行政事件訴訟法とは?|改正法による行政訴訟制度などの変更点まとめ

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
行政事件訴訟法とは?|改正法による行政訴訟制度などの変更点まとめ

行政事件訴訟法(ぎょうせいじけんそしょうほう)とは、行政事件について裁判で争う制度(行政訴訟制度)を取り決めた法律であり、省略して『行訴法』と呼ばれることもあります。

また、関連法である『行政不服審査法』と併せて、行政処分に対する不服申立てから行政訴訟の提起まで一連の救済方法を確認することができますが、今回は改正法による訴訟制度の変更点について解説してきます。

行政事件訴訟法や行政不服審査法が改正された目的は、不服申立て制度や行政訴訟制度の公平性や利便性を高めることです。

それでは、利用しやすくなった現状の行政訴訟の内容について確認していきましょう。

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行政事件訴訟法では行政事件に関する救済制度が規定されている

行政事件訴訟法では、国や公共団体による違法性のある行政活動(処分行為)によって不利益を被った一般人(民間人)が利益の回復を求めるために訴訟提起できる旨の内容が規定されています。

行政事件訴訟法が制定された経緯

昭和37年に施行された行政事件訴訟法の元をたどると、行政活動の違法を争うために司法裁判所が行政事件の裁判権を持つようになった行政制度のために、昭和23年に規定された『行政事件訴訟特例法』があります。

そこから今の行政事件訴訟法へと繋がっており、行政訴訟の定義や法定で行政処分の是非をめぐって争えることの条件(訴訟要件)などが決められました。

行政事件訴訟法第2条~第7条|4種類の行政訴訟における定義

行政事件訴訟法第2条~第7条では以下図と表で示されている通り、行政訴訟の類型が示されています。行政活動の内容や原告と被告の関係によって、行政訴訟の種類が変わります。

行政事件訴訟法第2条~第7条|4種類の行政訴訟における定義

行政訴訟の分類:主観訴訟
※主観訴訟とは、行政処分において一般人が直接的に関与していることを意味する

抗告訴訟

行政庁の公権力の行使に対する不服がある場合に提起する行政訴訟のこと。

当事者訴訟

一般人が国側に対して訴訟を提起するものの、互いに同等な立場として裁判で争われる。
※民事訴訟に近い形式になります。

行政訴訟の分類:客観訴訟
※客観訴訟とは、直接的な利害関係はないが訴えが認められていることを意味する

民衆訴訟

原告になる一般人が国側と直接な利害関係が発生せず、原告側に直接的なメリットはないものの例外的に訴訟が認められるケース。

機関訴訟

一般人がおらず、行政同士による裁判のこと。

なお、行政事件訴訟法は行政訴訟に関する規定になるため、同法第7条で規定されている通り、この法律で定めがない事項は行政訴訟ではなく民事訴訟扱いになるとされています。

(この法律に定めがない事項)

第七条  行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。

引用元:行政事件訴訟法 第7条

行政事件訴訟法第8条~第35条|最も事案の多い取消訴訟を規定

行政事件訴訟法第8条~第35条は、行政訴訟の中で最も多い事案とされる『取消訴訟』に関する規定となっています。取消訴訟は抗告訴訟の一種であり、行政側からの処分や裁決の取消を請求する訴訟のことです。

取消訴訟の詳細については、以下の関連記事をご参考いただければと思います。

行政事件訴訟法における法的な役割と関連法について

行政事件訴訟法が規定している行政訴訟制度を利用する際には、関連法である行政不服審査法も正しく理解する必要があるでしょう。なぜなら、行政訴訟を提起するためには行政不服審査法で規定されている不服申立て制度を利用することが義務付けられているからです。

以下では行政事件訴訟法における行政訴訟制度と比較して、行政不服審査法の不服申立て制度について取り上げていきます。

行政事件訴訟法の役割|行政訴訟制度の取り決め

行政事件訴訟は上記で説明した通り行政訴訟に関する規定になるため、法廷で争われる救済方法だといえます。

ただし、行政事件では行政行為を受けてすぐに裁判になる訳でなく、訴訟の前段階になる審査請求を必ず利用する必要があります。その審査請求が行政不服審査法で定義されている不服申立て制度の一部になります。

関連法である行政不服審査法の役割|行政訴訟の前段階である不服申立ての取り決め

行政不服審査法で決められている不服申立て制度は『行政不服審査制度』と呼ばれるものであり、以下図のように行政訴訟を提起する前段階として、行政処分に対して不服があった場合に審理の要求をすることになります。

関連法である行政不服審査法の役割|行政訴訟の前段階である不服申立ての取り決め

行政訴訟に至るまでに複数回の審査や調査を挟んでいる理由として、再審議の公平性のほか、原告側の主張内容や行政処分の取消理由などの明確化などが考えられます。なので、法廷で争うだけが救済方法ではなく、行政不服審査法で規定されている行政不服審査制度の利用も重要な役割を担っているといえるでしょう。

それぞれの法令は改正法による見直しが行われた

また、行政事件訴訟法と行政不服審査は近年になり、それぞれの制度内容が不十分であると判断されて改正法による見直しが行われました。不服申立て制度や行政訴訟制度を利用する方にとっては知っておくべき内容であるため、次項以降で改正点について解説していきたいと思います。

平成16年改正行政事件訴訟法|行政訴訟を利用しやすくするための改正

平成17年4月1日に施行された平成16年改正行政事件訴訟法では、以下の通り訴訟要件に関する見直しがされました。

改正の経緯|行政訴訟制度の見直し

改正前の行政事件訴訟では、出訴期間(提訴が可能な期間)が短く、ほかにも管轄裁判所が限られていたり訴訟ができる条件の一つになる原告適格の基準が厳しかったりするなど、行政訴訟における利便性が欠けているとされていました。

したがって、原告側(訴える側)にとって利用しやすい制度へと変えるための改正法が求められており、平成16年改正法が成立しました。

主な改正点1|救済範囲の拡大

改正点の一つとして救済範囲の拡大が挙げられます。訴訟要件になる原告適格は改正前において、直接的な利害関係が認められない第三者に対する取消訴訟の提起は認め難いものでした。

しかし、以下で記載されている行政事件訴訟第9条2項の追加によって、法令以外の要素も考慮されることになり、直接的な利害関係が認められない第三者に対しても原告適格が認められる規定が設けられました。

2  裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

引用元:行政事件訴訟法 第9条2項

主な改正点2|出訴期間の延長など利用しやすい条件・制度への変更

行政訴訟制度を利用するにあたり、提訴可能な期限が短いことも使いづらい点でした。改正前の出訴期間は審査請求(または再審査請求)の結果が通知されてから3ヵ月以内であり、取消訴訟の準備では相当な期間を要するものであるため不適当な期間設定だとされていました。

なので、改正法によって出訴期間が6ヵ月に延長され、加えて正当な理由がある場合においては期間経過後の提訴も認められるようになりました。

(出訴期間)

第十四条  取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

2  取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

3  処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

引用元:行政事件訴訟法 第14条

主な改正点3|審理の充実

また、訴訟提起のしやすさに加えて法廷での審理内容を充実させる規定が加わりました。具体的には釈明処分で被告側(行政側)に提出してもらう資料の範囲が拡大されたり、処分または裁決の理由を明確にする資料だけでなく、訴訟の提起前に行った審査請求に関与する事件の記録も請求できるとされています。

※釈明処分とは、当事者の主張を明確にするために処分等の判断の証拠(根拠)になった資料を提出させることです。

平成16年改正法の内容 2

そこで,平成16年改正では,釈明処分により提出を命ずることのできる文書の範囲を拡大し,処分又は裁決の理由を明らかにする資料や審査請求に係る事件の記録の提出を求めることができることとされた。また,提出を求め又は送付を嘱託する相手方についても,被告である国又は公共団体に所属する行政庁や被告である行政庁に限らず,それらの行政庁以外の行政庁に対しても,処分又は裁決の理由を明らかにする資料や審査請求に係る事件の記録の送付を嘱託することができる旨の規定が新設された(第23条の2 。)

引用元:法務省

以上が平成16年改正行政事件訴訟法における主な変更点になりますが、行政不服審査法の改正でも同様に不服申立て制度の利便化を目的としているので次項で見ていきましょう。

平成26年改正行政不服審査法|不服申立てを利用しやすくするための改正

平成28年4月1日に施行された平成26年改正行政不服審査法は、不服申立て制度における利用のしやすさや公正性の向上を目的としています。

改正の経緯|公正性や使いやすさの向上

行政不服審査法は昭和37年に施行されてから約50年の間、改正されることなく適用されていましたが、不服申立てを行う側にとっての利便性や公正性が考慮されて、以下の通り抜本的に見直されて不服申立て制度の内容が変わりました。

主な改正点1|審理員による審理手続きや第三者機関への諮問手続き

審査請求における公正性を向上させるために、以下のような変更がされました。

  • 職員のうち処分に関与していない者が審理員として公正に審理する
  • 裁決時には行政不服審査会など第三者機関による点検がされる

行政処分との関与がない第三者による審理がなされることで裁決の客観性が確保できると思われますが、審査請求における手続きの流れについては以下図の通りです。

総務省

総務省

引用元:「総務省

主な改正点2|審理の充実(審査請求への一元化)

審理手続きの充実や使いやすさを目的に改正法で以下表の通り変更されて、審査請求人の権利が拡充されました。

変更項目

改正前

改正後

審査請求期間

処分の通知日の
翌日から60日以内

処分の通知日の
翌日から90日以内

口頭意見陳述

・申立てをした審査請求人・参加人の意見陳述聴取に限定

・他の審理関係人の出席の規定はない

・申立てをした審査請求人・参加人は意見の陳述に加え、処分庁等に対する質問も可能

・全ての審理関係人を招集して実施する

提出書類などの閲覧

処分庁等から提出された
書類や物件の閲覧に限定

対象を審理員に提出された全ての書類や物件に拡充するとともに、写しの交付も可能

また、改正前における不服申立て制度は『異議申立て』と『審査請求』の2通りに分かれていましたが、改正法により不服申立ての種類が審査請求の一元化がなされ、以下図のように手続きの流れが変わりました。

主な改正点2|審理の充実(審査請求への一元化)

主な改正点3|審理における迅速性の確保

また、審査請求人の権利拡大に加えて、審理にかける時間を短縮させるための事項が以下の通り設定されました。

  • 標準審理期間の設定|努力義務化への変更
  • 審理関係人の責務|情報提供などの協力により迅速かつ公正な審理の実現
  • 争点などの整理|審理手続きの前段階となる準備手続きを新設

以上で説明したように、行政訴訟制度と同じく不服申立て制度も平成28年に施行された改正法によって、行政に対して訴える側である審査請求人にとって利用しやすい環境になっていることが分かります。

まとめ

行政事件訴訟法で定められている行政訴訟制度を理解するためには、現状の法令に至った背景になる改正の内容や、関連法である行政不服審査法で規定されている不服審査制度(行政不服審査制度)を一通り把握する必要があるでしょう。

行政訴訟では法律的な問題が複雑に絡むため、行政処分への対応判断が難しいケースも考えられます。分からないことがあれば、行政事件に通じている弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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