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KL2020・OD・037
誤認逮捕(ごにんたいほ)とは、警察などの捜査機関が無実の人間に犯罪の嫌疑をかけて逮捕してしまうことを表す俗語です。
誤認逮捕は公式に発表されないため、正確な件数を把握することは困難ですが、久保博司氏の著書である『誤認逮捕 冤罪はここから始まる』によると、2010年に起きた誤認逮捕の件数は343件とあります。
2010年の検挙件数(約40万件)に対する誤認逮捕件数の割合から推測すると、平均的な年間の検挙数が約40万件~80万件なので年間300人~600人以上の方が誤認逮捕されていると考えられるでしょう。(参照元:犯罪統計書|警視庁)
この記事では身近にある誤認逮捕の実例から問題点や、誤認逮捕とは何なのか、誤認逮捕された場合にある補償や対処法について解説していきます。
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目次
有名な誤認逮捕と言えば2004年に起きた『四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件』や2012年に発生した『パソコン遠隔操作事件』があげられます。
『四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事』は四日市のデパートで泥棒扱いされた男性が店員や買い物客3人に取り押さえられ、警官に拘束された後に死亡してしまった事件です。
男性は窃盗を行っておらず、泥棒だと虚偽申告した女性は逃走しており、未解決事件となってしまいました。
「何もしてないのだから、有罪になるわけがない。」と思われるかもしれませんが、実際に有罪判決が出たケースもあります。
『東京・三鷹バス痴漢冤罪事件』をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。2011年にJR吉祥寺駅から京王線千川駅に向かうバスの車内でスカートの上から女性の体を触ったとして、降車後男性は取り押さえられました。
女性は「さわられた。」と証言しましたが、目撃者はおらず、男性の手からもスカートの繊維は検出されませんでした。
当時、男性の両手が塞がっているのを車内のカメラがとらえており、男性が前にかけていた鞄が触れてしまったのが真相だったのです。
しかし、2014年の地裁による判断は有罪判決でした。男性側が控訴して東京高裁で継続審理された結果、無罪判決となり、男性の冤罪が確定しました。
冤罪事件と誤認逮捕は似ていますが別物です。
一般的には、やっていない行為で逮捕されることが『誤認逮捕』、やっていない行為で起訴され有罪判決が下されるのが『冤罪事件』といわれています。
しかし、やっていない罪で刑事処分(逮捕、勾留、起訴)を受けることをまとめて『冤罪事件』という場合もありますので、誤認逮捕は冤罪事件の一部を構成すると考えた方が正確かもしれません。
少なくとも誤認逮捕は冤罪事件の入り口といえるでしょう。
誤認逮捕には
など多くの問題点が指摘されています。
2017年にアイドルのコンサートチケットで詐欺を行ったとして誤認逮捕された女性は、なんと19日間も勾留されています。
誤認逮捕された女性は、釈放された後にやっと自身が潔白である証拠を提出できたので、誤認逮捕であることがわかりました。
逮捕・勾留された被疑者は身体拘束を受け、外部との接触が遮断または制限されます。
接触の遮断や制限があるために自身の冤罪を晴らすための行動は、以下の行動に絞られてしまいます。
勾留は原則10日間、行動を制限され留置所での生活を強いられます。
勾留満期において、捜査機関の延長が必要だと検察が判断すれば、裁判所の許可を得て勾留期間が延長されることがあります。
勾留延長の期間は最大10日間であるため、延長されれば最大20日の間身体拘束を受け続けることになる恐れがあります。
検察官は勾留満期に起訴・不起訴の判断をしますので、結局、被疑者は起訴・不起訴の判断が出るまでは一度も釈放されないのが通常です。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
引用元:刑事訴訟法 第208条の1
事件の被害者である女性は容疑を否認したことから、捜査機関において慎重な捜査が必要と判断され、裁判所もその必要性を認めたことで長期勾留されたのではないかと考えられます。
このように逮捕と異なり、勾留期間は相当長期(※)におよびます。
一般人はこのような長期の身体拘束など経験したことがない人がほとんどです。
(※)相当長期とは |
短期間で終わることはなく、それぞれの犯罪性や反省の様子などを鑑みて決められる『比較的長期的な期間』のこと |
また、留置施設での生活はふだんの生活とはかけ離れていますし、施設にいる人間もこれまで会ったことのないような人格や性格の持ち主も多数いるでしょう。
たとえ無実の罪で身体拘束を受けている被疑者であっても、そのような長期拘束をされると、心が折れてしまうため、やってもいない罪を認めて早期に釈放された方がいいと考えてしまうケースもあるようです。
そして、一度捜査機関に対して罪を認めてしまえば、その後思い直して否認に転じても捜査機関からはまったく信じてもらえませんし、以前の自白を根拠として起訴され、有罪判決を受ける可能性が相当高くなります。
このように、誤認逮捕に続く身体拘束は、被疑者の人生を台無しにしてしまう可能性があるということは、従来から問題として指摘されています。
公務員の違法行為は、みだりな公権力の使用と認められる場合に限られます。例えば以下のようなケースが考えられます。
しかし、捜査は警察内部で行われることから、これらの事実があったことを客観的に立証することは極めて困難です。
そのため、たとえ誤認逮捕の事例であっても、最終的に捜査機関の違法行為を立証することは難しい場合がほとんどでしょう。
一応の法制度として、誤認逮捕に続く身体拘束や起訴に対して刑事補償や国に賠償請求を行う制度があります。
例えば、2013年に起きた誤認逮捕で85日勾留されてしまったケースでは、警察の捜査ミスが発覚したため賠償請求が認められました。
もし誤認逮捕されてしまったら、その後の生活にはどんな影響があるのでしょうか。
逮捕された場合、原則72時間は身柄を拘束されます。
警察は逮捕後48時間以内に検察庁に事件を送致し、検察は送致後24時間以内に身柄の処分が下すことになっているためです。
被疑者が逮捕事実を否認している場合、検察は慎重な捜査が必要と判断して勾留請求を行い、裁判所もその必要性を認めやすい傾向にあります。
上記でご説明した通り、勾留は延長も含めれば最大20日間身柄を拘束されるおそれがあります。
また起訴(公判請求)後にも起訴勾留というものがあり、起訴勾留されれば初公判が行われるまでの期間中、身体拘束は続きます。
第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
引用元:刑事訴訟法 第60条
逮捕された場合、警察から身内に逮捕された事実を伝えるよう頼むことは可能です。
しかし、逮捕後は勾留されるまで外部との接触は一切絶たれますし、勾留後も外部との接触が制限される場合があります。
そのため、逮捕・勾留を受けた被疑者が頼れる唯一の存在は、弁護士(弁護人)です。
弁護人または選任予定の弁護士は逮捕直後から制限なく被疑者と面会が可能です。
逮捕が正当な逮捕なのか誤認逮捕なのかは会社にとって重要な問題ではありません。
逮捕された場合には、労働者による労務提供が不可能となります。
したがって、会社としては労務提供が長期間不可能となる可能性が認められ、業務への支障が著しいという場合は、解雇という選択肢もあり得ます。
ただ、会社によっては刑事手続に巻き込まれた場合の休職(起訴休職制度)を設けている場合もあります。
この点は弁護人や弁護人から説明を受けた家族などを通じて会社に確認した上、解雇を避けるべく交渉を依頼することになるでしょう。
もっとも、解雇するか否かは最終的には会社の判断となりますので、決して安心はできません。
被疑者が起訴され、刑事裁判で有罪判決を受ければ前科がつきます。
他方、不起訴となったり無罪となったとしても、逮捕された『前歴』は残ります。
したがって、誤認逮捕であっても何らかの形で記録には残ります。
もっとも、逮捕事実が公に報道されたという場合でない限り、前科や前歴が外部に漏れることは考えにくいです。
前科や前歴があったとしても、普通に生活をしている分には何も支障はないでしょう。
しかし、『ちょっとしたことから誰かに前科前歴のことが伝わり、近所に噂が広まる』または『たまたま友人がインターネット検索をしたときに発見される』などして近所や会社などでの立場やイメージが一気に悪くなることがあります。
そうなるといやがらせを受けたり、軽蔑の目を向けられたりする可能性があります。下手したらお子さんにまで被害がおよぶ可能性も。
しかし、インターネット上などで明るみになってしまった後に削除依頼をしたとしても、その情報はインターネット上のどこかには残ってしまうでしょう。誤認逮捕された事件の内容によっては、配偶者から離婚を切りだされたケースもあるようです。
仮に、無実であるのに逮捕されてしまった場合はどういった対応をしたらよいのでしょうか。
被疑者には弁護士を呼ぶ権利が保障されていますから、まずはすぐに弁護士を呼んでください。
第三十条 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
○2 被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。
引用元:刑事訴訟法 第30条
とはいえ弁護士の知り合いがいれば別ですが、身柄拘束を受けている場合弁護士を呼ぶことは難しいでしょう。
その場合は逮捕後1度だけ無料で相談可能な当番弁護士を呼んでください。
弁護士が接見しに来てくれたら、逮捕された経緯や現在の状況について詳しく説明し、今後の対応についてアドバイスをもらうようにしましょう。
また、当番弁護士との間で私選弁護契約を締結することで私選弁護人に選任することも可能です。
私選弁護が難しい場合、扶助制度を利用したり、被疑者国選対象事件であれば国選弁護への切り替えを依頼したりすることも可能です。
タイミングによって呼べる弁護士も違うため、詳しくは下記の記事をご覧ください。
捜査機関の取調べを受ける際に、被疑者には『黙秘権』が保障されています。刑事訴訟法第198条第2項には、
前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意志に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
引用元:刑事訴訟法第198条第2項
ということが明記されており、黙秘権が告知されていない取調べは違法です。極端な話、取調べ中終始黙っていても法的には問題ありません。
捜査機関が厳しく取調べを行ったとしても、無理に答える必要がないことは覚えておきましょう。
誤認逮捕の場合は客観的な証拠に乏しいため、警察は自白調書を取ろうとする場合があります。
取調べの内容を記した『供述調書』は作成後、被疑者の署名が必要です。
供述調書の署名は証拠能力を有していますので、調書の内容に間違いがあれば訂正してもらうか、署名をしないようにしましょう。
逮捕・勾留された結果、起訴(公判請求)された場合、その後刑事裁判が終了するまで身体拘束は続きます。
もっとも、被告人勾留に対しては保釈請求が可能であるため、保釈が認められればその時点で一時的に身柄が解放され、在宅事件として刑事手続が進みます。
しかし、冤罪事件であるとして事実を争っている場合には保釈は出にくいということがありますので、それなりの覚悟は必要でしょう。
なぜ誤認逮捕はなくならないのでしょうか。その原因として以下のことが考えられます。
逮捕は原則として裁判所が発行する逮捕状が必要です。ただし緊急性が認められる場合はその限りではありません。
現行犯逮捕は、犯行現場を押さえた際に逃亡防止などの緊急性が認められており、逮捕状が不要です。
一般人でも行うことができる現行犯逮捕は被疑者をすぐに拘束することが可能ですが、被害者や目撃者が逮捕事実を現認したと誤解している場合もあります。
上記の場合と同じかもしれませんが故意であるかどうかはともかく、被害者が加害者や犯罪事実について誤った認識を有している場合も誤認逮捕が起きるリスクがあります。痴漢冤罪などはこれにあたるでしょう。
もちろん故意に虚偽申告を行うことは違法であり、損害賠償請求の対象です。しかし故意か否か立証することが難しいのが実情です。
多くの捜査機関関係者は慎重に捜査しています。日本の警察の捜査がいい加減ということは決してありません。
しかし、それでもミスが生じることはあり、このミスから誤認逮捕につながることも否定はできません。
痴漢事件を例にあげると、誤認逮捕が起きやすい条件が浮かび上がってきます。痴漢事件で誤認逮捕が起きるとき によくある条件が
以上のようになっています。
本来、捜査機関は『客観的な証拠』を重視して捜査するべきです。
痴漢事件の場合『供述偏重の捜査』になっていることがほとんどであり、上記のような条件が重なった結果、誤認逮捕が起きやすくなっていると言えます。
逮捕する警察や検察も人間ですから間違うこともありますが、誤認逮捕に残る結果は重いものです。
仮に誤認逮捕されてしまった場合、1人の力で解決するのは難しく、何よりも心細いことと思います。
もし誤認逮捕された場合は弁護士へ依頼して一緒に戦う心強い味方となってもらいましょう。
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