タクシー乗車中の事故における慰謝料請求に必要な全知識

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弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
タクシー乗車中の事故における慰謝料請求に必要な全知識

タクシーに乗車中に事故が発生してしまい受傷をしてしまった場合、慰謝料を請求することが出来るのでしょうか。答えはできます。

ただし、多くの方が「慰謝料」と「損害賠償」を混同されている可能性があります。正確に言うと、損害賠償とは交通事故を原因として被害者に発生した損害を補償するものをいい、以下の計算式により求めます。

損害賠償=積極損害+消極損害+慰謝料

つまり、慰謝料とは交通事故の被害者になった際に損害を被った際に加害者に対して請求できる金銭の項目のうちの一つといえます。

では、実際にタクシー乗車中に事故が発生し受傷を負った場合、損害賠償の請求先は誰なのでしょうか。また損害賠償として請求できる項目には何があるのでしょうか。

今回はタクシー乗車中の事故の損害賠償請求先と損害賠償額の算定について記載していきたいと思います。

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タクシー乗車中の損害賠償請求先

まずは、タクシー乗車中の事故の損害賠償請求ができる法的な根拠と、その請求先を確認しておきましょう。請求先は事故の状態により変わってきますので、ここでは事故別の請求先を紹介します。

タクシー乗車中の事故における損害賠償請求の根拠

タクシー乗車中に事故が発生した際に損害賠償を請求できることはお伝えしましたが、その根拠となる法令として自動車損害賠償保障法3条、民法709条、商法第590条等が挙げられますが、ここでは民法709条と商法590条について説明します。

民法709条

(不法行為による損害賠償)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用元:民法709条

商法590条

旅客ノ運送人ハ自己又ハ其使用人カ運送ニ関シ注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ旅客カ運送ノ為メニ受ケタル損害ヲ賠償スル責ヲ免ルルコトヲ得ス

引用元:商法590条

この2つの法令の違いはタクシー運転手(もしくはタクシー会社)がどのような責任を負うかにより変わってきます。民法709条を根拠とした際には、「不法行為責任」を、商法590を根拠とした際には「債務不履行責任」のそれぞれの責任を負います。

民法、商法どちらを選ぶかによって裁判になった際に過失の証明や損害賠償の請求できる権利の期間に差があります。

「不法行為責任」の場合には過失の証明を被害者が行う必要があります。また権利の期間は3年となります。「債務不履行責任」の場合には、被害者は過失の証明を行う必要がありません。また権利の期間は5年となります。

ただし、どちらの法令を根拠に損害賠償を行っても、請求できる損害賠償額に影響はありません。

タクシーの単独事故の場合

タクシーが単独で事故を起こした場合は、タクシーの運転手もしくはタクシー会社に対して損害賠償の請求を行います。

タクシーに過失が無い場合

たとえば酒気帯び運転の車が対向車線にはみ出してタクシーと衝突した場合などにおいては、タクシーに責任はありませんので、タクシーが事故を起こした相手に対して損害賠償の請求を行います。

タクシーの過失が100%である場合

事故において、事故を起こした相手に過失が無く、タクシーの過失が100%である場合には、タクシーの運転手もしくはタクシー会社に対して損害賠償の請求を行います。

タクシーとその他の事故車に双方に過失がある場合

タクシーと事故の相手双方に事故において過失がある場合には、「共同不法行為」となり、タクシーと相手の両方に対して損害賠償の全額の請求を行います。

共同不法行為とは、複数人の不法行為により第三者に対して損害を与えることをいいます。そして共同不法行為の際には、不法行為により損害を与えた加害者は全員が連帯して責任を負うことになります。これは民法第719条により規定されています。

民法719条

(共同不法行為者の責任)

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

引用元:民法719条

そのため、被害者はタクシー側でも相手側でも、どちらか一方に対して損害賠償の全額を請求します。事故の過失割合に応じてタクシー側に損害の内の〇%、相手側に残りの損害の〇%を請求するという方法はとりません。被害者は両名に対して全額の請求ができます(但し、賠償額が2倍になるわけではありませんので注意して下さい。)。

タクシー事故の損害賠償の範囲はどこまでか

タクシー事故の損害賠償の範囲はどこまでか

タクシー事故の損害賠償の範囲は一般的な交通事故の補償範囲と変わらず、以下の計算式通りとなります。

損害賠償=積極損害+消極損害+慰謝料

ここではそれぞれどのような項目を請求することができるのか簡単に紹介します。

請求できる積極損害の内容

積極損害とは、交通事故の受傷の治療のためにかかった費用のことをいいます。具体的には入院や通院の治療費、付添看護費、入院中雑費、通院のための交通費を含みます。

具体的にどの程度まで含まれるかは受傷の程度にもよりますので、不明な点がある場合は一度弁護士に相談されると良いかもしれません。

請求できる消極損害の内容

消極損害とは、事故の受傷により減少した収入を補償するものをいいます。具体的には入院などで働けない期間があった際の収入減を補償する「休業損害」、後遺障害を負ったことで、労働能力が減少し、それに伴う収入の減少を補償する「後遺障害逸失利益」、被害者が死亡してした際の将来にわたる収入の減少を補償する「死亡逸失利益」を含みます。

請求できる慰謝料の内容

慰謝料とは精神的な苦痛に対する補償のことをいい、交通事故の際に請求できる慰謝料には「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」があります。

実際に自分の場合は、どれくらいの慰謝料を請求できるかを計算することもできます。

計算することで、自身で慰謝料請求の交渉を行う場合も客観的な根拠をもって金額提示が出来るのでおすすめです。

また、実際に交通事故の慰謝料請求を弁護士に依頼することで弁護士基準での慰謝料請求を行うことが出来ます。

弁護士に依頼して慰謝料請求した場合の相場と保険会社に任せた際の慰謝料請求金額の相場は大きく異なります。

弁護士に慰謝料請求の依頼を任せておけば、自身が治療中に代理で交渉を行ってくれるので手間も省けます。

タクシー乗車中の事故の注意点

タクシー乗車中の事故には、一般的な事故とは別でタクシー乗車中であるがゆえの注意点があります。ここではその注意点について確認していきましょう。

タクシーの乗客による過失の有無

乗客はタクシーの運転に関与していませんので、タクシーが起こした交通事故について通常は過失があるということはありません。

しかし、乗客が不適切な行為によりタクシーの運行を妨害し、これに起因して事故が発生した場合には乗客の過失も認定される可能性があります。

また、乗客に先天的な疾患や持病による脆弱性(素因といいます。)があり、当該脆弱性によって被害が大きくなった(例えば、もともと頸部に何らかの疾患があり、これが事故で悪化したため被害が大きくなったという場合)も、乗客側に一定程度の過失が認定されることがあります。

このように、乗客側になんらかの過失や素因が認定される場合には、過失相殺といって損害がその分減額されます。

大阪地裁平成21年6月30日判決での例

この判例では、タクシーが信号待ちの車に追突したことにより、乗客が頸髄損傷、脊髄損傷の傷害を負い、第3頸椎レベル以下の知覚・運動・呼吸の完全麻痺という障害等級1級1号の後遺障害を負った事案です。

この判決では、乗客は後部座席で横になって眠っており、事故時に頸髄損傷を生じた蓋然性が高いことなどから、素因減額を否定できないとして3割の素因減額を行いましたが、過失相殺については、乗客に落ち度はないという判決を行いました。

参考元:裁判年月日 平成21年 6月30日 裁判所名 大阪地裁  

   事件番号 平18(ワ)7084号 ・ 平18(ワ)8940号

   文献番号 2009WLJPCA06306002

大阪地裁平成17年4月27日判決での判例

高速道路上で自損事故を起こしたタクシーが走行車線と追越車線をまたぐ状態で停止していた際に、追越車線を走行してきた加害車両が衝突する交通事故により、タクシーの乗客が死亡したという事案です。

事故後乗客がタクシーに乗り続けていたことに対して素因減額が争われましたが、後続車両が追突してくるという切迫した状況ではなく、事故時に運転手から車外にでる指示もなかったとして、素因減額は認められませんでした。

参考元:裁判年月日 平成17年 4月27日 裁判所名 大阪地裁

    事件番号 平16(ワ)7690号 文献番号 2005WLJPCA04276001

事故にタクシーと相手の車双方に過失がある場合には資力がある方に損害賠償請求を行う

事故においてタクシーにも事故の相手の車にも過失がある場合には両名に対して全額請求できることはお伝えしました。

そのため、乗客側かタクシー側のいずれかが任意保険会社に加入していれば、補償を受けられないという事態は回避できるでしょう。

損害賠償はタクシーの事故係と交渉を行うことが一般的

タクシー側に損害賠償の請求を行う際には、タクシー会社の事故担当者や顧問弁護士が示談交渉の窓口となることが一般的です。

自己担当者や顧問弁護士は示談交渉のプロであり法律的な知識を豊富に持っている為、妥当な損害賠償額を獲得できない場合があります。そのためタクシー事故において損害賠償を請求する際には一度弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

タクシーの乗車中に事故になってしまう可能性はゼロではありません。タクシー乗車中の事故であっても、負った損害に関しては減額されることはありません。

もしタクシー会社を相手に示談をする場合、もしくは訴訟に発展した場合弁護士に依頼をすることで損害賠償額が増額する可能性があります。被害者になってしまった場合には弁護士に示談の依頼をすることをすすめます。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。第二東京弁護士会所属。

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