マタハラ・パタハラの裁判事例と事例からみる対策まとめ

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
マタハラ・パタハラの裁判事例と事例からみる対策まとめ

マタハラは、働くすべての女性に起こり得るハラスメントです。

マタハラは、平成29年に通称「育介法」が改正されたことで、今さらに注目されています。今回は、マタハラやパタハラの裁判事例を通し、マタハラの対策や法律についてご紹介します。

マタハラの相談は増加傾向

マタハラの相談件数は過去3年で約1.2倍になっており、今度も増加することが予想されます。マタハラは、女性の妊娠・出産・子育てなどのライフイベントをきっかけとしたハラスメントで違法性の高いものです。

そもそも「マタハラ」とは

マタハラ(マタニティー・ハラスメント)とは、一般的には妊娠・出産・子育てなどの女性のライフイベントをきっかけに職場内で精神的・肉体的な嫌がらせ、解雇・雇い止めなどの不当な扱いを受けることです。

マタハラは労働基準法や男女雇用機会均等法などに違反する行為です。
【関連記事】マタハラとは|マタハラに遭った時に知っておくべき7つのこと

マタハラの相談件数

マタハラの相談件数は年々増加しています。

マタハラという言葉の認知度が高まってきたことや、マタハラ自体の違法性が高いことかが要因と考えられます。厚生労働省が調査した都道府県労働局雇用均等室でのマタハラの相談件数の推移を以下にまとめました。

マタハラの相談件数

参照元:平成27年度 都道府県労働局雇用均等室での法施行状況

なお、この中にはセクハラとしてのマタハラは含まれていません。「おっぱいが大きくなったね」、「腹ぼて(お腹が大きい)」などの性的発言はセクハラとして相談されるケースもあります。

2つのマタハラのタイプ

マタハラには「制度等の利用への嫌がらせ型マタハラ」「状態への嫌がらせ型マタハラ」の2種類があります。

種類 内容 具体例
制度等の利用への嫌がらせ型マタハラ 女性が妊娠・出産の際に利用するさまざまな制度に対して、制度を利用させないような言動をしたり、制度を利用したことをきっかけに嫌がらせをしたりする 「育休を取得するなら辞めてもらう」「自分だけ定時で帰るのが迷惑だってわからないのか」等
状態への嫌がらせ型マタハラ 妊娠・出産をしたことや体調などによって労働能率が低下したこと、就業制限や業務の変更を受けたことなどの状態に関して嫌がらせ等をする 「つわりぐらいで休むなら会社をやめろ」「(同僚から)あなたが妊娠したせいで私たちの仕事が増えた」等

なお、上記の表にある発言や嫌がらせを男性に行うとパタハラになります。パタハラについては後の項目に詳しく記載してあります。

マタハラの裁判事例と対策

まだまだ認知度は高いとは言えないマタハラですが、すでに裁判事例も出ていますので、いくつか紹介したいと思います。

不当降格のマタハラ事例

事例<広島中央保健生活協同組合事件>

広島県内の病院に勤務していた理学療法士の女性が、妊娠中に負担の少ない業務に変更を希望したところ、降格させられた。その後、女性が育児休業から復した際に以前の役職に復帰することはなかった。

女性はこれをマタハラによる不当な扱いとして、勤めていた病院に降格の無効と損害賠償を請求した。

判決

女性の降格が、妊娠・出産を契機(きっかけ)としたマタハラであると判断されたため、降格は無効となった。また、損害賠償請求もおおむね認められた。
参照元:広島中央保健生活協同組合事件

不当解雇のマタハラ事例

事例<日欧産業協力センター事件>

有期雇用の女性社員が第三子出産後に、出産休業を取得後、都合により育児休暇を申請。企業は女性社員に対し育児休業の拒否と雇用の終了を言い渡した。女性社員は、企業に対して、雇用終了の無効と損害賠償請求を行なった。

判決

育児休業を拒否したことは違法。また育児休業を契機(きっかけ)とした雇用終了も違法であるため、無効となった。損害賠償としての慰謝料請求は、理由がないと判断されたため棄却された。
参照元:清文社|日欧産業協力センター事件

見た目のマタハラ事例(セクハラ)

事例<Xファイナンス事件>

割賦販売等を行なっている会社に勤務していた女性社員が妊娠中に、男性上司に「腹ぼて」、「胸が大きくなった」等の発言を受けた。女性社員は男性上司にけん責処分を求めた。

判決

男性上司の発言は性的嫌がらせであるセクハラに当たるとして、男性上司に対して始末書や減給の対象となるけん責処分を行なった。
参照元:Xファイナンス事件

事例からみるマタハラの対策

妊娠や出産に関する制度を確認する

平成29年1月1日に改正された育児介護休業法には出産休業や育児休業、子供の看護休業について定めています。厚生労働省では、育児介護休業法ガイドブックを配布しています。妊娠がわかったら、企業に報告する前に制度について確認しておきましょう

企業の就業規則を確認する

企業は出産休暇や育児休暇について就業規則などで定めなければなりません。また、定期検診などの通院を無給として処理するのかなどは企業の規則によって変動します。まず、所属している企業での妊娠・出産・子育てに対する考えを理解しておきましょう。

歩みよる姿勢を見せる

マタハラ(パタハラ)にあう前に、結婚をした際にきちんと周知しておくなど職場の人間関係をしっかりと構築していきましょう。出産休業や育児休業などの制度は、制度を利用しない方に支えられて成り立っているということを忘れないようにしましょう。

パタハラの裁判事例と対策

パタハラ(パタニティー・ハラスメント)とは、男性社員が育児休業や子供の看護休業を取得することを妨害、または、育児休業や子供の看護休業の取得きっかけに嫌がらせを行うことです。

近年では育児に積極的に参加する「イクメン」が注目される中で、未だ「そんなことは奥さんにやらせればいい」という考えの上司や同僚がいるためパタハラは深刻な問題になっています。パタハラの主な例は以下の通りです。

  • 育休を取得したら上司から「昇進はないと思え」と言われた
  • 育休から復帰した後同僚などにから嫌がらせを受けるようになった

実際に起こった具体的な事例は次の項目にあります。

育児休業のパタハラ裁判事例

事例<医療法人稲門会事件>

男性看護師が3ヶ月以上の育児休業を取得し、復職したところ翌年度より「就業規則によって職能給(職務手当)を昇給させない」、「人事評価の対象外であるとして昇格試験を受けさせない」という扱いを受けた。これにより男性看護師は慰謝料請求を行なった。

判決

育児休暇を取得したことが人事評価の対象外になるのは違法。また、就業規則も業務上の合理性を欠いているとして、無効とした。慰謝料の請求は、請求額一部が認められた。
参照元:全国労働基準関係団体連合|医療法人稲門会事件

事例からみるパタハラの対策

育児休業や看護休業の取得を契機とした配置転換などは違法

育児休業の申請を受けたら企業は特別な事情がない限りは断ることができません。また、育児休業や看護休業の取得を契機(きっかけ)とした配置転換などが違法であることは男性も女性も同じです。

パタハラこそ弁護士に相談

パタハラはマタハラと比べて認知度が低いため、パタハラ被害者には泣き寝入りをしてしまう方が多いです。育児休業をとらせなかったり、育児休業や看護休業を申請したことにより降格などの不当な扱いを受けたりすることは違法行為です。

育児休業や看護休業の取得を契機(きっかけ)とした不当な扱いは、訴えることで降格を無効にできる可能があります。「男だから仕方ない」と諦めずに、深刻なパタハラは弁護士に相談することを考えてください。

マタハラ(パタハラ)は違法性が高い

先の項目でもお伝えしていますが、マタハラ(パタハラ)は「労働基準法」、「男女雇用機会均等法」、「育児・介護休業法」等さまざまな法律に違反する行為です。

マタハラ(パタハラ)の違法性

労働基準法からみたマタハラ

労働基準法では、女性労働者の扱いについて以下のように定めています。

第二条  この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあつては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする。
 2  事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本的理念に従つて、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない。
 引用元:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

マタハラは、母性の尊重を妨げていることになりますので違法です。

育児介護休業法から見たマタハラ(パタハラ)

平成29年1月1日に改正された育児介護休業法では、育児休業を受けた際に企業は特別な事情がない限りは拒むことができないとしています。

第 6 条  事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。
 引用元:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

上記の法律は、男性であっても同じように権利があるので男性の育休取得を妨害するパタハラは育児介護休業法の違反にあたります。また、各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)はパタハラの相談も受け付けています。

マタハラ(パタハラ)防止措置しない企業は違法

男女雇用均等法では、企業にマタハラ防止措置を取るよう定めています。

第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
 引用元:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

また、厚生労働省では企業にマタハラ(パタハラ)の相談窓口を設置するよう義務付けています。もしも、企業がマタハラ(パタハラ)の防止措置を怠った場合は、企業にも責任があるとして損害賠償を求められることがあります。
参照元:厚生労働省|妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置の内容について

「パパ・ママ育休プラス」を利用する

「パパ・ママ育休プラス」とは、厚生労働省が男性の育児休業の取得促進を目的として定められた、育児休業等の特例です。両親が共に育児休業を取得する場合、子供が1歳2ヶ月なるまでの期間に最大1年間育児休業をすることができるという特例です。

パパ・ママ育休プラスの取得例は以下の図の通りです。

秋田労働局|改正育児・介護休業法のポイント

引用元:秋田労働局|改正育児・介護休業法のポイント

マタハラ(パタハラ)にあったら必ず相談する

マタハラ(パタハラ)にあったら必ず相談するようにしてください。マタハラ(パタハラ)は企業にも防止措置を行う義務があります。また、マタハラ(パタハラ)などのハラスメント問題の解決には、周りの人を巻き込むことが必要です。マタハラ(パタハラ)は、一人で悩まず、必ず相談するようにしてください。

社内の相談窓口

多くの企業ではコンプライアンスやハラスメントの相談窓口を設置しています。もし相談窓口などが明確に設置されていない場合は人事労務課などの担当者に相談することも可能です。マタハラ(パタハラ)問題は、企業にハラスメントの事実を報告することも兼ねて相談するようにしてください。

社外の相談窓口

社内の相談窓口で取り合ってもらえない、不当に解雇されてしまったなどの場合は公的機関に相談することも可能です。厚生労働省が運営している「女性にやさしい職場づくりナビ」では主にマタハラの相談窓口の案内を行なっています。パタハラも同じ等に、各都道府県の労働局が設置している雇用環境・均等部(室)で匿名相談を受け付けています

弁護士に相談する

マタハラ(パタハラ)による降格・解雇・不当な配置転換に悩んでいる方は弁護士に相談することをお勧めします。上記の項目でも、降格・解雇・不当な配置転換などを無効とした裁判事例をお伝えしましたが、マタハラ(パタハラ)による降格・解雇・不当な配置転換は違法性が高く、訴訟によって無効にできる可能性があります

マタハラ(パタハラ)による降格・解雇は訴えることができる

マタハラ(パタハラ)などで、出産・育児・子育てをきっかけとした降格・解雇・雇い止めや不都合な配置転換は違法です。マタハラ(パタハラ)で受けた違法行為は訴えることができます。マタハラ(パタハラ)を理由に訴える際には弁護士にご相談ください。

まとめ

マタハラ・パタハラ問題はいつ誰が巻き込まれてもおかしくない問題です。マタハラやパタハラで悩まれている方は、一人で抱え込まず、周囲に相談して解決の方法を考えていきましょう。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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