原状回復とは|賃貸住宅の退去時トラブルと解決のための全手順

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弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
原状回復とは|賃貸住宅の退去時トラブルと解決のための全手順

原状回復とは、賃貸物件などを退去する際に物件を綺麗な状態に修繕して返すことです。一般的には、「入居前の状態に返す」というイメージがありますが、実際は原則として「通常使用・経年劣化による汚れや傷を考慮して原状に復する」というものです。

原状回復は様々な法律やガイドラインによって規定されています。今回は、原状回復の考え方からトラブルに巻き込まれた際の解決手順までご紹介します。

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原状回復のルールと法律|原状回復ガイドライン

賃貸物件などで発生する「原状回復義務」とは、退去時に物件を綺麗にしてオーナーに返すということです。原状回復は、入居前の状態に戻す修繕ではなく、「通常使用・経年劣化を考慮した上で発生した修繕」と指します。

この項目では、原状回復の法律と知っておくべきガイドラインについてご紹介します。

原状回復に関わる法律|原状回復義務とは

第五百四十五条  当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
引用元:民法

賃貸物件を借りたことがある方は「原状回復」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。原状回復は元の状態にして物件返すというイメージが強いですが、厳密には入居者が居住することによる汚れやキズを考慮して原状に復するということです。

原状回復で修繕が発生した場合は、基本的に敷金から差し引くことになっています。高額な修繕費を請求したり、正当な理由がないのに敷金を全額差し引いたりする場合は、民法や消費者契約法に違反している可能性があります。

第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
引用元:消費者契約法

原状回復と敷金返還トラブル

原状回復は解釈の齟齬(そご)が生まれやすい問題です。「物件を元の状態に戻す」とひとことで言っても、入居年数や物件の耐用年数などによっても、状態は変わります。そのため、原状回復では敷金が返還されないトラブルや高額なハウスクリーニング代金を請求されるトラブルが発生します。

原状回復・敷金返還に巻き込まれた場合は後の項目「」で解決方法をご紹介しています。あわせてご覧ください。

国が定められる原状回復のガイドライン

国土交通省によると、原状回復は以下のように定義されています。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」
引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復は、解釈の齟齬(そご)が発生しやすいことから、ガイドラインが策定されています。不動産管理会社や大家さんなどのオーナーも、このガイドラインを基準に原状確認や原状回復の判断をします。

ガイドラインの内容を理解しておくと過剰な費用請求などの際にすぐ気づいて対応することができます。また、退去時の現状確認などの際に持参しておくと、オーナーに「原状回復について正しく理解している」と示すことができます

原状回復にかかる費用と考え方

原状回復にかかる費用と考え方

原状回復は原則として「通常使用・経年劣化による汚れやキズはオーナー負担」になります。この項目では、わかりにくい原状回復の修繕費用の相場などをご紹介します。

入居者が支払う修繕費用の基準

原状回復の原則は「通常使用・経年劣化による汚れやキズはオーナー負担」です。人が物件に居住していれば、手入れをどんなに行っていても多少のカビや汚れが発生します。家具を設置したり、カレンダーやポスターを掲示したら画鋲などの跡がつくこともあります。これらの汚れやキズは通常使用によるものなので、修繕を行う場合はオーナー負担になります。但し、入居時の契約で当該負担について特別な合意をしていた場合はそれに従うことになります。

部屋の箇所 入居者負担 オーナー負担
手入れ不足による拡大した壁紙クロスのカビやシミネジや釘穴など下地ボートの張替が必要な破損 日焼けなどによる壁紙クロスの変色下地ボードの張替が不要な範囲の穴(画鋲やピンによるもの)
手入れ不足によるカビやシミ(飲み物をこぼして放置した等) 家具の設置などによる床やカーペットのへこみ
キッチン 通常使用の範囲を超える油汚れやスス汚れ 冷蔵庫の後ろなどの壁紙の汚れ
お風呂 給湯器を空焚きして壊してしまったなどの場合 経年劣化による故障通常使用の範囲内のタイルのカビ等

原状回復にかかる費用相場

原状回復は、壁紙やフローリングの借り換えなど、日頃私たちがあまり聞きなれない修繕費用が発生します。原状回復のための請求書を送られた時に、「こんなにかかるものなのか」と思って過剰な金額を支払ってしまう場合もありますが、大まかな相場を知っておくと請求内容が妥当なものか判断することができます。

汚れや破損

修繕内容

料金相場

壁のピン穴

壁紙張替え

約1,000円/2㎡

壁や天井の穴の修復

下地ボード取り替え

約30,000円/1箇所

床板のシミ

床板の汚れ除去

約10,000円/1箇所

床板のカビ・破損

床板の張替え

約8,000円/1㎡

お風呂のカビ

業者によるクリーニング

10,000〜20,000円前後

台所の油汚れ

業者によるクリーニング

15,000〜25,000円前後

部屋全体の軽度の汚れ

業者によるクリーニング

10,000〜30,000円前後

また、原状回復で入居者が支払うのは、原則として入居者が故意・過失によって汚したり傷つけたりした部分のみです。壁紙クロスを張り替えた場合は、傷をつけた一部の修繕費が入居者負担、その周りの壁紙の修繕費はオーナー負担になります。

耐用年数と入居年数による原状回復の考え方

賃貸物件には、築年数など建物自体の耐用年数や入居年数による通常使用・経年劣化によって価値が変動します。原状回復では耐用年数や入居年数に比例して、入居者の負担割合は少なくなります。

近年増えている原状回復・敷金返還トラブルとは

原状回復でトラブルとなるのは、高額なハウスクリーニング料金を請求される、正当な理由がないのに敷金が返還されないなどです。

この項目では、トラブルの発生件数や事例などをご紹介します。

原状回復・敷金返還トラブルの発生件数

原状回復・敷金返還トラブルは年間およそ1,400件発生しています。原状回復・敷金返還トラブルでは、国民生活センターへの相談や少額訴訟などの法的手段によって解決されています。

年度 2011 2012 2013 2014 2015 2016
相談件数 15,518 14,222 13,921 13,913 14,228 13,016(前年同期 13,242

引用元:国民生活センター|賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル

裁判にも発展したトラブル事例

<事例内容>集合住宅に入居していた入居者Dは、解約時に高額な原状回復による修繕費用を請求された。本物件の契約書には原状回復特約として「通常使用・経年劣化による消耗や損耗について入居者負担となる」が記載されていた。しかし、契約に伴い行われた入居説明会で原状回復義務や原状回復特約がある旨は説明されたが、個々の内容については説明されなかった。このことから入居者Dは、修繕費用の請求の無効を求めた。
<結果>原状回復義務や原状回復特約によって入居者負担となるものと契約書に明記されているが、負担金額等の詳細が説明されていないことから「通常使用・経年劣化による消耗や損耗について入居者負担となる」旨の原状回復特約は成立していないとみなされた。そのため、入居者Dには通常使用・経年劣化による消耗や損耗を負担する必要はないと判断された。

参照元:裁判所|敷金返還請求事件 主文

入居者が原状回復・敷金返還トラブルにあった際の解決手順

入居者が原状回復・敷金返還トラブルにあった際の解決手順

原状回復・敷金返還トラブルに巻き込まれた場合は以下の手順で解決していきましょう。

  • 契約内容の確認をする
  • オーナーに請求された修繕費の内訳を確認する
  • 入居・退去時の現状確認書類などから修繕の必要性を判断する
  • オーナーと修繕費用の交渉をする
  • 必要であれば外部の相談窓口を利用する

この項目では、上記の手順について詳しくお伝えします。

契約内容の確認をする

原状回復で高額な修繕費用を請求されたり敷金が返還されなかったりした場合は、まず契約内容に原状回復費用についてどのような記載があったか確認しましょう。

  • 原状回復義務の有無の記載
  • 原状回復に伴う費用負担の具体的内容
  • 「原状回復特約」や「敷引き特約」などの特約の有無や具体的内容

上記のポイントが記載されているか、契約時に説明があったか(内容確認書などの記名や捺印)を確認しましょう。

オーナーに請求された修繕費の内訳を確認する

契約内容を踏まえて、オーナーに請求された修繕費の内訳を確認しましょう。不要なハウスクリーニング料金や明らかに高額な修繕費用を請求されていないかなどを確認することが必要です。

修繕費用を入居者負担にさせる際、敷金などから差し引かれる金額は一般的には家賃の2〜3倍が上限と言われているようです。そのため、この範囲を超える負担は入居者に過剰・一方的な負担を強いている可能性があり、そのような負担義務が法的に否定される可能性もあります。

入居・退去時の現状確認書類などから修繕の必要性を判断する

賃貸物件の入居・退去時には現状確認を行うことがあると思います。現状確認はなるべくオーナーとの立会いのもと行うと良いでしょう。

現状確認は、以下のような書面で行うことが多いと思います。この他にも、入居時に撮影した写真などがあれば、それらの記録を元に修繕の必要性があったかどうかを判断できます。

引用元:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

オーナーと修繕費用の交渉をする

契約内容や修繕の必要性の確認をしたら、オーナーに金額交渉をします。この際は、契約内容などから「この部分の修繕は入居者負担になると思いますが、この部分の修繕はオーナー側の負担になるかと思います」など的確に指摘していきましょう。

交渉をする際は感情的にならないよう冷静に行い、交渉記録(日付や内容)を必ず残しておきましょう。

必要であれば外部の相談窓口を利用する

オーナーとの交渉がうまくいかない、トラブルが複雑化したなどの場合は、外部の相談窓口を利用しましょう。原状回復・敷金返還トラブルは国民生活センターや弁護士に相談することができます。

トラブルに巻き込まれないためには

原状回復・敷金返還トラブルに巻き込まれないためには、入居時・退去時の現状確認と日頃の手入れがポイントとなります。部屋を綺麗に使っていれば、高額なハウスクリーニング代金などを請求されることはありませんし、現状確認をきちんと行っていればオーナーから理不尽な主張をされずに済みます。

この項目では、原状回復・敷金返還トラブルの予防策についてご紹介します。

入居時・退去時の現状確認は立会いのもと書類・写真で残す

入居・退去時には物件の現状確認を行うと思います。現状確認の際は、可能なかぎりオーナーと立会いのもと行い、書面だけでなく写真でも記録しておきましょう。

もしも、入居時の現状確認を行った後に壁紙のヨレや剥がれなどに気づいた場合は、その時点で写真を撮ってオーナーに確認を取るようにしましょう。退去時に、元からあったと主張しても認めてもらえない場合もあるため、「気付いた時に言う」ということを意識しましょう。

日頃の掃除を欠かさず、部屋を綺麗に使う

通常使用・経年劣化による汚れやキズはオーナー負担ですが、手入れ不足による汚れは入居者の過失にあたります。日頃の掃除は欠かさず行い、部屋を綺麗に使うことで原状回復トラブルに巻き込まれずに済みます。

また、退去時は入念な掃除も忘れないようにしましょう。

まとめ

賃貸物件を借りている方にとって、原状回復は切り離せない問題です。原状回復のルールや法律知識を正しく身につけて、トラブルに巻き込まれた際に冷静に解決策を考えられるといいですよね。

この記事で、原状回復に悩んでいる方の手助けができれば幸いです。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。第二東京弁護士会所属。

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