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KL2020・OD・037
懲戒処分は、基本的には公務員の場合、地方公務員法や国家公務員法の規定に従い、正当な理由によって判断されますが、場合によっては、不当な理由によって懲戒処分を受ける可能性もあります。
また、参考までに一般職の国家公務員について、平成26年1月から12月までの懲戒処分の状況は以下の通りです。全体の懲戒処分数は367件になり、そのうち懲戒免職は23件あります。
参照元:人事院
ほかにも地方公務員や教師(教育公務員)においても同様に、犯罪行為が原因になれば懲戒処分についてニュースになることもありますが、状況によっては、国家公務員を含め懲戒処分を取消することも可能です。
取消訴訟を提起することで必ずしも処分が覆される訳ではありませんが、正当な主張をすれば懲戒処分が取り消される可能性もあるでしょう。
今回は公務員が対象になる懲戒処分の取消訴訟について、具体的な事例と合わせて解説していきます。
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懲戒免職(強制的な退職)や出勤停職などの懲戒処分を一般的に『不利益処分』と呼びますが、不利益処分を受けた国家公務員や地方公務員は要件を満たせば処分取消を求めることができます。
懲戒処分を取消すために行う手続きについて順番に説明しますが、流れは以下図の通りになります。取消訴訟(行政事件訴訟)は最終的な手段になり、審査請求(不服申立て)を先にすることが決められています。
懲戒処分を受けた公務員は下記のように、審査請求をすることが認められています。請求先については国家公務員の場合は人事院、地方公務員の場合は人事委員会か公平委員会であると定められています。
(審査請求)
第九十条 前条第一項に規定する処分を受けた職員は、人事院に対してのみ審査請求をすることができる。
引用元:国家公務員法 第90条
(審査請求)
第四十九条の二 前条第一項に規定する処分を受けた職員は、人事委員会又は公平委員会に対してのみ審査請求をすることができる。
引用元:地方公務員法 第49条の2
ただし、どんな場合でも処分を取消す申立てができる訳でなく、審査請求にはいくつかの要件(条件)があります。審査請求における要件を満たしていない場合は申立てを受理してもらえないため注意が必要です。
取消しの要求が可能な不利益処分は『職員の意に反して』決められたことが条件になります。なので、職員本人が同意したと認められた不利益処分については審査請求ができません。
審査請求が可能な期間が設けられていて、原則として以下で記載されている条文の通り処分説明書を受け取ってから翌日から起算して3カ月以内、または処分があった日の翌日から起算して1年以内に申立書を人事院(または人事委員会や公平委員会)に提出する必要があります。
(審査請求期間)
第九十条の二 前条第一項に規定する審査請求は、処分説明書を受領した日の翌日から起算して三月以内にしなければならず、処分があつた日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。
引用元:国家公務員法 第90条の2
(審査請求期間)
第四十九条の三 前条第一項に規定する審査請求は、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して三月以内にしなければならず、処分があつた日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。
引用元:地方公務員法 第49条の3
なお、処分証明書とは懲戒処分を受ける職員に渡される書類であり、処分の内容や発令日、処分理由などが記載されています。
参照元:人事院
懲戒処分に対する審査請求が棄却されてはじめて、行政事件訴訟の一つである取消訴訟を提起することができます。この制度は『不服申立前置主義』と呼ばれていて、下記の条文でも取消訴訟の提起について条件が定められています。
(審査請求と訴訟との関係)
第九十二条の二 第八十九条第一項に規定する処分であつて人事院に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事院の裁決を経た後でなければ、提起することができない。
引用元:国家公務員法 第92条の2
(審査請求と訴訟との関係)
第五十一条の二 第四十九条第一項に規定する処分であつて人事委員会又は公平委員会に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事委員会又は公平委員会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。
引用元:地方公務員法 第51条の2
審査請求の利用を前提とする制度については、懲戒処分の取消に関与する国家公務員法や地方公務員法に限らず、生活保護の決定や実施に関する処分(生活保護法)や国税に関する更正処分(国税通則法)などでも適用されています。
審査請求だけでなく取消訴訟の提起にも期限があり、原則としては正当な理由がない限り不服申立ての審査結果が通知された日から起算して6カ月以内、または審査結果が出た日から起算して1年以内であるとされています。
審査請求では処分説明書を受け取った日(または処分があった日)の翌日起算で規定されていますが、対して取消訴訟では審査結果が通知された日(または審査結果が出た日)の当日起算になります。
基本的には審査結果が出なければ取消訴訟は提起できませんが、たとえば審査請求をした日より3カ月を経過しても裁決(審査結果)が出ない場合において取消訴訟の提起が許されています。例外については行政訴訟法第8条にて規定されています。
第八条 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。
一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。
二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
引用元:行政事件訴訟法 第8条
懲戒処分に関する取消訴訟の事例について、訴えた側の主張が通って取消になった場合とならなかった場合に分けて見ていきましょう。裁判で争われる懲戒処分については通常、一番重い懲戒免職が多いとされています。
酒気帯び運転で懲戒免職処分を受けた小学校の元教員が県に取消訴訟を提起し、最高裁まで争われた事例があります。1審(地裁)では元教員側の請求が棄却されましたが、2審(高裁)にて呼気中のアルコール濃度が低く、免職処分に対する悪質性が欠けていることを理由に元教員の逆転勝訴となり、最高裁でも2審判決が確定されました。
また、別の事例として複数の生活受給者にセクハラをして懲戒免職処分を受けた元市職員が取消訴訟を提起し、結果的には1審(地裁)で元市職員の請求が通り、裁判長は市に対して懲戒免職処分の取消しを命じました。
判決では元市職員に交付した処分事由説明書には懲戒免職の根拠になる具体的な事実が記載されていない点より、違法であると判断しました。
取消訴訟による請求が通る理由として、懲戒処分に妥当な理由があったかどうかが疑わしいことや、懲戒処分の内容に違法性が見込まれる場合などが考えられるでしょう。
上記の事例と同じく酒気帯び運転が原因の事例ですが、交通事故を起こして懲戒免職処分を受けた元薬剤師が市を相手に取消訴訟を提起したところ、1審(地裁)で棄却されました。棄却した理由として、病院側は酒気帯び運転の防止を重ねて指導してきたため、懲戒処分は市の裁量権の範囲内であるとのことです。
また、市民病院が実施した医療廃棄物処理などの一般競争入札と契約で不適正な事務処理をしたことで、懲戒戒告処分を受けた元市職員が市に対して取消訴訟の提起と1,000万円の慰謝料を請求しましたが、1審(地裁)で棄却された事例があります。
入札資格の不備を見落としたことで不正に入札に参加させてしまい、一定の非難は免れられず処分は妥当だと裁判所側で判断したとのことです。
裁判でも国側の懲戒処分に違法性が見られなかったり、懲戒処分が妥当な判断だと認められたりした場合には、訴えた側(原告)の請求は通らないでしょう。
上記で取り上げたように懲戒処分に対する取消訴訟は棄却されることが多く、懲戒処分を出した国側の判断が妥当である場合には裁判で争っても取消しが難しくなります。
また、取消訴訟の前段階である審査請求でも、以下表の通り国家公務員の請求結果を見ても棄却される割合の方が高いことが分かります。
公平審査制度 申立容認件数 申立棄却件数 不利益処分審査請求 30件 91件 行政措置要求 2件 5件 災害補償審査申立て 23件 87件 給与決定審査申立て 3件 56件 引用元:人事院
公務員の懲戒処分が正当に認められる条件としては、例を挙げると以下の通りです。
ただし、同じ懲戒処分の理由でも状況によって取消しされるかどうか変わります。懲戒処分が妥当になる悪質性や、国側からの指導が前々から入っていた場合などは懲戒免職レベルの罰則が適切だと見なされる可能性が高くなるでしょう。
また、取消訴訟では提起が可能な期間(出訴期間)などの要件が定められています。仮に審査請求が却下されて取消訴訟に移行する場合は、取消訴訟の可能な条件が揃っているかどうかを確認するべきでしょう。
最後に懲戒処分の内容について、参考までに取り上げていきます。会社員と公務員で罰則の通称が異なることもありますが、基本的には6段階に分類されます。
懲戒処分の中では一番軽い内容になります。戒告は口頭による注意を意味し、譴責は始末書の提出を従業員や職員に求めることです。
なお、公務員の場合は口頭での注意である訓告や厳重注意もありますが、取消訴訟の対象である不利益処分には該当しません。
国家公務員の場合には人事院規則3条、地方公務員の場合は条例で減給の基準が示されています。
(降給の種類)
第三条 降給の種類は、降格(職員の意に反して、当該職員の職務の級を同一の俸給表の下位の職務の級に変更することをいう。以下同じ。)及び降号(職員の意に反して、当該職員の号俸を同一の職務の級の下位の号俸に変更することをいう。以下同じ。)とする。
引用元:人事規則11-10 第3条
公務員の場合は停職という言い方になりますが、出勤停止中は就労が認められないため賃金は支払われません。なので、上記の減給処分と似たような罰則であるといえます。
降格は職位を下げることになるため、次長から課長といった具合に役職が低くなります。また、役職によって給料のベースが決められている場合が多いため、必然的に減給もされるでしょう。
諭旨退職(公務員の場合は諭旨免職)は自己都合の退職であり、従業員や職員が自主的に辞めていく形になります。
※諭旨(ゆし)は、趣旨や理由を言い聞かせることを意味します。
自己都合で退職すれば退職金をもらえる可能性があるため、強制的に辞めさせられる懲戒解雇(懲戒免職)よりは軽い処分になります。
懲戒処分の中でも最も重い処分である懲戒解雇(公務員の場合は懲戒免職)は強制的な退職なり、その理由について不服申し立てが入る場合が多く、比較的裁判で争われるケースになります。通常の解雇とは違い懲戒解雇では事前予告が不要になるため、即時の解雇も条件を満たせば可能です。
懲戒処分に対する取消訴訟は事前に審査請求を行うべきであり、審査請求や取消訴訟をするには請求期間などの条件を満たすことが必要になります。懲戒処分が取消になる可能性は決して高くありませんが、処分理由に納得がいかないようであれば一度は弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
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