遺言書の3つの種類と遺言者が押さえておくべき遺言方法と選び方

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
遺言書の3つの種類と遺言者が押さえておくべき遺言方法と選び方

あなたは遺言書と遺書の違いをご存じですか?

遺言書とは、民法上作成方法や法的効果が定められている死後の財産処分等の意思を記したもののことを指していますが、遺書と遺言書を同じものと考える方は少なくありません。

実際には、「遺言書」と呼ばれる法的効果を持つ文書を作成するには色々なルールが設けられており、単に死の前に記したメッセージや家族宛の私的な文書は「遺書」として法的効果を持たないという区別があります。

さて、このような遺言書ですが、作成方法ごとに分類され、大きく分けて2カテゴリ、種類で言えば7種類の遺言方法が法定されています。

今回は、基本的な遺言書3種類と押さえておくべき遺言の方法、どの遺言をするのが良いのか、その選び方をご紹介していきたいと思います。

実は遺言書には様々な種類がある

一般に、遺言書と言えば遺言者が自筆で書いた手書きの文書を想像する方が多いかと思いますが、実は遺言書には7種類あり、作り方も少しずつ異なっています。

まずは遺言の種類について、簡単にご説明いたします。

遺言の方式は民法で決まっている

遺言については、民法960条以下で種類・方法・効果などが定められており、これを守っていない文書は単なる遺書として法的効果が生じない可能性があります。

そのため、遺言をする前には選択した遺言の作成方法をきちんと確認することが大切で、その前提として遺言制度の概要を押さえておくのがおすすめです。

普通方式の遺言

普通方式の遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。普通方式というのは、通常の場合に利用される方式のことを指しており、後述する特殊な状況下での遺言と区別する意味で用いられています。

特別方式の遺言

特別方式の遺言には、大きく分けて「危急時遺言」と「隔絶地遺言」という2種類があり、そこから更に細分化されて全部で4種類の遺言が規定されています。

特別方式の遺言は、特別な事情によって普通方式の遺言が困難あるいは不可能な場合にのみ許容される特殊な遺言方式で、危急時遺言として「死亡危急時遺言」「難船危急時遺言」が、隔絶地遺言として「伝染病隔離者遺言」「在船者遺言」が、それぞれ規定されています。

特別方式の遺言

遺言書を作る際に最低限押さえておくべき3種類

遺言書を作る際に最低限押さえておくべき3種類

先に述べたように、通常遺言を作る場合は「普通方式の遺言」が用いられることになりますので、最低限押さえておくべき遺言としては「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類になるかと思います。

ここでは、この3種類の遺言の特徴と作成方法を詳しくご説明するとともに、作成の際に注意していただきたいポイントもご紹介いたします。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、その名の通り全文を遺言者が手書きで書いた遺言で、現在最もポピュラーな遺言書といっても過言ではないでしょう。

書店で見かける「遺言作成キット」などを利用して作成される遺言も基本的にこの自筆証書遺言で、紙・筆記具・印鑑・封筒があれば簡単に作成できるという特徴があります。

自筆証書遺言の作り方

  1. 紙、筆記具、印鑑、封筒を準備する
  2. 文字を書ける本人が本文をすべて自筆で書く
  3. 作成日付を記載し、本人の署名押印を行う
  4. 封筒に入れて封をし、綴じ目に押印をする
  5. 本人の責任で保管する

という、非常にシンプルな流れで遺言できるようになっています。

作成時の注意点

  1. ワープロ等の利用や録音・録画、代筆などが不可能である
  2. 明確に特定できる作成日付がない
  3. 押印が漏れていると無効になるおそれがある
  4. 変更や訂正の際には所定の方式を守らなければならない など

が挙げられます。

自筆証書遺言の場合、遺言者の意思でなされることが大前提であり、他人が内容について関与できないことから、法的な効力を持たない内容(付言事項|家族宛の単なるメッセージなど)ばかりで遺言としての効果が不十分であったり、書き方がきちんと守られていないといった危険があります。

そのため、遺言者本人が書き方をしっかり確認し、必要なことが記載できているか、体裁に漏れがないかなどについて、細心の注意を払うことが大切です。
参照元:自筆証書遺言の有効な書き方と抑えておきたい3つのNG例

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言者が原案を作り、それを公証人役場で公証人に口授し、公証人が遺言本文を作っていく形で行われる遺言方式で、出来上がった遺言は公正証書となります。

自筆証書遺言とは異なり、遺言者が公証人役場に出向くか公証人に出張してもらって作成する遺言で、公正証書として強い証明力を有する反面、遺言に記載する財産の価額によって手数料が異なり、3種類の中で一番確実かつ費用の掛かる方法とも言えます。

公正証書遺言の作り方

  1. 遺言者が遺言の原案をメモ等で作成し、公証人役場に連絡して作成日時を決める
  2. 2人以上の証人を確保し、作成日時に必要書類を揃えて公証人役場へ出向く(又は公証人に自宅や病院等に出張してもらう)
  3. 遺言者が公証人に遺言内容を口授する
  4. 公証人がその内容を筆記し、遺言本文を作成する
  5. 内容に相違なければ、遺言者本人・公証人・2名以上の証人の全員が署名押印する
  6. 遺言書原本は公証人役場で保管され、正本を遺言者本人が保管する

という流れで進んでいき、よほどのことがなければ無効にならない確実な遺言として人気があります。

作成時の注意点は、内容については法律実務経験の豊富な公証人がチェックをしてくれるためあまり心配ないかと思いますが、手続きの際の証人選定に関して、証人になれない人を選んでしまったり、その結果として要求される証人の人数を満たせなかったというトラブルが起こりやすいことから、主にこの点についての確認が必要になります。

また、手数料が意外にかかる点と、手数料の計算も少し複雑という点にも注意しましょう。

公正証書遺言作成にかかる手数料と計算方法の例

手数料の早見表
目的物の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 1万1,000円
500万円を超え1,000万円以下 1万7,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 2万3,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 2万9,000円
5,000万円を超え1億円以下 4万3,000円
1億円を超え3億円以下 4万3,000円に5,000万円までごとに1万3,000円を加算
3億円を超え10億円以下 9万5,000円に5,000万円までごとに1万1,000円を加算
10億円を超える場合 24万9,000円に5,000万円までごとに8,000円を加算

※なお、遺贈額の合計が1億円に満たないときは、別途1万1,000円の加算があります。
引用元:日本公証人連合会 手数料

手数料の計算方法

公正証書遺言手数料の計算は、2つの要素を考慮する必要があります。

  1. 遺言の目的とする財産の価額の合計額が1億円以上か否か
  2. 相続人や受遺者ごとの取得財産額はいくらか

まず①は、合計額が1億円に満たない場合に11,000円の加算が行われるため、最初に考慮しておくのが無難です。

次に②ですが、手数料の計算は遺産を渡す相手ごとに行わなければならないため、誰がどれくらい財産を取得するかを整理して、それぞれいくらの手数料が必要になるかを算出します。

例えば、相続人または受遺者が1人のみで、この1人に2,000万円の預金を相続させる公正証書遺言を作成するケースでは、①で11,000円、②で23,000円の合計34,000円の手数料が必要になります。

ところが同じ2,000万円の預金でも、3人にそれぞれ2:1:1の割合で相続させようとすると、計算が違ってきます。

まず①で11,000円が掛かるのは同じですが、②1人が17,000円、2人がそれぞれ11,000円の手数料となり、合計すると50,000円の手数料が必要です。

このため、手数料が意外に高くつくケースもありますので、慌てないようあらかじめどの程度の手数料になるのかを見積もっておくのがおすすめです。
参照元:公正証書遺言の書き方|信頼できる遺言書な理由と利用すべき場合とは

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言を足して2で割ったような遺言方法で、自筆証書遺言のように自分で遺言書を作成した後、公証人役場で公証人に認証してもらうという方法で行われます。遺言内容自体は秘密にして、遺言者が遺言をしたということが証明されるだけの遺言方法とも言えるでしょうか。

自筆証書遺言よりも作成自体のルールが緩く、公正証書遺言よりも手数料が安い(定額で11,000円)という特徴がありますが、両者のデメリットも引き継いでいるので利用件数はあまり多くありません。

秘密証書遺言の作り方

  1. 自筆証書遺言の作り方を参考に、自分で遺言書本文を作成する(ただし代筆やパソコン等での作成も可※自筆での署名押印が必要)
  2. 公証人役場へ認証をしてもらうよう連絡し、指定された日に2人以上の証人とともに公証人役場へ出向く
  3. 認証されたら遺言書原本を遺言者本人の責任で保管する

作成上の注意点としては、秘密証書遺言としては無効でも自筆証書遺言として有効に扱われる可能性があることから、基本的には自筆証書遺言の作り方にならうのが無難ということが挙げられます。

すなわち、代筆やパソコン等での作成も認められてはいますが、この場合に秘密証書遺言の要件を満たせないと遺言自体が綺麗さっぱり無効になってしまうので、あまりおすすめできないということです。また、公証人役場での手続きが必要なので、証人の選定には充分な注意が必要です。

遺言者が知っておくべき遺言方法の選び方

遺言者が知っておくべき遺言方法の選び方

以上が普通方式の遺言3種類の概要ですが、ここからはあなたに合った遺言を選ぶ際に参考になる、各遺言のメリットやデメリット、ケースごとにおすすめの遺言方法などをご紹介いたします。

なお、遺言は新しく作られたもの(死亡時点から一番近い時点に作成されたもの)が優先され、新しい遺言と古い遺言とが抵触する場合には、新しい遺言で古い遺言の抵触部分が撤回されたものとみなされるため、例えば公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回するということも可能です。

そのため、作ってみて「やはり違うな」と思ったら別な遺言を作り直すこともできますし、その際に違う遺言方法を選択することも可能です。もっとも、何通も遺言書が存在すると混乱の種になりますし、安易に撤回を繰り返すのはおすすめできませんので、できるだけ最初の段階であなたに合った遺言方法を選んでおくのが良いでしょう。
参照元:遺言書の3つの効力|遺言を残した方がいい9つのケース

各遺言のメリットとデメリット

各遺言のメリットとデメリットは、主に以下の点になります。

  自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
メリット
  • 満15歳以上で字が書ければ誰でも簡単に利用できる
  • 特に費用がかからない
  • 撤回や変更が比較的簡単
  • 遺言の存在と内容が明確で混乱が少ない
  • 裁判等での証明力が段違いに高い
  • 検認が必要ない
  • 遺言の内容を秘密にできる
デメリット
  • 遺言書の滅失、偽造変造のおそれがある
  • 検認が必要
  • 不備による無効のおそれがある
  • 遺言の存在や内容を秘密にすることはできない
  • 内容によって費用が高額になるおそれがある
  • 手続きがやや煩雑
  • 作成や手続きにかなりの注意が必要
  • 検認が必要
  • 手数料として11,000円かかる
  • 遺言書の滅失等のおそれがある

ケース別・遺言方法の選び方

基本的にはどの方法によってもメリットとデメリットがありますので、お好みの方法を選んだほうが後悔が少なくて済むといえますが、選択の際のチェックポイントとして、次のことを考えていただければ良いかと思います。

遺言を残す上で何を重視するか

例えば手軽に作れることや費用面を重視するのであれば自筆証書遺言が、遺言としての効力を重視するのであれば公正証書遺言が適しているといえます。

遺言についての知識がどれくらいあるか

何も知らないけれどとりあえず遺言を作りたいというのであれば、法律実務経験の豊富な公証人が内容を精査してくれる公正証書遺言が適しているでしょうし、自分で調べることが苦でなかったり適宜勉強するつもりがあるのであれば、自筆証書遺言を選択しても問題ないかと思います。

遺言内容をどこまで細かく決めるか

単に○○は財産の△分の1、□□は○分の1といったざっくりとした内容のみを遺言にするのであれば、自筆証書遺言でも充分足りるかと思います。そうでなく、○○には××を残して、□□には△△と○○預金の△円を残して、といったように細かく指定したい場合。

公正証書遺言も利用する価値があるでしょう。ただし、公正証書遺言の場合は相続人等の数によって手数料が増える可能性がありますから、そのあたりの兼ね合いによって決めていくほうが無難かもしれません。

要は、コストを重視するのであれば自筆証書遺言、確実性を重視するのであれば公正証書遺言、どうしても内容を秘密にしたい場合には秘密証書遺言といった感じで選んでいくと迷わないかと思います。

下記で具体的なケースごとに向いている遺言方法をご提案いたしますので、選択の際の参考にしていただければ幸いです。

あなたの考えや状況 向いている遺言方法
自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
とにかく遺言にかかる費用を抑えたい
確実に効力を生じる遺言を残したい
細かい遺言をしたいわけではない
大まかな割合や多少具体的な財産の指定はしたいが、その他の内容については相続人で話し合って欲しい
相続財産は比較的分割しやすいものばかりで、相続人の仲も悪くない
相続財産に不動産が多く、混乱が予想される
遺言にあまり手間をかけたくない
相続についての基本的な知識がある、もしくは適宜勉強する気がある
きちんとした遺言を作りたいが1人でできる自信がない
何らかの事情で文字が書けない、もしくは沢山書くのが辛い ×
相続人以外にまとまった財産を渡したい相手がいる
相続人の仲が悪い(遺産分割で揉める可能性が高い)
既に相続問題を相談している専門家がいる
相続人の人数が多い
相続財産が多い
確実に財産を渡したい相続人がいる、もしくは決まった人に確実に相続させたい財産がある

まとめ

遺言書は、相続の際にあなたの意思通りの財産処分を実現するための手段です。どの遺言方法によっても生じる効果は変わりませんが、作成過程での手間や負担がそれぞれ異なりますので、あなたに合った遺言方法を選ぶことが円滑な相続への第一歩になるかと思います。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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編集部

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