相続に関する時効の種類|遺産分割手続きを進める際の注意点まとめ

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
相続に関する時効の種類|遺産分割手続きを進める際の注意点まとめ

相続に関する時効は、財産の承継を放棄する相続放棄や、最低限の相続財産の承継を保障する制度である遺留分減殺請求などの期限を定めるものであり、時効期間を過ぎると請求権を失ってしまいます。

相続財産を所有している被相続人が死亡した時点で相続が開始されますが、様々な権利行使に対して規定されている時効の期間を守らないと相続人が思わぬ損をしてしまう可能性があります。

相続に関する時効の種類について今回はまとめてみましたので、最近亡くなった方がいるなど相続人に該当する方はぜひご確認ください。特に相続放棄の時効は相続開始があったことを知った時から3ヵ月と短いため、早めの対応を心掛けるべきです。

相続に関連する時効の種類

相続に関連する時効は分かりやすく言うと『有効期限』であり、個々の権利に対して一定期間経過すると無効になってしまうことを意味します。

相続に関する時効は権利の消滅を意味する(消滅時効)

時効の種類として、一定期間の経過で権利を取得する『取得時効』と、逆に権利を喪失する『消滅時効』の2つに分類されますが、相続に関する時効は消滅時効に該当します。

相続に関する権利の時効一覧

次項以降で詳しく説明しますが、相続に関する権利とその時効については以下表の通りです。相続財産を承継する時だけでなく、負債の多い相続財産を放棄する際にも時効が定められているので注意しておくべきでしょう。

《遺産相続に関する権利》 時効内容
遺産分割請求権
(相続人同士で遺産分割を決める時)
時効なし
相続放棄
(相続を拒否する時)
相続の開始があったことを知ってから3ヵ月
短期間の時効なので要注意
遺留分減殺請求権
(最低限もらえる相続財産を請求する時)
相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ってから1年
または相続開始から10年
相続回復請求権
(不適当な相続人より相続財産を返してもらう時)
相続権の侵害があったことを知ってから5年
または相続開始から20年

遺産分割請求権の時効|時効なし(期間制限がない)

まずは相続の手続きで最も重要になる遺産分割請求権について説明しますが、これは相続人同士で話し合いをする『遺産分割協議』にて相続財産を要求する権利を示します。

遺産分割協議では被相続人の遺言書がない場合において、相続順位や法定相続分を考慮して遺産分割をすることになりますが、相続人間の合意があればどのように分割しても構いません。

参照元:「相続人の優先順位と遺産相続の割合(法定相続分)を決める方法

遺産分割請求はいつでも可能

遺産分割請求権には時効がなく、以下で規定されている条文の通り『いつでも』協議により遺産の分割ができるとされています。

(遺産の分割の協議又は審判等)

第九百七条  共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。

引用元:「民法 第907条

遺産分割協議の進捗が滞る恐れもある

ただし、遺産分割請求に時効がない分、遺産分割協議が長期化する恐れがあります。被相続人の遺言書や法律上で規定されている相続配分(法定相続分)という基準があっても、親の遺産をめぐって兄弟姉妹が争うケースもあるため、遺産分割の条件が簡単に決まらない可能性もあるでしょう。

遺産分割協議が長期化することで考えられるデメリット

時効のない遺産分割請求権により遺産分割協議が長期化することで考えられるデメリットは以下の通りです。遺産分割されるまでは共有財産になるため、管理や売却時にどのような対応をするべきか判断が難しくなるでしょう。なので、時効がないといっても遺産分割協議は極力早めに進めた方が良いと思われます。

●土地などの不動産管理が面倒になる
●特定の相続人が占有する可能性がある
※まれなケースですが、取得時効の援用で相続財産が取得されることもあります。
●遺産分割前に相続人が死亡して手続きがややこしくなる

相続放棄の時効|相続があったことを知ってから3ヵ月以内

上記の遺産分割請求権は相続権が認められている相続人による相続の権利になりますが、逆に相続権を放棄することも相続人に許されています。

相続放棄の目的は被相続人の負債を引き継がないことにある

被相続人が遺した財産はプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産(負債)もある場合があります。仮に数千万円といった多額の借金を背負う状況であれば、被相続人の財産全てを相続しない『相続放棄』の手段を取るのが賢いやり方でしょう。

相続放棄では被相続人の預金や不動産などプラスの財産も放棄することになりますが、プラスの財産よりも負債額が大きいのであれば相続権を放棄した方が適切だと思われます。

相続放棄の期限は短いため注意

ただし、相続放棄の期限はほかの時効と比べて短く、相続の開始があったことを知ってから3ヵ月以内が原則になります。3ヵ月を過ぎると多額の借金を背負う可能性もあるので、相続放棄については早めの手続きをオススメします。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)

第九百十五条  相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

2  相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

引用元:「民法 第915条

相続放棄の手続き方法|家庭裁判所への届出

相続方法の手続きでは、『相続放棄申述書』や被相続人の戸籍謄本などを家庭裁判所へ提出することになります。また、届出をする家庭裁判所については『裁判所の管轄区域』より確認できます。
参照元:「裁判所 相続の放棄の申述

相続放棄では被相続人と相続人との関係を証明するために多くの戸籍を必要とします。また、遺産分割協議前における相続人調査でも戸籍を収集する必要があります。『相続人調査で戸籍を取得する方法』にて詳しく解説しているのでご参考ください。

遺留分減殺請求権の時効|原則1年

遺留分減殺請求権の時効|原則1年

また、遺産分割請求とは別に、法律上で保障されている最低限の相続財産取得の割合である『遺留分』の請求についても時効が定められています。その遺留分の請求を遺留分減殺請求権(げんさいせいきゅうけん)と呼びます。
参照元:「遺留分減殺請求とは

遺留分減殺請求の目的は最低限の相続財産を承継すること

自分が相続人でありながら遺言書に財産を承継する相続人として指定されなかったケースにおいては、最低限の相続の権利を主張する遺留分減殺請求を行うべきでしょう。具体的な遺留分の割合については、以下の通りであり、たとえば配偶者とその子(1人)が相続人になった場合、それぞれに全体の相続財産のうち最低でもそれぞれ1/4の分配が決められています。

該当する相続人 相続人の遺留分 割合
配偶者のみ 配偶者:1/2
配偶者+子 配偶者:1/4  子:1/4
配偶者+父母 配偶者:1/3 父又は母:1/6
配偶者+兄弟姉妹 配偶者:3/8
子のみ 子:1/2
父母のみ 父又は母:1/3
※相続人が父母(第二順位)のみの場合、
全相続財産に対する遺留分の割合は1/3になります。

参照元:「遺留分として獲得できる割合

相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ってから1年または相続開始から10年

遺留分減殺請求の時効は民法第1042条で規定されている通り、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ってから1年、または相続開始から10年だとされています。

(減殺請求権の期間の制限)

第千四十二条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

引用元:「民法 第1042条

時効による請求権の消滅を回避する方法

相続放棄の手続き方法と同様に、時効で消滅する前に遺留分減殺請求権を行使する必要があるでしょう。自分がもらうべき遺留分の相続財産を得た相続人に対し、遺留分減殺請求をした日時が明確になるように配達証明付きの内容証明郵便で通知をすれば、時効で消滅する前に遺留分減殺請求が行われたと客観的に認められます。

基本的には自分が相続人であるにも関わらず遺言書で相続財産を一切得られないことがあった場合には、早めに遺留分減殺請求の通知をしておいた方がよいでしょう。

相続回復請求権の時効|5年または20年

あまりないケースになりますが、『相続回復請求権』の時効についても以下で取り上げます。相続回復請求権は、相続人ではない者へ相続財産が分配された場合の対応策になります。

本物の相続人が偽物の相続人へ返還要求すること

相続人になりすました偽物の相続人が相続財産をもらってしまった場合、真正相続人(本物の相続人)は相続権の侵害があったことを知ってから5年以内、または相続の開始より20年以内において、相続財産を取り戻すことが許されています。

(相続回復請求権)

第八百八十四条  相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

引用元:「民法第884

時効による請求権の消滅を回避する方法

遺留分減殺請求権と同じく、相続回復請求権でも権利を侵害した偽物の相続人に対して、権利を行使することを配達証明付きの内容証明郵便で通知すれば、時効成立前で相続回復請求権が行使されたことを証明できます。

まれな事例なのでそこまで気にする時効でもありませんが、本物の相続人が正しい権利を主張できる制度があることを念のため覚えておきましょう。

相続に関わるそのほかの時効

相続に関連する時効はほかにもあり、税金に関する時効では納税の義務を意味します。これまで説明した権利に関する時効とは異なり、申告期限とは別で規定されている時効が成立した場合、納税義務が消滅することになります。

相続税申告に関する時効|原則5年

相続税の申告期限については被相続人が死亡してから10カ月以内ですが、申告期限を過ぎてから時効が始まります。また、納税の申告をする必要があったことを知らなかった場合(通常の場合)と、納税の義務を認知していたにも関わらず申告しなかった場合(悪意のある相続人の場合)で、以下の通り時効が異なります。

《通常の場合:相続税の時効は5年(+申告期間の10カ月)》

《悪意のある相続人の場合:相続税の時効は7年(+申告期間の10カ月)》

生前贈与に関する時効|原則6年

生前贈与において、年間で基礎控除額(110万円)を超えた場合に贈与税がかかりますが、相続税と同様に申告期限とは別に時効が設定されています。時効の起算日は贈与税の申告期限(翌年の3月15日)になり、以下の通り2通りの時効が考えられます。

《通常の場合:贈与税の時効は6年》

《悪意のある相続人の場合:贈与税の時効は7年》

相続税も贈与税も時効が成立すれば納税しなくても済みますが、申告を怠った場合は追徴課税による厳しい罰則があるため、申告期限までに納税しておくべきです。

不動産の名義変更(相続登記)に関する時効はない

納税とは別に相続財産として不動産を取得した場合、不動産の名義変更(相続登記)をする必要がありますが、名義変更については時効(または期限)が設けられていません。

ただし、不動産を管轄している法務局で相続登記の申請をしないと、不動産の所有が認められず売却などができないため、遺産分割協議の手続きと合わせて名義変更をしておいた方が良いでしょう。

まとめ

遺産相続に関する時効について一通り解説しましたが、相続人が特に気を付けるべき時効は時効期間の短い相続放棄や遺留分減殺請求権になるでしょう。

時効の判断だけでなく遺産分割に関する手続きにおいて分からないことがあったら、早めに弁護士へ相談してみるのが良いと思われます。相続案件に携わっている弁護士であれば、適切な対応策を提案してくれるでしょう。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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