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KL2020・OD・037
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に認められた最低限の遺産の取り分のことで、遺言などでこの取り分を侵害された権利者は、遺留分減殺請求を行うことで、遺留分相当の財産を取得することができるとされています。
遺留分減殺請求には、当事者間での話し合いのほか、裁判所での話し合いである「調停」と、裁判(訴訟)という方法がありますが、裁判所を介しての手続きを行う際には「管轄」というものを守らなければなりません。
管轄は、簡単に言えばどの裁判所がその事件を担当するかを決めたものですが、遺留分減殺請求の場合には、調停と裁判とで管轄が異なることに注意が必要です。
今回は、遺留分減殺請求訴訟の管轄を中心に、遺留分を請求する際の管轄の違いをご紹介していきたいと思います。
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遺留分を請求する場合、一番簡単なのは遺留分を侵害している相手方と直接交渉して話し合うことですが、人間関係や物理的な距離などの要因で裁判所を介して遺留分を請求せざるを得ないこともあります。
裁判所での手続きを利用して遺留分を請求するには、基本的には「調停」と「訴訟」を考えることになりますが、調停は家庭裁判所、訴訟は地方裁判所(または簡易裁判所)へ手続きを行うなど管轄が少し違う点に注意が必要です。
ここではまず、遺留分減殺に関する手続きをどこの裁判所で行うべきかを整理していきたいと思います。
家庭内での紛争に関しては、裁判手続きを行う前にまずは話し合いをするべきであるとして、「調停前置主義」という考え方が採用されています。
(調停前置主義)
第二百五十七条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
(省略)
(引用元:家事事件手続法257条1項・2項)
遺留分に関する紛争も調停前置主義が適用されるので、いきなり裁判をすることはできず、決められた方式で適法に訴えを提起したとしても、原則として調停からスタートさせられることになるのです。
ただし、訴えの提起自体は無効にはならないので、場合によってはそのまま裁判が始まることもあります。
話し合いから初めたほうが良いという判断で裁判官が職権によって調停から始めさせることを「付調停」と言い、事件の種類によっては調停がまとまらなかったら自動的に審判へ移行するものもあります(なお、遺留分減殺請求調停は審判移行しないため、不調になった場合は調停はそのまま終了します。)。
調停前置主義が採られている場合、手続きの流れは以下の図のようになります。
調停前置主義が適用される場合は、訴訟の提起ではなく調停の申立てを最初に行うことになります。
遺留分の調停は、「遺留分減殺による物件返還請求調停(遺留分減殺請求調停)」という名前の調停手続きで、遺留分権利者やその承継人が、遺留分を侵害する相手方の住所地または当事者が合意で定める家庭裁判所へ調停の申立てを行います。
申立て費用は1,200円+連絡用の郵便切手代となっており、調停申立書も比較的簡単に記入することができるようになっています。
調停申立が受理されると、当事者には裁判所から調停期日の通知が送られてくるので、指定された日時に裁判所へ出頭して調停に参加します。
調停は非公開で行われ、当事者全員が顔を合わせて話し合うのではなく、裁判官や調停委員との個人面談のような形で進んでいくのが一般的です。手続きの進行説明などを行う期日は全員が顔を合わせることもありますが、基本的には同じ期日に呼び出されていても他の当事者に会うことはありません。
裁判官や調停委員が当事者の意見や主張を聞き取り、それらをすり合わせて和解案をまとめていくわけですが、全員が合意すれば調停が成立し、合意できなければ調停は不成立という形で終わります。
調停が不成立となってしまったら、次はいよいよ裁判(訴訟)を考える段階になります。
遺産分割調停の場合は、調停が不成立になれば自動的に審判(裁判)へ移行してくれるようになっていますが、遺留分減殺請求に関してはそのような措置がありませんから、改めて訴訟を提起する手続きが必要です。
遺留分減殺請求調停は家庭裁判所へ手続きを行いますが、遺留分減殺請求訴訟は地方裁判所または簡易裁判所へ提起することになり、申立書ではなく「訴状」という書類を作成する必要があります。
また、訴えの提起にかかる手数料は、実際に請求する遺留分の額に応じて変わってきますので、裁判所の手数料早見表を確認することが大切です。
訴状などに不備がなく、訴えが提起されると当事者に期日の通知がなされます。後は期日に裁判所の公開の法廷で裁判を行うことになりますので、証拠を揃えたり、論理的な主張を組み立てるなどの準備がカギになります。
ある程度期日を重ね、審理が尽くされると、裁判所は判決によって裁判の決着をつけます。
遺留分減殺請求訴訟で敗訴した当事者や全部の請求を認めてもらえなかった当事者は、判決の送達翌日から2週間以内に上級裁判所へ控訴をすることができますが、誰も控訴しなければこの期限が過ぎると判決が確定し、判決内容を実現する義務が生じることになります。
既に触れたとおり、遺留分に関する裁判所での手続きは、次のような管轄の違いがあります。
遺留分減殺請求調停 |
遺留分減殺請求訴訟 |
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担当する裁判所の種類 |
家庭裁判所 |
地方裁判所(140万円超)または簡易裁判所(140万円以下) |
手続き先の裁判所の所在地 |
相手方の住所地または当事者が合意で定める家庭裁判所 |
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必要な費用 |
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被相続人や当事者全員が同じ管轄内に居住している場合はあまり気にしなくて済むかと思いますが、利用する手続きに合わせて、最低限「家庭裁判所か地方裁判所か」についてだけは注意を払うことをおすすめします。
遺留分減殺請求を行う場合、裁判所を介するか否かに関わらず、一定の書類を集めて請求内容を考えなければなりません。
というのも、当事者間では被相続人や相続人が誰で、相続する財産がどれくらいあるかなどは簡単に分かることではありますが、裁判所など相続の実態を客観的に知ることができない第三者の場合は、その内容の当否を判断するにあたって様々な証拠が必要なのです。
ここでは、遺留分減殺請求の際に必要になる書類をご紹介するとともに、どこで入手できるかについても整理していきたいと思います。
遺留分減殺請求を始める前には、請求する遺留分の内容を正しく理解する必要があります。そこで、まずは次のような書類を準備しておくのが良いかと思います。
書類名 |
用途・備考 |
入手経路 |
被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 |
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被相続人の本籍地の市区町村役場 |
相続人全員の戸籍謄本 |
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各相続人の本籍地の市区町村役場 |
遺言書 |
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財産目録 |
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贈与記録(あれば) |
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生命保険等の証書など |
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被相続人の身辺 |
また、死亡による代襲相続が発生している場合には、死亡した被代襲者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍・改製原戸籍)を入手しておくと良いでしょう。
ここで準備した書類は、調停や訴訟の際にも提出が求められるものになりますので、実際に請求を始める前に揃えておくと後の手続きが楽になるかと思います。
なお、生命保険(死亡保険)金や退職金に関しては、原則として遺留分の対象財産にはならないことから、これらを含めずに遺留分額を計算するのが通常です。
ただし、被相続人が契約者となって保険料を払い込んでいた場合はその部分について特別受益と判断できることがありますし、これらの給付金が相続財産と比べて過度に大きい場合には、特別受益に準じるものとして考慮される可能性がありますので、念のため記録を集めておくことをおすすめします。
遺留分減殺に関する調停と訴訟では、上記の書類のほか、次のような書類が必要になります。
手続き名 |
書類名 |
入手経路 |
遺留分減殺請求調停 |
調停申立書 |
裁判所、裁判所ホームページ |
当事者目録 | ||
物件目録(土地) | ||
物件目録(建物) | ||
遺留分減殺請求訴訟 |
訴状 |
裁判所・裁判所ホームページの定型書式のほか、専門家が作成する独自のものもある |
当事者目録や物件目録(調停の場合と同様)などの添付書類 |
訴状に関しては、裁判所の書式を利用すると素人でも比較的簡単に記入することができますが、弁護士や司法書士などの専門家は独自のフォーマットを利用して作成することが多いです。
そのため、専門家に調停や訴訟を依頼している場合には、自分で申立書や訴状を作らずとも代わりにサクサク作ってもらえるかと思いますので、難しいと感じたら弁護士等に相談することをおすすめします。
遺留分減殺請求を行う方法としては、①裁判所を介せずに当事者間の交渉で行う方法、②調停、③訴訟という3種類が考えられますが、どのような方法で行ったとしてもある程度の費用が必要になりますので、ここで簡単に整理しておきたいと思います。
独力で全ての請求を行うのであれば、書類の収集等でかかる実費の分だけ費用を見積もっておけば良いでしょうが、専門家の力を借りたい場合には、実費に加えて着手金や報酬金といった専門家費用もある程度理解しておくと、手続きの際に役立つでしょう。
弁護士や司法書士の費用については明確な相場があるとは言えないのであくまで参考値になりますが、何となく理解していただければ幸いです。
遺留分減殺請求の基本となる「内容証明郵便」は、郵便局の窓口で内容証明郵便を出したい旨を伝えるか、インターネットによる内容証明郵便制度によって利用することができます。
通常の内容証明郵便 |
e内容証明郵便 |
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差し出す前に準備するべきもの |
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利用料金 |
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1枚の内容証明文書を通常送付した場合のおおよその合計額 |
82円+430円+430円=942円 ※e内容証明よりも送れる文字数が少ないため、2枚以上になることも珍しくありません。
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82円+15円+375円+298円+430円=1,200円 |
被相続人や相続人の戸籍謄本を取得する際には、謄本の発行手数料(450円~)や郵送請求する場合の送料などが必要です。
相続の関係者が多いと、この必要書類を集めるだけでも数千円~数万円の費用がかかりますので、実は一番費用が読みにくいものかもしれません。
調停の場合は1,200円分の収入印紙、訴訟の場合は価額に応じた手数料がそれぞれ発生し、これらとは別に当事者への連絡用の切手代が必要です。当事者の人数が少なく、調停だけの利用であれば、数千円~2万円程度で収まるかと思います。
ただ、遺留分減殺請求訴訟を起こす場合は請求額によって手数料が大きく変わりますので、裁判所の手数料早見表を確認し、分からなければ裁判所に聞いてみるのがおすすめです。
また、これらとは別に遺言書の検認費用(1通あたり800円分の収入印紙+連絡用の郵便切手代)などが必要になることがありますので、ある程度はまとまったお金を準備しておくと安心かと思います。
遺留分減殺請求を専門家に依頼する際の費用相場としては、以下のような設定にしている事務所をよく目にします。
弁護士 |
司法書士 |
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相談料 |
5,000円~2万5,000円/30分 ※無料相談を実施している事務所も多数! | 0円~5,000円/30分 |
内容証明郵便の作成・送付 |
1万5,000円~4万円程度/通 | 1万円~2万円程度/通 |
着手金 |
最低10万円程度~請求額の8%程度まで ※調停や訴訟の対応を任せる場合、相場は20万円~30万円程度 | 0円~事務所によって異なる |
報酬金 |
最低20万円程度~得られた利益の16%程度まで | 数万円~事務所によって異なる |
一般的に、司法書士の方が費用が安い傾向にありますが、弁護士の代理権に制限がないのに対し、司法書士は140万円を超える案件については相談や助言などをすることができないなどの制限がありますので、どちらが適しているかはケースバイケースと言えるでしょう。
専門家に依頼するのをためらっている場合には、無料相談などを上手く活用して、自分に専門家が必要かどうかを判断するのも良いでしょうし、費用を重視するか・解決までの時間を重視するかによって自ずと選択肢が見えてくるかと思います。
専門家へ相談に行ったら必ずそこで依頼しなければならないというわけではありませんし、面談のほかメールや電話での相談受付をしている事務所も多くありますので、まずは相談だけでもしてみてくださいね。
遺留分減殺請求は、当事者間の交渉や調停・裁判のように様々な方法で行うことができますが、裁判所を交えての手続きとなると一定のルールが設けられており、その中でも管轄権は重要なポイントになります。
管轄を間違えてしまうとせっかくの請求も無駄になってしまいますから、手続きを始める前に充分に確認して、正しい裁判所へ手続きしてくださいね。
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本記事はあなたの弁護士を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。
※あなたの弁護士に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。
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