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KL2020・OD・037
遺留分減殺請求は、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分を確保する手続きですが、請求できる期間が「自己のための相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間」(民法1042条)とされています。
ところが、相続税の申告・納税の期限は「相続開始から10ヶ月」となっているので、遺留分減殺請求の時期や内容によっては課税関係が複雑になるケースがあり、相続税のほか、所得税や贈与税などが問題になる可能性が出てきます。
相続によって取得した財産が基礎控除を超える場合は「相続税」が課税されますが、遺留分減殺請求によって遺産そのものではなく価額弁償等で金銭を受け取った場合には、所得税が課されることもあり得ます。
相続税と所得税では申告・納税の時期が異なりますので、どういった税金がかかってくるのか知っておくのは大切なことでしょう。
今回は、遺留分減殺請求で取得した財産について、かかる可能性のある税金を整理してみました。
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遺留分減殺請求は、遺言等によって最低限の遺産の取り分を確保できない兄弟姉妹以外の法定相続人が、自己の遺産の取り分を侵害している人に対して行う請求です。
相続に関する税金としては、基本的には「相続税」が問題になるわけですが、相続税の申告・納付期限がいかなるケースでも「相続開始から10ヶ月」とされているのに対し、遺留分減殺請求は「自己のために相続の開始および減殺すべき贈与・遺贈があることを知ったときから1年間」とされていることから、遺留分減殺請求の時期や内容によって相続税以外の税金を支払うべきケースも少なからずあります。
まずは、遺留分減殺請求と税金についての基礎知識を整理してみましょう。
相続税は、相続によって取得した財産に課される税金で、「相続」「遺贈」等で財産を取得した人(相続人・受遺者)が支払うべき税金になります。
遺産分割の際や相続税の申告・納付前の遺留分減殺請求であれば、大抵の場合では相続税を考慮すれば問題ないかと思います。
遺留分減殺請求を遺産分割協議中に行う場合や、一部の遺産については遺言で取得者が決定されており、残った財産について遺留分の主張をする場合には、相続財産は未分割状態といえますから、基本的には相続税の問題になります。
遺留分として取得する財産が決まれば、遺留分権利者およびその他の相続人等の取得財産も決まりますので、実際に取得した財産をもとに相続税の申告・納付手続きを行えば良いでしょう。
遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ有効に成立しませんが、一度成立した分割協議については、相続人全員の合意がなければやり直しをすることができません。
そして、仮に全員の合意をもって遺産分割協議をやり直す場合には、原則として相続税と贈与税の2つの税金がかかるということに注意が必要です。
相続の場合、被相続人から相続人等へ財産の移転があったものとして相続税が課されるわけですが、一度成立した遺産分割協議をやり直すのは「被相続人⇒相続人⇒他の相続人」という2段階で財産移転がなされることになります。
なので、最初に財産を取得した相続人から次に財産を取得する相続人へ贈与(または譲渡・交換)があったものとして扱われます。
要は、最初の遺産分割が有効に成立していなければ、被相続人から相続人へ財産の移転がなされたとはいえないので、相続人間での贈与等の問題が生じないということです。
例えば相続人全員で遺産分割協議を行ったと思ったら被相続人に隠し子がいて遺留分減殺請求をされたなど、最初の遺産分割協議が有効に成立したと言えない場合であれば、この遺留分減殺請求によって遺産分割協議をやり直したとしても、相続税の問題しか生じないことになります。
遺留分減殺請求によって取得した財産に相続税がかかる場合には、遺留分減殺請求の時期によって申告方法が異なる場合があります。
相続税の申告には遺産分割協議がまとまらない場合に利用できる「未分割の申告」というものもありますが、遺留分減殺請求によって遺産分割協議が難航しているケースでは、申告期限内に各人の取得財産が決定できない場合であっても、未分割の申告をすることはできないとされています。
もし遺留分減殺請求の途中で申告期限を迎えてしまう場合には、遺言等の内容通りの相続があったものとして各人の相続税申告手続きを済ませ、その後に具体的な取得財産が決定したら修正申告・更正の請求を行う必要があります。
相続税の手続きをせずに期限が過ぎてしまうと無申告加算税が課されてしまいますので、確実に行うことが大切でしょう。
したがって、遺留分の紛争が長引きそうな場合には「相続税の申告手続きを済ませてから訂正手続きを行う」ということを忘れないようにしてくださいね。
遺留分減殺請求の時期や内容 |
手続きの概要 |
備考 |
①相続税の期限内に遺留分減殺請求によって各人の取得する財産が決まった場合 |
通常の相続税申告・納付 |
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②相続税の期限内に遺留分減殺請求がなされ、申告期限までに各人の取得財産が決定できない場合 |
遺言書等の内容に従った財産取得がなされたものとしての相続税の申告・納付 |
各人の取得財産が決定したら修正申告・更正の請求を行う |
③既に相続税の手続きが済んだ後で遺留分減殺請求がなされ、各人の取得財産が変動した場合(申告期限内) |
相続税の訂正申告 |
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④既に相続税の手続きが済んだ後で遺留分減殺請求がなされ、各人の取得財産が変動した場合(申告期限後) |
相続税の修正申告・更正の請求 |
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贈与税は、贈与によって取得した財産に課される税金で、贈与された人(受贈者)が支払うべき税金になります。
ただし、遺言による贈与(遺贈)の場合は相続税がかかるので、主に生前贈与などの際にかかる税金と考えていただくのが良いでしょう。
遺留分減殺請求によって取得した財産と贈与税が問題になるのは、前述のような①既に成立した遺産分割協議や判決内容とは異なる遺産の分配を行った場合と、②遺留分侵害者が相続時精算課税制度を利用していた場合です。
①については前項のとおりですが、②の場合、贈与税が問題になるのは基本的には遺留分を侵害している人になります。
というのも、相続時精算課税制度というのは累計2,500万円までの生前贈与について贈与税がかからなくなる制度ですが(※ただし相続時に生前贈与財産+相続財産に相続税がかかります)、2,500万円を超えた後の贈与は20%の贈与税がかかることになっています。
そのため、相続時精算課税制度を利用している相続人が生前贈与に対して贈与税を支払っていた場合には、遺留分減殺請求によって遺留分権利者に財産を渡して取得財産が減る結果、既に納めた贈与税について更正の請求を行う必要が出てきます。
このことによって払いすぎた贈与税が還付される可能性がありますので、忘れないようにしましょう。
所得税は、個人の所得に課される税金で、簡単に言えば「何らかの要因によって所得(利益)を得た人」が支払うべき税金です。
分かりやすいのは給与所得などですが、遺留分減殺請求によって金銭を取得したり、不動産を売却して利益を得たなどのケースでは、相続税・贈与税のほかに所得税が掛かる場合があります。
相続税を支払っている場合であっても、相続した不動産を売却すれば「譲渡所得税」がかかります。そして、相続した財産について遺留分減殺請求の際に代償分割または価額弁償を選択すると、その内容に応じて譲渡所得税が課されることになります。
具体的には、代償分割(不動産等の現物を取得した相続人が遺留分相当額の財産を金銭で支払うこと)のケースでは「遺留分侵害者」に、価額弁償(贈与または遺贈の目的価額を遺留分権利者に弁済すること)のケースでは「遺留分侵害者」に譲渡所得税および「遺留分権利者」に不動産取得税等が課されます(※詳しくは後述)。
両者の区別が少し難しいかもしれませんので、もしも遺留分の返還が相続財産でなく金銭でなされた場合には、弁護士や税理士等に相談してみることをおすすめします。
遺留分減殺請求で取得した財産にかかる可能性のある税金は以上のとおりですが、ここからは具体的なケースごとにかかる税金を検討していきたいと思います。
遺留分減殺請求をすると、
が考えられます。
このうち、遺留分を考慮した遺産分割がなされるケースでは、判決通りの遺産分割であれば通常の遺産分割と同様に相続税を考慮すれば良いかと思いますが、それ以外のケースでは税金について少し注意が必要です。
ここでは、遺留分減殺請求によって金銭を取得したケースと不動産が絡むケースを例に、特に注意すべき税金をご紹介いたします。
前述のとおり、価額弁償がなされた場合には、遺留分侵害者および遺留分権利者の双方に税金が課されることになります。
価額弁償とは、取得した相続財産の現物を遺留分として返還するのではなく、相続財産の金銭や遺留分侵害者固有の財産から遺留分相当の財産を返還する方法を言います。
例えば不動産を取得した相続人が遺留分権利者に自己の固有の不動産を代わりに渡したり現金で不動産相当額を支払うといったものが典型例になります。
このとき、遺留分を侵害している人が遺留分として自己固有の不動産を渡した場合には、その人に対して「譲渡所得税」が課され、遺留分としてこれを受け取った相続人には「不動産取得税」が課されます。
価額弁償で注意が必要なのが、「遺留分減殺によって価額弁償を行う場合」と「価額弁償の協議がまとまらず一旦共有名義にした後で価額弁償を行う場合」とで課税される税金が変わるということです。
共有名義の不動産について価額弁償をする場合には、贈与税の考え方と同じように「相続」ではなく「贈与・譲渡・交換」によって財産を取得したものと考えられることから、課税関係が複雑になります。
したがって、このような場合には価額弁償を行う前に専門家等へ相談し、どういった方法で遺留分を取得するのがおすすめなのかを判断するのが良いでしょう。
上記に関連しますが、遺留分減殺請求によって相続財産である不動産の取得者が変わった場合には、遺留分侵害者および遺留分権利者双方について、税金を考慮しなければなりません。
具体的な事案によって異なりますが、遺留分侵害者は「譲渡所得税」、遺留分権利者は「不動産取得税」などに注意し、税務署からの納税通知書等に疑問を感じたら専門家へ相談することをおすすめします。
遺留分減殺請求において、和解金や解決金が支払われる場合がありますが、和解金の所得区分などについては事案ごとに判断が分かれる可能性があります。
国税不服審判所の平成27年7月17日非公開裁決の事案は、遺留分減殺請求によって訴訟上の和解が成立し和解金が支払われたところ、相続財産の賃貸マンション賃料収入の一部を受け取ったとして遺留分権利者に不動産所得税が課され、権利者側は相続税の対象である旨を争ったものです。
このケースでは和解金が一時所得であるとして所得税が課されたのですが、判断の際に考慮された事情として受け取った金銭が遺留分率を超えていたという理由もあったものと考えられます。
和解金については、受け取った事情によって非課税所得に該当したり所得税の対象になる場合があったりと判断が難しいので、後々税金で揉めないためには早期に専門家へ相談する姿勢が大切です。
遺留分に関する税金は、遺留分相当の財産を取得した具体的な状況によって大きく変わる可能性があります。税金に関しては税理士が詳しいですが、遺留分を取得した経緯がどういった法律行為にあたるのかについては弁護士等の法律の専門家を交えて確認するのがおすすめです。
遺留分の税金に不安がある場合には、複数の専門家の意見を総合して判断するのが良いでしょう。
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