原状回復義務とは|退去時の敷金返還トラブルで損しないための全知識

弁護士法人ネクスパート法律事務所
監修記事
原状回復義務とは|退去時の敷金返還トラブルで損しないための全知識

原状回復義務とは、賃貸物件などから退去する際に、通常使用・経年劣化による汚れや破損を除いたものを修繕してオーナーに返却することです。賃貸物件の原状回復義務は、「元の状態に戻す」というイメージが強いため、解釈の違いからトラブルが起きやすい問題です。

今回は、原状回復義務のルールやトラブル事例、対処方法などをご紹介します。

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賃貸物件の契約書に書いてある「原状回復義務」とは

賃貸物件などの契約をする際に「原状回復義務」を説明されることが多いと思います。多くの方は原状回復義務を「元に戻す」ことと認識していますが、実際は入居に伴う通常使用・経年劣化による汚れや破損を考慮して考えなければなりません。

入居者とオーナーの間でこうした原状回復の解釈が異なると敷金返還トラブルなどに繋がるのです。

原状回復義務は「元に戻す」ことではない

原状回復義務は、入居前の状態に戻すということではありません。人が居住していれば、家具の設置による軽度のキズや設備使用による汚れが発生します。これらは、入居者がどんなに気をつけていても発生してしまうものなので、原則として原状回復義務の対象にはなりません。

入居者に一方的・過度な負担になる契約は無効

原状回復義務に従って、退去時に修繕などの費用を入居者に負担させる際には以下2つのポイントがあります。

  • 原状回復の修繕に客観的・合理的な理由があるかどうか
  • 入居者の負担が一方的なものになっていないか

原状回復費用を入居者に負担させる際は、契約時に具体的な負担額などの説明をしなければなりません。また、入居者への負担が客観的・合理的な理由なく一方的な負担になるような場合は、契約自体が無効となる可能性もあります。

第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
引用元:消費者契約法

敷金から差し引けるお金は「家賃2~3ヶ月分」が妥当

原状回復費用を特約などで入居者負担にする場合は、敷金から家賃2~3ヶ月分までの金額を差し引くのが妥当とされています。入居者が故意・過失により建物に大きな損害を与えたなどの場合を除いて、敷金を全額差引くのは違法性が高いとされています。

【関連記事】退去費用の相場と原状回復の基本|転居・引越しを安く抑える3つのコツ

賃貸物件の原状回復義務のルール

賃貸物件の原状回復義務のルール賃貸物件の原状回復義務は、民法545条に基づいた義務なのですが、原状回復費用を入居者に負担させる際はいくつかの制限があります。

第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
引用元:民法

この項目では、原状回復義務のルールについてご紹介します。

通常の生活での汚れや破損、壁紙の日焼けなどは原則オーナー負担

国土交通省が定義したガイドラインによると、原状回復義務は以下のように定義されています。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」
引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

例えば、掃除しきれないお風呂場のカビ、家具の設置による壁や床のキズなどは、居住した以上防ぎきれないものなので原状回復の対象にはなりません。

入居者負担の特約をつける場合は詳細な説明が必要

物件によっては賃貸契約の内容に、原状回復特約などが含まれている場合もあります。原状回復特約とは、通常使用・経年劣化による汚れや破損に関して入居者負担とするという契約です。

特約をつける場合は、契約時に具体的な負担内容などを入居者に説明する必要があります。

関連記事:原状回復の特約と義務|修繕費の負担を軽くするための5つの知識

原状回復義務をめぐる敷金返還トラブル

原状回復義務は、敷金返還トラブルにつながる可能性があります。原状回復義務による修繕やハウスクリーニングのための代金を請求され、敷金が返還されなかったり追加で高額な費用を請求されたりするトラブルが発生するのです。

この項目では、原状回復義務による敷金返還トラブルの中で裁判に発展した事例をご紹介します。

綺麗に使っていたのに敷金が返ってこない

<事件概要>

賃貸物件に3年弱入居した夫婦は、退去時に原状回復費用としてオーナーから約12万円の請求をされた。夫婦は賃貸物件の契約時に敷金14万円を支払っており、退去時は原状回復費用を差し引いた1万9,688円が返金された。夫婦は、これらの請求は不服としてオーナーに敷金の返還を求めた。

<判決>

夫婦が入居したことによる汚れや破損は通常使用・経年劣化を考慮すると相応のものであった。このことから、オーナー側の請求は過剰であるとして敷金の全額返還が認められた。

夫婦は、両者とも非喫煙者であり、共働きであったが、本物件の汚れ・破損は相応のものであった。また、契約書には通常使用・経年劣化による汚れや破損はオーナー負担である旨が書かれていた。このため、クリーニング代金の請求は無効とされ敷金返還が認められた。

参考:国民生活センター|敷金返還請求事件

関連記事:敷金返還トラブルの対処方法と原状回復費用の6つの知識

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最近増えている「原状回復義務なし」の物件とは|特徴と注意点

最近増えている「原状回復義務なし」の物件とは|特徴と注意点

近年DIYなどの日曜大工が流行し、住居のリノベーションなどを入居者自ら行うという方もいると思います。このようなニーズや空き家対策から、「原状回復義務なし」という賃貸物件も増えてきています。

この項目では、原状回復義務のない物件の特徴と注意点をまとめました。

「原状回復義務なし」の物件の特徴

原状回復義務のない物件では以下のような特徴が挙げられます。なお契約によっては、原状回復義務の免除や賃料の割引がない場合もあるため、契約内容の確認は必ず行ってください。

オーナーは現状のまま物件の貸出しができるため貸出コストがかからない

原状回復義務なしの物件では、オーナー側も現状態のまま物件を貸し出すことができるという利点があります。「建物が古くなってしまったが、リフォームする余裕はない」という場合などは、原状回復義務をなくして、入居者に事前説明をすることで貸し出しやすくなります。

入居者がDIYなどで修繕した部分の原状回復義務は免除となる

原状回復義務なしの物件では入居者がDIYなどで修繕した箇所は、そのままにして退去することができます。

入居者が自分で修繕することで賃料負担が安くなる場合がある

契約内容がない物件では、DIYなどで修繕を行ったあとその分の家賃などを安くすることで、入居者の費用負担を軽くするという場合があります。これはあくまでも契約内容によるものなので、入居前に必ずオーナーに確認しましょう。

◆原状回復義務のない物件の注意点

原状確認義務がないからといって、勝手にDIYなどで修繕を行って良いわけではありません。DIY可能な賃貸物件では、以下のようなことを確認した上で修繕を実施していきます。

<入居前>

  • DIYを実施可能な箇所を確定させる
  • 施工方法、時期、必要な近隣対応を行う
  • 実施箇所について原状回復義務の免除する旨を契約書に明記
  • 実施後の確認方法を入居者・オーナー間で決める
  • オーナーは実施箇所、入居時期、契約期間等を勘案した家賃設定にする

<DIY実施前>

  • DIYを実施可能な箇所の確認をする
  • 施工方法、時期、必要な近隣対応を行う
  • 実施箇所についてオーナーに原状回復義務免除の確認をとる
  • オーナーに実施後の現状報告を行う
  • 実施箇所、入居時期、契約期間等を勘案した家賃設定などをオーナーに確認

参考:国土交通省|個人住宅の賃貸活用ガイドブック

原状回復義務がない物件であっても、物件の所有者はオーナーなので、修繕前と修繕後の確認と報告は必ず行ってください。古くなったり壊れたりした物件を自分で修繕することによって、愛着を持って住みたいですよね。 

原状回復トラブルに巻き込まれた際の対処方法

原状回復は、具体的な内容が法律で規定されていないため、入居者とオーナー間に解釈の齟齬(そご)が生まれやすい問題です。原状回復トラブルを防ぐには、事前の契約内容の確認、退去時の現状確認の立会いなどが重要になってきます。

しかし、トラブルに巻き込まれてしまった際は、この項目でご紹介する対処方法を試してみてください。

オーナーに修繕の明細をもらう

敷金が返還されない、高額なハウスクリーニング代金を請求されたという場合は、オーナーに修繕費用の明細や見積りの説明を求めましょう。原状回復で入居者が負担するのは、入居者自身が汚したり破損したりした箇所のみの修繕です。不要な修繕まで請求されていないかなどは、明細や見積もりをもらって確認しましょう。

例えば、飲み物をこぼしてしまったことにより壁紙にシミができてしまった場合は、シミができた箇所の壁紙張替えが入居者負担となります。張り替えた箇所に合わせるために他の箇所の壁紙も張り替えることになった場合は、その部分はオーナー負担となります。

関連記事:原状回復費用の相場|引っ越し前のトラブル回避のポイント7つ

賃貸物件の契約内容と照らし合わせる

原状回復トラブルでは、原状回復に関して契約内容にどのように明記されているかの確認が必要になります。「契約時の説明なんて覚えていない」という方が大半だと思いますが、捺印がされている以上は契約内容に合意したとみなされます。

ただし、契約内容に原状回復義務や特約の有無、入居者負担の具体的内容が分かるように明記されていない場合は、契約内容が無効になる場合があるので確認は必ずしてください。

不当・不要な請求の場合は書面や直接交渉で敷金返還を求める

上記を踏まえた上で、オーナーから請求された原状回復費用の内容に不当・不要なものがあった場合は、直接交渉をして敷金返還や請求の無効を主張しましょう。なお、書面や電話などでオーナーと交渉をした際は、必ず交渉日時や内容を記録に残すようにしましょう。

オーナーとの交渉に自身がない方へ

入居者とオーナーというのは立場上、交渉をしにくい関係ですよね。原状回復は決して安くないお金が関わっている問題ですので、お互い引くことができず、交渉によってトラブルが複雑化する可能性もあります。

交渉に自身がない、トラブルを法的手段で解決させたいという場合は、原状回復トラブルを弁護士に相談するというのもひとつです。弁護士はあなたに代わってオーナーとの代理交渉を行ったり、法律の専門知識から解決を図ることができます。

解決に難航したら少額訴訟なども考える

原状回復義務や敷金に関するトラブルは、法的手段で解決する方法もあります。60万円以下の請求の場合は少額訴訟という、比較的簡単な手続きで行う裁判のことです。

少額訴訟は簡易裁判所で手続きをすることで起こすことができ、1回の審判で判決が下されます。

関連リンク:裁判所|少額訴訟

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まとめ

原状回復義務は、多くの賃貸物件の契約書に書かれている内容です。しかし、原状回復の解釈の違いや特約によってトラブルが発生しやすい問題でもあります。引越しや退去の際に、原状回復義務によるトラブルに巻き込まれた際は、慌てずにオーナーと連絡をとるなど解決のための行動を起こしましょう。

この記事で、原状回復トラブルに悩まれている方の手助けができれば幸いです。

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2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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