原状回復トラブルのガイドラインと敷金を取り戻すための6つの法律知識

弁護士法人ネクスパート法律事務所
監修記事
原状回復トラブルのガイドラインと敷金を取り戻すための6つの法律知識

原状回復ガイドラインとは、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のことです。高額なハウスクリーニング代金を請求された、敷金が返還されない等の原状回復トラブルは、ガイドラインの内容を理解しておくことで正当性を主張することができます。

今回は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の内容を、ポイントを押さえてご紹介します。

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原状回復トラブルには国が定めたガイドラインがある

賃貸物件などの原状回復には国が定めたガイドラインがあります。原状回復に関しては、法律で入居者の義務として規定されていますが、具体的な内容は明記されていません。そのため、国土交通省では、ガイドラインとして具体的な内容を規定しているのです。

原状回復ガイドラインの概要

原状回復ガイドラインの概要は以下の通りです。今回は、このガイドラインの内容で押さえておくべきポイントを各項目でまとめています。

  1. 第1章 原状回復にかかるガイドライン
    →「ガイドラインによる原状回復の考え方」で詳しく解説
  2. 第2章 トラブルの迅速な解決にかかる制度
  3. 第3章 原状回復にかかる判例の動向
    →「原状回復トラブルに遭った際に知っておくべき解決方法」で詳しく解説

参考:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復トラブルに関わる2つの法律

原状回復に関しては民法598条で以下のように規定されています。このことから、賃貸物件を借りる際、原状回復義務が発生するとされています。原状回復義務は原則として、通常使用・経年劣化で発生する汚れや破損を考慮して原状に復することを目的としています。

第五百九十八条  借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。
引用元:民法

また、原状回復義務が入居者にとって不利な契約にならないため、契約内容に以下のような制限があります。これは消費者契約法によるもので、入居者にとって一方的・過度な負担となる契約内容は無効とされています。

第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
引用元:消費者契約法

地域によって原状回復トラブルの規定が異なる

地域によって原状回復トラブルの規定が異なる

ガイドラインとは別に、地域によって条例や特例によって物件の契約内容が制限されている場合があります。この項目では、特に注意が必要な「東京ルール」と「敷引き特約」についてご紹介します。

都内の物件が対象の「東京ルール」|賃貸住宅紛争防止条例

都内の物件などに義務付けられており、都内の物件を扱う宅地建物取引士は契約時に必ず以下のことを入居者に説明しなければならないとされています。

  1. 退去時の通常損耗等の復旧は、貸主が行うことが原則であること
  2. 入居期間中の必要な修繕は、貸主が行うことが原則であること
  3. 賃貸借契約の中で、借主の負担としている具体的な事項
  4. 修繕及び維持管理等に関する連絡先

引用元:東京都|賃貸住宅トラブル防止ガイドライン

東京ルールが適用される賃貸物件では通常使用・経年劣化による汚れや破損を入居者負担にすることは原則としてできないのです。

東京ルールの落とし穴

いわゆる「東京ルール」と呼ばれている賃貸住宅紛争防止条例には、都内に存在する全ての物件が対象というわけではありません。東京ルールが適用となる物件の条件は以下の通りとなっています。

適用対象には「宅地建物取引業者が媒介または代理を行う物件」とあります。つまり、賃貸物件を管理会社などではなく、大家さんなどと直接契約しているという方は注意が必要ということになります。

条例の適用対象

  •  東京都内にある居住用の賃貸住宅(店舗・事務所等の事業用は対象外)
    * 都内の物件を扱う場合、都外の宅建業者も説明が義務付けられる
  • 平成16年10月1日以降の新規賃貸借契約(更新契約は対象外)
  • 宅地建物取引業者が媒介または代理を行う物件

引用元:東京都都市整備局|賃貸住宅紛争防止条例

関西地域は特に注意|敷金から天引きする「敷引き特約」

敷引き特約とは、主に関西地方の物件の契約内容に含まれている特約で、原状回復費用を入居者から預かった敷金から天引きして返還するというものです。敷引き特約がある場合は、契約書に明記された金額が敷金から差引きされ返還されます。

ガイドラインによる原状回復の考え方

原状回復は物件を「元に戻す」のではなく、通常使用・経年劣化を考慮した上で、修繕費用の負担割合を考えていくというものです。人が生活している以上、家具の設置により壁や床に軽度のキズがついたり、台所やお風呂場に手入れしきれない汚れが発生したりします。

この項目では具体的にどのような汚れや破損について、原状回復義務が発生するのかについてご紹介します。

原状回復の定義

ガイドラインでは、原状回復に関して以下のように定義しています。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」
引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

賃貸物件などの建物は、経年劣化で壁紙が日焼けしたり給湯器が壊れたりなど、汚れや破損が生じます。また、人が居住することによって日々掃除などの手入れをしていても多少のカビや壁・床の傷が生じます。これらの汚れや破損については、入居者に過失はないためオーナー側で修繕することとされています。

原状回復費用の負担割合

原状回復の際に、どの程度の汚れや破損を通常使用・経年劣化によるものと判断するのかは難しいものです。入居者にとって原状回復費用は聞き慣れないものなので、高額な金額を請求しても妥当かどうかを判断することが難しいものです。

原状回復の際の費用負担の判断基準は以下の表にまとめましたので、確認してみましょう。入居者が原状回復費用を負担する場合は、敷金のうち家賃の2~3ヶ月分の金額を差し引くのが妥当だとされています。

部屋の箇所

入居者負担

オーナー負担

  • 手入れ不足による拡大した壁紙クロスのカビやシミ
  • ネジや釘穴など下地ボートの張替が必要な破損
  • 日焼けなどによる壁紙クロスの変色
  • 下地ボードの張替が不要な範囲の穴(画鋲やピンによるもの)

  • 手入れ不足によるカビやシミ(飲み物をこぼして放置した等)
  • 家具の設置などによる床やカーペットのへこみ

キッチン

  • 通常使用の範囲を超える油汚れやスス汚れ
  • 冷蔵庫の後ろなどの壁紙の汚れ

お風呂

  • 給湯器を空焚きして壊してしまったなどの場合
  • 経年劣化による故障
  • 通常使用の範囲内のタイルのカビ等

ポイントとなるのは耐用年数と入居年数

原状回復で通常使用・経年劣化による汚れや破損であるかどうかを判断する際、建物自体の耐用年数と入居年数が大きなポイントとなります。築年数が古かったり入居年数が長かったりする場合は、通常使用・経年劣化による汚れや破損が考慮され、入居者の負担割合が低くなります。

 

国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

 

特約には要注意

ガイドラインの規定によると、通常使用・経年劣化による汚れや破損はオーナー負担とされています。しかし、契約内容によっては特約をつけることによって、原状回復費用を入居者負担とさせることもできるのです。

ただし、入居者にとって一方的な契約は無効であるため、特約をつける際には以下の要件を満たさなければなりません。

【賃借人に特別の負担を課す特約の要件】

  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復費用が入居者負担となる特約をつけた際は、負担内容や金額などを契約書に明記し、入居者に説明をして合意を得なければなりません。原状回復トラブルでは契約時にどのような説明を受けたのか、理解して捺印したのかなどが重要になってきます。

原状回復トラブルに遭った際に知っておくべき解決方法

原状回復トラブルに遭った際は、入居者とオーナー間で交渉をしながら解決していきます。原状回復や敷金返還などのトラブルは、法律で具体的な規定がない部分もあるため解釈の齟齬(そご)が生じやすい問題です。

この項目では、トラブル解決のための方法をいくつかご紹介します。

話し合いで解決する民事調停

調停とは、話し合いによる解決を目的とした解決方法です。民事調停は簡易裁判所に申し立てることによって行うことができます。話し合いには、2名の調停委員と1名の裁判官が同席し、トラブルの解決案を提示します。

関連リンク:裁判所|民事調停手続

60万円以下の請求は少額訴訟

60万円以下の敷金返還や原状回復費用の請求は、少額訴訟手続で取り戻すことができます。少額訴訟は、1回の審議で判決を下し、トラブル解決を行います。なお、少額訴訟で訴えられた際に、決められた期日に裁判所に出廷できない場合、答弁書を提出するか代理人を立てて証言をしてもらうということになります。

 

裁判所|少額訴訟

引用元:裁判所|少額訴訟

60万円以上の請求・判決の異議申し立ては通常訴訟

敷金返還や原状回復費用の請求金額が60万円を上回った、少額訴訟での判決に異議申し立てを行ったという場合は通常訴訟に移行することになります。通常訴訟の場合は、弁護士の力が必要になります。

過去の裁判から見るトラブル解決の動向

原状回復トラブルで争われる点は、大きく分けて以下の2点であるとされています。

  1. 退去後に賃貸人が行った修繕の対象となった損耗が、貸借物の通常の使用により生ずる損耗を超えるものか否か
  2. 損耗が通常の使用によって生ずる程度を超えない場合であっても、特約により賃借人が修繕義務・原状回復義務を負うか否か

引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復トラブルの相談先

原状回復トラブルの相談先

原状回復トラブルの発生防止のために策定されたガイドラインですが、毎年一定数のトラブルが発生しているのも事実です。敷金が返還されなかった、高額なハウスクリーニング代金を請求されたという場合は弁護士などの専門家に相談し、トラブル解決を図るという方法もあります。

トラブルの判断・解決方法の提案は国民生活センターに相談

原状回復費用や敷金返還トラブルの話を聞いてほしい、法律の観点から見て妥当かどうかを判断してほしい等の場合は国民生活センターに相談するのもひとつです。国民生活センターではトラブルの解決方法の提案などを行うことができます。

関連リンク:国民生活センター|全国の消費者センター等

解決のための交渉や裁判は弁護士に相談

原状回復費用や敷金返還トラブルの解決には入居者とオーナー間での交渉が必要になります。相手と直接交渉としたくない、交渉を有利に進めたいという場合は弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は法律の専門知識であなたの強い味方となることができます。

また、訴訟などの裁判に発展した場合は弁護士の力が必要不可欠となります。

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まとめ

退去時に行う原状回復は、主に国の定めたガイドラインに沿って行われます。ガイドラインの内容を知っておくことで、原状回復費用を請求された際に正当性を主張することができるのです。

この記事で、原状回復トラブルに悩まれている方の手助けができれば幸いです。

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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