薬剤師による医療過誤(調剤過誤)を疑う方が病院へ責任を問う方法

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弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
薬剤師による医療過誤(調剤過誤)を疑う方が病院へ責任を問う方法

薬剤師による医療過誤(いりょうかご)は、一般的に調剤過誤(ちょうざいかご)と呼ばれています。そもそも医療過誤とは、医師や看護師など医療に携わる仕事をしている者が医療行為中のミスによって患者の生命・身体に害悪を生じさせる行為全般を言います。

薬剤師による医療過誤(調剤過誤)と言えば、2005年に虎の門病院で発生した事故が記憶に新しいかもしれません。当時、肺がん治療のために入院していた60代の男性大学教授が、肺炎薬を過剰に投薬されたために死亡したのです。

2008年3月に死亡した男性の遺族が提訴した結果、担当の薬剤師に過失があったと認められ、慰謝料として2365万円の支払いが命じられました。薬剤師法24条にある「処方せんに疑わしい点があるときは、交付した医師に問い合わせて疑義(ぎぎ)を確かめた後でなければ調剤してはいけない」という内容の違反に該当したとされています。

処方せん中の疑義

第二十四条  薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。

引用元:薬剤師法

あなた自身または家族が、通院や入院などにより病状が悪化してしまった場合、薬剤師による医療過誤(調剤過誤)の可能性があるかもしれません。そこで今回は、薬剤師による医療過誤(調剤過誤)を疑う方が、病院へ責任を問うために必要な知識や手順についてご紹介します。

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医療過誤(調剤過誤)の主な原因と事故の発生件数

医療過誤(調剤過誤)の主な原因と事故の発生件数

ヒヤリ・ハットが発展すると医療過誤(調剤過誤)になる

ヒヤリ・ハットとは、処方する薬の分量や種類を間違えていたことに途中で気づき、大事に至らなかった事例のことを言います。医療過誤は、ヒヤリ・ハットが発展して起こる事故と言って良いでしょう。

日本医療機能評価機構の統計によると、ヒヤリ・ハットの中で最も多いのは、薬の数量間違いだと分かります。次に、多いのは薬剤の取違えです。どちらも、患者の命に危険がさらされる可能性があるため、非常に恐ろしいことだと感じるのではないでしょうか。

公益財団法人日本医療機能評価機構

発生場面

事例の内容

件数

調剤

調剤忘れ

140

処方せん監査間違い

105

秤量間違い

12

数量間違い

727

分包間違い

65

規 格・ 剤 形 間 違 い

365

薬剤取違え

410

説明文書の取違え

1

分包紙の情報間違い

19

薬袋の記載間違い

92

そ の 他( 調 剤 )

402

管理

充填間違い

15

異物混入

1

期限切れ

3

そ の 他( 管 理 )

3

交付

患者間違い

18

説明間違い

4

交付忘れ

25

そ の 他( 交 付 )

6

合  計

2,413

引用元:公益財団法人日本医療機能評価機構

薬剤師による医療過誤(調剤過誤)と医療事故(調剤事故)の違い

薬剤師による医療過誤(調剤過誤)と医療事故(調剤事故)の違いを以下にまとめました。大まかには、人為的ミスだと断定できるものは医療過誤、そうでないものは医療事故と分けられています。

薬剤師による医療過誤(調剤過誤)と医療事故(調剤事故)の違い

医療過誤(調剤過誤) 薬剤師が用量や薬品名の調剤ミスなどの人為的ミスにより、患者に健康被害が及んだ場合のことを言います
医療事故(調剤事故) 薬剤師の過失有無に関係なく、調剤した薬によって患者に健康被害が及んだ場合のことを言います

事故の発生件数

以下に、日本薬剤師会で報告された医療事故(調剤事故)の件数をまとめました。平成13年には45件あった医療事故が、平成20年には27となっています。ゆるやかではありますが、発生件数は減少傾向にあることが分かります。

事故の発生件数

日本薬剤師会に報告された調剤事故件数

平成13年

平成14年

平成15年

平成16年

平成17年

平成18年

平成19年

平成20年

件数

45

47

38

18

27

33

33

27

参照元:栃木県薬剤師会

医療過誤による訴訟件数

医療過誤による訴訟件数を以下にまとめました。1970年と2000年に起きた訴訟件数を比べると、7.7倍も増えていることが分かります。医療過誤自体は減少傾向にありつつも、事故が起きたときに訴訟を選ぶ人が増えていると推測できます

1970

1980

1990

2000

102件

310件

352件

795件

参照元:医療事故の法律相談(全訂版)

過去の裁判事例

2010年に埼玉県の薬局に努める薬剤師が起こした医療過誤(調剤過誤)です。マグミット錠を自動錠剤分包機で一包化する際、誤って毒薬のウブレチドを一包化してしまったのです。毒薬であるウブレチドを服用した患者は間もなくして亡くなりました。この事件で、該当の薬剤師は業務上過失致死容疑で書類送検されています。

参照元:公益社団法人日本薬剤師会

医療過誤(調剤過誤)により薬剤師が問われる責任と義務

薬剤師として負うべき義務と、医療過誤となった場合に問われる責任をまとめました。まず薬剤師には、医師の処方箋の元に薬を調剤し、「患者に正しく服用してもらうように努める義務」があります。

万が一、薬剤師が医療過誤を起こしてしまった場合、民事責任・刑事責任・行政責任という3つの責任が問われることとなります。どういった内容なのかについて以下にまとめました。

責任の種類

責任の種類

医療過誤を起こした場合に薬剤師が問われる3つの責任について、それぞれ確認していきましょう。

民事責任

薬剤師や病院側と話し合いや訴訟などによって解決する責任のこと言います。警察や検察官は介入しません。医療訴訟は民事責任を問う訴訟です。

刑事責任

医療過誤行為が刑罰の対象となるかどうかを審査する手続です。捜査機関(警察や検察官)の捜査に基づき起訴・不起訴が判断され、起訴されれば裁判所が審査を行います。ここでは純粋に刑罰適用の有無のみが審査されます。適用される刑罰法規としては刑法第211条(業務上過失致死傷)が考えられます。

業務上過失致死傷等

第二百十一条  業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

引用元:刑法

行政責任

行政責任を負うとは、厚生労働省などの当局が薬剤師に一定の処分を行うことです。具体的には、業務停止や資格取消などが挙げられるでしょう。

薬剤師が負うべき義務

次に薬剤師が負うべき義務についてまとめました。基本的には、薬剤師法に定められた内容を遵守しながら業務に従事しなければなりません。

薬剤師法第21条「調剤の求めに応ずる義務」

薬剤師は、医師などから調剤の求めがあった場合、正当な理由がない限り拒否できません。

薬剤師法第22条「調剤の場所に関する義務」

病院など特定の場所以外で調剤を行うことは禁止されています。

薬剤師法第23・24・26条「処方箋に関する義務」

薬剤師は、医師による処方箋に従って調剤を行う義務があるというものです。

薬剤師法第25条「薬剤の表示義務」

本来、処方すべき患者とは異なる人へ薬を交付しないよう努めるとともに、用法・用量を誤って服用しないよう努めなければなりません。

薬剤師法第25条の2「情報提供の義務」

調剤した薬を適切に服用してもらうために、必要な情報を患者に提供する義務があるというものです。

刑法第134条「守秘義務」

患者の情報を本人の許可なく外部に漏らしてはいけないという義務です。守秘義務を破った場合、薬剤師は6ヶ月以下の懲役または10万円以下の罰金刑に処されます。

秘密漏示

第百三十四条  医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法

薬剤師による医療過誤(調剤過誤)について相談できる機関

薬剤師による医療過誤(調剤過誤)について相談できる機関

もし、あなた自身または家族が、医療過誤の被害に遭ったと考えられるとき、どこ相談すれば良いのでしょう。もし、病院または薬剤師側に責任を問いたいと思うなら、法律のプロである弁護士に相談するのがおすすめです。

誰かに話を聞いてほしい、確信が持てないからまずは専門家の意見が聞きたいということであれば、専門の相談機関に問い合わせてみるのも手段のひとつです。

ADR(裁判外紛争解決手続き)

ADR(裁判外紛争解決手続き)とは、医療などの専門知識を持った者たちが間に入り、和解策の提案や仲介を行うことで平和的な解決を目指すための機関です。

医療事故相談センター

都道府県の地域ごとに設置されている民間の相談機関です。地域によっては、弁護士の有志たちで構成されているケースもあります。

その他の相談機関

その他、民間で運営されている相談機関を一覧にまとめました。気軽に相談できそうな機関を探している方は、下記の窓口を利用すると良いでしょう。

神奈川県医療安全相談センター

平日のみ

045-210-4895

午前10~12時、13~15時

京都医療ひろば

毎週水曜日

075-365-2633

18時30分~

患者の権利オンブズマン

第2、第4木曜日のみ

03-5953-3121

午前10~12時

長野県医療安全支援センター

月曜~金曜日

026-235-7145

午前8時30分~12時、13時~17時

弁護士

法律のプロである弁護士です。あなたが置かれている状況に合わせて具体的な解決プランや見解がもらえるでしょう。初回相談であれば無料で受けてくれる弁護士事務所も多いため、活用してみることをおすすめします。

病院や薬剤師に医療過誤(調剤過誤)の責任を問う方法

病院や薬剤師に医療過誤(調剤過誤)の責任を問う方法

病院や薬剤師に医療過誤の責任を問う方法は、主に3つあります。それは、話し合いによって解決する示談交渉、慰謝料請求や薬剤師の非を認めさせるための医療訴訟、懲役や罰金刑に科せられる刑事告訴です。

示談交渉

一般的には、薬剤師または病院と話し合いを行って解決を目指す示談交渉から始めるのが基本です。

医療訴訟を起こす

示談交渉で話がまとまらない場合は、医療訴訟を起こします。大まかな流れを下図にまとめています。

医療訴訟を起こす

慰謝料の相場

医療訴訟を起こした場合、獲得できる慰謝料はケース・バイ・ケースであり、明確な相場はありません。医療過誤の内容や、患者が受けた被害の状況(死亡した・後遺障害が残ったなど)によって金額が定まるものと思います。。

刑事告訴を行う

刑事告訴は、検察官が起訴するかの判断を行い、起訴され有罪と認められた場合、行為者は罰金刑や懲役刑などの刑罰を受けることとなります。下図に大まかな流れを記載しています。
刑事告訴を行う

弁護士に依頼した方が良い理由と弁護士費用の相場

病院や薬剤師を相手に医療過誤の責任を問う場合、弁護士に依頼した方が良いとされています。なぜ弁護士に依頼した方が良いのか、医療過誤問題に精通した弁護士を探すポイント、弁護士に依頼した場合の費用についてまとめました。

弁護士依頼した方が良い理由

弁護士に依頼した方が良い理由、それは医療のプロを相手に素人が医療過誤の責任追及をするためです。また、証拠は病院側が保持していること、医療過誤の原因追及はプロでも難しい点も弁護士に依頼した方が良い理由に挙げられます。

医療過誤に精通している弁護士を探すポイント

医療過誤に精通している弁護士を探すポイント、それは医療問題の解決実績が豊富であることが挙げられます。さらに、協力医とのパイプがあることや医療文献が弁護士事務所に揃っていることもポイントです。

弁護士費用の相場

医療過誤の問題解決を弁護士に依頼した場合、どのくらいの費用がかかるのでしょう。費用の相場を下図にまとめました。

相談料 30分あたり約5,000円~10,000円
証拠保全の依頼費用 450,000円~550,000円
過失調査費用 270,000円~320,000円
交渉・調停依頼 着手金:10~100万円報奨金:示談金額の15~30%

まとめ

薬剤師による医療過誤を疑ったとき、まずは専門機関に相談して、専門家からの見解を聞いてみることをおすすめします。相手は医療のプロですから、あなたが一人で医療過誤についての責任追及を行うことは非常に困難です。より良い解決へと導くためにも、慎重かつ確実に行動を進めていきましょう。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。第二東京弁護士会所属。

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