「コロナをうつしてやる!」開き直って外出する男性。故意に感染書を他人へ移す行為は法律で取り締まれる?

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パロス法律事務所
櫻町 直樹
監修記事
「コロナをうつしてやる!」開き直って外出する男性。故意に感染書を他人へ移す行為は法律で取り締まれる?

新型コロナウイルスは全世界で猛威を奮っています。現在明確な治療法が見つかっていないことから、感染者は自宅待機が命じられている状態です。

新型コロナウイルスを故意に移す事案が発生

感染を拡大しないためには致し方ない措置ですが、本人にとっては鬱積が溜まるもの。愛知県蒲郡市では、新型コロナウイルスに感染した男が、自宅待機を命じられているものにもかかわらず、フィリピンパブなどを訪れ、「コロナを移してやる」などと開き直り、従業員の女性に移す事案が発生しました。

男性は結局病状が悪化し死亡していますが、「故意に移した」事実に怒りの声が噴出しています。新型コロナウイルスに限らず、重篤な伝染病を故意に移すという行為を法的に取り締まることはできないのでしょうか?

パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に詳細をお聞きしました。

櫻町弁護士

「感染病に罹患した者が、感染を知りつつ、故意をもって第三者にうつしたという場合には、傷害罪(刑法204条)の成否が問題となります。

なお、死亡する可能性が極めて高い感染病である場合には、(感染による死亡の結果が生じれば)殺人罪(刑法199条)の成否が問題となりますが、例えば新型コロナウイルスの場合、その致死率は、(現時点では)「2.3%」(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き」)と推計されており、感染すれば死亡する可能性が高いとまでは言えない(新型コロナウイルスに感染させることが、死亡という結果を発生させる現実的危険性がある行為とまでは言えない)と思われます。

以下、本稿では傷害罪の成否に絞って論を進めます

まず条文を確認すると、傷害罪は刑法204条で規定されており、「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」となっています。

この「身体を傷害した」という文言について、最高裁判所は「刑法204条の傷害罪は他人の身体に対する暴行に因りて其生活機能の毀損即ち健康状態の不良変更を惹起することに因りて成立する」(大審院明治45年6月20日判決・刑録18輯896頁)、「軽微な傷でも人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上刑法にいわゆる傷害と認むべきである」(最高裁昭和24年12月10日判決・裁判集刑 15号273頁)といったように、「生活機能を毀損すること」あるいは「人の健康状態を不良に変更すること」と解釈しています。

なお、傷害罪にいう「傷害」は、骨折や打撲などの「外傷」に限定されるものではありません。

例えば、「被害者に対し、睡眠薬等を摂取させたことによって、約6時間又は約2時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせ、もって、被害者の健康状態を不良に変更し、その生活機能の障害を惹起したものであるから、いずれの事件についても傷害罪が成立すると解するのが相当」として、意識障害や中毒症状を生じさせたことにつき傷害罪の成立を認めたものがあります

さらに、「傷害罪にいう傷害の結果とは、人の生理的機能を害することをいうものと解するのが相当であるが、人の生理的機能とは、精神機能を含む人の機能のすべてをいうものと解される。(略)現在の精神医学会においてはPTSDという病名は承認されたものと認められる。また、その発症の機序は、十分解明されたとはいえないものの、一般に自律神経の機能障害が指摘されており、さらには脳の一部に生理的な変化を生じて発症に影響を与えることも示唆されている。そうすると、このような医学上承認された精神的・身体的症状を生じさせることは、傷害罪にいう傷害の結果に当たることは明らか」として、PTSDを生じさせたことにつき傷害罪の成立を認めたものがあります(富山地方裁判所平成13年4月19日・判タ1081号 291頁 )。

また、人の健康状態を不良に変更する手段としては、殴る蹴るなどの暴行(有形力の行使)に限定されるものではありません。

病気を治療するためとして被害者(女性)の承諾を得た上で、その陰部に自分の陰茎を押し当てて淋病を感染させたという事例において、最高裁判所は「傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上、その手段が何であるかを問わないのであり、本件のごとく暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立する」、「性病を感染させる懸念あることを認識して本件所為に及び他人に病毒を感染させた以上、当然傷害罪は成立する」(最高裁昭和27年 6月 6日判決・刑集 6巻6号795頁として、傷害罪の成立を認めています。

以上のような傷害罪についての裁判実務を前提とすれば、感染病に罹患した者が、感染を知りつつ、故意をもって第三者にうつしたという場合には、傷害罪にあたるといえるでしょう

ただし、現実の裁判においては、「行為と結果との因果関係を立証できるか」が問題になります。

第三者が感染病に罹患したとしても、感染源はさまざま考えられる以上、「感染病をうつそうとした者」が、「うつしてやろうと思った」などと言っていたとしても、因果関係が立証されたといえる訳ではありません。

(現実には想定し難いですが)感染源は、その「感染病をうつそうとした者」しか考えられないという状況にあれば、行為と結果との因果関係が認められ、傷害罪の成立が認められるということになるでしょう」

犯罪になりうる行為

感染症を「故意に」移す行為は、罪になりうります。絶対に行わないようにしてください

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この記事を監修した弁護士
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櫻町 直樹
英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて」をモットーとし、ご依頼いただいた皆様のお気持ちに寄り添いつつ、問題の解決に全力を尽くす所存です。

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