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KL2020・OD・037
医療過誤(いりょうかご)は具体的にどんな事例があるのでしょう。そもそも医療過誤とは、医師や看護師が「人為的ミス」によって起きた事故のことを言います。
例えば、手術中に血管をクリップで止めていたが外さずそのままにしていた、確認を怠ったために本来投与すべき薬とは異なる薬を患者に服用させたことなどが挙げられます。
医療事故(いりょうじこ)との違いは、医療従事者による人為的なミスがあったかどうかです。人為的ミスがなく医療の現場で起きた事故(例えば患者側が廊下で転んでケガをするなど)はすべて医療事故になりますが、上記例のように人為的なミスがあれば医療過誤となります。
もし医療訴訟となった場合、以下の項目に当てはまるかどうかが争点となるでしょう。裁判で病院側の非を認めさせるためには、しっかりと準備を整えて臨むことが大切です。
そこで今回、医療過誤の事例や判例に加え、訴訟となった場合の流れやかかる費用、病院側に請求できる慰謝料の相場についてまとめました。今、「医療過誤かもしれない」と悩まれている方の参考になれば幸いです。
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まず始めに、医療過誤による事例・判例を確認していきましょう。
頸椎(けいつい)手術を受けた患者が、四肢不全麻痺(ししふぜんまひ)等の後遺症が残ってしまった事例です。裁判で、後遺症が残った原因は「脊髄を損傷させないための注意義務を怠ったこと」だと病院側の過失を認め、患者へ損害賠償を支払うよう命じました。
【福岡高判 平成20年2月15日 判夕1284号267頁】
63歳の男性患者が肝腫瘍の手術後、PEIT(ペイト)を実施しましたが、その際に何らかの感染症を発症し死亡しました。裁判では、患者がPEITを受けなかった場合の状況を医師が説明しなかったことなどを病院側の過失と認め、説明義務違反で300万円の慰謝料支払いを命じています。
医療過誤は、医師だけでなく看護師が起こすケースもあります。以下に看護師が起こした医療過誤の事例を挙げました。
79歳の女性患者が、手術を受ける準備のため入浴することになりました。その際、給水栓と給湯栓を使って温度調整するタイプでしたが、看護師はこのことを患者に伝えていなかったのです。その結果、患者は顔と頭を除いて熱傷を負い死亡しました。
ちなみに事故は、患者が入浴時間枠である30分を過ぎても病室に戻らなかったことで発覚したそうです。裁判では、給水設備に関する説明をしていなかったことや、患者が浴室に入ってから40分以上経過するまで確認しなかったことを看護師の注意義務違反と認め、1,900万円の損害賠償支払いを命じました。
次に、メディアやニュースなどで取り上げられた、2つの有名な医療過誤の事例を挙げました。どちらも、被害者やその家族だけでなく、世間にも大きなショックをもたらした医療過誤事例です。
生まれつき心臓の働きが弱かった男の赤ちゃんがいました。生後2ヶ月頃に心臓の血管を広げる手術を3回行い、医師から手術は成功したと伝えられ、赤ちゃんの両親も「これで元気になる」と安心していたのです。
ところが、手術の2日後から担当医師がプロポフォールを投与し続けたため、赤ちゃんは手術からわずか3ヶ月後に多臓器不全で亡くなりました。プロフォールは、大人でも1週間以上続けて投与しないことになっているはずが、被害を受けた赤ちゃんは2ヶ月ほど投与されていたそうです。
手術時間が近かった患者を取り違えたまま手術を決行したという事例です。心臓疾患(しんぞうしっかん)を患ったAさん(74歳)は、10時5分から手術が行われる予定でした。一方、肺疾患(はいしっかん)を患ったBさん(84歳)は9時45分に手術が行われる予定でした。
患者の取り違えは手術室へ患者を受け渡しする際に起こりましたが、その後も患者の確認が行われないまま、手術まで進んでしまったようです。
クリッピングという開頭(かいとう)手術で使用するクリップが、血管を挟んでいないか確認をしなかったために、患者が後遺障害を患うことになった事例です。裁判では、医師による手術中の注意義務違反を認め、損害賠償の支払いを命じています。
【京都地判 平成12年9月8日 判夕1106号196頁】
MRSA(えむあーるえすえー)とは、院内感染で代表的な細菌と言われているものです。元々MRSAの感染防止に必要な処置をとる義務を負っていたにもかかわらず、脳腫瘍摘出手術(のうしゅようてきしゅつしゅじゅつ)を受けた幼児が、MRSAによる化膿性髄膜炎(かのうせいずいまくえん)を発症し死亡しました。裁判では、病院側の非を認める判決を下しています。
【大阪地判平成13年10月30日 夕1106号187頁】
次に、医療過誤が発生したときの訴訟手続きの流れと、慰謝料の相場、弁護士費用の相場について確認していきましょう。大まかでも構いませんので、流れや相場を掴んでおくと、訴訟に必要な手続きがスムーズに進みます。
訴訟を起こした場合の手続きについて下図にまとめました。医療過誤の被害者またはその家族が弁護士に依頼するなどして訴状を提出し、訴状を受け取った裁判所が正式に受理することで裁判が始まります。
【訴訟手続きの流れ】
医療過誤による慰謝料の相場は、400万円前後と言われています。ただし、医療過誤の内容によっては相場よりも安いケースや1,000万円を超える慰謝料が認められるケースもあるため、一概に言えない部分があります。
医療過誤の訴訟で弁護士を利用した場合の費用相場を以下にまとめました。
費用項目 | 目安の金額 |
相談料(1時間) | 10,000円 |
着手金 | 320,000円~540,000円 |
報酬金 | 利益の1割 |
訴訟費用 | 210,000円 |
日当 | 20,000~50,000円 |
実費(弁護士の交通費、調査費用など) | 30,000円~ |
医療過誤が起きてしまった場合、被害者を救済する方法が5つあります。医療過誤は人の命をおびやかすものですから、下記の手段で心の傷が完全に癒える訳ではありません。しかし、多少なりとも被害者本人またはその家族が受けた傷を癒すことに繋がるのではないでしょうか。
被害者本人またはその家族に対して謝罪することはもちろんですが、問題が解決するまで真摯(しんし)な対応を心がけましょう。病院側の対応ひとつで、被害者側の心情が大きく変わることは否定できません。
発生した医療過誤の原因究明を行い、できる限りでの再発防止策をとることも被害者の救済に繋がります。場合によっては、専門の医療機関へ報告して情報を共有が必要になるかもしれません。
医療過誤によって受けた健康被害の治療は敬遠(けいえん)されがちです。そのため、医療過誤の被害者の治療を受け入れてくれる医療機関の確保も、被害者の救済につながるでしょう。
被害者本人またはその家族から慰謝料請求や損害賠償請求をされた場合は、要求に応じることで救済につながります。ただし、金額が適正なのか、そもそも支払うべきなのかは弁護士などに確認し、必要に応じて裁判で判断してもらうことが必要です。
裁判外紛争解決システム(ADR)とは、裁判に頼らず双方の話し合いで解決を目指すためのものです。被害者側が病院側の謝罪を求めているなどの場合は、裁判よりもこのシステムを利用した方が救済につながるケースもあります。
医療過誤の防止につながる6つの対策を以下にまとめました。医療過誤は本来あってはならないものです。大きな事故が起こる前に、病院全体で防止策を講じることが非常に大切です。
ヒヤリ・ハットとは、事故が発生する前にミスや間違いに気づくことです。実は、このヒヤリ・ハットを定期的に分析して病院内で共有することで医療過誤などの大きな事故防止につながると言われています。
誰でもミスが起きたとき、上司への報告を躊躇(ちゅうちょ)してしまうものです。しかし、人の命を預かる仕事ですから、大きな事故を抑止するためにもヒヤリ・ハットが起きたら報告を怠らないようにしましょう。
医療行為は常に危険がとなり合わせにあることから、事故を防ぐために免許制度が採用されたと言われています。そのため、医師は医師免許の範囲内で業務を行い、看護師や薬剤師もそれぞれ免許に定められた範囲の業務を行うことで医療過誤の防止になるでしょう。
医療は複雑なだけでなく高度化しているため、医療現場では、ひとつの治療を医師一人で行うのではなくチームで動いています。複数人で動くことにより、お互いの知識を共有し合うとともに行動を監視できるメリットが得られます。
インフォームド・コンセントとは、患者やその家族が医師から十分な説明を受けた上で、医療行為を行うことに同意するというものです。医師が一方的に医療行為を行うのではなく、しっかりと同意を得た上で進めていくことも医療過誤の防止になり得ます。
病院内で、医療過誤が起きにくい作業導線を作ることも有効な手段です。不要なものは置かず、必要なものがすぐに取り出せる、確認できる環境作りに努めていくと良いでしょう。
医師の過重労働(かじゅうろうどう)が社会問題のひとつとして、メディアなどで取り上げられることも少なくありません。過重労働を無くして、医師が体調管理しやすい環境を作っていけば医療過誤の防止策につながるでしょう。
医療過誤が得意な弁護士の選び方で大切にすべきポイントは5つあります。特に注意してほしいことは、弁護士歴の長い人ではなく、医療訴訟の解決実績が豊富かどうかで選ぶことです。
【医療過誤が得意な弁護士を選ぶポイント】
医療過誤の事例・判例を見てお分かりいただけるかと思いますが、医師や看護師もミスを起こすことがあります。たとえ、あなたが信頼できる医療機関で治療をしていたとしても、医療過誤が100%起こらないとは限りません。
万が一、あなた自身または大切な家族が医療過誤の被害者になってしまったら、絶対に一人で抱え込まないでください。できるだけ法律のプロである弁護士に一度相談して、どのような対応を取るべきか適切なアドバイスを受けた上で、行動していくことをおすすめします。
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KL2020・OD・037
本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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