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KL2020・OD・037
相続放棄は、被相続人について一切の相続を拒絶するための制度で、大きな借金がある場合や、特定の相続人に財産を集中させたい場合に利用される手続きです(民法915条、938条~940条)。
相続放棄を希望する場合には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に、「家庭裁判所へ放棄の申述を行わなければならない」ことから、できるだけ早い段階で家庭裁判所へ申述書を提出する必要があります。
この申述書は、裁判所が所定の書式を準備してくれてはいるものの、相続の具体的な状況によっては記入が難しく、自力で手続するか弁護士等に相談するかを悩む方も少なからずいらっしゃるかと思います。
そこで今回は、相続放棄の手続きを自力でできそうなケースと、弁護士等に相談した方がいいケースを具体的にご紹介するとともに、申述書の書き方や提出方法、相続放棄手続きの流れについてもご紹介したいと思います。
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目次
相続放棄は、相続人間で「私は相続を放棄する」というような取り決めをするわけではなく、家庭裁判所へ所定の書類を提出して認められなければならない「被相続人について一切の相続を拒絶するための制度」です。
したがって、相続放棄をする際には守らなければならないルールがいくつかありますし、いくら放棄を希望していても認められない場合もあります。
まずは、絶対に押さえておいていただきたい相続放棄申述の注意点について、ご紹介いたします。
相続放棄は限定承認と異なり、放棄を希望する相続人がそれぞれ独立して行わなければならない手続きになります。そのため、成人している相続人であれば、法定代理人等の手を借りずに単独でなしうるものではありますが、小学生や中学生など未成年の相続人が放棄をする場合には、法定代理人や特別代理人と共に申述書を作成しなければなりません。
例えば相続人が配偶者と小学生の子どもだった場合で、小学生の子どもが相続放棄をするとします。
このとき、小学生の子の親である配偶者も一緒に相続放棄をするのであれば、配偶者が2人分の放棄手続きをまとめて行うことができます(※ただし申述書は2名分別々に必要)。
しかし、小学生の子だけが放棄をする場合には、配偶者が先に相続放棄を済ませている場合を除いて、別途特別代理人を選任して手続きを進めなければならないとされています。
また、上記の例で子どもが2人いるとして、法定代理人がそのうち1人を代理して放棄の手続きを行う場合にも、別途特別代理人の選任が必要になります。
なお、相続人が成人しているものの成年被後見人である場合などは、その法定代理人が代理して申述手続きを行います。
相続放棄をするためには、所定の条件を満たさなければならないとされています。
具体的には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する」こと、「相続財産の全部または一部の処分をしていないこと」が要求されますが、この3ヶ月の期間を「熟慮期間」と呼び、必要に応じて期間を延ばすことができる手続きも準備されています。
相続放棄ができるのは、この2つの条件をクリアし、家庭裁判所に申述が受理されたケースです。例えば相続が始まって被相続人の多額の借金を知り、熟慮期間内に適切な手続きを済ませた場合が典型例です。
そのため、被相続人の死を全く知らず、死亡から3ヶ月以上経ったあとで相続の事実を知った場合は、当該知った時点から熟慮期間が進行します。
また、相続財産の一部を処分してしまったり、手続きを忘れていて熟慮期間を過ぎてしまったなどのケースでは、相続放棄ができない可能性が高くなります。
もちろん、こういったケースすべてにおいて相続放棄が絶対にできないというわけではないのですが、弁護士など相続に詳しい専門家の力を借りた方がベターでしょう。
相続放棄は、家庭裁判所で裁判官が申述書を審査し、申述を受理するか否かを決定することになります。ただ、熟慮期間内に所定の申述書と添付書類を正しく提出していれば、ほとんどの場合では申述が受理されることになっていますから、よほどのレアケースでなければ相続放棄は認められる傾向にあります。
詳しくは次項でご紹介いたしますが、もし万が一相続放棄の申述が却下されてしまった場合には、申述が却下された翌日から2週間以内に高等裁判所へ「即時抗告」という手続きをしない限り、その相続において相続放棄ができる可能性が閉ざされてしまいます。
そのため、申述が却下されてしまったら、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。
もしも3ヶ月の熟慮期間を過ぎた後でどうしても相続放棄をしたい場合には、自力での申述は諦めて弁護士等の専門家に依頼したほうが無難です。
というのも、熟慮期間経過後の相続放棄申述には、通常必要な申述書や添付書類の他に、「上申書」などの熟慮期間を過ぎてしまった事情を説明する書面や関連資料を提出しなければならないのが一般的だからです。
単に通常の申立書類だけを提出してしまうと、申述が却下されてしまう可能性が高く、そうなると「即時抗告」を行って争うしかありません。
相続放棄が却下されたことによる「即時抗告」は、却下された日の翌日から2週間以内に高等裁判所へ手続きしなければならず、またその際にはより説得力のある相続放棄を希望する事情や証拠を準備しなければならないため、素人が個人で行うのは非常に厳しいかと思います。
そのため、熟慮期間が過ぎてしまい、どうしても相続放棄をしたいのであれば、最初から弁護士等の専門家へ相談して手続きに移るのが良いでしょう。
なお、弁護士は相続放棄申述から却下された場合の即時抗告まで、一貫してあなたの代理人を務められますが、司法書士は即時抗告手続きができませんので、万全を期すのであれば弁護士への相談をおすすめします。
一般に、弁護士と司法書士とでは、司法書士費用の方がやや安価な傾向にあります。ただし、司法書士の場合は業務の範囲に制限がありますので、その範囲を超えてしまうと結局のところあなた自身が率先して手続きを行わければならないというデメリットもあります。
下記に弁護士と司法書士の大まかな費用相場をまとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。
弁護士 | 司法書士 | |
相談料 | 0円~10,000円/1時間 | 0円~5,000円/1時間 |
申述申立書作成代行費用(実費等含む) | 5,000円~10,000円程度 | 3,000円~6,000円程度 |
代行手数料 | 50,000円~100,000円程度 | 20,000円~50,000円程度 |
成功報酬 | なしの場合が多い | なしの場合が多い |
熟慮期間経過後の対応(代行できるか否か) | ◎上申書の作成・即時抗告等の対応ともに〇 | 上申書の作成…〇即時抗告…× |
※事務所によって費用や対応に違いがありますので、あくまで参考程度と思ってください。
相続放棄申述書は、各裁判所や裁判所のホームページで取得することができますが、記入自体はそこまで難しいものではありません。
相続放棄申述書の書き方は、裁判所が用意する書式を利用すればさほど難しくなく、空欄を埋めて該当箇所に丸をつけていくだけで仕上げることができます。
引用元:相続の放棄の申述書(20歳以上)
相続財産の概略だけは少々面倒ではありますが、太枠内だけの記入でいいので、比較的簡単な書式です。
相続財産の概略は、申述書を作成する時点で分かっている範囲の財産を記入します。このとき、プラスの財産だけでなくマイナスの財産についても記入が必要ですが、1円単位の細かい額でなくざっくりとしたおおよその額を記載すれば問題ありません。
また、申述書に押す印鑑は実印である必要はなく、スタンプ印以外の認印なども利用できるのですが、申述が終わった後も何かと必要になる可能性がありますので、どの印鑑を使用したかをきちんと覚えておくか、提出前に申述書のコピーを取っておいたほうが良いでしょう。
さて、相続放棄申述書のうち1枚目の申述人・被相続人の情報を記載する部分は、20歳未満と20歳以上とで若干記入箇所が異なりますので、以下で少しご説明いたします。
申述する相続人が20歳未満の場合には、申述人の記名押印欄に「(申述人)の法定代理人 ○○」という形で法定代理人が記名押印を行います。
また、記名押印を行った法定代理人等について、申述人の下の欄に住所・氏名を記入します。このとき、住所等に関しては「申述人の住所に同じ」などと省略して書くこともできますが、手間でなければ全部きちんと書いたほうが間違いもなく安心かと思います。
申述人の職業に関しては、小学生や中学生などの記載で充分で、比較的緩やかに記入して問題ないでしょう。
法定代理人の情報を記載する際に、親権者・後見人・その他(この場合は3の横に具体的に内容を書きます)いずれかに丸をつけ忘れないように注意してください。
申述する相続人が成人している場合には、申述人の記名押印欄に本人が記名押印をすればよく、基本的には法定代理人等の情報を記載する必要もありませんから、申述人と被相続人の欄だけ記入すれば1枚目はOKです。
ただし、その相続人が制限行為能力者であったり、任意後見契約を結んでいるような場合には、その相続人が単独で申述をすることが難しい(またはできない)ので、未成年者の場合に準じて申述人の記名押印欄への法定代理人の記名押印や法定代理人の情報を記載する必要があります。
制限行為能力者が相続放棄をする場合には、通常「成年後見人」や「保佐人」「補助人」等が本人の代わりに手続きを行いますので、認知症などを患っている相続人について相続放棄手続きを行いたい場合には、まずこれらの法定後見人を確定するのが良いでしょう。
相続放棄の申述に必要な書類は、申述人と被相続人との関係性によって変わってきますので、以下の表を参考に、あなたに必要な書類を確認してみてください。
標準的な必要書類 |
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手数料関連 |
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追加で必要な書類 |
申述人:配偶者 |
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 |
申述人:子 |
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申述人:孫 |
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申述人:直系尊属 |
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申述人:兄弟姉妹 |
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申述人:甥姪 |
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相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ行います。被相続人と相続人が離れて暮らしていた場合、相続人の住所地の家庭裁判所が申述先とは限りませんので、改めて提出先の裁判所を確認することをおすすめします。
なお、相続放棄申述書を提出すると、1~2週間後に家庭裁判所から「相続放棄の照会書」が送られてくる場合があります(※送られてこない場合もあります)。これは相続放棄の申述についての申述人の真意や理解を確かめるための書面なので、送られてきたら質問事項に回答して家庭裁判所へ返送してください。
照会書で聞かれる内容としては、「相続放棄の意思は変わらないか」、「相続放棄の意味(相続権がなくなること)を理解しているか」、「相続開始を知ったのはいつか」といった簡単なものになりますので、あまり気負わなくて大丈夫です。
照会書が送られてきている場合、返送しなければいつまで経っても相続放棄手続きが完了しませんので、放置せず忘れずに返送するようにしましょう。
なお、照会書の返送後、特に問題がなければ「相続放棄申述受理通知書」が送られてきて、手続きが終了になります。ただし、相続放棄申述受理証明書に関しては、自動的に交付されるわけではなく、必要に応じて放棄した相続人または利害関係人が交付申請を行わなければ取得できませんので、この点にもご注意ください。
相続放棄申述書における放棄の理由は、限定承認の申述などとは異なり、該当する番号に丸をつけるだけで良いので記入自体は難しくありませんが、念のため放棄の理由の具体例をご紹介しておきますので、どの番号に丸をつけていいのか迷った場合には参考にしてみてください。
①被相続人から生前に贈与を受けている |
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②生活が安定している |
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③遺産が少ない |
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④遺産を分散させたくない |
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⑤債務超過のため |
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⑥その他 |
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相続放棄の申述書は、記載例通りにきちんと記入さえすれば、さほど難しい書類ではありません。しかし、これはあくまで熟慮期間内に適切に手続きを行っている場合に限って言えることなので、この期間を過ぎてから相続放棄をする場合には、自力で手続きをせずに弁護士等の専門家に相談した方が絶対に良いでしょう。
相続放棄は、何度もやり直せるような手続きではありませんから、チャンスは一度だけと考えておいた方が無難です。そのため、少しでも不安がある場合には、依頼するかはともかくとして無料相談などを利用し、専門家の意見を聴いた方が確実かと思います。
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