医療過誤の時効|時効を迎える前にすべき準備と必要知識

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
医療過誤の時効|時効を迎える前にすべき準備と必要知識

医療過誤とは、医師や看護師の「人為的ミス」によって起きた事故のことを言います。例えば、同じ注射器を使い回したために、感染症を起こしてしまうことなどが挙げられます。医療過誤などの損害賠償請求には時効が設けられており、期間内でなければ病院側に責任追及ができないことになえいうることをご存知でしょうか。

そこで今回は、医療過誤の時効についてご紹介すべく、時効はどのくらいあるのか、時効が近いときの対処法、時効前にすべき準備や必要な知識についてまとめました。

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医療過誤の時効

医療過誤の時効

医療過誤などの損害賠償請求には明確な時効が設けられています。仮に、あなたが医療過誤の事実を知らなかったとしても、時効成立後に病院側の非を責めることはできません。悔いの残る結果とならないよう、まずは医療過誤の時効について確認しましょう。

不法行為|時効3年

不法行為に基づく損害賠償請求権の期間の期限は、一定期間内に請求者が権利を行使しないと請求権が失われると決められています。具体的には、被害者が医療過誤の事実を知ってから請求権を行使しない期間が3年間続いた場合(消滅時効)または、被害者が事実を知らなくても、医療過誤が発生してから請求権を行使しない期間が20年間続いた場合(除斥期間)と民法724条に定められています。

不法行為による損害賠償請求権の期間の制限
第七百二十四条  不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用元:民法(724条)

債務不履行|時効10年

病院側が、診療契約に定められた方法で医療行為をしなかったために事故が起きた場合、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることもできます。債務不履行の場合、権利を行使できる時(起算日)から10年の経過により時効(消滅時効)となります。

債務不履行による損害賠償
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

消滅時効の進行等
第百六十六条  消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2  前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

債権等の消滅時効
第百六十七条  債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2  債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
引用元:民法

治療記録の保管期限

医療過誤に関するタイムリミットが設けられているのは、医療過誤による損害賠償請求権だけではありません。実は、医療過誤を立証するために必要なカルテやレントゲン写真にも、保管期限が定められています。

そのため、医療過誤の請求権は時効前であっても、証拠となり得るカルテなどの記録は破棄されている可能性があるかもしれません。医療過誤で訴訟などを起こす際は、1日でも早くカルテを取り寄せ証拠の確保をしておきましょう。

医療過誤で訴訟を検討する際に必要な知識

医療過誤で訴訟を検討する際に必要な知識

時効がくる前に医療過誤で訴訟をする際、知っておくと役立つ知識を以下にまとめました。大まかな内容は、医療過誤での訴訟にかかる費用や期間、勝訴率などの基本的な知識となります。

医療記録の開示は個人でも申請できるのか

カルテやレントゲン写真などの医療記録は、個人でも開示手続きの申請ができます。指定の申請書に必要事項を記載の上、病院に提出すれば約2~3週間ほどでカルテの写し等を受け取ることが可能です。他にも、申請すれば以下の記録が得られます。

  • レントゲン写真
  • 医師の診断記録
  • 手術や麻酔などの記録
  • 検査結果の報告書
  • 看護師の記録
  • 外来診察の記録 など

ただし、病院側でカルテを改ざんする危険性があるときは、弁護士へ相談して指示を仰ぐのが望ましいかもしれません。

医療過誤の訴訟にかかる目安の費用

医療過誤の訴訟でかかる費用の目安を以下にまとめました。訴訟を起こすと言っても、弁護士費用など様々な経費がかかります。案件の内容などにもよりますが、最低でも30万円以上の費用が必要となるでしょう。

費用項目 目安の金額
相談料(1時間) 10,000円
着手金 320,000円~540,000円
報酬金 利益の1割
訴訟費用 210,000円
日当 20,000~50,000円
実費(弁護士の交通費、調査費用など) 30,000円~

医療過誤で訴訟を起こした場合の審理期間

医療過誤で訴訟したときの審理期間は年々短くなっています。1998年では35.1ヶ月だったのに対し、2008年には24.0ヶ月と11.1ヶ月も短くなっています。とはいえ、約2年もの期間がかかるため、それなりの覚悟を持って臨む必要があるのではないでしょうか。

審理期間
1998年 35.1ヶ月
1999年 34.5ヶ月
2000年 35.6ヶ月
2001年 32.6ヶ月
2002年 30.9ヶ月
2003年 27.7ヶ月
2004年 27.3ヶ月
2005年 26.9ヶ月
2006年 25.1ヶ月
2007年 23.6ヶ月
2008年 24.0ヶ月

参考書籍:「医療事故の法律相談」

医療過誤で訴訟を起こしたときの原告勝訴率

医療過誤で訴訟を起こした場合の原告勝訴率は、20%以下とかなり低い数値であることが分かります。代わりに「和解率」が50%前後あり、医療過誤の訴訟は勝訴だけを解決方法としない傾向があると言えます。

勝訴率 和解率
1998年 17.3% 48.9%
1999年 12.3% 46.9%
2000年 20.6% 45.8%
2001年 17.7% 44.0%
2002年 17.1% 43.8%
2003年 17.3% 49.0%
2004年 15.9% 46.1%
2005年 14.2% 49.8%
2006年 12.3% 53.2%
2007年 13.4% 52.1%
2008年 10.0% 50.0%

参考書籍:「医療事故の法律相談」

病院側に請求可能な賠償の種類

医療過誤で訴訟を起こす際、病院側に請求できる賠償は大きく分けて3つあります。症状や医療過誤の内容によって、どのくらいの損害を被ったか算出する指標として覚えておくと良いでしょう。

積極損害

医療過誤によって、被害者が身体に損害を受けた場合にかかる費用のことです。例えば、入院治療費、葬儀代、交通費が挙げられます。

消極損害

消極損害とは、医療過誤で受けた被害によって失われた費用のことです。例えば、仕事を休むことで得られなくなったお給料が挙げられます。

慰謝料

医療過誤によって受けた「精神的被害」に対して支払われるお金のことです。もし、被害者本人が死亡した場合は、被害者の遺族が慰謝料を請求できます。

消滅時効後の責任追及は一切できないのか?

消滅時効が成立した後でも、20年の除斥期間が経過していなければ、訴訟を起こす、責任を追及するなどの行為は一応可能です。しかし、病院側が時効を援用すると患者側の請求権は失われてしまいます。病院側に何かしらの責任追及を行う場合は、必ず消滅時効が成立する前までに行いましょう。

医療過誤により入院中または治療中でも賠償請求は可能か

基本的に、医師が義務違反を犯しているか、具体的にどんな損害が発生しているかを立証する必要があります。医療過誤によって入院または治療中のときは、治療費も確定していませんし、後遺症の有無も分かりませんから、損害を正確に立証できる状態ではないと判断され、賠償請求は原則認められないでしょう。

被害者が死亡したときは必ず解剖すべきかどうか

必ずしも解剖すべきとは言えません。ただし、被害者の死亡原因として医療過誤が疑われるときは解剖の依頼をおすすめします。解剖を実施すれば、ほとんどのケースで死因を特定できるでしょう。

医療過誤を刑事事件にできるのか

刑事事件にすることは可能ですが、必ずできるとは言えません。なぜなら、医療過誤に対する損害賠償請求と、医療過誤に対する罰則では要件が異なるからです。また、事件として処理する必要があるかや、起訴が妥当かの判断は、検察官に委ねられています。

医療過誤の時効が近いときの対処法

医療過誤の時効が近いときは、時効の中断手続きを行いましょう。具体的な手続きとして「催告」をします。方法は、内容証明郵便などを利用して、病院側に発生した損害を賠償するように催告するのです。

ただし、催告による時効中断の期限は6ヶ月しか認められないため、訴訟などを起こす場合は催告後6か月以内に対応する必要があります。

医療過誤の疑いが浮上したら記録すべきこと

医療過誤の疑いが浮上したら記録すべきこと

万が一、あなた自身または家族や友人に医療過誤の疑いが浮上したら、記録に残しておくべき5つのことがあります。もしかすると、医療過誤を立証する証拠のひとつになり得るかもしれません。

治療方法や投薬の内容

ひとつ目は、治療方法や投薬の種類などを記録しておくことです。その際、治療や投薬を受けた日時も、合わせて記録しておくのがおすすめです。また、その時の領収書や処方箋などは捨てずに保管しておきましょう。

事故発生時の状況や病院側の対応

ふたつ目は、医療過誤と思われる事故が発生した際、病院側がどのような対応をしていたかの記録です。時系列ごとにまとめておくと良いでしょう。可能であれば、病院側の説明をICレコーダーなどで録音しておくことをおすすめします。

症状がでたときの状態や日時

具体的にどのような症状が出たか、記録を日時ごとに残しておきましょう。後に、医療過誤を証明する証拠になり得るだけでなく、詳しい病名などを調べる際にも役立つ可能性があります。

他の病院や医師からの診断内容など

他の病院や医師に診断してもらった場合も同様です。専門知識を有した者の診断内容ですから、証拠として認められる可能性が高いと言えます。こちらも、時系列でまとめておくと良いでしょう。

医師や病院との話し合い内容

医療過誤について、担当医師や病院側の人間と話し合った場合も記録に残しておきましょう。要点をメモに残す方法もありますが、併せてICレコーダーなどの録音機器で音声を記録するのが一番おすすめです。

まとめ

医療過誤による損害賠償請求権には時効が設けられており、その期限を超えた場合、時効を援用されると請求権が失われてしまいます。もし、病院側に医療過誤による損害賠償請求をするときは、必ず時効期間内に手続きをしましょう。

また、医療過誤での訴訟は、専門知識が必要なことやカルテなどの証拠は病院側が持っていることから勝訴が難しいとされています。少しでも被害者側に有利な結果を得るためにも、医療過誤に詳しい弁護士に相談の上、手続きを進めることをおすすめします。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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