ミツバチの労働環境は超絶ブラック？ 日本の法律に当てはめてみた

長時間労働の末死に至る過労死“karoshi”は英語にもなっているように、日本人に特有の死因であり、私たちからすれば明日は我が身かもしれません。

ただ、実は日本人だけでなく、ミツバチにも“karoshi”はあるようなのです。何故かミツバチにシンパシーを感じた筆者がその生態系を調査した結果、劣悪な労働環境の数々が明らかになりました。

ミツバチの労働条件は、日本の法的に問題ないのでしょうか？この疑問を突き止めるべく弁護士事務所まで足を運んだ結果、予想外のご回答をいただきました。

ご多忙な弁護士先生のお時間を頂戴して、大の大人がミツバチについて小一時間ほど質問しに行く。今回はその一部始終をお伝えできればと思います。

※なお筆者が勝手にシンパシーを感じているため、この記事ではミツバチのライフスタイルにも日本の法律が適用される前提で話を進めていきます。

ミツバチと日本人の労働条件を比較してみた

歪んだ正義感とわずかな恥じらいを胸にネットサーフィンをすること3時間。ミツバチの違法っぷりが出るわ出るわ。

本題に入る前に、まずはミツバチと日本人との比較をご覧ください。

違法性が疑われるポイントは赤字にしています。ミツバチはあんなに可愛いのに、ご覧の通り女王様からまともな扱いを受けていません。

ちなみに冬のミツバチの寿命は140日程度ですが、夏のミツバチは多忙のため15日程度で過労死してしまうそうです。

女王様に違法性がないと思われる2つの理由

この時点では「女王蜂法律守らなすぎだろ（笑）」という気がするかもしれません。しかしミツバチ側にも働かなければいけない理由はあります。違法にならないと思われる理由は次の2つです。

1. 夏のハチが過労死するほど働かなければ、冬の間に食糧不足で巣が全滅する
2. 働き蜂は全員女王蜂の娘

「メシを食うためには働かなきゃいけない」この宇宙の法則にはミツバチといえども逆らえない様子。上記の理由はいずれも女王蜂の無実を証明しうるでしょう。

この前提条件が後に胃痛の種になることを、当時の筆者は知るよしもありませんでした。はたして女王蜂を断罪することはできるのでしょうか？

弁護士の先生に聞いてきたこと4つ

今回女王様を断罪するために用意したメインクエスチョンは次の4つです。もしミツバチが日本人だったら、という前提

1. ミツバチに労働基準法※1（以下労基法）は適用されますか？
2. 存命のハチが未払賃金※2を請求したらどうなりますか？
3.  休日が週一日もないのは労基法違反ですよね？
4. ミツバチはどんな証拠を集めればいいですか？

さあ、ここからが本題です。女王蜂はどの程度法に触れているのでしょうか？ぜひ想像してみてください。

【補足】

弁護士の先生にインタビューしてきた

鼻息荒く門を叩いた僕を迎え入れてくれたのは「山岡総合法律事務所の鈴木優吾先生」です。

では、インタビューの様子をご覧ください。

Q1ミツバチに労基法は適用されますか？

－そもそもミツバチに労基法は適用されますか？

鈴木先生：されません。

－どうしてですか？

鈴木先生 ：そもそも労基法は労働者が自然人※3であることを前提としているので（労基法１条１項）、人ではないミツバチには適用されません。仮に自然人と同視するとしても、同居の親族※4（労基法１１６条２項）に当たるので適用除外です。

そうすると話が終わってしまうので、今回は適用されるということにしましょうか。

－お願いします。

Q2存命のハチが未払賃金を請求したらどうなりますか？

－ミツバチに労基法が適用されるとして、働きバチが女王蜂に未払賃金を請求したらどうなりますか？

鈴木先生：女王蜂とミツバチ間の契約内容によります。労働に対して報酬を支払わないという契約も、法律では制限されていません。

（労働契約ではなく）無償（準）委任契約というものがあります。 賃金が発生するかどうかは、お互いの合意があったかどうかによるでしょう。労働の対価として賃金を支払うという合意がなければ、賃金を請求するのは難しいです。

－日本人で似たようなケースってありますか？丁稚奉公とか。

鈴木先生：食事を労働の対価として与えているのであれば、通貨払い原則※5に反します。現代においては違法 ですね。

－雇用契約書を結んでいなかったとしても、違法には該当しますか？

鈴木先生：その場合は労働条件の明示（労基法１５条１項）違反ですね。

－未払賃金だけでなく、法定労働時間※6を超える労働に対して残業代が支払われないのも違法ですよね？

鈴木先生：その通りですね。

Q3休日が週一日もないのは労基法違反ですよね？

－ミツバチは一日の労働時間が6時間～8時間で、一日も休んでいないのですが

鈴木先生：かわいそうですよね。

－これも労基法違反ですよね？

鈴木先生：労働時間が週40時間を超えるので、36協定が結ばれていなければ違法ですね。休日が週1日もないのは、35条違反です。

Q4ミツバチはどんな証拠を集めればいいですか？

－働きバチと女王蜂に雇用関係があったとして、未払賃金等請求をするためにはどんな証拠を集めればいいですか？

鈴木先生：雇用契約書（または労働条件通知書）、就業規則、タイムカード、日報、給与明細、源泉徴収票、等ですね。ミツバチにはないと思いますが。

－そうですね。もし日本人が同じような状況で証拠がなかった場合はどうすればいいですか？

鈴木先生：証拠保全※7という手があります。未払賃金の場合、会社に証拠が残っている場合が多いですね。

－労働問題を解決するためには、証拠が必須なんですね。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

結論｜働きバチは日本人の法律（労基法）で裁けない

ミツバチは命をかけてでも生存のために働かなければなりませんし、人間ではありません。ブラックだったのはどうやらミツバチの巣ではなく、僕の心の方だったようです。

しかし、読者の中に労基法に反している巣で働くミツバチのような方がいるのであれば、証拠を集めて労基署や弁護士事務所に駆け込んでもらいたいものです。

働く場所は他にもありますから。