労災隠しの定義とは|労災が認められる状況と拒否された時の対処法

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弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
労災隠しの定義とは|労災が認められる状況と拒否された時の対処法

労災隠し(ろうさいかくし)とは、会社が労災によるイメージダウンや保険料の負担を減らす目的で行う不正行為です。社内で労働者が負傷をしたら基本的には会社はその事実を労働基準監督署に報告しなくてはなりません。

この記事では労災隠しの判断方法とその対処法について紹介しますので、労災に該当するのか判断に悩まされている状況の場合はぜひ参考にしてみて下さい。

労災の内容

一般的に労災といった場合、業務災害と通勤災害の2種類を含んでいます。このような労災にあった労働者は、労基署による認定を受けることで、法律上の補償を受けることができます。
 なお、企業は労働者を1人でも雇用する場合には、労災保険の届出等の手続が必要です。

業務災害

業務に起因する傷病です。業務災害と認められるためには、業務遂行性と業務起因性の両方が認められる必要があります。

業務遂行性とは、労働契約に基づいて労働者が事業主の支配下にあることを指します。

業務中や休憩時間中でも退勤時間までは基本的には業務遂行性が認められる可能性が高いです。

業務起因性とは、負傷や疾病が業務を起因として生じたものであることを指します。

そのため、業務とは関係のない行動による傷病には、業務災害とはなりません。

通勤災害

業務に従事するため又は業務を終了して帰宅するための移動に起因する傷病です。
通勤災害と認められるためには、業務に従事する又は業務を終えて帰宅するための合理的経路・方法の途中での事故である必要があります。

そのため、仕事終わりに飲み会に参加したような場合や日常的に利用するルートとは異なるルートで移動した場合には、通勤災害とならない可能性があります。

労働者死傷病報告を怠ると労災隠しになる

労働者死傷病報告を怠ると労災隠しになる

労働者死傷病報告とは

労働者死傷病報告とは、労働者が業務場で負傷・窒息・急性中毒が原因で死亡もしくは休業する状況に陥った時、会社が労働基準監督署長に提出を定められている制度のことです。

事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

引用:労働安全衛生規則97条より

もし業務場で労働者が死亡もしくは4日以上の休業が必要な状況になった場合は、会社は1~2週間以内に労働基準監督署長に報告をして、労災保険の保障が受けられるように申請する義務があります。(4日以内の休業期間の場合の申請期間は以下の通り)

  • 1~3月に起きた労災:4月末まで
  • 4~6月に起きた労災:7月末まで
  • 7~9月に起きた労災:10月末まで
  • 10~12月に起きた労災:1月末まで

労災隠しは、この労働者死傷病報告の提出の有無で決まるので、もし上記の状況に該当するのに報告書が提出されていなければ労災隠しであると判断できるでしょう。

通勤中の事故などは労災隠しにならない

労働者死傷病報告は業務場で起きた死亡・休業が必要な出来事が対象なので、通勤中の事故には適応されず、会社に労働者死傷病報告を提出する義務はありません。つまり会社が何も手続きをしていなくても労災隠しとは言えないのです。

このような通勤災害は、会社に相談をして手続きを任せるか、労働者自身が労基署へ直接申請をすれば労災保険の保障が受けられます。

 

一般的には会社への相談をしてから申請という流れになりますが、法律上では会社を介さずに労働者が直接申請をしても何も問題はないので、もし会社が手続きをしてくれない場合は自分で申請をしてしまうと良いでしょう。

相談の際に会社から労災申請をしないように強要される可能性もありますが、当然それは法律を無視した違法行為ですし、会社に申請の許可不許可を決める権限はないので、労災手当が必要な場合は迷わずに自分で申請をして下さい。

労働者死傷病報告の必要がある状況の例

労働者死傷病報告の必要がある状況の例

休憩中に社内で怪我を負った

労働災害とは業務遂行中の事故でかつ業務に起因した事故を指します。(これを業務起因性といいます)

この業務起因性は実質的に会社の指揮命令下(又はその延長)にあれば認められますので、休憩中や始業時間前であってもそれのみで労災として認められないというわけではありません。

 

例えば、休憩中にトイレに行った時に足を滑らせ転倒し骨折をしたという場合でも、指揮命令状態の延長上の事故として労災を受けられると思われます。

一方、昼休憩中に外出し、外出先で事故に遭ったという場合は、会社の指揮命令下から外れた私的行為として労災が否定される可能性が高いと思われます。

自宅から営業先に向かう際に事故にあった

営業マンで、特定のエリアが決まっていない飛び込み営業のような業務形態の場合、営業先に向かう際に起きた事故は通勤途中と評価されない限り労働者死傷病報告の対象となります。

なお、通勤と評価されるのは、家から最初の営業先に向う時と最後の営業先から自宅へ帰る時と思われます。したがって、それ以外の時間中の事故は労働者死傷病報告の対象となるのが通常と思われます。

なお、通勤時の事故は通勤災害と判断されます。

出張中の宿泊先で怪我を負った

出張中は、出張先の業務に従事している時間帯の事故や出張業務に内在する危険が顕在化した事故は労働者死傷病報告の対象となります。

例えば、「出張先の宿泊施設で火災の被害にあった」「出張先での移動中に交通事故にあった」というような状況は原則として労働者死傷病報告の対象事項です。

しかし、出張で予定されない観光地巡り中の事故、予定していた宿泊先以外の宿泊先・滞在先での事故、私的な飲食により泥酔中の事故はいずれも全くの私的行為で労災ではないと評価される可能性があります。

労災隠しを行った際の罰則

企業は労働災害が発生した場合、遅滞なく労働者死傷病報告等を所轄労基署に提出する必要があります。この報告を敢えてしない行為を、一般的に「労災隠し」と呼ぶことがあります。

このような行為については、労働安全衛生法120条1項5号に基づき50万円以下の罰金刑が科される可能性があります。

労災隠しが発覚するケース


労働災害が発生した場合、労働者は企業を通じて業務災害や通勤災害についての補償を申請するのが通常です。しかし、労災隠しを行う企業は、このような申請に協力しないのが通常でしょう。
 
しかし、このような場合でも労働者は独自に業務災害や通勤災害について労基署に申請を行うことが可能であり、当該申請があった場合、労基署は事業主に対して必要な調査を行います。


 
この調査の過程で企業側による「労災隠し」が発覚するということは十分あり得ます。

企業側が故意的に「労災隠し」をしたとして、実際に立件されるケースは少ないと思われますが、もしマスメディア等に大々的に報道されれば企業イメージは大幅ダウンする可能性があります。
 
そのため、企業としては「労災隠し」と疑われるような行為は厳に控えるべきでしょう。

会社が労災隠しを行う理由

企業側が「労災隠し」を行ってしまう理由としては以下のような理由が考えられます(もちろん、企業側で正当な理由で業務災害や通勤災害に当たらないと考えているケースもあるでしょう。この場合は、一律に「労災隠し」といえないことは当然です。)。

手続きが面倒

手続きが面倒で労災隠しが行なわれているという理由も挙げられます。工場や工事現場・運搬などの労災が起こり得る可能性も想定される業種では、労災時の対処法マニュアルが作成されていることも多いでしょう。
 

しかし、デスクワークが主の会社ではなかなか労災が起きるという感覚も低いと思われます。いざ労災が起きてしまった際に、どういう手続をすれば良いのか分からず、会社と被災者従業員間で完結させて労災隠しとなるケースも考えられます。

企業のイメージ低下

労災が起きたことで、世間のイメージ低下を恐れ、労災隠しが行なわれるケースも考えられます。大企業は労災事故を起こしてしまうと、印象が悪くなりますし、現場の上司の昇進などにも響きます。


一方、小さい企業でも労災を起こしたことで会社のイメージが悪くなり契約を切られる可能性も出てきます。そのようなことを恐れ労災隠しが行なわれます。労災隠しが行なわれる理由としてはイメージ低下を防ぎたいというのが最も多いと考えられます。

労災について会社の責任を問う方法

業務災害や通勤災害について、会社の安全配慮義務違反が認められる場合には、労働者は別途会社の責任を問うことも可能です。

もっとも、実際に会社の責任を問う場合、損害の範囲、義務違反の有無・内容、義務違反と損害の因果関係など、労働者側で立証するべきハードルは高いです。そのため、この場合は、弁護士等の専門家への相談を検討するべきでしょう。

労災保険を活用ができない場合に生じるデメリット

労災保険を活用ができない場合に生じるデメリット

休業中の賃金保障額が少なくなる

労災保険なら休業中でも1日当たり普段の給与の80%の保障を受けられますが、健康保険だと普段の給与の60%しか保障を受けられません。また保障期間も労災保険なら無期限ですが、健康保険だと1年6ヵ月までと限定されてしまいます。

休業期間が長いほどそれだけ損失は大きくなるので、治療費だけでなく休業保障の面で見ても労災保険を活用しないのは間違いなく大損であると言えるでしょう。

障害が残っても保障が受けられない

労災保険であれば業務中に負った場合は障害保障が保障されます。支給額は障害の度合いにより異なりますが、以下の表で目安を紹介しますのでご参考に下さい。

等級 労働能力喪失率 障害(補償)給付額 障害特別支給金(1回)
第1級 100% 給与基礎日額×313日分×毎年支給 342万円
第2級 給与基礎日額×277日分×毎年支給 320万円
第3級 給与基礎日額×245日分×毎年支給 300万円
第4級 92% 給与基礎日額×213日分×毎年支給 264万円
第5級 79% 給与基礎日額×184日分×毎年支給 225万円
第6級 67% 給与基礎日額×156日分×毎年支給 192万円
第7級 56% 給与基礎日額×131日分×毎年支給 156万円
第8級 45% 給与基礎日額×503日分×1回支給 65万円
第9級 35% 給与基礎日額×391日分×1回支給 50万円
第10級 27% 給与基礎日額×302日分×1回支給 39万円
第11級 20% 給与基礎日額×223日分×1回支給 29万円
第12級 14% 給与基礎日額×156日分×1回支給 20万円
第13級 9% 給与基礎日額×101日分×1回支給 14万円
第14級 5% 給与基礎日額×56日分×1回支給 8万円

表の通り、労災保険では障害に対してかなり手厚い保障が用意されていますが、健康保険にはこれらの保障は一切ありません。障害の度合いによっては数千万以上の損をしてしまう可能性もあるのです。

これは労災保険以外ではとても賄いきれないものなので、もし障害の可能性がある場合は絶対に労災隠しを許してはいけません。

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労災隠しをする会社の間違った主張の例

労災隠しをする会社の間違った主張の例

人数が少ないから労災保険に加入をしていない

会社は1人でも労働者を雇った場合は必ず労災保険に加入させる義務があるので、どんな小規模な会社でもその義務が免除されることはありません。

労災保険に加入させてもらえていない状況であっても、これは保険滞納という会社側の問題であり、労働者は労災補償を受けることが可能です。

正社員でなければ労災報告はできない

アルバイト・パート・正社員など、従業員の雇用形態に関係なく、労働者は等しく労働災害補償を受けることができます。したがって、パート・契約だから労災補償を受けられないということはありません。

なお、派遣の場合、労災補償処理は派遣元で行われますので、まずは派遣元に連絡をして手続きを踏んでいくのが一般的な流れです。

この会社ではその怪我は労災と認めていない

上記でも少し触れましたが、労災かどうかを判断するのは労基署なので会社に労災の条件を決定する権利はありません。

例え契約書に骨折は対象外と書かれていたとしても、日本では社内規則よりも法律が優先です。そのような契約書は無効になるので、もし同意書を書いていた場合でも無視をすれば問題ないのでご安心下さい。

労災隠しにあった際の対処法

労災隠しにあった際の対処法

労働基準監督署に労災の報告をする

会社から労災申請を拒否されている状況なら最初にすべきことは労働基準監督署への相談です。事故状況・怪我の状況・会社の対応を証明できる証拠を提出して、労働基準監督署が労災だと判断すれば、会社は書類送検をされ申請を認めざるを得ない状況になります。

▶全国の労働基準監督署の所在案内|厚生労働省

労災隠しの刑罰は50万円以下と会社として見ればそれほど大きくはないですが、世間に労災隠しの事実が公表されるので、取引先や顧客が離れたりイメージダウンによる多大な悪影響を受けることになるでしょう。

保険証で治療費の支払いをしない

「後で治療費を払うから先に健康保険で治療をしていきて」会社からこのように言われたら納得してしまうかもしれませんが、労災隠しの違法行為に加担してしまう可能性があるので注意が必要です。

労災を健康保険で賄うことはできないので、本来は受給できない事で健康保険を不正利用したと知らずの内に詐欺に加担して不利益を被ってしまうリスクがあります。労災で健康保険を利用するのは違法行為なのでお気を付け下さい。

民事訴訟をする

作業中の事故など状況が明らか状況であれば労働基準監督署へ相談をすれば大抵はそこで労災と認められますが、過労死など責任の判断が難しい状況だと会社は労災を頑なに認めない姿勢を取る可能性があります。

そのような状況で会社に労災を認めさせるには、労働者自らが労基署に労災申請する、会社に対して民事訴訟を提起するという方法があり得ます。

いずれの方法を選択する場合でも、主張を裏付ける証拠が最重要です。証拠は時間が経つと確保が困難になるので、可能な限り早めに行動を開始した方が良いでしょう。

まとめ

労働者死傷病報告に該当する労災で会社が労働基準監督署長に申請をしてくれないのならば、それは労災隠しの被害にあっていると判断できるでしょう。

労災は会社が認めなくても労基署に認めてもらえれば支給されるものなので、会社に断られても泣き寝入りをせずに自分で積極的に行動をしていくことをおすすめします。

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この記事を監修した弁護士
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。第二東京弁護士会所属。

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