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KL2020・OD・037
老朽化などを理由に物件を建て替える場合には、住民に立ち退いてもらう必要があります。住民が新しい住まい探しに手間がかかるうえ、理想通りの住まいが見つかるとも限らず、立ち退き料を大家さんに請求する場合があります。
立ち退き料の支払いは法律で義務づけられているわけではありませんが、速やかに建て替えるためには検討したほうがよいでしょう。立ち退き料は、どの程度支払う必要があるのでしょうか。
ここでは、大家さんに向けて、立ち退き料の相場や金額の交渉方法などについて詳しく解説します。
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目次
立ち退き料とは、一般的に、土地や建物の賃貸人が賃借人との契約を終了するに当たり、賃借人に契約終了に同意してもらう代償として支払う金員をいいます。
このような立ち退き料は、法律上、賃貸人に支払義務があるものではありません。しかし、土地や建物の賃貸借契約は、たとえ契約期間が終了しても、賃貸人の都合のみで当然に終了できない場合も多々あります。
このような場合に、立退料の提示の有無が、契約終了の可否に大きく影響することがあります。このような契約終了のケースでは、立退料の請求がされたり、支払いがされるということは、実務的にはよくあります。
立ち退き料は、どれぐらい払うことが一般的なのでしょうか。
立ち退き料には具体的な相場はなく、その時々によって大きく異なります。
立退料は法律上支払義務があるものではないため、その計算式や相場も特にありません。一般的には、賃借人側の不動産利用の実態や移転に係る費用を踏まえて算定する事が多いです。
例えば、賃借人が事業者であり、当該不動産で長年営業を続けていたような場合には、移転に伴う影響が大きいことを加味して、営業利益や賃料の数年分の立退料が支払われるケースもあります。
また、賃借人が居住者である場合も、移転により賃料が増大するような場合には、賃料差額の半年~1年分や引越し費用を加味した立退料が支払われるということもあり得ます。
ここらへんはケース・バイ・ケースであり、一律のルールや決まりはありません。
基本的には、賃貸人と賃借人の協議により決めるべき事柄です。ただ、訴訟となった場合、裁判所が一定の立ち退き料の支払いを条件に、明け渡しを命じるということはあり得ます。
ケースバイケースのため、あくまで賃借人との交渉の際の目安となる一例として、家賃5万円の物件から立ち退き、家賃7万円の物件に引っ越してもらう場合、次のような金額相場と内訳を検討してみるのも良いでしょう。
項目 |
金額 |
新しい部屋を借りるための初期費用 |
20万~35万円 |
敷金の返還 |
5万~10万円 |
家賃が高くなった場合|差額2年分程度 |
50万~60万円 |
事業用の建物の場合|営業補償 |
100万~2,000万円 |
合計 |
75万~105万円 (事業用の建物の場合は205万~2,075万円) |
なお、営業補償がかかるのは、事業用建物の場合です。営業補償が必要かどうかで、立ち退き料が大きく変わります。
それでは、各項目の相場と根拠を詳しく説明します。
住人は、立ち退くことになれば、新たな住まいを探す必要があります。立ち退き料には、新しく物件を借りる場合にかかる費用が含まれます。物件を借りるときにかかる費用は、礼金、前家賃、仲介手数料、火災保険料、鍵交換代、引っ越し費用などです。
1例として、礼金は家賃1ヶ月分、仲介手数料は家賃の50%、火災保険料は10,000~20,000円、鍵交換費用は15,000~30,000円、引っ越し業者の手配は40,000~100,000円程度かかることが考えられます。
礼金がなかったり鍵交換済みであったりする物件もありますが、初期費用として大体20万~35万円はかかるでしょう。
敷金は、立ち退き料には含まれませんが、住民が退去するときに返還が必要です。敷金は、入居時に大家さんが預かり、退去時の原状回復費用や、未払賃料分の精算などに充てます。そして、残った敷金を住民に返還しなければなりません。物件の使用状況がよく、ほとんど修繕が必要ない場合には、敷金の大部分を返還することになるでしょう。
特段の取り決めがなければ、家具の設置によるカーペットの凹みや日光による壁紙や畳の変色、壁に貼ったポスターの跡などは、大家さんが費用を負担することになりますので、大家さんが負担する費用を敷金から充当することはできません。ただし、この部分について明確な取り決めがあればそれに従います。
他方、タバコによる畳の焦げ、家具の移動などで生じたフローリングや柱の傷、結露を放置したためにできた大きなカビやシミなどは、取り決めがない場合でも通常は賃借人負担となるでしょう。この場合、これらの原状回復にかかる費用を敷金から差し引き、残った金額を賃借人に返還します。
現在、入居している物件よりも家賃が高い物件に引っ越した場合には、その差額分を立ち退き料として負担するケースがあります。賃貸契約は2年に定められることが多いため、2年分程度の差額分を支払うことが一般的です。例えば、家賃5万円の物件から家賃7万円の物件に引っ越してもらった場合は、月2万円×24ヶ月=48万円が差額となります。
賃借人が差額を立ち退き料の一部として支払われることを見越し、あえて高額な物件に引っ越すようなケースでは、必ずしも差額分を全額負担する必要はありません。また、差額分をどれだけ支払うかについても明確なルールが定められておらず、家賃の差額以外の項目も踏まえたうえで決定します。
安易に、家賃の差額分を全て負担すると伝えないことが大切です。
事業用の物件からの立ち退きを求める場合、立ち退きによって生じた経済的損失を補償する営業補償が必要となる場合があります。
例えば、飲食店や美容室は地域に一定の顧客を抱えており、営業場所が変わることで売上が落ちる可能性が高いと言えます。営業場所の変更が売上低下の原因の場合は、経済的損失の補償として、営業補償を支払うことになるでしょう。営業補償には、移転先店舗の内装にかかる費用や、営業を再開するまでの期間にかかる費用などが含まれることもあります。
売上や営業場所、職種など様々な事情によって営業補償の内容が変わるため、具体的な相場は存在しません。なかには、数千万円もの立ち退き料を支払ったケースもあります。交渉では決まらず、裁判での判決が必要な場合もあるでしょう。高額になりやすいため、できる限り弁護士にサポートしてもらうことが大切です。
前述した通り、立ち退き料には明確なルールが存在しません。一般的な相場はありますが、立ち退き料の支払いについて法律で義務づけられていないため、貸主と借主の交渉次第で金額が大きく変わります。
営業補償についても、公共用地の取得の補償基準を参考に算定することがあります。また、裁判では裁判所が選任した鑑定人が鑑定し、金額が調整されることもあるのです。
基本的に、予算を大幅に超える立ち退き料の支払いは難しいため、大家さんの予算と住人が納得できる金額を踏まえ、根気よく交渉することになるでしょう。場合によっては裁判で決めることになりますが、和解をすすめられることがほとんどです。
立ち退き料を提示しても、賃借人が契約終了に納得しないということは十分あり得ます。このような場合、トラブルとなり、最終的には裁判所で決着を付けなければならないことにもなりかねません。
ここでは立ち退き交渉にあたって注意するべき点を簡単に説明します。
賃借人の納得を得るためには、立ち退き理由を明確にすることは必須です。
賃借人にとって、立ち退き請求が合理性な理由に基づくものであれば、納得してくれるかもしれません。
例えば、立ち退きを求める合理的理由としては以下のような理由が考えられるでしょう。
賃貸人として、確実に退去してもらわなければならない期限を明確にすることも、交渉のカードとしては有効かもしれません。
このような期限を設けることで、協議可能な期間が明白となり、賃借人も真摯に対応することが期待されます。
普段の賃貸人と賃借人の関係性を深めておけば、立ち退きにあたってトラブルになる可能性を事実上低く抑えることはできるかもしれません。
立ち退き交渉が決裂し、賃借人が退去を要求している物件に居座るような場合は立ち退き問題の解決実績が豊富な専門家に交渉を依頼しましょう。
立ち退きを依頼する住人の数が多い場合は、少しでも安くしたいところでしょう。立ち退き料を安くする方法は次のとおりです。
家賃の滞納が続く場合、賃貸借契約を解除することが可能です。
1ヵ月だけの滞納では、賃貸借契約の解除は難しいですが、3ヶ月~半年程度も滞納している場合は、場合によっては債務不履行を理由とする解除ができるかもしれません。債務不履行解除という形であれば、立ち退き料は必要ありません。そのため、家賃滞納の記録を残しておき、状況によっては賃貸借契約を解除するといいでしょう。
また、家賃滞納がある時点で、立ち退き料の交渉を有利に進めることが可能です。ただ、家賃を滞納しているということは、支払い能力がないということです。そのため、一定の立ち退き料と引き換えに退去を求めることは比較的容易かもしれません。
通常の賃貸借契約では、借地借家法により大家さんが一方的に契約解除や不更新を主張することはできません。立ち退き料が必要となるのはそのためです。
一方で定期借家契約の場合は、借地借家法の一部が適用されないため、契約を更新せずに終了させることが可能となります。この場合は定められた期間が経てば自動的に契約が終了するため、立ち退き料を支払う必要はありません。
定期借家契約では、次の要件を満たしている必要があります。
また、一時使用のための賃貸借契約についても借地借家法の適用がありませんので、期間満了により契約は終了します。そのためこの場合も立ち退き料は不要です。住宅や店舗をリフォームする際に、仮の住居や店舗として物件を借りるケースがあります。
高額な立ち退き料を請求されたり、交渉を拒否されたりと、立ち退きにはトラブルがつきものです。立ち退きに関するトラブルは、弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談するメリットや、どのような対応が可能か詳しく解説します。
立ち退き料は、まずは賃借人と大家さんが交渉して決定します。しかし、直接交渉した場合、感情的になったり、高額な立ち退き料を請求されたりして、スムーズに事が運ばない可能性があります。
弁護士には、代理人として住人との交渉を任せられるため、スムーズな解決に繋がるでしょう。住人としても、法律の専門家である弁護士が交渉することで、無理な要求をしづらくなります。
また、弁護士に代理人を任せられれば、大家さんは煩雑な交渉や計算から解放されます。
交渉してもお互いに納得できる形で立ち退き料が決まらなかった場合、裁判で争うことになります。訴訟を起こすために必要な面倒な手続きを弁護士に任せられます。手続きのミスで無駄に時間を費やす心配もありません。
弁護士は、大家さんの代理人として出廷することが可能です。そのため、大家さんは住人と顔を合わせることなく、普段の業務に集中できます。また、過去の判例や法律を踏まえ、住人が納得して早々に解決できるように裁判を進めてくれます。住人も弁護士をつけている可能性があるため、大家さんも弁護士のサポートを受けたほうがよいでしょう。
裁判の途中での和解も可能ですが、実現できない場合は裁判官が判決を下します。弁護士に代理を依頼することで、大家さんにとってよい判決となる可能性が高まるでしょう。
立ち退き料には、引っ越しにかかる費用や家賃の差額、営業補償などさまざまな要素が含まれます。そのため、相場よりも高い立ち退き料を提示してしまう恐れがあります。建物の老朽化や耐震工事などによる立ち退きでは、同時に複数の賃借人に立ち退き料を支払うことになるため、計算を誤ると、それだけ大きな損失を受けるでしょう。
弁護士であれば、妥当な立ち退き料を算出できるため、損をする心配がありません。また、相場よりも低い立ち退き料を提示することで、住人の心象が悪くなり、交渉が難航する場合もあります。妥当な立ち退き料を提示することで、交渉をスムーズに進めやすくなるでしょう。
立ち退き料には具体的な相場がありません。基本的に、大家さんと賃借人が交渉し、お互いに納得できる立ち退き料を支払うことになります。営業補償が絡むと、数千万円もの立ち退き料が必要になる場合もあるため、大家さんが直接交渉することは避けた方がいいでしょう。
弁護士であれば、判例や法律を踏まえ、妥当な立ち退き料を提示できます。交渉では話がまとまらず裁判になったとしても、大家さんにとってよい結果となるようにサポートしてくれます。
また、交渉や裁判所への出廷などを依頼することで、大家さんは日々の業務に集中できます。交渉が長引き、建て替えなどに支障をきたさないように、早めに弁護士に依頼しましょう。
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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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