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KL2020・OD・037
医療過誤の裁判は、医療に関する知識が求められるため、一般の民事裁判と性質が異なります。
医療の性質を前提に話を進めていくため、医療過誤は裁判が終わるまでに数年の歳月を要するのが一般的です。一般的な裁判と違い、手続きがスムーズに進まない医療過誤の裁判ですが、では一体、どのような手順で裁判の手続きを行うのでしょうか。
当記事では、医療過誤の裁判の手続きの方法とその手順を説明した上で、裁判に要する費用、勝訴するために必要な弁護士の選び方についてまとめてみました。
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目次
最初に、医療過誤の裁判で患者側(原告)が勝訴する可能性が低いことを前提に、医療過誤裁判に関する説明をしていきます。
医療過誤の損害賠償請求訴訟では、原告(患者側)が被告(病院側)の過失を主張立証していかなければなりません。
勝訴する理由が難しい原因の一つに、医療過誤訴訟においては過失を立証することが難しいことがあります。
医療過誤訴訟においては医療水準(診療当時の臨床医学の実践における医療水準)を元に過失の有無を判断していきますが、治療が成功しない場合でも治療水準に達している場合は過失が認められません。
また、治療水準を判断ことは難しく、病院の医師のレベルや設備によって水準が異なります。
医療過誤の過失は、医療という専門性の高い知識を必要とするため、立証することが難しいことも、勝訴することが難しい原因の一つです。
医療過誤の裁判では、原告(患者側)が過失に関する証明をする必要があり、医療機関は過失がなかったことを証明する必要はありません。
つまりは「医師が行うべき治療・診断内容」はどういったものなのか、それを踏まえた上で「手技ミス」、「縫合不全」など医師の過失の内容がどういったものなのかを、医学的知見を元に明確にしなければならないということです。
過失を立証するために病院内の証言者が必要になりますが、医師が医師をかばうことが多いと言われています。
病院内でカルテの改ざんが行われることもあるので、立証するに必要な証拠や証言者を揃える上で支障があることは、医療過誤の裁判で勝訴することが難しい原因の一つです。
では、医療過誤の裁判の方法について順を追って説明して行きます。
まず、裁判所へ証拠保全の申立を行います。
証拠保全とは、カルテやレントゲン写真、検査データなどの診療記録を廃棄、改ざん等されないようにし、証拠として押さえるための方法です。
裁判所を介さずとも病院の窓口にて、診療記録を取得することも可能性ですが、カルテの改ざんなど証拠を隠ぺいされるリスクがあります。
証拠保全は裁判所から抜き打ちで行われるため、証拠の隠ぺいを防ぐためにも証拠保全を行うべきでしょう。
申立から診療記録を取得するまでの期間は、1ヶ月~2ヶ月を目安に考えてください。
次に、収集した医療記録を元に、
上記の2点を専門医に調査してもらいます。
全ての診療記録を専門医へ分析を任せることは時間がかかる上に見落としが発生する原因になるので、弁護士が診療記録を時系列順にまとめ、調査してもらう医療行為を絞った上で、専門医に調査を依頼することが一般的です。
過失調査に要する期間は、大体3ヶ月~6ヶ月程度と言われています。
過失調査の結果、過失があり、発生した事故と過失に因果関係があり、さらにその両方を立証できる場合、病院側へ損害賠償金を請求します。
もし過失が明らかな場合は、病院側は請求に応じる場合もあるため、裁判所を介さずに病院側と直接、示談金の交渉をするのがいいでしょう。
もし病院側が示談交渉に応じない場合は、病院の住所を管轄する地方裁判所にて損害賠償請求訴訟の申立てを行ってください。申立ての際には、訴状を作成しますが訴状には、
上記の2点を記載します。
訴状の提出から約1ヶ月半後に、被告(病院側)が答弁書を提出しますが、答弁書とは原告の訴えの内容に対して認める部分と、認めない部分を主張するための書類です。
答弁書の提出後、訴状、答弁書の内容を補完するために、被告・原告のそれぞれに、カルテ、医学文献、協力医による意見書などの書証を提出する機会が設けられます。
※協力医:医療裁判に関して助言やアドバイスをしてくれる医者。医療裁判は専門性が高いため医師の協力は欠かせない。 |
訴状、答弁書、提出した書証を元に、双方の意見の食い違いについて裁判官を前に口頭弁論が行われます。
口頭弁論が終結すると、裁判所が双方の主張立証をもとに判決を下します。
これに対して、双方が控訴をしなければ、判決は確定し、裁判は終了です。
控訴されると、控訴審で改めて判断がされ、控訴審が判決を下します。多くの場合、申立から判決が確定するまで平均2年近くの歳月がかかると言われています。
裁判の流れを踏まえた上で、過去に行われた医療過誤の裁判例について確認していきましょう。
まず最初に、がんにより死亡したAの相続人である遺族(原告)が、治療を受けた病院側(被告)へ提起した裁判について紹介します。
原告は、被告が末期がんと診断したにも関わらず、患者とその妻子へ診断内容の説明を怠ったことにより精神的苦痛を味わったことに対する慰謝料請求の申立をしました。
この訴えに対して裁判所は、被告が原告へ120万円の損害金を支払う判決を下しました。この判決に対して被告は控訴をしましたが控訴は棄却されました。
次に紹介する判例は、左大腿骨頭置換術を受け死亡したBの相続人ら(原告)が、手術が実施された病院(被告)を訴えた裁判になります。
この裁判は、死亡の原因が手術の際に麻酔医が投与した麻酔が過剰投与であり、過剰投与であったこと(過失)を内容とする訴えです。
この訴えにより、被告が原告である各相続人へ476万6666円を支払う判決が下されました。この判決に対して被告は控訴しましたが、裁判所は控訴を棄却しました。
未熟児として生まれたCに対して眼底の診断、治療を正当に行わなかったとし、Cの両親(原告)が、Cに眼底検査をした眼科(被告)を訴えました。
Cは、被告の眼底検査では異常なしと診断されましたが、別の病院の眼科では両目共に未熟児網膜症瘢痕期三度だと診断されました。
被告の診断内容が適切ではなかった(過失)とし、原告は被告を訴えましたが裁判所は原告の訴えを認めませんでした。
この裁判は最高裁まで原告から上告されましたが、結果は変わりませんでした。
医療過誤裁判ではどれくらいの費用が発生するのかを説明していきます。
まず、病院側に慰謝料を請求する前に、証拠保全、過失調査を行いますが、それぞれの費用については以下の通りになります。
慰謝料の請求における弁護士費用の相場は直接交渉する場合と、調停、民事訴訟で異なります。交渉、調停の場合の弁護士費用は以下の通りです。
調停に関しては裁判所費用として郵便切手代(6000円~)と手数料がかかりますが、手数料は以下の表を参考にしてください。
請求金額 | 手数料 |
100万円以下 | 10万円につき500円 |
100万円超、500万円以下 | 20万円につき500円 |
500万円超、1000万円以下 | 50万円につき1000円 |
1000万円超、10億円以下 | 100万円につき1200円 |
10億円超、50億円以下 | 500万円につき4000円 |
50億円超 | 1000万円につき4000円 |
民事訴訟をする場合の弁護士費用の相場は以下の表の通りになります。
訴額 | 着手金 | 成功報酬金 |
1,000万円以下 | 約50万円~110万円 | 経済的利益の10%~30% |
1,000万円超 | 経済的利益の3%~5%+30万円~50万円 | 経済的利益の10%~30%(最低額30万円~40万円) |
加えて申立費用として、郵便切手代(6000円~)に加えて印紙代がかかりますが、印紙代に関しては、以下の表を参考にしてください。
請求金額 | 手数料 |
100万円以下 | 10万円につき1000円 |
100万円超、500万円以下 | 20万円につき1000円 |
500万円超、1000万円以下 | 50万円につき3000円 |
1000万円超、10億円以下 | 100万円につき3000円 |
10億円超、50億円以下 | 500万円につき10000円 |
50億円超 | 1000万円につき10000円 |
医療過誤の裁判で勝訴するためには弁護士選びが大切です。
では、どのようにして弁護士を選んでいけばいいのでしょうか。
まずは、医療裁判に長けている弁護士の特徴を知るべきです。
医療分野に特化した弁護士の特徴として、「医学の知識がある」、「広範囲の協力医の人脈がある」の2点があげられます。
医療過誤の裁判は、医療に関する専門的な知識が求められるため、弁護士にもある程度の医療の知識が求められます。
医師免許を持っている弁護士も中にはいるので、医師免許を持っている弁護士に依頼できると安心かもしれませんが、同じ医療でも専門分野が異なるため一概に良いとは言えません。
他分野の医療裁判でも柔軟に対応できる弁護士に担当してもらうことが必要です。
過失を立証する上で協力医の存在は欠かせません。
過失の対象となる専門分野に特化した専門医に協力してもらうことが必要ですが、そのためには協力医の人脈が広い弁護士事務所に依頼するべきでしょう。
また、医者によっては訴え先の病院との関係性を壊したくないために協力してもらえない場合もあるので、幅広い医師とのネットワークを持った弁護士事務所に依頼できると安心です。
では、医学分野に長けた弁護士はどのように探せばいいのでしょうか。
まず、過去の医療裁判の案件数や実績を元に選んでください。幾つかの事務所を参考に、実績のある弁護士事務所を選ぶといいでしょう。
また、医学文献が揃っている弁護士事務所に依頼すると勝訴する可能性は高くなります。
医療文献は、高額であるため医療文献が揃っている弁護士事務所は多くありません。弁護士の中には、図書館で文献を参考にする弁護士もいるそうですが、必要な時に事務所に文献がないことで勝訴する上で大事なことを見落としてしまうこともあります。
そのため、医学文献が事務所に揃っている弁護士に依頼することが大切です。
相談する際には、親身に対応してくれる弁護士かどうかも見極めましょう。
依頼する方の状況によって、裁判に踏み切るべきか、または裁判の進め方は異なるため対応が丁寧な弁護士に依頼するべきです。
医療過誤の裁判は勝訴するのが難しいため、手続きの流れや弁護士の選び方については抑えておくべきでしょう。
医療裁判をする上で今回の記事を参考にしていただけたらと思います。
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