自転車事故の慰謝料|加害者・被害者双方からみた慰謝料の注意点

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弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
自転車事故の慰謝料|加害者・被害者双方からみた慰謝料の注意点

自転車は、多くの方が免許を必要とすることなく乗ることが出来、誰もが運転することが出来る便利なものです。

自転車の運転速度は車に比べて遅いイメージがあるため、自転車事故による慰謝料は高額になるとは考えない方もいらっしゃるかもしれませんが、平成25年7月4日の判例では慰謝料として3,100万円の支払いを命じる判決が下されました。

自転車事故の2016年の全国での発生件数は9万836件となっており、その内の死亡事故は509件となっています。

参照元:警視庁

また、高額な慰謝料の支払いを未然に防ぐ目的のために、兵庫県や大阪府に次いで、2017年10月1日より、名古屋市や鹿児島県で自転車の利用者に対しての保険の加入を義務づける条例が施行されました。

自転車の利用者に対し、事故に備えた保険への加入を義務づける条例が10月1日、名古屋市と鹿児島県で施行され、制度の運用が始まる。自転車側に高額の賠償を命じる判決が相次ぐ中、「加害者」の資力不足で「被害者」が救済されない事態を避けるのが狙い。義務化は全国の自治体に広がり始めている。

参照元:毎日新聞|銀輪禍救済へ義務化スタート 名古屋、鹿児島

今回は自転車事故の慰謝料の算定の方法と、増額する手順、また加害者になり高額な慰謝料の支払いを未然に防げるようにする方法について記載します。

慰謝料と損害賠償金の違い

まず慰謝料と損害賠償金の違いについて明確にしておきましょう。インターネットサイトを見ていると、損害賠償金と慰謝料を混同している方が多く見受けられます。

損害賠償金とは、被害者が受けた損害を加害者が賠償するための金額であり、「治療費用等+介護費用等+休業損害・逸失利益+慰謝料」によって算定されます。

つまり慰謝料とは損害賠償の内の一項目であると言えます。

さて、では慰謝料とは何でしょうか。

慰謝料とは「被害者が受けた精神的損害」に対する賠償金です。自転車事故の影響により受傷をしたり、場合によっては被害者が亡くなってしまったりしますが、その際の被害者もしくは残された遺族の不便さや精神的な苦痛に対して損害賠償として慰謝料を支払います。

自転車事故で請求できる慰謝料の種類

自転車事故で請求できる慰謝料の種類

自転車事故の場合に請求できる慰謝料には「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類があります。

また、慰謝料は精神的な苦痛に対する損害賠償であり、苦痛の程度は被害者によって同一ではないため、四輪車と人の交通事故の場合などは、慰謝料の基準として「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」といった3つの基準があります。

ただし自転車に関しては自賠責保険の適用はありませんし、任意保険の加入に関してもいまだに一般的に広まっているとは言えませんので、ここでの慰謝料額の説明は、「弁護士基準」で解説を行いたいと思います。

弁護士基準とは、過去の判例を基にした慰謝料の基準のことを言います。それでは以下で自転車事故の際に請求できる慰謝料を確認してみましょう。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、自転車事故の被害者が受傷を負い、病院に通院や入院を行った場合に請求することが出来る慰謝料のことです。入通院慰謝料は入通院の日数や期間を基に算定されます。自転車事故の際の入通院慰謝料は以下の表の通りです。

表:弁護士基準による入通院慰謝料の表(単位:万円)

 

入院

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

通院

 

53万円

101万円

145万円

184万円

217万円

244万円

266万円

284万円

297万円

1月

28万円

77万円

122万円

162万円

199万円

228万円

252万円

274万円

191万円

303万円

2月

52万円

98万円

139万円

177万円

210万円

236万円

260万円

281万円

297万円

308万円

3月

73万円

115万円

154万円

188万円

218万円

244万円

267万円

287万円

302万円

312万円

4月

90万円

130万円

165万円

196万円

226万円

251万円

273万円

292万円

306万円

316万円

5月

105万円

141万円

173万円

204万円

233万円

257万円

278万円

296万円

310万円

320万円

6月

116万円

149万円

181万円

211万円

239万円

262万円

282万円

300万円

314万円

322万円

7月

124万円

157万円

188万円

217万円

244万円

266万円

286万円

304万円

316万円

324万円

8月

139万円

170万円

199万円

226万円

252万円

252万円

274万円

292万円

308万円

320万円

9月

139万円

170万円

199万円

226万円

252万円

274万円

292万円

308万円

320万円

328万円

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、自転車事故の被害者が病院にて適切に治療を受けたにもかかわらず、症状固定(治療による受傷の回復がそれ以上みられないこと)となり、身体に機能障害が神経障害が残った際に、その精神的苦痛に対して支払われる損賠賠償のことをいいます。

症状固定後の機能障害や神経障害は、単に後遺症といいます。後遺障害慰謝料を請求するには、症状固定後残った後遺症が後遺障害であると、申請をして認定を受けなければなりません。

後遺障害の認定に関しては「後遺障害認定の申請方法と被害者請求で有利な審査結果を得る方法」を参考にしてください。

また後遺障害はその症状により、最も重い第1級から最も軽い14級まで等級が決まっています。

そして後遺障害慰謝料は認定された等級により請求できる慰謝料額が変わります。

また例えば長期通院を行い、その後に後遺障害と認定された場合には、後遺障害慰謝料と入通院慰謝料は別で請求することができます。

等級別の後遺障害慰謝料は以下の通りです。

表:等級別後遺障害慰謝料

等級

弁護士基準

第1級

2,800万円

第2級

2,370万円

第3級

1,990万円

第4級

1,670万円

第5級

1,400万円

第6級

1,180万円

第7級

1,000万円

第8級

830万円

第9級

690万円

第10級

550万円

第11級

420万円

第12級

290万円

第13級

180万円

第14級

110万円

死亡慰謝料

自転車事故の被害者が亡くなってしまった場合、残された遺族に対して慰謝料が支払われることになります。

この慰謝料は亡くなった被害者本人の慰謝料と遺族との慰謝料とに分かれていますが、その合計を加害者が遺族に対して支払うことになります。

死亡慰謝料は亡くなった被害者の家族の中での立場によって変わり、以下の表の通りとなります。

表:死亡慰謝料一覧

被害者本人の立場

弁護士基準

一家の支柱

2,800万円程度

配偶者・母親

2,500万円程度

上記以外
 

2,000万円〜
2,500万円程度

自転車事故での慰謝料請求を行う場合の注意点

自転車事故は自動車事故と違い、注意しなければならない点が多くあります。

ここでは自転車事故特有の慰謝料請求における注意点について記載しておきますので、参考にしてください。

自賠責保険に加入していない

車やバイクの運転者であれば、「自賠責保険」への加入が義務付けられており、もし加入していない場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金などの刑事処分、また違反点数6点の行政処分が下されます。

自賠責保険は事故の被害者保護を目的としており、事故の被害者に対して最低限度の補償を行うことを目的としています。

ここで注意していただきたいのが、自転車においては自賠責保険自体がありません。もし自転車事故が発生し被害者に対して補償する必要がある場合には、加害者は任意保険に加入していない場合は全て自費で支払わなければならなくなります。

任意保険に加入していない場合は慰謝料請求先が加害者個人になる

自賠責保険がない上に、自転車においては任意保険に加入していない可能性もあります。前述の通り、条例での加入が義務づけられた県や市があるとはいえ、いまだ自転車に関する任意保険への加入は一般的ではありません。

さらに条例に関しても罰則は設けられておらず、実質的には義務ではなく加入を推奨する程度にとどまっているのが現状です。

そのため加害者が任意保険に加入していない場合には事故の加害者個人に請求するしか方法はありません。自動車事故の場合であれば、任意保険に加入していれば支払いは保険会社が行ってくれます。

しかし自転車事故の場合であっても相手が後遺障害を負ったり、死亡してしまった場合には数千万円程度の補償を求められることもあり、この場合個人での支払いは困難な場合が多いです。

【関連するQ&A】交通事故の加害者が無保険で自己破産。損害賠償を求めることは可能か

後遺障害の認定をしてくれる機関がない

後遺障害は申請をして認定を行わなければなりせん。自動車事故であれば後遺障害の認定は、損害保険料率算出機構の自賠責調査事務所が行ってくれます。

しかし自転車に関しては自賠責保険が存在しないため、後遺障害として認定してくれる第三者の機関がありません。

そのため、本来であるならば後遺障害であると認定される程度である症状が体に残ったとしても、後遺障害として認定されない可能性があります。

損害賠償の算定が困難である

自動車事故の場合であれば、加害者の任意保険会社が過失割合についても独自に算定して提案してくれます。

しかし、自転車事故で加害者が保険に加入していない場合、過失割合の算定を被害者と加害者の当事者で行わなければなりません。

また仮に示談を行うという際にも法律や、示談金の算定方法に熟知していなければ互いの落としどころを見つけることが非常に困難になってしまいます。

過失割合の算定が困難である

事故においては過失割合を算定することが必要になります。事故において加害者に100%過失があるということも可能性としてはありますが、ほとんどの場合、加害者、被害者双方に過失があります。

そして過失の割合に応じて損害賠償額が減額されることになります。

自動車事故であれば、過去の判例に基づいて事故状況に応じた過失割合の算定は比較的容易です。

しかし、自転車事故においては先例が少ない場合が多いので、過失割合を算定することは専門家でも難しい場合があります。

ましてや法律の専門知識のない人同士の場合であれば、さらに困難となってしまいます。

自転車事故での慰謝料を高額にする方法

自転車事故での慰謝料を高額にする方法

自転車事故の被害者になってしまった場合、損害賠償金は被害者の事故後の生活の安心安定のために必要不可欠なものとなります。

そのため被害者になってしまった場合、できるだけ多くの賠償金を請求したいと考えるのはごく当然のことです。

ここでは賠償金を増額するための方法を紹介します。

示談を弁護士に依頼する

自転車事故に関しては保険に加入していないため基本的には当事者間で示談交渉を行わなければなりませんが、法律や過去の判例などの知識がない場合には、当事者間での示談交渉は非常に困難となります。

弁護士に交渉をしておけば過去の判例などから適切な賠償金を示談にて交渉を行ってくれます。

また判例などから適切な過失割合を算定してくれる可能性が高いです。

訴訟を行う

自転車事故の問題点は後遺障害を認定してくれる機関が無いことですが、訴訟となった際には、被害者の通院状況や被害状況を確認した上で裁判所が後遺障害の認定を行ってくれます。

また交通事故の場合、自賠責調査事務所での後遺障害の認定は原則書類のみとなっています。

しかし裁判所においての後遺障害の認定は、自賠責調査事務所のように限られた資料の書面審査ではなく、より豊富な資料に基づいて認定を行います。

そのため交通事故に精通した弁護士が立証を行うことにより、より適切に後遺障害の認定を受けられる可能性が高まります。

後遺障害として認定されると、入通院慰謝料の他に後遺障害慰謝料を請求できるほか、逸失利益も請求できるため、慰謝料のみならず損害賠償額全体の増額を見込めます。

自転車事故の過去の判例一覧

ここでは、過去の高額となった自転車事故の損害賠償額を一例として記載しておきます。

自転車事故は軽く見られがちですが、被害者の状態によっては自動車事故と同様に高額な損害賠償を支払わなければならない点に注意が必要です。

裁判所・判決日

損害賠償額

詳細

神戸地裁(平成25年7月4日)

事件番号:平23(ワ)2572号

9,521万円

男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、植物状態となって意識が戻らない状態になる。

東京地裁(平成20年6月5日)

事件番号:平19(ワ)466号

9,266万円

男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った。

東京地裁(平成19年4月11日)

事件番号:平18(ワ)18455号

5,438万円

男性が昼間、信号無視をして高速度で交差点に進入。青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突。頭蓋内損傷で11日後に死亡を確認。

高額な慰謝料支払いを防ぐためにおすすめの任意保険

加害者側として高額な慰謝料の支払いを防ぐには、任意保険への加入が必要不可欠です。ここではおすすめの任意保険を記載しておきます。

au損保「自転車向け保険Bycle」

加害者となってしまった場合の補償額は3億円までとなっており、高額な損害賠償に対してもカバーできるところが魅力です。

また事故だけに限らずパンクや自転車の故障などのトラブルの際にも24時間365日スタッフが駆けつけてくれるサービスも付いてきます。

保険料

600円/月

個人賠償保障

3億円

示談代行

あり

自分が怪我した際の補償

●入院日額…12,000円

●通院日額…2,000円

自転車の故障

ロードサービスあり

参照元:自転車向け保険Bycle

DeNAトラベル「自転車の責任」

個人賠償保障の保険金は1億円となっており、加入者の家族に対しても適用することができます。

個人賠償補償が1億円以上ついているにもかかわらずリーズナブルな保険料となっていることも魅力的です。

保険料

300円/月

個人賠償保障

1億円

示談代行

あり

自分が怪我した際の補償

●入院日額…1,500円

●通院日額…0円

自転車の故障

ロードサービスなし

参照元:自転車の責任保険

ちゃりぽ「自転車安心保険」

ちゃりぽでは個人補償1億円で示談代行が付き、さらに自身がケガをした際の入院通院に関しての補償もカバーしています。

さらに、自転車盗難に関しても補償があることが特徴です。

保険料

394円/月

個人賠償保障

1億円

示談代行

あり

自分が怪我した際の補償

●入院日額…6,000円

●通院日額…1,000円

自転車の故障

ロードサービスなし

参照元:自転車安心保険

まとめ

自転車の事故は自動車事故と同じで、被害者の受傷状態によっては、加害者が行わなければならない損害賠償額が高額になることが理解していただけましたでしょうか。

また、加害者が保険に加入していない場合も多く、示談交渉が難航する可能性も大いにあります。

自転車を運転する際にも安全運転を心掛け、さらに任意保険に加入するようにして下さい。

数十万~数百万の弁護士費用、用意できますか?

決して安くない弁護士費用。いざという時に備えてベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。

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KL2020・OD・037

この記事を監修した弁護士
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。第二東京弁護士会所属。

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