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KL2020・OD・037
相続人廃除(相続廃除)とは、法定相続人になる予定の人(推定相続人)について著しい非行など一定の事由があった場合に、被相続人の意思に基づいてその人の相続権を剥奪する制度のことをいいます(民法892条)。この廃除の対象者は、被相続人でも侵すことのできない「遺留分」を有する推定相続人に限られます(遺留分の無い相続人(兄弟姉妹)は遺言により一切相続させないことができるからです。)。そして、このような廃除は遺言によっても可能です。(民法893条)。
しかし、相続廃除が認められるハードルは極めて高く、被相続人と相続人との間の信頼関係が著しく破壊されたものと客観的に判断できることが重要で、単なる好き嫌いや一時的な関係悪化での廃除が直ちに認められるとは限りません。しかも、廃除が認められるかどうかは家庭裁判所による厳格な審査を経る必要があります。
今回は、遺留分権利者にのみ適用される相続廃除について、効果や代襲相続との関係をご紹介したいと思います。
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目次
遺留分は、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められた最低限の遺産の取り分のことをいい、被相続人であってもこの遺留分を奪うことは原則としてできないようになっています。まずは、遺留分が誰にどれだけ認められるのかについて、しっかり押さえておきましょう。
遺留分が認められるのは、兄弟姉妹を除く法定相続人、すなわち「配偶者」「子およびその代襲者」「直系尊属」の3者になります。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
(引用元:民法1028条)
民法1028条にあるように、遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められ、直系尊属だけが相続人の場合は遺産の1/3、それ以外の場合は遺産の1/2が遺留分にあたり、この部分については被相続人であっても自由に処分できないとされています。要は、相続人に遺留分権利者が含まれる場合には、遺留分に相当する遺産については遺留分権利者が取得する権利を持っているため、遺贈などによって処分しても後から取り戻されてしまうということになります。
遺留分権利者全員の遺留分の合計が遺産の1/2ないし1/3になるわけですが、個々の遺留分権利者の遺留分割合は以下のようになっています。
参照元:法定相続分と遺留分の早見表
相続人の組み合わせ |
法定相続分 |
遺留分 |
|
配偶者 |
100% |
相続財産の1/2 |
|
配偶者+子 |
配偶者 |
1/2 |
相続財産の1/2×1/2 |
子 |
1/2÷人数 |
相続財産の1/2×1/2÷人数 |
|
子のみ |
100%÷人数 |
相続財産の1/2÷人数 |
|
配偶者+直系尊属 |
配偶者 |
2/3 |
相続財産の1/2×2/3 |
直系尊属 |
1/3÷人数 |
相続財産の1/2×1/3÷人数 |
|
直系尊属のみ |
100%÷人数 |
相続財産の1/3÷人数 |
|
配偶者+兄弟姉妹 |
配偶者 |
3/4 |
相続財産の1/2 |
兄弟姉妹 |
1/4÷人数 |
なし |
|
兄弟姉妹のみ |
100%÷人数 |
なし |
遺留分が認められない人は、「被相続人の兄弟姉妹およびその代襲者である甥姪」、「相続において相続権を持たない人」の2者が考えられます。
民法1028条にあるように、兄弟姉妹は遺留分権がありません。そして、兄弟姉妹の代襲者である甥姪についても、被代襲者が元々有していなかった遺留分権を取得することはありませんので、この場合も遺留分権は認められないことになります。
相続欠格や相続廃除によって相続権を失った本人や、相続放棄を済ませた相続人については、その相続において初めから相続権を持たなかったものとして扱われる結果、遺留分権もありません。ただし、相続欠格・相続廃除によって代襲相続が発生した場合、代襲者については本来被代襲者が有していた遺留分が認められる場合もあります(相続放棄の場合は代襲相続が起こらないため、遺留分の問題になりません)。
もっとも、被代襲者が相続権を失う前に遺留分を放棄していた場合などは、被代襲者自身には最初から遺留分権がないことになりますから、代襲者も遺留分を承継できない点に注意が必要です。また、被相続人の生前または死後に遺留分の放棄を行った相続人および代襲者についても、自己の意思に基づき遺留分の権利を手放したことから、遺留分が認められることはありません。
相続廃除が遺留分の認められる相続人にだけ使えるのは、遺留分が被相続人の財産処分の自由を制約する側面を有することに起因します。というのも、遺留分がない相続人であれば、被相続人が遺言をもって他の人に財産を譲ることに異議を唱えたり、邪魔をすることができないからです。
だからこそ相続廃除の判断は慎重になされ、被相続人が勝手気ままに廃除できないよう家庭裁判所の審査が及ぶ結果、実務上は直ちに廃除の手続きをする以外にも、ある程度の生前贈与を行う代わりに遺留分放棄を勧めるといった方法が採られることがあります。
相続廃除と同じように、相続欠格に該当する相続人は、当然に相続権を剥奪されることになります。相続欠格は、被相続人や相続人への生命侵害行為や被相続人の遺言への妨害・干渉をした相続人について、何らの手続きを要せずに相続権を喪失させる制度なので、相続権がなくなると同時に遺留分権もなくなることになります。
相続欠格の場合も、代襲相続によって欠格者の子が被相続人を相続することがありますが、その際には欠格者が有していた遺留分権も承継することになります。ただし、繰り返し述べているように欠格者自身が遺留分権を有しない兄弟姉妹の立場だった場合には、代襲者である甥姪が遺留分権を獲得することはありません。
代襲相続が起こると、被代襲者が遺留分権を有していれば代襲者も遺留分権をそのまま引き継ぐことができます。ただし、代襲者が複数人いる場合には、全員で被代襲者の遺留分権を等分して承継することになるため、1人あたりの遺留分は少なくなるという点に注意が必要です。
例えば被相続人の息子Aが廃除され、その子であるBとCが代襲相続をするケースで考えてみましょう。このとき、共同相続人には被相続人の配偶者Dがいるとして、被相続人は全財産を愛人Eに譲ると遺言していたならば、DとA(=B・C)の遺留分は遺産の1/2になり、各1/4ずつをEに請求できることになります。
BとCは1/4の遺留分権を等分して1/8ずつ承継するので、個々の取り分としてはDよりも少ないことが分かります。その意味で、代襲者が多ければ多いほど、個々の代襲者が取得できる遺留分額は小さくなると言うことができます。
以上が相続人を廃除することと遺留分との関係になりますが、ここからは具体的な手続き面を確認していきたいと思います。
相続人の廃除は、生前は被相続人の申立により、死後は遺言にその旨を記載することにより、家庭裁判所の審判を求めることができるようになっています。そこで、それぞれの手続方法の違いと注意点を整理してみましょう。
民法892条および家事事件手続法188条に基づき、被相続人が生きている間に相続人を廃除する際には、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に「推定相続人の廃除の審判」を申し立てることになります。
その際に必要な書類は「家事審判申立書」と「被相続人本人と廃除を希望する推定相続人の戸籍全部事項証明書」で、手数料は廃除を希望する推定相続人1人あたり800円分の収入印紙+郵送用の切手代になります。
申立書は家庭裁判所が準備している書式を利用し、申立ての理由についてはどういった事情で廃除を希望するのかを論理的に記載します。廃除が認められるのは、推定相続人が「被相続人に対する虐待や重大な侮辱を加えた」ケースと「推定相続人に著しい非行があった」ケースとされていますから、申立て理由をいかに説得的に書けるかがポイントになります。したがって、手続きを自分で行う場合であっても、申立書の内容については弁護士等の専門家の意見を取り入れた方が、廃除が認められる可能性が上がるかと思います。
なお、廃除の審判が確定した場合には、被相続人が自分の戸籍のある市区町村役場に審判書を添付した廃除の届出を行わなければなりません。これをしないと推定相続人の戸籍に廃除された旨が記載されませんから、相続時の手続きが混乱する可能性があるので、忘れずに手続きをしておきましょう。
被相続人が遺言によって推定相続人を廃除することもできますが、遺言による廃除の場合は被相続人自身が審判を申し立てることができませんので、遺言執行者が代わりにこれを申し立てることになります。そのため、遺言による廃除をしたい場合には、遺言執行者についても指定を行っておくのが現実的です。
遺言による廃除は、被相続人の最後の住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所に申し立てることになり、その際には前記の必要書類のほか被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などが追加で必要になりますので、申立ての際には改めて書類の確認を行いましょう。
遺言による廃除の場合も、戸籍への記載は自動的に行われませんので、次の相続の際などのトラブルを防止する意味でもきちんと市区町村役場へ届出を行うようにするのが大切です。
廃除の申立ては被相続人の意思によって行うことができるので、状況が変わって被相続人の意思が変わった場合には、廃除の取消しを請求することもできます。
(推定相続人の廃除の取消し)
第八百九十四条 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
(引用元:民法894条)
廃除を取り消す際には、家庭裁判所に「廃除の審判の取消し」の審判を申し立てます。基本的には生前・遺言どちらの場合でも前項の審判手続きと同じ流れになりますが、廃除の取消しができるのは被相続人(遺言による廃除の取消しは遺言執行者)だけになるため、廃除された相続人が廃除の取消しを求めることはできません。
ただし、廃除された推定相続人については、廃除の審判がなされた際に「即時抗告」をして異議を唱えることができますので(家事事件手続法188条5項1号)、廃除に納得が行かない場合は速やかに弁護士等に相談し、即時抗告を検討しましょう。即時抗告は審判の結果が出てから2週間以内に高等裁判所へ申立てを行わなければならないうえ、申立書で法律的・論理的な主張をする必要がありますから、法律の専門家の意見を聞いてから手続きを始めることが大切です。
廃除された相続人は、その相続において相続権を有しなかったものとして扱われ、相続内容に口を出したり、一切の権利義務を承継することはできなくなります。ただし、代襲相続が発生する場合には、その人が失った相続権がそっくりそのまま代襲者である子に承継されることになります。
廃除された相続人は被相続人との関係では相続人から外れることになりますが、その後の相続についてはどうなるのかについても見ていきたいと思います。
相続人の廃除が認められるとその旨が戸籍に記載されることになりますが、具体的には廃除された相続人の身分事項欄に「推定相続人廃除」という情報が記載され、廃除が認められた日や誰の相続から廃除されているかがひと目で分かるようになっています。
相続廃除の効果は相対的で、あくまで廃除を行った被相続人との関係で相続権を失うにすぎません。例えば父の相続で息子が廃除されたとしても、母の相続で同じように廃除されているとは限らないわけです。
そのため、以前の相続で同順位の相続人の中に廃除された人がいた場合などは特に、次の相続において戸籍を読み解く際に充分な注意が必要になり、廃除の記載のある部分については「被相続人が誰なのか」をよく確認することが求められます。
もし以前の相続で廃除されていた相続人について、次の相続で廃除されていないのにも関わらず遺産分割協議などから除外してしまうと、相続自体をやり直さなければならないといった事態が発生する可能性がありますから、相続人を確定する際には戸籍の内容を念入りに読み込み、注意を払っていただければ良いかと思います。
相続廃除は推定相続人の相続権を奪う強力な効果を持ちますが、代わりに代襲相続が発生する余地がありますので、廃除された推定相続人の有していた遺留分が代襲相続人に承継される可能性があります。そのため、廃除された相続人の代襲相続人になった場合には、遺留分があるのかどうかも確認し、遺産分割協議に関わっていくことが大切かと思います。
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