表示なので、原則として尊重されるべきものではありますが、遺留分を侵害するような財産分与方法を内容とするものに関しては、遺留分者の請求があれば、遺留分を侵害する限度でその意思表示が無効となります。

少し分かりにくいかもしれませんが、遺留分減殺請求がなされると、遺言自体は有効のまま、遺留分を侵害する部分だけ無効として扱われることになるのです。

相続財産が1,000万円あり、遺言によって故人の財産処分の意思が示されていたケースで考えてみましょう。

原則として遺留分を侵害する部分は無効になる

上段の遺言があった場合、長男Bは法定相続分よりも少ない金額しか取得できませんが、遺言内容が遺留分を侵害しているわけではないことから、愛人Cに対して遺留分減殺請求をすることはできません。

下段の遺言があった場合、配偶者Aも長男Bも遺産を取得できないことになりますので、遺留分を侵害する部分(250万円+250万円)についての遺贈は無効となり、愛人CはA・Bから遺留分減殺請求をされた場合に500万円を返還する義務を負うことになります。

ただし、A・Bが遺留分減殺請求を行わないのであれば、遺留分を侵害する部分についても有効のまま扱われますので、その意味では遺言自体が無効になるわけではないのです。

そして、例えばAだけが遺留分減殺請求をした場合には、Aの遺留分に相当する250万円の遺贈に関してのみ遺言が無効となるにとどまり、減殺請求をしていないBの遺留分については考慮されないということになります。

例外的に無効にならないケースとは

前項②のとおり、遺留分権利者が遺言等に納得するなどして遺留分を請求しない場合には、遺留分を侵害する遺言であってもそのまま有効として扱われ続けることになります。

また、遺留分には時効がありますから、遺留分の権利が時効消滅した場合にも遺言は何の影響も受けません。

(減殺請求権の期間の制限)

第千四十二条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする

(引用元:民法1042条

遺留分と遺言との関係では、遺留分権利者が現実に遺留分を請求しているか否かで遺留分を侵害する遺言の有効性が左右されることになりますので、以下のポイントを押さえておいていただくのが一番かと思います。

  • 民法のルール(967条~984条)を守って作成されている遺言は、遺留分を侵害する内容であっても、直ちに無効になるわけではない
  • 遺留分権利者が遺留分減殺請求を行うと、初めて遺留分を侵害する範囲で遺言内容の一部が無効になる
  • 遺留分権利者から減殺請求を受けた相続人等は、遺留分を侵害している部分の財産を返還する義務を負う
  • 被相続人の生前に遺留分を放棄した相続人は、放棄を取り消さなければ遺留分の主張はできない

遺留分の割合と対象者

遺留分は民法1028条~1044条に明確なルールが設けられていて、請求できる割合や対象となる人が決まっています。最後に、遺留分の基本的な考え方を整理してみましょう。

遺留分権を有する相続人

遺留分の権利が保障されているのは、被相続人の「死亡時点の法律上の配偶者」「子(実子・養子・胎児・認知された子)」「直系尊属」に限られ、兄弟姉妹は除外されています。

これは、被相続人の財産処分の自由とのバランスを取るためで、兄弟姉妹のように被相続人と血が遠く関係性も希薄であろう親族に関しては、これらの人の生活保障よりも被相続人の財産処分の自由を優先させるという考え方に基づいています。

遺留分権を有する相続人は、自己の遺留分を侵害するような財産処分に対しては、遺留分減殺請求を行うことで異議を唱えることができるようになっています。ただし、これは言い換えると「遺留分を侵害されていない場合には遺留分減殺請求はできない」ということになります。

例えば思ったよりも相続分が少なかったからと言って遺留分を請求したい場合でも、既に取得した相続分が遺留分を超えている場合には請求自体ができませんし、あくまで遺留分相当の財産に満たない部分についてのみ請求権を有するに過ぎないといえます。

また、遺留分を請求できる権利者に関しては、その相続において法定相続人になっていることが前提になりますので、被相続人の配偶者と子が相続人になるケースでは、直系尊属が遺留分を主張することはできません。

このケースでは、上位の法定相続人である子が相続放棄をして相続権が直系尊属に移った場合や、死亡・相続欠格・廃除等での代襲相続が発生しない場合に初めて、直系尊属が遺留分を主張できるようになります。

遺留分割合と計算方法

遺留分は、民法1028条で権利者全員の遺留分の合計割合が定められており、個別の具体的な割合は合計割合に法定相続分を掛け合わせることで算出できるようになっています。

(遺留分の帰属及びその割合)

第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。

一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一

二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

(引用元:民法1028条

相続人の組み合わせ

法定相続分

総体的遺留分

(全員の遺留分の合計割合)

個別的遺留分

(具体的な個人ごとの遺留分割合)

配偶者のみ

100%

1/2

1/2

配偶者+子

配偶者

1/2

1/4

1/2÷人数

1/4÷人数

子のみ

100%÷人数

1/2÷人数

配偶者+直系尊属

配偶者

2/3

1/3

直系尊属

1/3÷人数

1/6÷人数

直系尊属のみ

100%÷人数

1/3

1/3÷人数

配偶者+兄弟姉妹

配偶者

3/4

1/2

1/2

兄弟姉妹

1/4÷人数

なし

  • 同順位の遺留分権利者がいる場合、それぞれの遺留分は相等しくなります。
  • 遺留分はその相続において法定相続人になる遺留分権利者が請求できる権利なので、下位の権利者は上位者がいる限り遺留分の請求はできません。

例えば遺留分算定の基礎となる財産が3,000万円あった場合の具体的な遺留分額は次の表のとおりになります。

相続人の組み合わせ

法定相続分

総体的遺留分

(全員の遺留分の合計割合)

個別的遺留分

(具体的な個人ごとの遺留分割合)

計算例

配偶者のみ

100%

1/2

1/2

3,000万円×1/2=1,500万円

配偶者+子

配偶者

1/2

1/4

3,000万円×1/4=750万円

1/2÷人数

1/4÷人数

3,000万円×1/4÷人数=750万円÷人数

子のみ

100%÷人数

1/2÷人数

3,000万円×1/2÷人数=1,500万円÷人数

配偶者+直系尊属

配偶者

2/3

1/3

3,000万円×1/3=1,000万円

直系尊属

1/3÷人数

1/6÷人数

3,000万円×1/6÷人数=500万円÷人数

直系尊属のみ

100%÷人数

1/3

1/3÷人数

3,000万円×1/3÷人数=1,000万円÷人数

配偶者+兄弟姉妹

配偶者

3/4

1/2

1/2

3,000万円×1/2=1,500万円

兄弟姉妹

1/4÷人数

なし

なし

なお、遺留分算定の基礎となる財産は、相続開始時の財産に加え、以下の贈与財産なども含めた価額となります。

参照元:遺留分算定の基礎となる相続財産に含める財産

  • 相続開始時の財産
  • 相続開始前1年間になされた贈与(受贈者を問わない)
  • 期間を問わず、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与
  • 不相当対価の有償行為
  • 共同相続人の特別受益に該当する贈与

まとめ

遺留分と遺言は、どちらも被相続人が死んだ後で問題になるものなので、切っても切れない関係にあると言うことができます。ただ、どちらも相続人の意思によって運用が変わってくるものなので(例:相続人全員の合意があれば遺言と異なる遺産分割協議も可能です)、ケースバイケースの判断が必要になることは否めません。

遺留分が問題になるケースの多くは、遺言によって不公平な遺産分割がなされたり、被相続人が死の直前に相続財産を処分してしまったりといった背景があります。遺留分には時効がありますので、こういったトラブルが生じた際には、できるだけ早く遺留分についての方針を固めて、適宜弁護士等の相続に詳しい専門家の意見を聞いていただくのが良いかと思います。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。第二東京弁護士会所属。

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