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KL2020・OD・037
医療事故調査制度(いりょうじこちょうさせいど)とは、平成26年6月に成立した医療法の改正により制定された、病院などの医療機関における医療事故の再発防止を目的とした制度のことであり、平成27年10月より施行されました。
本制度の概要は、医療事故が発生した医療機関にて院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関である医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)が収集・分析して、調査結果を遺族へと説明するということになります。
病院側で発生した医療事故(医療過誤)の原因を明らかにして、同じような医療ミスを繰り返さないことが重要になりますが、医療事故調査制度の一部内容が問題になっており、患者側(遺族側)にとって不本意な結果になるケースもあるでしょう。
今回は医療事故調査制度の仕組みや問題点と併せて、患者側が知っておくべきポイントについてまとめましたので、医療事故の被害者になった場合にご参考いただければ幸いです。
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目次
医療事故調査制度の概要を最初に説明していきますが、本制度における調査の流れについては以下図の通りです。医療事故が発生した病院と医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)によって調査が進められます。
引用元:「医療事故調査・支援センター 医療事故調査制度概要」
病院などの医療機関で死亡事故が発生した場合、『医療事故』と判断されるものであれば遺族への説明後、医療事故調査・支援センターへの報告がされます。
病院側から医療事故調査・支援センターへの報告後、院内事故調査が行われます。また、病院側や遺族より依頼があった場合、支援センター側による調査が行われます。
院内事故調査の結果のほか、センター調査による情報分析の結果について遺族に説明されます。支援センター側の調査結果に基づき、再発防止に関する普及啓発がなされます。
平成27年10月より施行された医療事故調査制度は、平成28年9月までの1年間で累計388件の結果報告がされました。当初の想定では年間で1,300件~2,000件程度であったので、報告数が少ないと指摘されているようです。
報告数が少ない理由として以下で説明する『医療事故調査制度の問題点』が関わっていると思われますが、問題点を取り上げる前に医療事故調査制度の仕組みについてもう少し詳しく説明していきます。
医療事故調査の対象になる『医療事故』は、どんな医療ミスでも適用される訳ではありません。具体的には医療に起因する死亡または死産であることと、医療機関の管理者が予期しなかったもの、という2つの条件を満たす必要があります。
基本的には患者が死亡した場合に限り医療事故調査の対象になりますが、病院側が行う医療が死因であることが条件になるため、以下のような死亡例については調査の対象外になるでしょう。
○ 施設管理に関連するもの
-火災等に関連するもの
-地震や落雷等、天災によるもの
-その他
○ 併発症
(提供した医療に関連のない、偶発的に生じた疾患)
○ 原病の進行
○ 自殺(本人の意図によるもの)
○ その他
-院内で発生した殺人・傷害致死、等
医療事故調査の対象になる事故例は以下表の通りです。各病院の医療提供体制の特性や専門性によって多少は変わりますが、基本的には以下の内容が医療に該当すると思っていただいてかまいません。
《医療事故の対象になる処置・治療内容など》 |
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診察 |
・徴候、症状 |
検査等(経過観察を含む) |
・検体検査 |
・生体検査 |
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・診断穿刺・検体採取 |
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・画像検査 |
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治療(経過観察を含む) |
・投薬・注射(輸血含む) |
・リハビリテーション |
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・処置 |
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・手術(分娩含む) |
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・麻酔 |
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・放射線治療 |
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・医療機器の使用 |
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その他(管理者が医療に起因し、または起因すると疑われるものと判断した場合) |
・療養 |
・転倒や転落 |
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・誤嚥(異物を気管内に飲み込む) |
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・患者の隔離・身体的拘束/身体抑制 |
医療事故調査制度の調査対象は、医療法の第6条によって下記のように定められています。
第六条の十
病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を第六条の十五第一項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。
引用元:医療法第6条の10
医療に起因し、又は起因すると
疑われる死亡又は死産
左記に該当しない
死亡又は死産
管理者が予期しなかったもの
制度の対象事案 管理者が予期したもの
ここでポイントになるのが、「当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたもの」という部分です。
病院側の管理者(病院等に勤務する医療従事者)が予期しなかった医療事故については、医療法施行規則で下記のように定められています。
第一条の十の二 法第六条の十第一項に規定する厚生労働省令で定める死亡又は死産は、次の各号のいずれにも該当しないと管理者が認めたものとする。
一 病院等の管理者が、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該医療の提供を受ける者又はその家族に対して当該死亡又は死産が予期されることを説明していたと認めたもの
二 病院等の管理者が、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該死亡又は死産が予期されることを当該医療の提供を受ける者に係る診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの
三 病院等の管理者が、当該医療を提供した医療従事者等からの事情の聴取及び第一条の十一第一項第二号の委員会からの意見の聴取(当該委員会を開催している場合に限る。)を行つた上で、当該医療が提供される前に当該医療従事者等が当該死亡又は死産を予期していたと認めたもの
引用元:医療法施行規則第1条の10の2
もう少し簡単にいうと・・・
なお、患者個人の病状や治療経過などを踏まえずに一般論として説明されたに過ぎない場合は、一般的な死亡の可能性について患者へ説明したり診療記録に残したとしても、予期していないとされます。
医療事故調整制度で実際に行う調査の内容や、それぞれの機関における役割について以下で確認していきます。
医療事故が発生した病院側では上記で説明したように院内事故調査をすることになりますが、具体的には以下のような調査方法が利用されます。
医療事故の原因について早急に明らかにするための調査ですが、同時に再発防止策についても検討する必要があるでしょう。
どんな医療事故でも必ず再発防止につながる対策が得られる訳ではありませんが、患者が死亡した原因を究明することで今後の治療対応における効果的な対応策が見つかる可能性が高くなると思われます。
医療事故調査・支援センターは第三者機関として、病院側からの調査報告を受けて情報の整理や分析を行い、医療事故の再発防止や医療安全を実現するための普及啓発をする役割を担います。
普及啓発の具体的な内容として、以下のような手段が考えられます。医療事故が発生した病院に限らず、製薬会社など関連業界に対する働きかけも重要になるでしょう。
また、必要に応じて病院側の管理者より医療事故調査等支援団体へ、医療事故調査に関する支援を求めることができます。
医療事故調査等支援団体では主に以下のような団体が指定されており、医療事故の判断基準や調査方法に関する相談を受けられる支援団体を用意することで、調査制度の中立性や専門性が期待できるようになるでしょう。
《医療事故調査等支援団体に該当する団体例》 |
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職能団体 |
看護協会・医師会・歯科医師会 など |
学術団体 |
日本医学会など医学・医術に関する団体 |
医療事故調査制度の仕組みについて一通り解説しましたが、問題点として患者(遺族)が医療事故調査制度の利用を求めている場合でも、調査が認められないデメリットが考えられます。
正直なところ、医療事故を発生させた病院が自発的に過失を認めるケースが全てではなく、医療事故扱いにさせたくないことを理由に病院が医療事故調査・支援センターに報告しない場合もあるでしょう。
医療事故の基準については、予期していなかった場合に限定されます。したがって、逆をいえば患者や家族に対してあらかじめ死亡リスクについて説明していた場合、医療事故調査制度の適用外になるため、病院側は院内事故調査を免れるケースが生じます。
上記と関連しますが、医療事故調査制度の仕組みについて完全に浸透している状況ではなく、患者側(遺族側)より医療事故に対する訴えが不十分であるケースもあり得ます。
死亡や死産の原因が不透明である場合や、全ての医療事故において死亡リスクは予期されていたと主張する病院に対して、医療事故調査制度による反論の余地があることを患者側は知っておくべきです。
本制度における利用のしづらさを示すポイントは他にもあり、医療事故の基準や調査方法などが書かれたマニュアルやガイドラインを各支援団体で作成されているようですが、それぞれ異なった内容であり統一化されていません。
マニュアルなどは、本来であれば標準化された基準によって調査内容の中立性を高める必要があるでしょう。
以上の問題点を踏まえて、医療事故調査制度における患者側のデメリットと弁護士に相談するケースについてまとめました。責任追及や損害賠償の請求をするためには、最終的に医療訴訟(裁判)という手段を利用することになります。
医療事故の有無をめぐって病院側と争う場合には、医療事故案件に通じている弁護士に相談した方が良いでしょう。通常の事件と違って専門的な知識が求められるため、素人である遺族が医学的な根拠を基に医療事故を指摘するのは難しいと思われます。
医療事故調査制度による院内事故調査がされても、結果内容に不信感があったり病院から報告書がもらえなかったりした場合、弁護士による医療調査が一つの対応策になります。
医療事故調査制度では報告書交付を義務化していませんが、特に死亡リスクの低い病気や手術における死亡事故で納得のいかない理由を言われた時は、再調査や訴訟による開示へと移行するべきでしょう。
遺族側が損害賠償請求を検討している場合には、示談交渉のほか最終的な解決手段である裁判も考慮します。医療事故調査制度はあくまで医療事故の再発防止を目的としているのであり、責任追及については示談交渉や裁判で争う必要があることを覚えておきましょう。
医療事故調査制度の仕組みと問題点について、お分かりいただけましたでしょうか。
問題点の多い制度であるため今後において改正の動きがあるかもしれませんが、患者側は医療機関の責任を追及して損害賠償請求をする方法を確実におさえておくべきでしょう。
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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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