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KL2020・OD・037
行政訴訟における原告適格(げんこくてきかく)とは、取消訴訟などの行政訴訟を提起する原告として認められるための資格(訴訟要件)のことであり、行政処分が取消されることで利益が回復することが認められるかどうかが原告適格の有無を確かめられる一つの基準になります。
原告適格については行政事件訴訟法で規定されていますが、平成17年4月に施行された改正法により、原告適格が認められる条件である『法律上の利益』の解釈が拡大されました。改正前における法律上の利益については法律上の規定が最重視されていましたが、改正法の適用によって第三者の被侵害利益についても原告適格として認められる、といった解釈になります。
しかし、上記の概要だけでは原告適格とはどういうものなのかを理解することが難しいため、今回は行政訴訟の提起で必要な条件となる原告適格について、要点をおさえて分かりやすく解説したいと思います。
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目次
行政訴訟とは国や公共団体などの行政庁より下された行政処分に対して撤回や取消を求める訴えのことですが、今回は行政訴訟の一部に分類される『取消訴訟』を前提に、訴訟を起こせる条件の一つである原告適格について説明していきます。
行政処分に対する不服申立てが取消訴訟の制度によって一般人(民間人)に許されていますが、どんな場合でも訴訟提起が認められている訳ではありません。基本的には、以下表で記載されている6つの訴訟要件を満たす必要があります。
取消訴訟の訴訟要件 |
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要件1 |
処分性(処分の対象になるかどうか) |
要件2 |
原告適格(訴える者の資格) |
要件3 |
訴えの利益(取消訴訟によって回復する利益があるかどうか) |
要件4 |
裁判所管轄(訴訟を提起する場所の条件) |
要件5 |
出訴期間(訴訟を提起する時間的な制約) |
要件6 |
被告適格(訴えられる側の条件) |
訴訟要件の一つである原告適格は行政事件訴訟法第9条1項で規定されている通り、取消訴訟を提起して行政処分を取消してもらうことで、法律上の利益が回復されると見込まれるといった内容になります。
(原告適格)
第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
引用元:行政事件訴訟法 第9条1項
言い換えると、行政庁からの処分や裁決が仮に取消されても、法律上で保護されている利益が取り戻されると考えにくい場合は原告適格が認められず、取消訴訟が棄却されることになります。
基本的には法律上で確かめられる利益の損害や、被告側(訴えられる側)との利害関係が明確になっている場合において、原告適格が証明され得ると思われます。
利害関係の立証が微妙であり原告適格の判断が難しい例として、空港などの公共施設建築計画に対して騒音を懸念する近隣住民など、第三者が取消訴訟を提起するケースが挙げられます。
不特定多数の住民にとって不利益になる公害に関しては直接的な利害関係が成立せず、法律上の利益が確かめられないと解釈される傾向にありますが、行政事件訴訟法が改正されたことにより、法律上の利益に対する『広義的な解釈』が認められて第三者の立場でも原告適格が認められる可能性が出てきました。
改正法による法律上の利益に対する『広義的な解釈』について、次項で続けて解説していきたいと思います。
行政訴訟により回復が見込まれる法律上の利益について、以下の通り2種類の解釈ができることをおさえておきましょう。簡単にいうと、『法律上の規定を重視した狭義的な利益』であるか『侵害の程度を重視した、法的な保護に妥当する広義的な利益』といった違いになります。
狭義的な解釈は、上記で取り上げた行政事件訴訟法第9条1項の規定に従うことになり、既存の通説や判例を基に法律上保護された利益の有無が判断されます。なので、法律的な見地では回復すべき利益が見当たらない場合、原告適格があると認められることは難しくなるでしょう。
ただし、法律的な解釈から回復すべき利益を導くことが難しくても、裁判により救済すべき事実上の利益があると見なされた場合は、原告適格が認められることもあります。
この解釈の仕方は法的な保護に妥当する広義的な利益に該当し、以下で記載する行政事件訴訟法第9条2項で明文化されています。
平成17年4月の改正法によって追加された行政事件訴訟法第9条2項により、法令による規定以外でも法律上の利益を判断する要素を認められるようになりました。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
引用元:行政事件訴訟法 第9条2項
条文内容が長く要点がハッキリしないため、法律上の利益を決定づける広義的な解釈のポイントを取り上げると、
ということになります。法令の文言に縛られず、ある程度の融通が利くようになったといえるでしょう。
原告適格の判断について、具体的な事例を参考に見ていきましょう。まずは原告適格が認められた判例について以下でまとめました。
本事例は第三者による訴訟提起であり、第一審では法律上の規定により法律上の利益を有する者に該当せず棄却されなかったものの、最高裁では以下裁判要旨の通り、周辺住民への重大な被害が法律上で保護すべき利益に該当すると見なされて原告適格が認められました。
一 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住し、原子炉事故等がもたらす災害により生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民は、原子炉設置許可処分の無効確認を求めるにつき、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に該当する。
二 設置許可申請に係る電気出力二八万キロワットの原子炉(高速増殖炉)から約二九キロメートルないし約五八キロメートルの範囲内の地域に居住している住民は、右原子炉の設置許可処分の無効確認を求めるにつき、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に該当する。
また、長沼ナイキ基地訴訟と呼ばれる事例は航空自衛隊のナイキ地対空ミサイル基地を建設する問題に対する取消訴訟ですが、保安林を伐採すると洪水の危険性があり、周辺住民に直接の利害関係が認められたため、取消訴訟における原告適格が有するとされました。
原告適格が認められるポイントは、原告側(訴える側)の不利益が重大なものであり、侵害が明確である点になるでしょう。実際に行政処分が取消されるかどうかは別として、当事者に限らず不特定多数の住民に深刻な危害が加わる恐れがあれば、行政訴訟が可能になると考えられます。
しかし、上記の事例とは対照的に原告適格が認められないケースも多数あるので、一部を以下で説明していきます。行政事件訴訟法 第9条2項で法律上の利益が広義的に解釈できるものの、その改正法が認められる前は法律的な見地が重視されていました。
主婦連ジュース訴訟(昭和53年3月 最高裁判決)と呼ばれる事例は、商品の表示方法において問題があったことに対する行政訴訟のことですが、不当景品類及び不当表示防止法の規定で示される被害者(一般消費者)という位置づけでは、個人的な利益を損害しているとは言い難いため、原告適格が認められず棄却されました。
質屋営業許可取消の請求(昭和31年9月 最高裁判決)は、直接的な利害関係を生まない第三者に対する質屋営業許可処分の取消を求める事例になりますが、法律上の利益を有さないと判断し棄却されました。
既存の質屋営業者は、第三者に対する質屋営業許可処分の取消を求める法律上の利益を有しない。
引用元:「裁判所 質屋営業許可取消請求 裁判要旨」
また、墓地経営許可処分取消請求事件(平成12年3月 最高裁判決)でも、墓地などの周辺に居住する住民において個別的な利益が保護されているとは認め難く、取消訴訟を提起する原告適格を有さないとの判断がされました。
知事が墓地、埋葬等に関する法律一〇条一項に基づき大阪府墓地等の経営の許可等に関する条例(昭和六〇年大阪府条例第三号)七条一号の基準に従ってした墓地の経営許可の取消訴訟につき、墓地から三〇〇メートルに満たない地域に敷地がある住宅等に居住する者は、原告適格を有しない。
引用元:「裁判所 墓地経営許可処分取消請求事件 裁判要旨」
改正法(行政事件訴訟法 第9条2項の適用)が認められる前は、法律上の利益に対する捉え方の柔軟性が乏しく、『高速増殖炉もんじゅ訴訟』など一部の事例を除いては、直接的な利害関係が確認できない第三者に対しての原告適格は容認されづらい事情があったと思われます。
行政訴訟を提起しても上記の事例のように原告適格として判断されなかった場合、最高裁まで争うのも一つの手段ですが、以下のことを見直す必要もあるでしょう。
原告適格が認められないということは、行政訴訟を提起する資格がないと言われているようなものなので、基本的には訴訟提起は不可能になります。なので、第一審で却下された以上は控訴をするかどうか、先の見通しと労力をよく考えるべきでしょう。
ただし、問題提起を行政処分から離して、個人的な不利益を被ったことによる損害賠償の請求をめぐって民事訴訟で争う手段もあります。民事訴訟における原告適格の考え方は行政訴訟と変わるため、場合によっては民事訴訟による提起が通る可能性もあるかもしれません。
行政訴訟における原告適格が認められる条件について、お分かりいただけましたでしょうか。一般人(民間人)が国に対して訴えを起こそうとする場合、法律的な条件をクリアする必要がありますので、行政事件に携わっている弁護士に一度相談した方が効率的に対応できるようになるでしょう。
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