行政訴訟で和解が行われることが少ない理由|和解の否定説と肯定説

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
行政訴訟で和解が行われることが少ない理由|和解の否定説と肯定説

行政訴訟において和解で解決するケースはほとんどなく、基本的には裁判所による判決で原告側の請求が認容されるか却下(または棄却)されるかが決まります。

また、民事訴訟と同様に行政訴訟でも裁判で争われますが、行政上の責任について国や地方公共団体などの行政機関と争う場合には、民事訴訟のように誰でも原告として訴訟を提起できる訳ではなく、行政処分の取り消し請求など裁判で争うべき条件(訴訟要件)を満たす必要があります。

今回は行政訴訟で和解が行われることが少ない理由を含め、原告側である一般市民が行政訴訟で不利になる背景について説明していきたいと思います。

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目次

行政訴訟における和解の意味とは?|裁判での解決方法まとめ

行政訴訟における和解の意味とは?|裁判での解決方法まとめ

行政訴訟においてほとんどないケースである和解の意味について最初に取り上げますが、冒頭でお伝えしたように行政訴訟では当事者同士が和解することはほとんどありません。

和解は判決を待たず当事者同士が話し合って訴訟を終了させること

裁判における和解とは、判決を待たずして当事者同士が話し合って妥協案を成立させることですが、例として1,000万円の損害賠償金を請求していた民事訴訟にて、800万円の損害賠償金で早期的な示談成立に同意し、当事者同士が和解するケースがあるでしょう。

次項でも説明しますが、民事訴訟では和解で解決されることが多く、裁判になっても当事者同士の話し合いで解決する可能性は十分にあります。

実際に和解勧告で解決した行政訴訟の例

対して行政訴訟では裁判所からの和解勧告で解決するケースはほとんどありませんが、例外的に和解で裁判が終わった事例を取り上げます。

実例では税務処分の徴収をめぐる争いくらいしか和解が認められず、取得した外航船に関する法人税の特例制度が適用されるかどうかの問題において、更正処分を受けた会社は訴訟提起したものの、敗訴した場合の事業継続のリスクを考慮して、途中で裁判上での和解を選んだケースになります。
参照元:「横浜地裁平成13年10月10日判決」

和解という形にはなりますが、訴えた側の原告に勝ち目がなく、裁判を続けても不利になるだけと判断して、原告が退いた結果だといえるでしょう。

行政訴訟ではほとんどの場合判決による解決がなされる

ただし、上記の判例は例外であるため、行政訴訟は以下で説明する判決によって裁判が終わるのが原則になります。

行政訴訟における判決の種類

行政訴訟での判決は主に以下の3種類になりますが、認容される割合は民事訴訟や刑事訴訟と比較して、かなり低くなります。その理由は国側と裁判で争うことの難しさが関係しているでしょう。

却下

取消訴訟を提起するための訴訟要件を満たさず、原告側の訴えが不適法だと見なされる場合です。

棄却

行政処分に違法性が確認されず、原告側の請求に理由がないため取消が認められない場合です。

認容

行政側の違法性が認められ、処分または裁決の一部(あるいは全部)が取り消される判決です。

行政訴訟と民事訴訟(または刑事訴訟の)の違い

行政訴訟と民事訴訟(または刑事訴訟の)の違い

行政訴訟で和解する事例が極端に少ない理由を考えるにあたり、民事訴訟や刑事訴訟との比較で行政訴訟の特徴について見ていきます。

民事訴訟の場合|損害賠償の請求など(私人同士の争い)

民事訴訟では個人間の損害賠償請求などが主な目的になり、離婚や相続に関するトラブルや貸金の返還、交通事故の被害における慰謝料請求などの訴えが民事訴訟に該当します。

民事訴訟(民事裁判)は私人同士の争いであるといえます。

刑事訴訟の場合|刑罰の妥当性を審理する(検察官の判断で訴訟提起される)

刑事訴訟では裁判を起こす場合、被告人に刑罰を科すかどうかを国家が審理するため検察官による判断が必要になります。

被告人に罪があることを検察官が証拠を集めて証明することが求められ、量刑(または無罪)による判決になるため、民事訴訟と違い和解という解決方法はありません。

行政訴訟の場合|行政による処分行為や裁決の取り消しを請求する

行政訴訟では様々な種類がありますが、行政訴訟の一部である取消訴訟を例に考えると、行政による処分行為や裁決の取り消しを請求することを目的に裁判を起こします。

行政処分行為の例として、確定申告に関連する税務処分のほか、公務員の懲戒処分や労災認定労災保険の不支給処分などがあり、それらの処分取り消しを求める場合には行政訴訟を提起する必要があります。

妥協案の提示が困難である行政訴訟において和解のケースはほとんどない

行政訴訟では基本的には行政処分が取り消されるか取り消されないかの二択になり、当事者同士が納得する妥協案の提示が困難であるため、和解のケースは上記で取り上げた税務処分の例を除いてまずありません。

参考までに民事訴訟における和解について確認すると、以下表の通り全体の3分の1程度が和解による解決手段が取られることが分かります。慰謝料や損害賠償金などをめぐるトラブルでは、当事者同士が納得できる解決策が採用されることも多くあるようです。

民事第一審訴訟事件(地方裁判所)の終局区分
※平成16年4月1日から同年12月31日まで

 

事件数

事件割合

判決

50,552

47.4%

和解

37,787

35.5

取下げ

14,783

13.9%

それ以外

3,431

3.2%

行政訴訟の和解に関する否定説と肯定説

行政訴訟の和解に関する否定説と肯定説

上記では行政訴訟の和解が極端に少ないことを説明してきましたが、行政訴訟の目的(行政処分の取消要求)という観点から和解が難しいという理由に加えて、以下で説明する和解否定説が浸透しているため、行政訴訟における和解が考えにくいとされています。

通説になっている否定説|法律による行政の原理を重視

通説になっている和解否定説では法律による行政の原理を重視し、『法律による行政の原理を理由に、国や地方公共団体などの行政庁は、自らの行政処分が適法と考える限り最後まで争うのが正しい』という考え方が主流になっています。

和解否定説を言い換えると、行政処分の違法性については法律の範囲内で審理することが前提であり、当事者同士の合意によって行政処分の妥当性を決めてはならない、ということになるでしょう。

日本ではあまり認められていない肯定説|和解の範囲を広く認める考え方

しかし、日本国内ではあまり認められていませんが和解肯定説も複数あり、行政庁の裁量が認められている範囲内であれば行政訴訟の和解は妥当である考え方や、上記で説明した和解否定説とは対照的に『行政訴訟の和解を妨げる事由は存在しない』と和解が認められる範囲を広く捉えている説もあります。

海外では行政訴訟の和解が比較的認められている

日本国内と比較して海外の方が行政訴訟の和解が認められている傾向にあり、行政訴訟の一種である税務訴訟を例に考えると、フランスやイギリスなどでは行政側と一般市民で和解できる制度が整っており、アメリカでも税務署の審査担当官と納税者の和解が認められています。

各国の法律や不服申立て制度によって行政訴訟の和解に対する考え方が変わっており、海外と比べると日本の行政訴訟(税務訴訟)は、和解に関する研究や対策があまり進んでいないとも考えられるようです。

行政訴訟で原告側の勝訴が難しい理由

行政訴訟で原告側の勝訴が難しい理由行政訴訟における和解についてこれまで解説してきましたが、行政訴訟の提起で重要になるのが裁判での勝ち目です。

原告側の勝訴率が10%程度だと言われている行政訴訟では以下の通り、行政処分の違法性や訴訟要件などが不明確であることを理由に、行政処分の取り消しなどの請求が認容される可能性が低いとされています。

違法性や訴訟要件が明確でないケースが多い

行政処分の違法性を的確に指摘することも難しいですが、行政訴訟を提起する条件である訴訟要件を満たしているかどうかの判断も困難です。

詳しくは以下の記事をご参考いただければと思いますが、訴訟要件を満たしていない限りは行政処分が違法であったとしても、裁判で争うべき案件でないと見なされて棄却されてしまうため、注意が必要です。

情報力において国側と一般市民側で大きな差がある

国と裁判で争う際には情報力において不利になり、行政処分の違法性について法的な観点で的確に説明するための知識や証拠が必要になります。

一方で行政庁側では、国の代理人として訴訟活動を行う検事(訟務検事)が出てくるため、専門家との弁論に対抗するためには、弁護士に依頼するべきでしょう。

弁護士費用や手間などの負担が重い

しかし、弁護士に依頼するにあたりデメリットになるのは弁護士費用です。弁護士費用の目安は次項で説明しますが、仮に裁判で負けた場合は原告側の負担になるため、裁判に要した時間と共に費用も無駄になってしまう恐れがあります。

勝ち目の薄い行政訴訟では一般市民側が不利なのは明らかですが、それでも行政庁と裁判で争いたい場合には、まずは弁護士に相談するべきです。

行政訴訟で弁護士へ依頼する場合に知っておくべきこと

行政訴訟で弁護士へ依頼する場合に知っておくべきこと行政訴訟で和解になる可能性はほとんどなく、基本的には法律的な見地より判決によって原告側の訴えが妥当であるかどうかが決まります。

そのため、訴えを起こす一般市民は弁護士の協力が必須になりますが、行政訴訟で弁護士に依頼する際に知っておくべきことを最後にまとめましたので確認しておきましょう。

弁護士がやってくれること

行政訴訟について弁護士に相談した場合、原告に代わって弁護士は以下のような対応をしてくれます。

  • 裁判で勝ち目のある案件であるかの判断
  • 行政訴訟を提起した場合にかかる弁護士費用の見積もり
  • 訴訟提起で必要な書類作成(訴状など)
  • 裁判で必要な証拠集め
  • 裁判での弁護活動

弁護士への初回相談にて、裁判で争うべき案件であるかどうかという疑問点や弁護士費用について確認するのが良いでしょう。

費用(弁護士費用の目安)

行政訴訟でかかる費用は、主に弁護士に依頼する際に発生する弁護士費用であり、弁護士費用には依頼時に発生する着手金と依頼者の希望通りに解決した場合に支払う報酬金の2種類があります。

あくまで一つの目安ですが、行政訴訟で発生する着手金の算出例は以下表の通りです。また、報酬金の相場は着手金の2倍程度だとされています。

《着手金算出例》

経済的利益(裁判で請求する賠償額)

着手金

300万円以下の場合

経済的利益 × 8%
※最低額:10万円

300万円を超え1,000万円以下の場合

経済的利益 × 5% +固定額 9万円

1,000万円を超え3,000万円以下の場合

経済的利益 × 4% +固定額 20万円

3,000万円を超え3億円以下の場合

経済的利益 × 3% +固定額 69万円

3億円を超える場合

経済的利益 × 2% +固定額369万円

弁護士の選び方

弁護士を選ぶ基準として、行政訴訟の経験があるかどうかが重要になります。これまで説明した通り、行政訴訟は民事訴訟や刑事訴訟と違う手続きになるため、行政訴訟に携わった弁護士でないと適切な対応ができないと思われます。

また、信頼できる弁護士であるかどうかを判断するポイントでは、行政訴訟に関与した件数などを確認するのも良いでしょう。弁護士の実績を示す数字やデータを参考に、任せられるかどうかを判断できます。

まとめ

行政訴訟における和解について解説してきましたが、法律的な問題が絡んでおり理解が難しい内容であることがお分かりいただけたかと思います。

民事裁判では自分だけで裁判を起こす本人訴訟の対応を取れるケースもありますが、行政訴訟は専門的な知識が必要になるため、弁護士へ依頼した方が無難だといえるでしょう。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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編集部

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