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KL2020・OD・037
放火罪は不特定多数の命、身体、財産を損なうため、場合によっては殺人罪と同等の罰則が科される重い罪です。
放火罪は大きく分けて故意・過失の2種類に分類できます。ここでは故意に放火をした場合の罰則を解説していきます。
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目次
放火罪は正式名称ではありません。放火した対象により罪名が異なります。
対象 |
人のいる建物 |
人のいない建物 |
建物以外への放火 |
問われる罪 |
現住建造物等放火罪 |
非現住建造物等放火罪 |
建造物等以外放火罪 |
刑法 |
刑法第108条 |
刑法第109条 |
刑法第110条 |
法定刑 |
死刑または無期もしくは5年以上の懲役 |
2年以上の有期懲役 |
他人所有物の焼損・公共の危険を生じさせれば1年以上10年以下の懲役 |
人のいる建物へ放火を行えば現住建造物等放火罪、人がいない建物は非現住建造物等放火罪、建物以外への放火は建造物等以外放火罪となります。
それ以外ですと、放火を準備した場合・未遂の場合・消火活動を妨害した場合にも罰則が設けられています。それぞれ解説していきましょう。
人のいる建物へ放火した場合に問われるのは現住建造物等放火罪で、放火罪の中で最も重い罪になります。
人が居住・使用している、建物・電車・新幹線・艦船・鉱坑へ放火した場合に適用され、殺人罪と同じ法定刑である死刑または無期もしくは5年以上の懲役が科されます。(刑法 第108条)
『現住建造物等』にはどんな建物が含まれるのでしょうか。
『現住建造物等』に該当するのは、次のような建物です。
夜間は人がいない学校や、別荘など一時的にしか利用しない建造物も含まれ、旅行や買物などで外出している場合であっても人が使用する抽象的可能性があれば現住性が認められます。
建物から取り外せる障子・畳・ふすま・カーテン・布団などを燃やした場合であっても、この燃焼物から建物が焼損する現実的な危険性が認められる場合には、現住建造物等放火罪等が成立します。
自動車への放火は、後述する現住建造物等以外放火罪に当たるでしょう。
『現住建造物等』には含まれませんが、これが建物に隣接しており、自動車への焼損行為が建物への延焼を招く危険性が明らかであれば、現住建造物等放火罪が成立する可能性があります。
人のいない建物に放火した場合は非現住建造物等放火罪に問われることになります。(刑法 第109条)
具体的な罰則を確認していきましょう。
非現住建造物等放火罪 |
他人の建造物を焼損した場合 |
2年以上の有期懲役 |
自己所有の建造物に放火し、周囲に燃え移るなど公共の危険を生じた場合 |
6ヶ月以上7年以下の懲役 |
|
自己所有の建造物に放火したが、公共の危険を生じなかった場合 |
罰せられない |
人がいない他人の建造物を焼損した場合は2年以上の有期懲役、懲役の上限は20年なので、2年以上20年以下の懲役が科されます。
放火した段階での人の有無が問題なので、極端な例ですが、人が使用していない廃屋であっても、そこに人がいるときにあえて放火を行えば現住建造物等放火罪が成立します。
また人がいることに気づかず納屋などに放火し、人を死に至らしめてしまった場合は、非現住建造物等放火罪と過失致死罪に問われることになるでしょう。
住居者全員を殺害した上で放火した場合は、生きている人の使用可能性がないため非現住建造物等放火罪が成立し、人を殺したことについて別途殺人罪が成立します。
この場合の非現住建造物等には、車や犬小屋などは含まれません。これら物品への放火は建物等以外放火罪です。
(懲役)
第十二条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
引用元:刑法第12条
自分の所有している建造物等に人がいない状態で放火をした場合で、周囲に延焼する可能性があるなど公共の危険が生じた場合は、6ヶ月以上7年以下の懲役が科されることになるでしょう。
(非現住建造物等放火)
第百九条
2 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。
引用元:刑法 第109条 2項
例えば、自宅にある納屋を取り壊すにあたってこれに放火するという行為は、周囲に延焼する可能性が低い状態で行えば、罰せられることはありません。
これは公共の危険が生じていないからです。
しかし、この納屋が他の建物に隣接しており、燃え広がる可能性があるという場合には、公共の危険が生じたものとして、非現住建造物等放火罪が成立する可能性があります。
また、自己所有の建物であっても下記の場合、他人の所有物とみなされ公共の危険の有無にかかわらず非現住建造物等放火罪に該当することになります。
他人の所有物とみなされる場合とは…
(差押え等に係る自己の物に関する特例)
第百十五条 第百九条第一項及び第百十条第一項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。
引用元:刑法第115条
つまり、保険金目当てで、火災保険に加入して人がいない状態の自宅に放火した場合は公共の危険いかんにかかわらず、非現住建造物等放火罪に該当することになります。
自己所有の建物に放火をしても周囲に燃え広がるような危険性がない、あるいは燃え広がらなければ罰せられることがありません。
一方、保険に加入している自宅は他人所有とみなされるため、放火をすれば公共の危険の有無にかかわらず、2年以上の有期懲役に処されることになります。
このように放火罪は、放火対象、現実的危険性の有無によって、罰則が大きく異なるのです。
非現住建造物等放火罪 |
他人の建造物を焼損した場合 |
2年以上の有期懲役 |
自己所有の建造物に放火し、周囲に燃え広がるなど公共の危険を生じた場合 |
6ヶ月以上7年以下の懲役 |
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自己所有の建造物に放火したが、公共の危険を生じなかった場合 |
罰せられない |
建造物等以外放火罪は、放火対象が自動車・オートバイ・犬小屋・家具・ゴミなどだった場合に成立します。
(建造物等以外放火)
第百十条 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法第110条
建造物等以外放火罪は、現住建造物等放火罪や非現住建造物等放火罪(自己所有物を除く)とは異なり、公共の危険が具体的に生じない限り放火行為によって罰せられることはありません。
アパートのゴミを燃やし、器物損壊罪で逮捕されたケースがあります。
この場合は、周囲へ燃え移るなどの公共への危険が見られなかったために、放火ではなく器物損壊罪が適用されました。
器物損壊罪は下記のよう定められていて、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料が科されます。
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
引用元:刑法第261条
罪名 |
成立要件 |
放火予備罪 |
現住建造物や非現住建造物に放火する目的でガソリンなどを購入し準備 放火の準備から実行に着手しない段階 |
放火未遂罪 |
実際に着火したが、焼損に至らなかった場合 |
放火予備罪と未遂罪の違いは上記です。
自動発火装置を仕掛ける・ガソリンをまくといった行為は着火していなくても着火される状況や燃える状態を誘発しており、意図的に行えば着火していなくても、未遂罪が適用される場合があります。
放火予備罪の罰則は2年以下の懲役、未遂罪に関しては刑法第43条・第44条に記載されています。
延焼罪(えんしょうざい)は自己所有物に放火し、思ったよりも燃え広がってしまい、結果的に他人の所有物を燃やしてしまった場合に成立します。(刑法 第111条)
構成要件 |
罰則 |
|
延焼罪 刑法第111条 1項 |
自己が所有する非現住建造物に放火した結果 |
3ヶ月以上10年以下の懲役 |
延焼罪 刑法第111条 2項 |
自己が所有する建造物等以外に放火した結果 |
3年以下の懲役 |
刑法第111条の1項と2項は延焼対象が現住または非現住(他人所有)の建造物であるか、建造物等以外(他人所有)であるかという点で罰則の重さに違いがあります。
自宅に放火し、他人の現住または非現住の住居に延焼させた場合は1項に該当し、自分の車に放火して他人の自動車に延焼させた場合は2項に該当します。
消火活動を妨害すれば1年以上10年以下の懲役が科されます。(刑法 第114条)
このとき、妨害行為があれば実際に消火が妨害されたか否かにかかわらず消火妨害罪が成立します。妨害行為の対象は消防隊員などに限られません。
ただし、不作為による消火妨害罪が問題になる場面(例:いがみ合っている知人の家が燃えていることに気づいたが通報せず放置してその家が全焼した場合など)では、法律上の作為義務を有する居住者や消防職員・警察官などでない人についての消火妨害罪は成立しないと考えられています。
激発物破裂罪(げきはつぶつはれつざい)は、次のような行為をした場合に成立する可能性があります。
現住建造物等を損壊させた場合は、現住建造物等放火罪と同等の死刑または無期懲役もしくは5年以下の懲役と重い罪が科せられます。(刑法 第117条)
また、爆発させることで人を死傷させた場合、傷害罪、場合によっては殺人罪に問われ、重い刑罰によって裁かれることになります。
ガス漏出等及び同致死傷罪は、火気(ガス)に限らず電気や蒸気も含みこれらを漏出、流出、遮断し、人の生命・身体・財産に危険を生じさせた場合に成立します。
罰則は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。(刑法 第118条)
これらのものの漏出、流出、遮断によって他人が死傷した場合には、ガス漏出等致死傷罪と傷害罪とを比較して重い方の罪で処断される、というのが2項の規定になります。
ガスなどを漏出させ死亡させた場合は、ガス漏出等及び同致死傷罪の3年以下の懲役または10万円以下の罰金よりも重い、傷害致死罪の3年以上の有期懲役に科せられる可能性が高いといえるでしょう。
(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
引用元:刑法第205条
このような重い罪が規定された背景に、日本家屋が木造建築で建てられていた時代にわずかな火元からでも大火災に発展したケースが多々あったことも関係しているでしょう。
今でこそある程度は防火対策が進んでいますが、放火は不特定多数の人の生命や財産等に危険を及ぼすため、現在もなお重大事犯であることには違いありません。
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