医療過誤を起こした薬剤師が知るべき調剤ミスや調剤過誤の責任と対処法

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
医療過誤を起こした薬剤師が知るべき調剤ミスや調剤過誤の責任と対処法

医療過誤は人為的ミスによって患者に健康被害を与えてしまうことを言いますが、薬剤師が人為的ミスによって事故を起こした場合は、医療過誤ではなく調剤過誤と呼びます

ちなみに、薬剤師の業務とは、販売や授与を目的に薬を調剤して患者に出すことで、このことは、薬剤師法第19条にも定められています。逆に、薬剤師以外の者が薬を調剤して患者に渡すことは禁止されており、違反した場合3年以下の懲役3年もしくは100万円以下の罰金に処せられます(場合によっては,併科されることもあります)。

もし、薬剤師が調剤過誤を起こした場合、どのような責任が求められるのでしょう。そこで今回は、薬剤師による医療過誤の種類や問われる責任、対処法と対策についてご紹介します。

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薬剤師による医療過誤の種類

薬剤師による医療過誤の種類

まず始めに、薬剤師による医療過誤にはどんなものがあるのか確認していきましょう。調剤事故、調剤過誤、ヒヤリ・ハットの違いについて以下にまとめました。

調剤事故

調剤事故とは、薬剤師の過失有無を問わず調剤した薬によって患者に健康被害が及んだ場合に使われる言葉です。

調剤過誤

薬剤師がダブルチェックを怠り、処方する薬の名前や分量を間違え患者に健康被害を与えた場合などは、調剤過誤に該当します。明らかに薬剤師の過失が認められる場合は、調剤過誤と呼びます。

ヒヤリ・ハット

ヒヤリ・ハットとは、薬の分量を間違えていたことや処方する薬の種類を誤っていたことに途中で気づき、正しい薬の分量や種類に直してから患者に出した事例のことを言います。

簡単に言うと、医療過誤の未遂に終わったケースのことです。ヒヤリ・ハットの事例を定期的に情報共有し再発防止策を考えることで、医療過誤(調剤過誤)の減少に繋がります。

医療過誤の発生件数と原因の報告件数

医療過誤の発生件数や発生原因について以下にまとめました。患者の方たちに安心して薬を受け取ってもらうためにも、事故を起こさないという強い意志を持って仕事に取り組みましょう。

薬剤師が起こした事故の発生件数

薬剤師が起こした事故について以下にまとめました。平成15年以降、50件程度あったものが30件前後に減少していることが分かります。

薬剤師が起こした事故の発生件数

日本薬剤師会に報告された調剤事故件数

平成13年

平成14年

平成15年

平成16年

平成17年

平成18年

平成19年

平成20年

件数

45

47

38

18

27

33

33

27

参照元:栃木県薬剤師会

医療過誤による訴訟件数

次に、医療過誤による訴訟件数をまとめました。年を追うごとに訴訟件数が増えていることが分かります。昔に比べて、一度の事故が医療訴訟へと発展する可能性が高いと言えるのではないでしょうか。

1970

1980

1990

2000

102件

310件

352件

795件

参照元:医療事故の法律相談(全訂版)

薬剤師によるヒヤリ・ハットの報告内容と件数

薬剤師によるヒヤリ・ハットの報告件数と内容をまとめました。圧倒的に、薬剤の数量を誤ったヒヤリ・ハットが多いことが分かります。薬の数量を誤ることは、最悪の場合、患者を死に至らしめるリスクもあります。日頃からチェックを徹底して、事故の防止に努めたいものです。

薬剤師によるヒヤリ・ハットの報告内容と件数

発生場面

事例の内容

件数

調剤

調剤忘れ

140

処方せん監査間違い

105

秤量間違い

12

数量間違い

727

分包間違い

65

規 格・ 剤 形 間 違 い

365

薬剤取違え

410

説明文書の取違え

1

分包紙の情報間違い

19

薬袋の記載間違い

92

そ の 他( 調 剤 )

402

管理

充填間違い

15

異物混入

1

期限切れ

3

そ の 他( 管 理 )

3

交付

患者間違い

18

説明間違い

4

交付忘れ

25

そ の 他( 交 付 )

6

合  計

2,413

引用元:公益財団法人日本医療機能評価機構による薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業代1回集計報告

薬剤師による医療過誤(調剤過誤や調剤事故)の裁判事例

薬剤師による医療過誤の裁判事例を確認していきましょう。以下に挙げた事例は、どちらも患者が死亡しています。この場合、高額の慰謝料の支払いや、刑事罰を受ける可能性も十分に考えられます。最悪の事態が起こらぬよう努めたいものです。

薬剤の過剰投与により患者が死亡

2005年、東京の病院に入院していた当時66歳の大学教授男性が、がん治療の際に肺炎薬の過剰投与を受けたために死亡してしまいました。裁判で担当の研修医だけでなく、薬剤師の過失も認められ、遺族に対する2,300万円の慰謝料支払いを命じています。

マグミット錠を処方すべきところウブレチド錠を投薬し患者が死亡

2010年に埼玉県の薬局に勤める薬剤師が、マグミット錠を自動錠剤分包機で一包化する際、毒薬のウブレチドを一包化したため、服用した患者が死亡した事故です。この事件で、該当の薬剤師は業務上過失致死容疑で書類送検されています。

医療過誤で薬剤師が問われる責任と訴訟の流れ

医療過誤(調剤過誤)によって訴訟手続きとなった場合の流れを下図にまとめました。裁判所で被害者が提出した訴状を受理後、双方の言い分を聞く口頭弁論を経て審理し判決を下すという流れとなっています。

薬剤師が背負う責任|薬剤師法と刑法

事故発生の有無にかかわらず、薬剤師が背負うべき責任が薬剤師法と刑法に定められています。調剤事故を起こさないためにも、以下に挙げた内容を念頭に置いた上で薬剤師業務に従事しましょう。

調剤の求めに応ずる義務|第21条

薬剤師は、調剤の求めがあった場合、正当な理由がない限り拒否できないというものです。

調剤の場所に関する義務|第22条

病院など特定の場所以外で調剤を行うことは禁止されているというものです。

処方箋に関する義務|第23・24・26条

調剤は、処方箋に従って行わなければならないというものです。

薬剤の表示義務|第25条

異なる患者へ薬を交付しない、患者が用法・用量を誤って服用しないよう努めなければならないというものです。

情報提供の義務|第25条の2

調剤した薬を適正に使用するために、必要な情報を患者に提供しなければならないというものです。

守秘義務|刑法第134条

患者の情報をみだりに漏らしてはいけないというものです。守秘義務を破った場合、6ヶ月以下の懲役または、10万円以下の罰金に処されるので注意が必要です。

(秘密漏示)

第百三十四条  医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法

調剤過誤や調剤事故を起こした場合の責任

調剤過誤や調剤事故を起こした場合、薬剤師は3つの責任に問われることになります。民事責任・刑事責任・行政責任についてそれぞれ確認していきましょう。

調剤過誤や調剤事故を起こした場合の責任

民事上の責任

警察や検察官は介入せず、当事者間で話し合いや訴訟などによって解決する責任のことを民事上の責任と言います。被害を受けた患者から訴訟を起こされた場合、薬剤師が民事上の責任を負う必要があるかどうかを争点に争われることになります。

調剤過誤や調剤事故を起こした場合の責任

刑事上の責任

刑法第211条で、業務で必要な注意を怠ったことにより患者を死傷させた場合は、5年以下の懲役もしくは禁固,または、100万円以下の罰金に処されると定められていますが、薬剤師の過失によって患者を死傷させた場合、業務上過失致死傷罪が問われます。

調剤過誤や調剤事故を起こした場合の責任

行政上の責任

厚生労働省などの行政が、薬剤師に与える罰則が行政上の責任となります。具体的には、懲戒免職処分や薬剤師の資格取り消しといった処分が挙げられます。

医療過誤が起きた場合の薬剤師がとるべき対応

医療過誤が起きた場合の薬剤師がとるべき対応

医療過誤(調剤過誤)が起きた場合、薬剤師がとるべき行動をまとめました。具体的には、真摯な対応を心がけ、難しい手続きなどに関しては弁護士に依頼、賠償責任保険の申請手続きを行うことです。

調剤過誤や調剤事故が疑われたらすぐに薬剤師会へ報告

調剤過誤や調剤事故が疑われたら、薬剤師会などの専門機関へ報告を行いましょう。必要に応じて、警察や報道機関へ報告することがあるかもしれません。下手に隠蔽せず、正直でいることにより、あなたが負うべき責任が軽くなる可能性が考えられます。

賠償責任保険制度を利用する

賠償責任保険制度とは、医療事故を起こしたとき被害を受けた患者に支払う賠償金の保障をしてくれる制度です。民間による運営のものと日本医師会で運営しているものがあります。任意加入ですので、薬剤師はいざというときに備え加入しておくことをおすすめします。

日本医師会の賠償責任保険

日本医師会の賠償責任保険は、医師会の会員になり会費を納めれば、自動的加入となります。別に保険料を支払う必要がないため、経済的負担が少ないのが魅力です。

民間の賠償責任保険

日本医師会の賠償責任保険とは異なり、自ら加入手続きをとり、毎月保険料を支払うことで医療事故を起こしたときの保障が受けられます。

誠意を持って被害者やその家族への対応を行う

医療過誤(調剤過誤)が起きたら、被害者とその家族に対して誠意を込めて謝罪するだけでなく、真摯な対応を心がけましょう。被害者の方はお金だけの解決ではなく、事故を起こしたことを詫びてほしいという気持ちを強く持っています。誠意を見せ続けることを決して忘れてはいけません。

弁護士への相談と依頼

被害者側が慰謝料請求してきた、医療訴訟を起こすなどのアクションがあった場合は、薬剤師側も弁護士に依頼して適切な対応指示を仰ぐべきでしょう。

医療過誤(調剤過誤や調剤事故)を防ぐための対策

薬剤師による医療過誤を防ぐための対策を以下にまとめました。以下のことを徹底することで、事故発生のリスクを減らすことができるでしょう。また、個人で行うのではなく、従業員全員が協力して対策に努めることが大切です。

医療ミスが起こるのは当たり前のことだと心得る

まずは、医療過誤や調剤過誤などを含めた医療ミスは、いつ起こってもおかしくないことだと心得ておきましょう。医療行為は人間が行うものですから、絶対的にミスが起こらないとは限りません。「ミスは起こるもの」と心得ておくことで事故を防ぐ対策になります。

調剤手順の中で、ミスが起こりやすい業務を知る

調剤手順の中でミスが起こりやすい業務は何か、薬剤師自身が把握しておくことも医療過誤(調剤過誤)を防ぐための対策になり得ます。

ちなみに、処方箋に記載されている内容は、医師法に定められたものです。内容におかしな点がないかの確認を癖づけしておくことで、さらに事故の抑止へとつながるでしょう。

調剤手順の中で、ミスが起こりやすい業務を知る

引用元:社団法人日本薬剤師会発行「新任薬剤師のための調剤事故防止テキスト(第二版)」

処方箋に記載されている内容

  • 医療保険等に関する情報(保険者番号、被保険者証・被保険手帳の記号・番号など)
  • 患者の同定に関する情報(氏名、生年月日、被保険者などの区分)
  • 保険医療機関に関する情報(保険医療機関の所在地及び名称や電話番号など)
  • 処方箋に関する情報(交付年月日や処方せんの試用期間など)
  • 処方内容に関する情報(薬品ごとに「変更不可」欄をブランクまたは「×」を記載し、「保険医署名」欄に署名と押印をする

なお、上記に記載した処方箋の内容は、医師法施行規則第21条にて明確に定められています

疑義照会を行う

疑義照会とは、処方箋の内容に不明点が生じたときに、薬剤師が適切な薬剤かどうか処方医に確認することを言います。医師が作成した処方箋の内容に少しでも疑問が生じた場合は、そのままにせず、すぐに処方医に内容を確認してください。

【確認すべき内容例】

  • 薬剤名は正しく記載されているか
  • 用法、用量は適正か
  • 相互作用はないのか
  • 先発医薬品から後発医薬品への調剤変更について
  • 同じまたは類似成分を含む薬の重複がないか
  • 副作用や薬物アレルギーが疑われる場合、処方箋に誤りはないか など

整理整頓を徹底してミスが起こりにくい環境づくりをする

整理整頓がされていない環境では、調剤ミスが起こりやすいと言えます。不要なものは置かないよう整理整頓に努め、作業導線がしっかりとした環境づくりをしましょう。

ダブルチェックを徹底する|薬剤師歴3年以下は特に注意する

薬剤師3年以下と経験が浅い場合、薬の名前や分量を誤りやすいと言えます。ベテランの薬剤師以上にダブルチェックを徹底して、誤りのないように努めましょう。

間違いやすい薬品名や含有量を覚えておく

間違いやすい薬品名や含有量を記憶しておくことも、事故を防ぐための対処法になり得ます。下記に、実際に起きた薬剤師の処方間違いをまとめました。参考にしていただければ幸いです。

内容

意図した処方

誤った処方

薬剤取り間違え

サイトテック錠

エストラサイトカプセル

ノルバスク錠10mg

ノルバデックス錠10mg

ワーファリン1.2mg

ワルファリンK細粒0.2%  1.2g

ガスターD錠10mg 2錠分2

ロイケリン散100mg/g  100mg 分2

数量間違い

テグレトール細粒0.09g

テグレトール細粒0.9g

イスコチン200㎎

イスコチン2g

ワーファリン0.6㎎/日

ワーファリン6㎎/日

イソニアジド末0.3g分1

イソニアジド末3.0g分1

用法・容量間違い

リウマトレックスカプセル8㎎/週

リウマトレックスカプセル8㎎/日

メトソレキセート錠 4錠分2(週1回)

メトソレキセート錠 4錠分2(連日投与)

まとめ

薬剤師が医療過誤を起こしたときは、隠蔽などはせずに専門機関へ報告し、被害者やその家族へ真摯な対応に努めることが大切です。事故を起こしたからといって、必ずしも薬剤師を辞める必要はありません。

事実を受け止め、再発防止に全力で取り組むことが重要なのではないでしょうか。対応に困った場合は、弁護士に相談して適切な対処法を学ぶのもひとつの手です。一人で抱え込まないようにしてくださいね。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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