劇場型詐欺の実態|複数の詐欺師から電話がかかってくる手口に要注意

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弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
劇場型詐欺の実態|複数の詐欺師から電話がかかってくる手口に要注意

劇場型詐欺(げきじょうがたさぎ)とは、複数の詐欺師がターゲットの家族、被害者、警察、弁護士などそれぞれの役割を演じる詐欺のことをいいます。複数の人物から次々と電話がかかってくることで、家族が本当に被害に巻き込まれているとターゲットが信じ込みやすくなるのがこの手口のポイントです。

国民生活センターに寄せられた相談件数の推移を見ると、2013年度の相談が最も多く18,949件で、減ってはいるものの2016年度には5,522件の相談が寄せられたことがわかります。

引用元:国民生活センター

複数の人物に詐欺を仕掛けられると、なぜ被害者は騙されやすくなってしまうのでしょうか?

今回は、劇場型詐欺の事例と手口、被害を未然に防ぐ対策と、被害に遭ってしまった際にすぐやるべきことをお伝えします。

劇場型詐欺の手口|組織的に被害者を騙し信用させる

劇場型詐欺の手口|組織的に被害者を騙し信用させる

劇場型詐欺はオレオレ詐欺などでよく使われる手法で、次の点で以前よりも騙し方が巧妙になっているといえます。

  • もはや「おれ、おれ」と言わない(しっかりターゲットの情報を集めている)
  • 複数の人物になりすまし組織的に騙してくる
  • 役割分担や脅しのシナリオが練られている

ターゲットの個人情報をよく調べている

古典的なオレオレ詐欺の場合、詐欺師がターゲットの家族になりすます際に名前すらわかっていないことがよくありました。それでも騙される人はいましたが、今同じように電話で「おれ、おれ」と言っても通報されるのがオチでしょう。

こんな手口、今はもうありません。最近の詐欺師は、ターゲットの個人情報をよくリサーチしています。

  • 家族構成
  • 家族の名前
  • 家族の勤め先や学校
  • 家族の持病や悩み

家族しか知らないようなことが詐欺師の口から出てくるためリアリティがあります。電話越しの人物を家族と信じ込んでしまっても無理はないのかもしれません。

複数の詐欺師がそれぞれの役割に成りすます

ターゲットの家族、警察、弁護士、駅員など、複数の詐欺師が複数の人物に成りすます点がこの手口のキモです。複数の人物から次々と電話がかかってくるため、事件が本当に起きていると錯覚しやすくなります。

集団の中で自分の意見と異なることを言う人が多い場合、自分の意見を信用できなくなり集団のみんなが言っている内容を信用してしまう傾向を社会的証明といいます。

人は、集団の中で自分を支持する意見が全くないと、自己の意見の妥当性に疑問を感じ、意見を取り下げてしまうのが普通である。しかし、自分を支持する意見が1つでもあると、状況が一変する。

引用元:Wikipedia|社会的証明

簡単にいうと「みんなが言っているから正しい」と考えることを社会的証明といいますが、劇場型の詐欺師はこの心理を巧みに悪用している可能性があります。

“三役系”というターゲットを追い込むためのシナリオが用意されている

劇場型詐欺では、三役系という被害者を効率よく騙すためのシナリオがあります。家族役、被害者役、第三者役の三役がそれぞれの役割を演じ、効果的にターゲットを追い詰めていきます。シナリオの例は次の通りです。

シナリオ例 登場する役
名義貸しに関するシナリオ 名前だけでも貸してくれ、と業者Aに言われ、数日後「名義貸しは犯罪」と業者Bから電話がかかってくる
痴漢に関するシナリオ 痴漢をした息子、被害者女性、駅員、警察、被害者側の弁護士などが登場する
会社に損失を出すシナリオ 損失を出した息子やその上司などが登場する
不倫に関するシナリオ 被害者の旦那役、不倫相手の女性、女性の旦那、被害者側の弁護士などが登場する

役割ごとの役目は次の通りです。

家族役|家族を心配する心につけ込む

手口が進化しようとも、オレオレ詐欺である限り家族役の存在は欠かせません。家族役は話す時間が少なく、すすり泣いていたり風邪を引いている振りをしていたりするので、電話先の声から本人を判断するのが困難です。

従来の手口の場合、被害者はここで不審に思い本人に確認することもできましたが、劇場型詐欺では調べ上げた情報を駆使し、ターゲットの家族だというリアリティを演出していきます。

被害者役|恐怖を煽る

家族役が早々に退散すると、激怒した被害者役が現れます。この役割の詐欺師は、ターゲットが想像しうる最悪のパターンを想起させるような脅し文句を並べるのが仕事です。

大声で恫喝するとともに、「裁判」「警察」「逮捕」などのキーワードを随所に出していき、ターゲットは冷静な判断力を失いつつも、「逮捕されたら息子の仕事はどうなる」「裁判になって負けたら慰謝料をいくら支払うことになるんだろう」と最悪の事態を想像して不安に押しつぶされていきます。

第3者役|救いの手を差し伸べる

被害者役がターゲットの不安を十分に煽ったところで、弁護士や警察などを装う第三者役が登場します。この役割の詐欺師はあくまで冷静で、被害者役に脅された後のターゲットからすると救いに感じるような提案をしてきます。

息子が逮捕され仕事を失ったり、裁判で何百万円もの慰謝料を請求されたりする想像をしていた被害者に対し、「被害者をなだめた、いまなら示談に応じてくれる」など救いの手を差し伸べて、お金さえ払えば最初に想像していた最悪の事態にならないで済むと思わせます。

今すぐお金を払うように伝え、考える時間を与えない

あれこれと理由をつけ、今お金を支払うよう指示します。ターゲットに冷静に考える時間を与えれば騙せる確実性が下がるためです。

劇場型詐欺の事例

劇場型詐欺の事例をご紹介します。

事例1|名義貸しに関する詐欺

証券会社を名乗り「旅行会社の権利があるので買わないか。買いたい人がいるので、まずあなたが買って譲ってくれないか」という電話がかかってきた。よく分からなかったが「いらない」ときっぱり断った。今日、旅行会社を名乗り「あなたの名義で投資ファンドを1000万円買い、名義貸しをしている。1000万円を受取る権利があるので銀行口座に振込むが、そのためには、まず500万円を振込んでほしい。名義貸しをこのまま放置すると大変なことになる」という脅しを受けた。心配だ。

引用元:国民生活センター|劇場型勧誘

複数の人物(証券会社、旅行会社)から連絡が来ています。この例の被害者は最初の提案を断れていますが、断れず本当に名義貸しをした場合は、より追い詰められる心境になっていることも考えられます。電話勧誘で怪しい提案をされても応じないようにしましょう。

事例2|警察や公的機関の職員をかたる詐欺

地元警察署員を名乗る男性から、「詐欺グループによる被害があった。個人情報が抜き取られており、二次被害が発生しているため、預貯金が問題ないか確認する必要がある。消費生活センターが預貯金を確認するので銀行情報を伝えるように」と電話があり、直後、消費生活センターを名乗る女性から電話があり銀行情報を聞かれた。断って地元警察署へ問合せたところ、やはり詐欺だった。

引用元:国民生活センター

警察や消費生活センターを名乗る詐欺師から、個人情報漏洩をネタに騙されかけた事例です。預貯金が盗まれる可能性をほのめかしており緊急性がありますが、被害者は対応を間違えなかったため騙されずに済みました。

詐欺かもしれないと思ったら、すぐ警察に通報しましょう。

劇場型詐欺で騙されてしまう理由を考察

ここまででお伝えしてきたことを踏まえ、なぜ劇場型詐欺で騙されてしまうのか、その理由を考察していきます。

家族しか知らないような情報を出されると信じてしまうから

息子の名前を言ったので信じてしまった。

「なぜみんなだまされるのかしら」と話していたのに、いざ電話があって助けを求められたら息子と疑うことなく、お金を下ろして渡してしまった。

引用元:政府広報オンライン

最近のオレオレ詐欺では、「おれ、おれ」と言わずにターゲット家族の情報を調べています。家族役から電話がかかってきた段階で詐欺と気づけなければ、被害者役の脅しを真に受けて精神的に追い込まれていくことでしょう。

詐欺と気付いても個人情報を握られている不安からお金を払ってしまうから

仮に詐欺だと気付いても、職場や学校など家族の個人情報を握られているため、断れば報復されるのではないかと思いお金を払ってしまうことも考えられます。ただ、一度騙される人は“騙されやすい人”なので、カモリストに載せられてさらに狙われる恐れがあります。

詐欺に関しては、お金を払えば済むという問題ではありません。

複数の人物が同じ事件について話すため信用してしまうから

複数の人が同一の件で電話をかけてくるため、あたかも本当に起きた出来事のように感じてしまいます。ただ、みんなが言っていることが事実とは限らないので、本物の警察に電話して事実を確かめるようにしましょう。

アメとムチで「お金を払えば助かる」と思い込んでしまうから

被害者役が激昂した後、冷静な第三者役が「〇〇をすれば助かる」「被害者を説得して今なら示談にしてくれる」と救いの手を差し伸べます。

最初に無理な欲求を突きつけて、断られたらよりハードルの低い要求をすると相手が応じやすくなり、この技法を心理学用語でドア・イン・ザ・フェイス・テクニックといいます。

高額商品を勧めて断られた後に、低額商品を勧めると客は断りにくくなる心理が生ずる。これは、高額商品を売ることを諦めて低額商品に切り替えるという相手の譲歩に対して、こちらも譲歩しなければという心理が働く、返報性の原理による。この心理を応用した交渉術を「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」(譲歩的依頼法)と呼ぶこともある

引用元:Wikipedia

もちろん、第三者役が述べた条件こそ詐欺師本来の要求です。ただ、想像していた最悪の事態にならなかった被害者からすれば、「お金を払うだけで助かった」という心境になる可能性があります。

考える時間や猶予を与えない手口は強い

郵便局の窓口で局員から使い道や振込先との関係を何度も聞かれたが、「話が大きくなると会社に知れてクビになっちゃうから郵便局の人には余計なことを言わないで」と言われていたので「間違いありません。大丈夫ですから。」と怒って強引に振り込んでしまった。

引用元:政府広報オンライン

最終的に自分を騙すのは自分自身です。詐欺師の嘘を真実と信じれば、上記のように郵便局員に止められても気づけなくなります。十分にターゲットに嘘を信じさせたうえで、考える時間や猶予を与えない手口は途中で騙されていると気づきにくいでしょう。

劇場型詐欺に騙されないための対策

劇場型詐欺に騙されないための対策

騙されないためには、詐欺の手口を知っておくとともに、あらかじめ対処法を知っておく必要があります。

怪しい電話はすぐに切る

劇場型詐欺は電話でアプローチしてきます。電話さえ繋がらなければ、騙されることは愚か会話すらできません。詐欺師の巧みな演技が始まる前に、多少強引でもいいので電話を切り、家族本人に確認を取ったり、警察に相談したりすることが大切です。

身元が確認できない相手を信用しない

家族しか知らない個人情報を出されたからといって、電話先の警察官や弁護士が本物だと判断するのはちょっと待ってください。

警察官や弁護士の所属を聞いて、本物の警察署や弁護士事務所に電話して事実を確かめましょう。電話先の相手が話す内容を真に受けず、調べたり誰かに相談したりする時間をつくることが大切です。

高齢者が被害に遭うのを防ぐには周囲のサポートが大切

あなたが騙されなくても、あなたのご両親が騙されてしまう可能性もあります。高齢になると、判断力が衰えてしまうので、周囲のサポートがなければ詐欺に気づけずお金を支払ってしまうリスクがあります。

劇場型詐欺に遭った際の対処法

最後に、劇場型詐欺に遭ってしまった際の対処法をお伝えします。

振り込め詐欺の場合はすぐ警察と振込先の金融機関に連絡する

銀行口座にお金を振り込んでしまった場合は、すぐに警察と振込先の金融機関に連絡しましょう。振込先の口座にお金が残っていた場合、凍結して被害者間でそのお金を分配できます。

専門家に相談する

被害に遭ったらまず警察に通報しましょう。それでもお金が返ってこなければ、詐欺被害を解決した実績がある弁護士に依頼する選択肢もあります。

まとめ

複数の人物からあなたの息子が問題を起こしたと言われれば、平常心を失ってしまうのも頷けます。詐欺師はあなたの個人情報に関してキチンとリサーチをしているので、たとえ家族しか知らないようなことを言われても信用せず、相手の身元を確かめたり、家族本人に確認したりと対策をあらかじめ考えておきましょう。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
2016年1月に寺垣弁護士(第二東京弁護士会所属)、佐藤弁護士(東京弁護士会所属)の2名により設立。遺産相続、交通事故、離婚などの民事事件や刑事事件、企業法務まで幅広い分野を取り扱っている。

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