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KL2020・OD・037
国選弁護人制度(こくせんべんごにんせいど)とは、刑事事件で逮捕・勾留された人が貧困等の理由から自分で弁護士をつけられない場合に、国に弁護士の選任を請求できる制度のことをいいます。
国選弁護人制度は2016年に制度が改正されて利用できる人の範囲が広がりましたが、逮捕・勾留されたすべての人が利用できるわけではなく、貧困などの一定の要件を満たした人が利用できるという原則は変わっていません。
今回は、国選弁護人が使える場面や、実際の依頼方法などを詳しくご紹介したいと思います。
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目次
国選弁護人は、簡単に言えば「被告人(または被疑者)のために国が費用を負担して弁護士をつけてくれる制度」のことです。これは民事事件にはない制度で、刑事事件のうち一定の条件を満たす場合に利用できるようになっています。
まずは簡単に国選弁護人制度の概要を見てみましょう。
2016年に刑事訴訟法が改正され、それが施行される2018年6月2日以降は国選弁護人制度を利用できる人の範囲が拡大されます。
現行法で国選弁護人制度が利用できるのは、起訴された後の「被告人」と、「死刑又は無期もしくは3年を超える懲役・禁錮刑に該当する犯罪であって、その事件について勾留状が発せられている、または勾留請求がなされている場合の被疑者」です。
改正後は「その事件について勾留状が発せられている、または勾留請求がなされている場合」(要するに勾留状が発せられているすべての事件)に被疑者国選が利用できるようになるので、住居侵入罪などの軽い犯罪であっても、被疑者の資力など一定の条件を満たせば国選弁護人制度が利用できるようになります。
したがって、国選弁護人制度の改正点としては以下のポイントを押さえておけば良いでしょう。
刑罰を受けるということは、それだけで人身の自由に対する重大な制約・侵害ということができます。被告人は判決が確定するまで勾留されることになるため、憲法37条は人身の自由を制約された刑事被告人の様々な権利を保障するために設けられた規定です。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
(引用元:憲法37条)
憲法37条1項は「公平な裁判所における迅速な公開裁判を受ける権利」、2項は「被告人の証人審問権」、3項は「弁護人依頼権」をそれぞれ保障しており、被告人国選弁護制度は3項の弁護人依頼権を実現したものと言うことができるでしょう。
現在の刑事手続では、被告人が希望する場合で私選弁護人もいないという場合には、必ず国選弁護人が選任される仕組みになっています。
国選弁護人が使えるのは、起訴された後の被告人の立場にある人と、一定の条件を満たす被疑者(逮捕されたり勾留されたりしている人)です。そのため、利用場面によって「被告人国選」と「被疑者国選」というように区別することがあります。
被告人国選は、被告人が貧困等の理由で弁護士をつけられない場合には、事件の内容や重さにかかわらず誰でも利用できる制度です。
一応、現金・預貯金といった資産が50万円を下回ることが条件になりますが、この条件を満たさなくても私選弁護人を選任できない状況であれば、国選弁護人を選任することはできます。
また、一定の事件では弁護人がついていなければ裁判ができないとされています(これを必要的弁護事件と言います)。
この場合に私選弁護人が選任されていないケースであれば、被告人の希望の有無や資力要件に拘らず必ず国選弁護人がつきます。
被告人国選が使えるのは、次の3つのケースでそれぞれの条件を満たしている場合になります。
利用条件 |
|
被告人が請求する場合 (刑事訴訟法36条) |
・起訴されていること ・現金・預貯金などの資力が50万円を下回ること ⇒軽い罪でもOK ・資力が50万円を超える場合には、あらかじめ事件が係属する裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の弁護士会に弁護人選任申出(刑訴法31条の2第1項)をしたものの、私選弁護人が選任されないこと |
弁護人がいないと裁判ができない場合 (必要的弁護事件の場合|刑事訴訟法289条1項) |
・起訴されていること ・死刑又は無期もしくは長期3年を超える懲役・禁固刑にあたる事件であって、弁護人がいないまたは不出頭の場合 ⇒殺人罪、強盗罪、窃盗罪、傷害罪、強制性交等罪などの場合。資力要件も選任申出も不要 |
裁判所が任意的に選任する場合 |
・起訴されていること ・被告人が次のいずれかに該当すること ①未成年者 ②70歳以上 ③耳が聞こえない人 ④口のきけない人 ⑤心神喪失者または心神耗弱者の疑いがある人 ⑥その他裁判所が必要と認めるとき ⇒資力要件はなし |
現行法の被疑者国選は被告人国選よりも利用できる人の範囲が狭くなっており、現金・預貯金といった資産が50万円を下回ることが最初の条件になります(刑事訴訟法第三十六条の二の資産及び同法第三十六条の三第一項の基準額を定める政令1、2)。
そして、次のような条件をすべて満たす場合に初めて利用できるのが被疑者国選です。
資産が50万円を下回ることが条件とは言いましたが、現実的にはこの条件は建前です。仮に資力要件を満たさない場合でも、私選弁護人が選任されなければ国選弁護人を選任することができます。
そして、私選弁護人を選任するかどうかは被疑者・被告人の自由です。したがって、資産が50万円を超えていたとしても、私選弁護人の選任を拒否すれば、結果的には国選弁護人は選任されるのです。
私選弁護人と国選弁護人の違いは、次のような点です。
私選弁護人 |
国選弁護人 |
|
呼べる時期 |
いつでもOK |
・原則:起訴されてから ・例外:一定の条件を満たす場合は被疑者段階(勾留前後)からOK |
弁護士を選べるか |
○ |
× |
費用負担者 |
依頼人 (被疑者や被告人、その家族など) |
国 |
簡単に言えば、いつでも好きな弁護士を呼べるのが私選弁護人で、費用負担がない代わりに弁護士の選択権がないのが国選弁護人です。
また、国選弁護人は利用できる人や時期の条件が決まっているので、そういった意味ではやや融通の利かない制度かもしれません。しかし、多くの刑事事件では国選弁護人が弁護人として活動しています。
国選弁護人に依頼するとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
ここでは国選弁護人に依頼するメリット・デメリットについてご紹介します。
まずは国選弁護人に依頼するメリットについてご紹介します。
国選弁護人の最大のメリットは、費用が掛からない点です。
極稀に訴訟費用等の負担を判決として命じられて費用負担が生じることがありますが、多くのケースでは負担はありません。
国選弁護人制度は自身で弁護人を選任できない被疑者・被告人にとって重要な制度です。
国選弁護人に依頼するデメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか。
国選弁護人は、裁判所が日本司法支援センターを通じて職権で選任するため、被疑者・被告人は必ずしも自分の希望する弁護士を選ぶことはできません。もっとも、当番弁護士として接見した弁護士が気に入れば、この弁護士に国選弁護への切替を依頼することは可能です(ただ、当番弁護士も自分では選任できず、ランダムで選ばれますので、大きな意味では自分で選任できないということになろうかと思われます。)。
国選弁護人は日本司法支援センターの登録名簿から選任されます。この名簿登録は弁護士資格があれば誰でも登録できますので、登録されている弁護士は必ずしも刑事事件の解決実績が豊富な弁護士ばかりではありません。このような経験の乏しい弁護士が選任される可能性があるという点はデメリットといえるかもしれません。
昨今は被疑者段階で全件について国選弁護人が選任できるようになりましたが、それでも選任可能となるのは勾留が決定されてからです。
そのため、逮捕段階では国選弁護人のサポートを受けることが出来ません。勾留が決定されてからでは手遅れということはありませんが、早期解決や早期釈放を望むのであれば、逮捕直後から的確な刑事弁護活動が開始される方が望ましいことは確かです。
一方で、私選弁護人のメリット・デメリットとはどのようなものでしょうか。
私選弁護人のメリット・デメリットについてご紹介します。
まずは私選弁護人のメリットについてご紹介します。
私選弁護人は文字通り自ら弁護士を選ぶことが出来ます。
そのため、自身の刑事事件に近い事件の解決実績を持つ弁護士を見つけることができれば、これを弁護士として選任することができます。弁護士が同種事件を取り扱った経験があれば、あなたの事件についても的確なサポートが大いに期待できるかも知れません。
私選弁護人は選任後直ちに弁護活動を開始しますので、例えば逮捕直後に選任すれば、逮捕直後から刑事弁護を受けられますし、場合によっては逮捕前から相談しておけば、逮捕を待たずに刑事弁護活動が受けられます。
このようにスピード感ある対応をされることで、刑事手続により生じる不利益を最小限に抑制できるかもしれません。刑事弁護活動としては、例えば以下のような活動が想定されますが、これに限定されません。
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一方、私選弁護人に依頼するデメリットは以下の通りです。
私選弁護人に依頼する際の唯一にして最大の欠点は、費用が掛かるということです。
弁護士費用の分割払いやカード払いを可能としている弁護士も多いので、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
当初は国選弁護人に対応してもらっていたが、私選弁護人に切り替えたいというケースもあるかもしれません。
この場合は特に難しい処理は不要であり、私選弁護人と契約しつつ、同弁護人から弁護人選任届が提出されれば、自動的に切り変えられます。
国選弁護人制度は刑事訴訟法に定められていますが、実際には弁護士会(法テラス)が主要な役割を担っています。
法テラスは47都道府県各地に事務所を置いていますが、国選弁護人を利用したい本人が逮捕されている以上、自由に法テラスへ連絡することはできないかと思いますので、利用の際の手続方法などを整理していきたいと思います。
前述のとおり、国選弁護人が呼べるのは「被告人」と「被疑者」で、これらの人が自ら国選弁護人を利用したい旨を申請しなければなりません。
被疑者国選 |
被告人国選 |
① その事件について勾留状が発せられている、または勾留請求がなされている ② ①の被疑者であって、未だ釈放されていない ③ 被疑者に私選弁護人がいない状態 ④ 資力が50万円を下回る又は私選弁護人が選任されない。 |
① 起訴されている ② 資力が50万円を下回る又は私選弁護人が選任されない(任意的弁護事件) |
国選弁護人の依頼方法ですが、実際の状況によって多少の違いはあるものの、基本的には被疑者や被告人が裁判所に呼び出された際に私選弁護人がいなければ国選弁護人を申請するかどうかの意思確認がなされることになり、利用したければそのときに利用する旨を伝えるという流れになります。
図のように、利用する旨を伝えるのは裁判所ですが、国選弁護人の指名と通知を行うのは弁護士会(法テラス)です。国選弁護人制度は被告人保護の趣旨から始まった制度なので、家族が代わりに申請することはなく、あくまで被告人(または被疑者)本人が希望してつけてもらうという形なのです。
被疑者時点で国選弁護人をつけるには勾留質問という手続きまで待つしかありませんし、被告人国選は起訴後の利用ということで、示談交渉をしたい場合や速やかに弁護士をつけたい場合には不向きです。こういったケースでは、まず当番弁護士(※)という制度を利用するか、私選弁護人の利用を検討した方が良いでしょう。
※当番弁護士制度は、1つの事件において逮捕後から起訴までの間に1回だけ利用できる無料の弁護士との面会権を内容とする制度です。
さて、ここでは国選弁護人のよくある疑問について、気になるポイント・知っておくと役に立つ知識をご紹介していきたいと思います。
結論から言えば、国選弁護人は刑事手続きの際の「被告人の裁判を受ける権利」(憲法37条)を保障する制度なので、離婚や相続・損害賠償などの民事事件で利用することはできません。
また、民事事件では裁判をする・しない選択やどういった主張を行うかに関しては訴訟当事者が自由に決めることができるので、弁護士等に頼らずに本人が訴訟を進めることが認められています。
そのため、民事事件で弁護士をつける場合には、費用は全て自己負担になります。費用が心配という場合には、法テラスの民事法律扶助制度の利用を検討してみるのが良いでしょう。
国選弁護人の報酬は国が負担するのが原則で、法テラスでは弁護士向けに「こういう弁護活動をすると○○円の報酬が出ますよ」というような目安を設けています。
例えば、被疑者国選の場合、基礎報酬は【2万6,400円+接見回数に応じた基礎報酬】が支払われるのですが、私選弁護人の報酬は70万円程度がスタートということと比べると、この時点で結構安いことが分かるのではないでしょうか。これが“国選弁護人は儲からない”と言われる根拠なわけです。
さて、国選弁護人の報酬や費用は国が負担するのが一般的ではありますが、例外的に一定額を負担しなければならない場合もあります(刑事訴訟法181条1項)。
第百八十一条 刑の言渡をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。
2 被告人の責に帰すべき事由によつて生じた費用は、刑の言渡をしない場合にも、被告人にこれを負担させることができる。
3 検察官のみが上訴を申し立てた場合において、上訴が棄却されたとき、又は上訴の取下げがあつたときは、上訴に関する訴訟費用は、これを被告人に負担させることができない。ただし、被告人の責めに帰すべき事由によつて生じた費用については、この限りでない。
4 公訴が提起されなかつた場合において、被疑者の責めに帰すべき事由により生じた費用があるときは、被疑者にこれを負担させることができる。
(引用元:刑事訴訟法181条)
基本的に国選弁護人を利用する人は貧困等の事情があるので弁護士費用を負担せずに済むことが多いのですが、例えば執行猶予判決で働くことができる人だったり、保釈されていたり、在宅起訴だったりといった事情がある場合には、若干の弁護士費用を負担するよう裁判所から命じられる可能性はあります(ケースとしては稀です。)。
とはいえ、私選弁護人の数十万よりは安く、被告人国選なら7~8万円程度、被疑者国選なら15~20万円程度に落ち着くことが多いようです。
上記の報酬額でも想像がつくかもしれませんが、国選弁護人ははっきり言って儲かりません。その報酬は私選弁護人の水準に比して極めて低額ですし、多くの実費は自己負担です。そのため、私選弁護人に比して、国選弁護人のサービスが手薄になってしまうことはある意味やむを得ないことではあります。
しかし、弁護士は弁護士法により重い職責を担うとされており、多くの弁護士は自身の職務について十分な責任感を有しています。また、国選弁護人というのは法テラスと弁護士とが契約を結んで運営されており、刑事弁護に熱心な弁護士も数多く登録しています。
したがって、私選弁護人と国選弁護人とでやる気が大きく違うというのは誤解であり、職務に対する姿勢は基本的には余り変わらないと考えていただいて良いと思います。
ただ、国選弁護人となる弁護士も国選弁護以外の仕事も抱えていることが通常です。また、上記の通り報酬・費用面で十分な報いを受けていないということも事実です。したがって、私選弁護人のように“痒い所に手が届くような”弁護活動を期待するのは少し違うかもしれません。例えば接見の回数が少なかったり、公判廷以外での充分な弁護活動ができない可能性はあるでしょう。
その意味では、民事事件でも刑事事件でも、あなたや家族が納得して選んだ弁護士についてもらった方が結果に対する満足度が高くなる傾向にある分、費用についてはある程度仕方がないかと思っていただくのが良いかと思います。
被疑者国選の対象は徐々に拡大され、現在全勾留事件が対象となりました。もっとも、事案により、早期解決を目指すのであれば、勾留前の段階から、私選弁護人の利用を検討すべき場合があります。
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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
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