原状回復の特約と義務|修繕費の負担を軽くするための5つの知識

弁護士法人ネクスパート法律事務所
監修記事
原状回復の特約と義務|修繕費の負担を軽くするための5つの知識

原状回復特約は、入居者に建物の通常使用・経年劣化による汚れや破損に対する修繕費用の一部を負担させるためのものです。しかし、軽度の汚れや破損は月々の家賃や敷金によって賄われているという考え方もあり、負担額によっては契約内容が違法・無効になることもあります。

今回は、原状回復の基本的な考え方や特約の有効性などをご紹介します。

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原状回復の特約とは

賃貸物件などを借りる際、入居者には原状回復義務というものが発生します。これは、退去時に物件をある程度元の状態に戻してから返還するというものです。

この項目では、原状回復の特約と特約を課す場合の制限についてご紹介します。

原状回復で入居者に負担させる場合には特約を明記しなければならない

建物を借りた際の原状回復義務は通常の場合、設備や建物の通常使用・経年劣化による汚れや破損はオーナー負担による修繕と考えられています。しかし、契約内容に特約として明記することで、通常使用・経年劣化による汚れや破損を入居者負担とさせることもできます。ただし、原状回復特約は契約書に明記し、入居者に合意を得なければ成立しません

通常使用による損耗・自然消耗の修繕費が入居者負担になる場合もある

原状回復特約の最大のポイントは、特約をつけることにより通常使用による損耗や自然消耗を入居者負担とさせることができるということです。後の項目「原状回復の特約で押さえておくべきポイント|原状回復の基本的な考え方」でもお伝えしますが、原状回復の基本は通常使用・経年劣化以外の汚れや破損に対して原状に復して物件を返却することです。

原状回復特約をつけることで通常使用・経年劣化による汚れや破損に対しても入居者負担にすることができるのですが、あくまでも汚れや破損のある一部分の修繕費のみです。特約を過大解釈し、入居者に一方的な負担があるような内容の場合は違法・無効となります。

【関連リンク】退去費用の相場と原状回復の基本|転居・引越しを安く抑える3つのコツ

原状回復の特約は入居者が客観的・合理的理由が必要

原状回復特約を契約内容に入れる際には、以下の要件が必要になります。特約内容が客観的・合理的であり、入居者に負担させる金額等が暴利的でないものでなければなりません。原状回復費用として入居者に請求する場合は、費用の内訳や価格などの説明を行わなければならないのです。

賃借人に特別の負担を課す特約の要件

① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて 認識していること
③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

入居者に一方的な負担を与えるような契約は無効

原状回復のための入居者負担は、あくまでも通常使用・経年劣化以外の理由による汚れや破損に対するものです。次の利用者のために部屋全体のハウスクリーニング代金を負担させるなどは、入居者に一方的に負担させていることになるため、契約内容自体が無効となる可能性があります。

第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
引用元:
消費者契約法

原状回復の特約で押さえておくべきポイント|原状回復の基本的な考え方

原状回復の特約で押さえておくべきポイント|原状回復の基本的な考え方賃貸借契約の内容に原状回復特約を入れることで、入居者に原状回復費用の一部を負担させることができます。原状回復費用は、敷金から差し引いて請求をすることができます。また、通常使用・経年劣化による軽度の汚れや破損などは月々の家賃によって負担しているとされています。

この項目では原状回復義務の基本的な考え方と入居者負担の基準についてご紹介します。

原状回復義務とガイドライン

賃貸物件などの契約時・退去時に発生する原状回復義務は、民法で規定されています。

五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
引用元:
民法
 

また、国土交通省住宅局が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では原状回復に関して以下のように定義しています。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」
引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

物件に人が居住して入れば通常使用や経年劣化により建物に汚れ・破損が発生します。例えば、家具を設置した際の床の小さな傷や壁紙の汚れなどは、どんなに気をつけていても発生してしまうものです。これらは月々の家賃により賄われていると判断し、オーナー負担で修繕を行うものと考えられています。

原状回復による負担の判断基準

原状回復特約により入居者に負担させる場合の判断基準は以下の通りです。

  • 通常使用・経年劣化による汚れや破損はオーナー負担
  • その他故意・過失による汚れや破損は入居者負担

これらの具体的な例を表にまとめました。

部屋の箇所

入居者負担

オーナー負担

  • 手入れ不足による拡大した壁紙クロスのカビやシミ
  • ネジや釘穴など下地ボートの張替が必要な破損
  • 日焼けなどによる壁紙クロスの変色
  • 下地ボードの張替が不要な範囲の穴(画鋲やピンによるもの)

  • 手入れ不足によるカビやシミ(飲み物をこぼして放置した等)
  • 家具の設置などによる床やカーペットのへこみ

キッチン

  • 通常使用の範囲を超える油汚れやスス汚れ
  • 冷蔵庫の後ろなどの壁紙の汚れ

お風呂

  • 給湯器を空焚きして壊してしまったなどの場合
  • 経年劣化による故障
  • 通常使用の範囲内のタイルのカビ等

入居者負担の修繕費はあくまでも汚れ・破損がある部分のみ

原状回復義務で入居者が負担するものは、入居者が汚したり破損したりした部分のみです。例えば、入居者が飲み物をこぼしたりして壁紙にシミができてしまったという場合は、シミができた一部分の壁紙の張替え費用が入居者負担となります。

全体の壁紙の色を合わせるために壁一面の張替えをしたいという場合は、入居者が汚した一部分以外の費用はオーナー負担となります。

原状回復は、毀損部分の復旧であることから、可能な限り毀損部分に限定し、毀損部分の補修工事が可能な最低限度を施工単位とすることを基本とする。したがって、賃借人に原状回復義務がある場合の費用負担についても、補修工事が最低限可能な施工単位に基づく補修費用相当分が負担対象範囲の基本となる。
引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復の特約は裁判に発展する場合もある

原状回復の特約は裁判に発展する場合もある原状回復特約による修繕費用の負担割合は、建物自体の経年劣化や価値などを考慮しなければならないため、入居者とオーナー間で解釈の齟齬(そご)が発生しやすい問題です。負担割合が入居者側に偏っている場合は特約自体に無効があると判断されることもあります。

この項目では、原状回復特約を巡って裁判となった事例をご紹介します。

原状回復費用がオーナー負担となり敷金が返金された事例

<事件概要>

賃貸物件に入居していたYは、契約時に敷金として20万円を支払った。当該物件の原状回復特約には、通常使用による損耗・自然消耗の原状回復義務を入居者Yが負うものと明記していた。退去時、原状回復費用として20万円を請求され敷金の全額が差し引かれたYはこれを不当として、オーナーに対し敷金全額の返還を求めた。

<結果>

敷金20万円に対して、原状回復費用として20万円を差し引くことは入居者の負担が一方的・過度なものであるとして、特約内容自体が無効であると判断された。特約の無効によりYには敷金全額が返還された。

参考:国民生活センター|賃貸借契約における原状回復特約の消費者契約法による無効

原状回復特約で敷金から差し引ける金額は家賃の2ヶ月〜3ヶ月分まで

原状回復特約によって入居者に負担させる際、負担額が一方的・過度なものではないかということが争点となります。原状回復費用として入居者に負担させる金額の相場としては、家賃の2ヶ月〜3ヶ月分までと考えていいでしょう。

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賃貸物件を契約する際は原状回復特約を必ず確認

原状回復義務の原則は、入居者は故意・過失による汚れや破損に対して修繕の負担を行い、物件を返却するというものです。原状回復特約をつけることで、これらに加えて通常使用・経年劣化による汚れや破損に対する修繕費を入居者負担とすることができます。

もしも、借りる賃貸物件に原状回復特約があった場合は、具体的にどの程度の汚れや破損に関して負担をするのかなどをよく確認するようにしましょう。

まとめ

まとめ原状回復特約は入居者に思わぬ金銭的負担が発生する可能性のあるものです。賃貸物件の退去時に高額なハウスクリーニング代金を請求されたり、オーナーから支払いのための少額訴訟を受けたりすることもあります。

トラブルに巻き込まれた際は、慌てず弁護士などの専門家に早い段階で相談することも考えましょう。

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この記事を監修した法律事務所
弁護士法人ネクスパート法律事務所
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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