遺留分の放棄は可能|遺留分放棄をするための手続きまとめ

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遺留分の放棄は可能|遺留分放棄をするための手続きまとめ

一定の法定相続人に認められた最低限の遺産の取り分のことを「遺留分」と言いますが、実はこの遺留分も放棄をすることができます。

遺留分というのは、残された遺族の生活保障的な側面を持つ制度なので、相続人が被相続人の父母等直系尊属のみの場合は相続財産の1/3、それ以外の場合は相続財産の1/2が遺留分権利者全員の遺留分合計となりますから、大きな割合を占める部分になってきます。

そして、遺留分は被相続人であっても簡単には奪えない取り分とされており、遺留分をめぐって大きな争いが生まれるケースも珍しくはありません。

そこで登場するのが遺留分の放棄という制度で、被相続人の生前の放棄と死後の放棄とで方法が変わってきます。今回は、遺留分放棄をする・させるための手続きについてまとめてみました。

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遺留分は放棄できる

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められた最低限の遺産の取り分のことをいい、例えば被相続人が「全財産を○○に譲る」などといった遺言を遺している場合に登場します。

遺留分は残された遺族の生活保障の意味合いを持つ制度なので、被相続人の財産に占める遺留分全体の割合は大きく、相続人が直系尊属のみの場合は相続財産の1/3、それ以外の場合は1/2が遺留分として確保されることになります。

相続人の組み合わせ

法定相続分
 (民法900条)

遺留分

総体的遺留分

個別的遺留分
 (総体的遺留分×法定相続分割合)

配偶者のみ

100%

相続財産の1/2

1/2×100%=1/2

配偶者+子

配偶者

1/2

相続財産の1/2

1/2×1/2=1/4

1/2÷人数

1/2×(1/2÷人数)

子のみ

100%

相続財産の1/2

1/2×(1÷人数)

配偶者+直系尊属

配偶者

2/3

相続財産の1/2

1/2×2/3=1/3

直系尊属

1/3÷人数

1/2×(1/3÷人数)

直系尊属のみ

100%

相続財産の1/3

1/3÷人数

配偶者+兄弟姉妹

配偶者

3/4

相続財産の1/2

1/2(遺留分権利者が配偶者だけのため)

兄弟姉妹

1/4

なし

参考:相続分・遺留分の割合

しかし、遺留分は遺留分権利者に認められた権利であることから、自らの意思で放棄をすることも可能になっています。ここでは、遺留分放棄について、相続開始前と開始後の方法をご紹介いたします。

相続開始前に放棄する方法

遺留分放棄を無制限に認めてしまうと、年長者等からの強要によって不当に遺留分を放棄せざるを得なくなってしまう危険があり、民法は遺留分放棄について相続開始前の放棄は家庭裁判所の許可が必要と定めています(民法1043条1項)。

(遺留分の放棄)
第千四十三条  相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2  共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
引用元:民法第1043条

したがって、被相続人が存命中である場合は、家庭裁判所に遺留分放棄の許可申立てを行うことで遺留分放棄が可能です。

相続開始後に放棄する方法

相続開始後に遺留分を放棄する方法は、特に指定がありません。というのも、遺留分減殺請求権には1年の消滅時効と10年の除斥期間が定められており、この期間を過ぎると自動的に権利が消滅することになるからです。

したがって、被相続人の死後に遺留分を放棄したい場合は、所定の期間を過ぎるまで何もしないでいることが遺留分放棄の方法と言えるでしょう。

遺留分放棄が許可される条件

生前の遺留分放棄が家庭裁判所から許可されるかどうかは、下記の3点から判断されることになります。

①放棄が本人の自由意思に基づくものかどうか

他の遺留分権利者からの強制がなかったかどうか、真に本人のみの意思に基づいて放棄を希望しているかどうかといった点が審理されます。親族の強要や本人にとって一方的に不利益な状況でなされている場合には、放棄が却下される可能性が高いと言えるでしょう。

もちろん、本人が遺留分放棄の手続きするのが大前提です。

②放棄の理由に合理性と必要性があるか

放棄の理由が「なんとなく…」といったものでは、遺留分放棄は認められない可能性が高いです。例えば障害のある相続人のために使って欲しいだとか、自分は不仲で疎遠だから関わりたくないといった合理性や必要性ある理由が求められることになります。

なお、放棄の理由は放棄を希望する相続人からの放棄理由になるので、被相続人がその相続人に遺留分を渡したくないといったような理由は当然ながらこの要件を満たしません。

③代償性があるか

既に特別受益としてまとまった額の贈与を受けていたり、遺留分放棄と引き換えに贈与がなされているといった代償性についても判断されることになります。無償での遺留分放棄は却下される傾向がありますので、ある程度は相続財産の前渡しの意味も込めて、贈与等を行っておく必要があると言えるでしょう。

このとき、放棄を希望する相続人が経済的に裕福であるから一切の見返りを渡さないというのはこの要件を満たしませんし、結婚等を認めてもらう対価に遺留分放棄を求めるのもNGです。

また、口約束での対価の支払いも代償性なしと判断されることが多く、遺留分放棄前に対価を渡すか、放棄と同時に対価を支払う必要がある点にも注意しましょう。

遺留分放棄の手順と効果

遺留分放棄の手順と効果

被相続人の死後の遺留分放棄については手続きはありませんが、生前の遺留分放棄については家庭裁判所への申立てが必要になります。ここでは、家庭裁判所での遺留分放棄の手順と、生前・死後問わず遺留分放棄の効果についてご紹介いたします。

家庭裁判所での手続き内容

相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所に遺留分放棄の許可申立てを行うことになります。

申立人

遺留分権利者である推定相続人

申立時期

被相続人の生存中

申立先

被相続人の住所地の家庭裁判所

必要書類

  • 申立書記入例

  • 添付書類:被相続人の戸籍謄本、申立人の戸籍謄本

※その他追加書類を求められる場合もあります。

費用

  • 収入印紙800円分

  • 連絡用の郵便切手(各裁判所によって異なる)

遺留分放棄の効果

遺留分を放棄すると、以下の効果が発生します。

①遺留分を請求できなくなる

遺留分を放棄すると、当然ながら後で遺留分を請求すること(遺留分減殺請求)はできなくなります。死後の放棄の場合は所定の期間内であれば請求できなくはないですが、訴訟になった際に請求が認められない可能性はあります。

②他の相続人に影響はない

遺留分権利者の1人が遺留分を放棄したとしても、他の遺留分権利者の遺留分が増えることはありません。また、遺留分の権利は個々の相続人が有していることから、誰か1人が放棄したからと言って他の相続人も放棄したことにはなりません。

③相続権は残る

遺留分放棄=相続の放棄にはなりませんから、相続権そのものは残ります。そのため、遺言内容によっては遺留分額よりも大きい遺産を相続することもありますし、法定相続となれば法定相続分は相続できることになります。

④債務は相続することになる

相続権が残るということは、被相続人の負債(債務)についても相続の対象になるということです。債務の相続もしたくない場合は、別途限定承認や相続放棄の手続きも忘れずに行いましょう。

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遺留分放棄と財産放棄(相続放棄)の違い

遺留分放棄と財産放棄(相続放棄)の違い

遺留分放棄と相続放棄の大きな違いは、生前の放棄が認められているか否かです。

そもそも相続放棄というのは、被相続人の遺産を一切相続しないという制度であり、プラスの財産はもちろんマイナスの財産も相続しないということになりますが、遺留分放棄の場合は本来であれば請求できるはずのプラスの財産を請求しないための制度という違いがあります。

そのため、両者の違いを簡単にまとめると、以下のようになります。

  遺留分放棄 相続放棄
根拠条文 1043条1項 915条
制度概要 遺留分減殺請求権の放棄 一切の相続の放棄
相続権の有無 あり なし
債務の相続 あり なし
他の相続人への影響
なし
他の相続人の遺留分は増加しない
なし
放棄は個別に行う必要あり
遺留分 なくなる なくなる
生前の放棄の可否 不可
申立先
  1. 生前:家庭裁判所
  2. 死後:特に必要なし
家庭裁判所
期間制限
  1. 生前:被相続人の存命中に限られる
  2. 死後:特になし(時効によって消滅)
相続開始を知った時から3ヶ月以内

遺留分放棄を撤回することはできるのか?

被相続人の生前に遺留分放棄を行った場合、それを撤回することは非常にハードルが高くなります。

というのも、家庭裁判所は許可後に翻意をする可能性があるか否かも含めて放棄の許可を検討するため、その撤回を認めてもらうためには合理的な理由を提示しなければなりません。

生前の遺留分放棄を撤回するためには、基本的には専門家の力を借りるのが大前提となりますが、ここでも簡単に方法と効果についてご紹介したいと思います。

撤回の方法

一度許可された遺留分放棄を撤回するためには、家庭裁判所に取り消しを申し立てる必要があります。民法上、遺留分放棄の撤回に関する規定は置かれていないため、「家庭裁判所の職権による取消(非訟事件手続法19条1項)」か「事情変更を理由とする取消」という法的根拠によって撤回を認めてもらうことになります。

遺留分放棄の撤回(取消)を認めてもらうためには、前提事情の変化があったことを合理的に説明できなければなりません。

前提事情の変化の例としては、家業を継ぐ予定であった娘が嫁に行ってしまった場合(松江家判昭和47年7月24日)や、当初は兄弟円満であったのが不仲になってしまい遺留分放棄を撤回したい場合(東京家判昭和54年3月28日)などが認められており、逆に大きな事情の変化がなかったり、保証債務等の回避を目的とした遺留分放棄については取消が認められない傾向にあります。

遺留分放棄の撤回については、家庭裁判所に審判の取消又は変更を申し立てます(家事事件手続法78条)。この際、自力で行うのは非常に難しいので、撤回を検討する場合はまず専門家へ相談し、自力で行うか専門家を頼るか決めるのが無難です。

遺留分放棄の撤回の効果

遺留分放棄の撤回が認められると、放棄した遺留分減殺請求権が復活することになります。そのため、遺留分放棄した相続人は、改めて自己の遺留分の権利を行使し遺留分を取り戻すことが可能になります。

遺留分放棄をさせたい場合はどうするか?

遺留分放棄をさせたい場合はどうするか?

遺留分を放棄させたい相続人がいる場合、やはり有効なのは生前の遺留分放棄をお願いすることになりますが、先述のとおりこれは簡単に認められるものではありません。

となると、これだけは遺留分権利者の判断に委ねられる部分になってきますから、一番簡単なのは遺留分を侵害しないギリギリのラインで遺産分割を行うのが良いかと思います。

とは言っても、遺留分放棄をさせたい場合にできることは何もないのでしょうか。ここでは、遺留分放棄をさせたい場合に有効と思われる手段についてまとめてみました。

遺言で放棄を促すことはできるのか?

遺言によって「遺留分を請求しないで欲しい」と遺留分放棄を要望することはできるのでしょうか。結論から言えば、このような内容の遺言を遺したとしても、それに強制力はありません

遺留分については被相続人にはとやかく言う権利がないので、このようなお願いはあくまで遺留分権利者の良心に訴えかけるための手段に過ぎません。

どうしても遺留分を請求しないで欲しいのであれば、初めから遺留分を侵害しない限度で遺産の分配を行うのが現実的です。

具体例:娘に財産を多く残したい場合

例えば障害のある娘へ財産を多く残したいのであれば、他の相続人には遺留分ギリギリの相続分を指定し、残りを全て娘へといった内容の遺言をしておくのが無難でしょう。

また、受取人固有の財産としてみなし相続財産に算入されないであろう生命保険金等の受取人を娘に指定しておくことも有効な手段になります。

死後の遺留分放棄で揉めないための注意点

相続人間での話し合いなどで、納得して遺留分を放棄してくれる相続人が出ることもあります。

このように遺留分放棄をすると明言している相続人がいる場合には、客観的な証拠を残しておくのがその後の揉め事を防ぐ有効な手段になるかと思います。

例えば、そのような意思表示がなされた際に公平な第三者を同席させておくことや、「これこれこういう事情で私は遺留分を放棄したい」といった内容の日付・署名・押印つきの書面を残してもらうことで、不要なトラブルを避けることができるでしょう。

事情の変化によって「やっぱり遺留分を放棄したくない!」となってしまった場合は仕方ありませんが、遺留分権利者でない親族等の口出しによるトラブルを防ぐには客観的な証拠が役に立つと思います。

遺留分放棄をするつもりの相続人には「あなたの意思を疑うわけではないけれど、今後のトラブルを防ぐためにも…」と事情を説明して、証拠保全に協力してもらうのが良いかと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか。

生前の遺留分放棄は簡単にできるものではなく、家庭裁判所で厳密に審査され許可がなされることになるため、その後に気が変わったからと言って安易に撤回できるものではありません。したがって、充分に考えた上で納得できたら手続きを行うのが無難でしょう。

逆に、死後の遺留分放棄は簡単にできますが、こちらも安易に放棄→撤回を行うと大きなトラブルに発展しかねませんから、やはり慎重な判断が大切です。

本記事が、少しでもお役に立てれば幸いです。

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この記事を監修した法律事務所
弁護士法人ネクスパート法律事務所
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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