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KL2020・OD・037
医療事故(いりょうじこ)が起こる原因は様々です。例えば、医師や研修医によるミスや病院内での伝達不備などが挙げられるでしょう。患者にとって身近な存在ともいえる看護師の過失による医療事故も生じ得ます。
もし、看護師による医療事故が発生した場合、責任はどこまで問えるのでしょうか。また、訴訟となった場合の手続きなども気になるところです。そこで今回は、医療事故が起きる原因や対策、看護師が負うべき責任や訴訟の流れなどについてご紹介します。
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実は、医療事故の定義は厚生労働省により、明確に定められています。以下に挙げた3つの項目に当てはまれば医療事故として認められるでしょう。
被害者が負ったケガや病気の起因が医療行為であることが明らかであるか、その疑いがあるケースは医療事故に該当しえます。ケガや病気だけでなく、被害者が死亡した場合も同様に言えます。
治療中の患者が死亡しても、全てが医療事故となる訳ではありません。治療中に、死亡を予期する説明を患者本人や家族にしていた事実や、カルテなどにそのような記述がなされていた場合、医療事故として認められません。
妊娠中や分娩中に行った、手術や投薬などの医療行為により死産となった場合、死産の予期ができなかったことが医療事故と判断するための前提となります。
医療事故と医療過誤について混同する人も少なくありません。明確な違いとして「人為的ミス」があったかどうかが挙げられます。医療事故は、患者が廊下で転倒して骨折したなど、偶然起きたケースも該当します。
一方、医療過誤は手術で使用したメスが体内に入ったままだった、注射器を使いまわしていたなど「人為的ミス」によって起きた事故のみ当てはまります。医療事故と医療過誤は似て非なるものと心得ましょう。
なお、本記事では便宜上「医療事故」で統一してご説明をさせていただきます。
看護師による医療事故が起きる原因には、どのようなことが挙げられるのでしょうか。具体的には4つの原因が考えられます。
高齢化社会に伴い、看るべき患者の母数が増えたため、看護師が不足していると言われています。つまり、看護師一人あたりの業務量が適正量よりも多いということです。業務過多が起きれば、集中力の低下や疲労などが起きやすいため、自然と医療事故のリスクも高まります。
看護師は、夜勤や長時間労働など勤務形態が不規則です。そのため、疲労が溜まりやすく、意識も散漫になりやすいと言えるのではないでしょうか。さらに、十分な休息がとれていない場合、医療事故を起こすリスクはさらに高まります。
患者に投与する薬の種類や量に誤りがないか、注射を打つ場所に問題がないかなどのチェックが不十分だったことによる医療事故もあります。
患者からの呼び出しなど突発的な対応に追われ、しっかり確認をせずに投薬や注射などを行った結果、医療事故が発生するケースなどが挙げられます。また仕事に追われた結果、トイレに行くときなど付き添いが必要な患者の介抱を忘れ、ケガをさせてしまったという医療事故もあるようです。
表:看護師経験年数別の医療事故発生件数
医療事故防止事業部において、2010(平成 22)年度に報告された医療事故のうち、最も多い報告者は看護師で全体の 50.1%、次いで医師が 40.1%を占めていました。また、経験年数別に報告件数をみると、0 ~ 3 年目までが特に多く 3)なっていました。
引用元:医療安全を現場に生かすKYT
看護師は、医療法の第1条にもある通り「良質かつ適切な医療を行うように努めなければならない」とされています。そのため、違反した際に負わなければならない3つの責任があります。
第一条の四 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第一条の二に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない
引用元:医療法(第1条の4)
看護師が医療事故を起こした場合、医療機関に対して損害賠償請求などの民事責任が問われる場合がありますが、看護師は必ずしも被告になるとは限らないというものです。その理由は、被害者となる患者が責任の所在を「看護師」ではなく「病院」または「医師」のみにして訴訟を起こすことが可能なためです。このことは、民法715条にも定められています。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
引用元:民法(715条)
看護師の過失により患者に健康被害が生じた場合、刑法211条の業務上過失致死傷罪に該当します。つまり、医療事故を起こした場合、懲役や罰金刑を受ける可能性があるということです。しかし、日本の刑法では起訴が妥当かの判断は検察官が行うため、現実的に起訴に至るケースは稀だと言われています。
(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
引用元:刑法(211条)
看護師としての品位を損なう行為をしたと判断されると、厚生労働大臣は看護師免許の取消ができます。もし、医療事故を起こした場合、看護師免許のはく奪となるかもしれません。その他にも3年以内の業務停止命令や、戒告などを行う権限も持ち合わせているため、いずれかの処分を受けることは避けられないでしょう。
看護師による医療事故として認められた判例を確認してみましょう。どちらの医療事故も、発端はひとつのミスや怠りによって起きたものです。
麻疹(ましん)にプラスして、重症の肺炎を疑われていた患者が入院していました。実は、その患者は、自力で動けないため2時間おきに体位を変える、マッサージを行うなどの看護が必要だったのです。
ところが、担当の看護師が体位を変える対応を怠ったために、患者が褥瘡を患ってしまいます。看護師の過失の有無を法で争うこととなり、結果的に看護師の過失により褥瘡を患ったことが認められました。
看護師が打った静脈注射により、患者が右橈骨神経不全麻痺(みぎとうこつしんけいふぜんまひ)を発症し、医療事故として認められたケースです。看護師が静脈注射を打った後、患者は手足のしびれや力が入らないなどの異常を訴えました。
他の病院で検査の結果、右橈骨神経不全麻痺と診断され、訴訟後の調査などで看護師が打った静脈注射が原因だと否定できないとして損害賠償が認められました。
もし、看護師による医療事故が発生し訴訟となった場合の手続きはどのようになるのでしょうか。提訴から判決までの流れを以下にまとめました。
まず始めに、医療事故の被害者が裁判所に訴状を提出することから始まります。訴状には、「請求の趣旨」と「請求の原因」を書きます。例えば、「請求の原因」には具体的な医療事故の内容を、「請求の趣旨」には被告となる看護師や病院に対して損害賠償金をいくら求めるかなどを記載します。
訴状を提出してから約1ヶ月後に「第1回期日」が開かれます。その際、被告の看護師または病院が、原告の主張を認めるかの回答を記載した「答弁書」の提出をします。
答弁書が提出された後、すぐに判断がされることはありません。原告の主張や被告の回答を元に、食い違いが生じている点を明確にしていく作業を行うのです。このことを「争点の整理」と言います。
争点の整理が行われた後、食い違いが生じている点について主張の裏付けをとるべく、「証拠集め」が始まります。具体的には原告と被告、また医療事故に関与している可能性のある医師などに尋問を行い、証拠を集めるのです。
医療事故の内容によっては、信憑性があるかどうか鑑定を行うケースがあります。鑑定自体は、中立な立場で鑑定できるように、裁判所が選任した医学的な知識がある専門家によって行われます。
原告と被告が主張している内容の確認と、主張の裏付けとなる証拠集めや鑑定が終わると、結審となり、裁判所により判決のための審理が行われます。ちなみに、判決が原告と被告の双方に言い渡されるのは、審理から2~3ヶ月後が一般的です。
判決を下す前に、裁判所が間に入って原告と被告で話し合いが行われることがあります。このとき、双方が納得できる譲歩案で合意が成立すれば「和解」となり、裁判は終了となります。
和解は、敗訴や裁判の長期化を避けられるため、状況によってはメリットの大きい解決方法と言えるかもしれません。
看護師による医療事故を防ぐために、どんな対策を心がければ良いのでしょうか。主に4つの対策が考えられます。具体的な内容について以下にまとめました。
看護師の仕事は、ひとつのミスが患者の命を脅かすことになりかねません。投薬やカルテの記載などは、ダブルチェックを心がけましょう。入念なチェックを心がけることが、医療事故の減少に繋がります。
病気や治療法、投薬など医療にまつわる知識の幅を広げることも、医療事故を防ぐ対策として有効です。自分だけでなく、医師や他の看護師のミスに気づけるかもしれません。個人でなく職場や部署内の仲間同士で学ぶことができれば、全体で知識の底上げができるため、より望ましいでしょう。
勤務時間が不規則ですから、看護師は疲労が溜まりやすい仕事だと言えます。疲れを残したまま仕事に従事すると、集中力の低下を起こし、医療事故を誘発するかもしれません。適度に心と体が休める時間を作り、疲労を溜めないように心がけましょう。
最終手段とも言えますが、患者の治療に関与しない職業への転職も有効です。例えば、旅行ツアーに同乗して参加者の健康管理を行う「ツアーナース」や、企業に勤めている社員の健康管理を行う「産業看護師」などの道が検討できます。
看護師による医療事故は、様々なケースで起こり得ることが分かりました。看護師自身だけでなく、病院全体で事故を起こさないための対策を講じることで、リスクを軽減させられるでしょう。
しかし、日本では少子高齢化や長寿化により、看護師の質だけでなく量も求められています。看護師一人あたりにかかる負担量の増加に対して、どのような対策を講じれば良いか社会全体で考え、解決していく必要があるのかもしれません。
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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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