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KL2020・OD・037
医療訴訟(いりょうそしょう)とは、医師等の医療行為により、患者が死亡・負傷した場合に、当該死亡・負傷により生じた損害について賠償を求める訴訟全般をいいます。基本的には、医療行為を受けた患者やその家族が、病院や医師を相手に訴えを起こすのが一般的です。
医療訴訟の新規発生件数は、2000年を境に増加傾向にあります。また、未解決の医療訴訟件数が毎年1,600~2,200件ほどあるため、決して人ごとではないと言えるでしょう。
【医療訴訟(医療過誤含む)発生件数の統計データ】
参考書籍:医療事故の法律相談
そこで今回は、医療訴訟を起こす際の流れや注意点、過去の統計や判例を元に、慰謝料獲得額の相場や弁護士費用の相場などについてまとめました。医療訴訟を検討している方は、ぜひご一読いただくことをおすすめします。
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目次
前述にも記載いたしましたが、2000年を境に医療訴訟件数は増加傾向にあります。医療事故や医療過誤の件数が純粋に増えていることも考えられますが、医療訴訟を起こす方が増えているともとれます。ちなみに、統計によると年々、和解による解決が増えていることが分かります。
年 |
和解率 |
1998年 |
48.90% |
1999年 |
46.90% |
2000年 |
45.80% |
2001年 |
44.00% |
2002年 |
43.80% |
2003年 |
49.00% |
2004年 |
46.10% |
2005年 |
49.80% |
2006年 |
53.20% |
2007年 |
52.10% |
2008年 |
50.00% |
患者が医療訴訟を起こすきっかけは、インターネットの発達により、医療訴訟に関するさまざまな情報が一般の方でも安易に入手できるようになったことが考えられます。とはいえ、医療訴訟で勝訴となる可能性が高まっている訳ではありません。
年 |
勝訴率 |
1998年 |
17.30% |
1999年 |
12.30% |
2000年 |
20.60% |
2001年 |
17.70% |
2002年 |
17.10% |
2003年 |
17.30% |
2004年 |
15.90% |
2005年 |
14.20% |
2006年 |
12.30% |
2007年 |
13.40% |
2008年 |
10.00% |
医療訴訟が難しいとされている理由は、一旦何でしょう。大きな理由としては、医療の素人がプロを相手に訴訟を起こすということ、証拠は原則病院側にあるため立証が難しいというところにあります。
「過去の判決結果|勝訴率と和解率」に詳しく記載していますが、医療訴訟で原告側の請求が認められる可能性は高くはありません。
医療訴訟は、素人が医学のプロを相手に裁判を起こすことになります。さらに、裁判経験がない方がほとんどですから、そのような状況で勝訴を目指すのは非常に困難なことだと言えるでしょう。
医療事故や医療過誤の証拠となり得るカルテやレントゲン写真などは病院側にあります。そのため、患者側で医療事故を立証するのは現実的に難しいと言えます。
医療事故を起こした医師や看護師が必ずしも、詳細を把握しているとは限りません。そのため、医療の素人が単独で原因追及するのは現実的に難しいと言えます。詳しくは後述の「弁護士に依頼した方が良い理由」にて記載しています。
医療訴訟を起こす際、医師や看護師には民事責任・刑事責任・行政責任という3つの責任が課されます。もし、医師や看護師の医療行為によって受けた損害について賠償を求める場合は、民事責任を問う必要があります。
民事責任で相手の責任を問う場合、当事者間で話し合う、裁判を行うなどして損害賠償を求めることになります。
ここで、医療訴訟の手続き方法とかかる費用について確認しましょう。ちなみに、医療訴訟を起こす場合、被告にできる相手は病院や医療行為をした医師や看護師の他に、医薬品や医療器具の製造元や医療類似行為をした者が挙げられます。知識として心得ておくと良いかもしれません。
【医療訴訟で被告にできる相手】
まず始めに、医療訴訟には時効があることを把握しておきましょう。基本的には、患者本人またはその家族が医療事故の事実を知った日から3年間が時効とされています。関連する法律も交え、詳しい内容を以下にまとめました。
消滅時効の進行等
第百六十六条 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する
債権等の消滅時効
第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
引用元:民法
債務不履行とは、病院側が診療契約に定められた方法で医療行為をしなかったことにより医療事故が発生した場合の責任を言います。この場合、権利の行使が認められた日から10年間が時効となります。
基本的に、発生した医療事故が債務不履行に該当しない場合は民法724条に定められた期限が時効となります。患者またはその家族が、医療事故の事実を知った日から3年間が時効となります。
不法行為による損害賠償請求権の期間の制限
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用元:民法(724条)
医療訴訟で弁護士に依頼した場合の費用相場をまとめました。
訴額 |
着手金 |
成功報酬金 |
1,000万円以下 |
約50万円~110万円 |
経済的利益の10%~30% |
1,000万円超 |
経済的利益の3%~5%+30万円~50万円 |
経済的利益の10%~30%(最低額30万円~40万円) |
医療訴訟で獲得できる賠償額は発生した結果次第であり、決まった金額はありません。また、医療事故が発生した状況によっても金額は変動します。以下の図はあくまで参考値とお考えください。
参考書籍「慰謝料算定の実務第2版」
医療訴訟を起こす場合の流れを上図にまとめました。基本的に、医療訴訟には時効が設けられており、医療事故や医療過誤の事実を知ってから3年以内に手続きをしなければなりません。
担当の医師や看護師に対して刑事罰を望む場合は、刑事訴訟に持ち込む方法があります。刑事訴訟は民事訴訟と違い、国が行為者を罰するための手続であるため、被害者による損害賠償請求はできません。
医療訴訟以外の方法で解決を目指す場合は、示談交渉を行い、和解へと持ち込むことが大切です。
医療訴訟は個人でも起こすことができますが、弁護士に依頼するのが基本です。しかしなぜ、弁護士に依頼した方が良いのでしょうか。
その理由と、医療訴訟に精通した弁護士を探すコツについてまとめました。
医療訴訟を起こす際、弁護士に依頼した方が良い理由は主に3つ挙げられます。基本的に、医療訴訟は素人が医療のプロを相手に裁判を起こすものです。そのため、こちらも医学の知識と法律の知識を持った専門家を味方につけて挑まなければ、現実的に勝訴へと持ち込むことは難しいでしょう。
下記にまとめた「過去の判決結果|勝訴率と和解率」でも述べていますが、医療訴訟は原告の請求が認められる可能性が高くありません。勝訴はおろか和解へと持ち込むのも難しいと言えます。勝訴を目指すためには、医療訴訟の経験が豊富な弁護士に依頼して、万全の準備をして臨むことが必須でしょう。
医療訴訟の難しいところ、それは証拠になり得る情報は基本病院側が持っていることです。例えば、カルテやレントゲン写真などの記録が挙げられるでしょう。場合によっては、証拠隠滅や改ざんの恐れもあるため、訴訟提起前に証拠保全手続を取る必要もあります。
医療事故や医療過誤の発生は、様々な原因が考えられます。そのため、担当した医師や看護師自身が事の詳細を把握していないケースも少なくありません。調査を行い、原因を追究するためにも、専門家の手を借りることは必須だと言えるでしょう。
以下に、医療訴訟に精通している弁護士を探すコツをまとめました。ポイントは、医療訴訟という分野にどれだけ特化しているかでしょう。
医療訴訟に精通している弁護士を探すコツは、弁護士経験が長いかどうかではなく、医療訴訟の解決実績が豊富かどうかを基準に判断することが大切です。いくら弁護士経験が長くても医療訴訟の経験が少なければ、精通している弁護士とは言い難いでしょう。
医療訴訟を優位に進めるためには、医学の知識を持つ専門家との連携が必要不可欠です。そのため、医療訴訟が得意な弁護士を探す上で、医師や医療の専門家とのパイプがあるかどうかもひとつの基準となるでしょう。
医学文献が揃っていることも、重要なポイントです。医療訴訟では医学の専門知識が必要となる場面が多く存在します。そんなとき、すぐ調べられる状況が整っている弁護士事務所なら、安心して任せられるでしょう。
以下に、医療訴訟における統計から勝訴率と和解率、訴訟を起こしてから判決が下されるまでにかかった審理期間の平均をまとめました。さらに、高額な慰謝料の支払いが認められた裁判事例についてもまとめています。
実際に医療訴訟を起こした場合、どのくらいの確率で勝訴できるのかなどを参考にしていただければ幸いです。
医療訴訟の判決結果を元に、勝訴率と和解率をまとめました。一覧で見ていただくと分かる通り、勝訴率よりも和解率の方が圧倒的に高いことが分かります。病院側から和解を持ちかけられたケースも考えられますが、現実的に医療訴訟で勝訴を獲得するのは容易でないと言えます。
※こちらに記載している「勝訴」とは、被害者側が請求した慰謝料額の一部でも支払いが認められた場合も含め記載しています。
年 |
勝訴率 |
和解率 |
1998年 |
17.30% |
48.90% |
1999年 |
12.30% |
46.90% |
2000年 |
20.60% |
45.80% |
2001年 |
17.70% |
44.00% |
2002年 |
17.10% |
43.80% |
2003年 |
17.30% |
49.00% |
2004年 |
15.90% |
46.10% |
2005年 |
14.20% |
49.80% |
2006年 |
12.30% |
53.20% |
2007年 |
13.40% |
52.10% |
2008年 |
10.00% |
50.00% |
下記に、医療訴訟にかかった期間の平均値をまとめました。1998年~2002年までの平均審理期間は33.74ヶ月でしたが、2003年を境に平均審理期間は25.76ヶ月と約8か月も短くなっていることが分かります。
とはいえ、医療訴訟を起こした場合、解決まで約2年もかかるため、相当な労力が必要となるでしょう。
年 |
審理期間 |
1998年 |
35.1ヶ月 |
1999年 |
34.5ヶ月 |
2000年 |
35.6ヶ月 |
2001年 |
32.6ヶ月 |
2002年 |
30.9ヶ月 |
2003年 |
27.7ヶ月 |
2004年 |
27.3ヶ月 |
2005年 |
26.9ヶ月 |
2006年 |
25.1ヶ月 |
2007年 |
23.6ヶ月 |
2008年 |
24.0ヶ月 |
参考書籍:「医療事故の法律相談」
ここで、医療訴訟を起こし、高額な賠償金が認められた裁判事例をご紹介します。
浮動性(ふどうせい)めまいを訴えた患者の通院治療を行ったところ、その患者がベンゾジアゼピン系薬物依存となりました。裁判では、医師がベンゾジアゼピン系薬物を、適応例のない病気に投薬してはいけないという注意義務の違反が原因だと指摘しています。
さらに、患者に副作用や薬の持つ性質について説明していなかったため、説明義務違反が認められました。判決では、賠償金(慰謝料)として1億6012万円の支払い命令がくだされています。
【名古屋地裁 平成29年 3月17日 平25(ワ)5249号】
鎖骨骨折(さこつこっせつ)で入院となった患者が、バンド固定などの処置後、疼痛(とうつう)を訴えました。数回にわたり鎮痛剤(ちんつうざい)を投与しましたが、心配停止し、患者は死亡してしまいます。
裁判では、鎖骨骨折の場合、呼吸停止や出血性ショックを起こす危険性があるため、経過観察をする必要があったにもかかわらず、病院側がその対応を怠ったことを認めました。賠償金(慰謝料)として遺族に4,000万円の支払いが命じられています。
下記に医療訴訟を起こす前に知っておくべきことをまとめました。どの内容も、あなたが不利な状況に陥ることを防ぐために大切なものです。訴訟手続きを行う前に、下記内容をしっかり心得ておきましょう。
医療事故や医療過誤により、患者が亡くなってしまった場合、必ず解剖をしておきましょう。中には、大切な家族の体を傷つけることに抵抗を感じる方がいるかもしれません。しかし、真実を突き止めるためには、解剖をして詳しい死因を知ることがとても大切です。
病院側に、医療訴訟を起こすと事前に伝えるのは止めましょう。病院側がカルテやレントゲン写真を改ざんするなど証拠隠滅に走る可能性があります。あなたに優位な展開へ持ち込むためにも、手の内はあかさない方が良いと言えます。
刑事訴訟は、あくまでも検察官が起訴するかの判断を行うため、あなたの意に反する結果となる可能性があります。また刑事訴訟の罰則は、主に懲役刑や罰金刑などで、起訴されたからといってあなたに慰謝料が支払われる訳ではありません。
医療訴訟の立証には証拠の用意が必要不可欠です。医療訴訟を起こす際、病院で保管されているカルテやレントゲン写真が大きな証拠となり得る可能性があります。必ず取り寄せておきましょう。
ただし、カルテやレントゲン写真には保管期間が設けられているため、期間の経過で廃棄される可能性があります。必要がある場合は早めに取り寄せておくことをおすすめします。
【治療記録の保管期限】
治療記録の種類 |
保管期限 |
カルテ |
5年 |
レントゲン写真 |
2年 |
医療訴訟を起こすことを考えたとき、一人で悩み、解決へと導くのは非常に難しいことです。医療の知識や法律の知識を持った専門家に相談した上で、今後の行動を検討していくのが得策でしょう。以下に医療訴訟に関する相談先をまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
医療事故の問題解決に向けて着手していくためには、弁護士に相談するのが最も良いでしょう。しかし中には、いきなり弁護士に相談するのは気が引けてしまう方がいるかもしれません。
そんなときは、都道府県各地域にある「医療事故相談センター」に相談することをおすすめします。
いち早く、医療訴訟を起こしたい、問題を解決したいと考えている方は弁護士に相談するのがおすすめです。
あなたが抱えている状況を元に、どのような解決プランがあるのか分かりやすく教えてくれるでしょう。初回相談は無料で行っている弁護士事務所も多いため、費用面が気になる方も安心して相談できます。
医療訴訟は、医療のプロを相手に非を認めさせる行為であり、医師や看護師の瑕疵(かし)を証明するのが難しいことから一人で勝訴に持ち込むのは極めて難しいと言えます。
もし、医療事故や医療過誤の被害に遭われ、医療訴訟を起こしたいと思ったら、まずは弁護士や専門の相談機関に相談することをおすすめします。
専門家の適切なアドバイスの元、行動を起こしていくことで、あなたに優位な解決となる可能性は高まることでしょう。後悔しない結果となることを心より応援しております。
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