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KL2020・OD・037
逸失利益(いっしつりえき)とは、事故によって死亡、または後障害を負った人が、事故に合わずに無事生存していたら一生の間に得ていたであろう収入、もしくは後遺障害による労働力の減少による収入減分をいいます。
交通事故の被害者が後遺障害を負ったことが原因による収入減を補償することを目的とした逸失利益は、損害賠償金のうちの1つです。
今回は後遺障害14級と認定された際の逸失利益の計算方法を記載します。また等級1級~13級の後遺障害を負った際の逸失利益の計算方法や、死亡事故の場合の逸失利益の計算方法は、「後遺障害逸失利益の算定|賠償金増額のための3つのポイント」に詳しく書いていますのでこちらを参考にしてください。
目次
ここでは逸失利益の求め方の計算式とその計算式に用いられる各項目について説明します。
逸失利益を求める計算式は以下の通りとなります。
基礎収入額(※1) × 労働能力喪失率(※2) × 労働能力喪失期間(※3)におけるライプニッツ係数(※4) |
以下では、基礎収入額、労働能力喪失率、労働能力喪失期間、ライプニッツ係数の説明をしていきます。
基礎収入額とは事故直前の一年間の収入のことをいいます。事故の被害がサラリーマンであれば、給与の年収(額面)が基礎収入額となります。収入のない主婦や学生の基礎収入額は賃金構造基本統計調査(賃金センサス)における平均賃金が原則として基準にされます。
サラリーマンの基礎収入額 | サラリーマンの場合、事故前年の年収(額面)が基礎収入となります。。 |
自営業者や自由業者の基礎収入額 | 自営業者は、個人商店や会社組織になっていない工場の経営者のことを言います。自由業者は画家、音楽家、作家、弁護士、医師などを言います。このような職業の人の基礎収入額は事故前年度の所得税確定申告の時の年間所得額及び固定費を基準にします。 |
幼児、小・中・高校生の基礎収入額 | これらの人は事故時に収入がありませんので統計に基づいて平均賃金を基礎に計算を行います。具体的には男女別の賃金センサス(賃金構造基本統計調査)を基に算定されます。 |
専業主婦の基礎収入額 | 専業主婦の場合も一般的には無職ですが、逸失利益が認められます。具体的には賃金センサスの女子労働者の学歴計・全年齢平均賃金を基準に算出します。 |
老人・失業者 | 老人の場合でも主婦については一定の逸失利益が認められますし、主婦でなくても労働に従事している人は逸失利益の請求が可能です。失業中の人や、一時離職中の人は、勤労意欲があり、就職する意欲があるなら逸失利益も認められます。その時の基礎収入額は、再就職先の賃金もしくは従前の会社の賃金を基準に求めます。 |
労働能力喪失率とは後遺障害による労働の喪失割合を表した数字です。労働能力喪失率は職種、年齢、性別に基づき喪失割合が決まりますが、一般的には労働基準局が公表している労働能力喪失率表を基準にして求めます。
労働能力喪失率表
障害等級 | 労働能力喪失率 | 障害等級 | 労働能力喪失率 | 障害等級 | 労働能力喪失率 |
第1級 | 100/100 | 第6級 | 67/100 | 第11級 | 20/100 |
第2級 | 100/100 | 第7級 | 56/100 | 第12級 | 14/100 |
第3級 | 100/100 | 第8級 | 45/100 | 第13級 | 9/100 |
第4級 | 92/100 | 第9級 | 35/100 | 第14級 | 5/100 |
第5級 | 79/100 | 第10級 | 27/100 |
労働能力喪失率表による後遺障害14級の労働能力喪失率は5%です。
労働能力喪失期間は、事故後に労働が可能な期間です。具体的には67歳までとされています。たとえば30歳で事故に遭い後遺障害を負った場合、労働能力喪失期間は37年となります。
ただし、むち打ち症に関しては一種の神経症状であり、何年後かには治るという医学上の意見が取り入れられており、労働能力喪失期間に制限が設けられています。実務的には14級の場合は労働能力喪失期間を5年程度、12級の場合は10年程度に限定する考えが一般的です。
逸失利益は将来得るであろう利益を現在一括に受取るので、その将来にわたる期間の利息分(中間利息)を控除しなければなりません。この利息の控除に用いられる数字がライプニッツ係数です。
労働能力喪失期間におけるライプニッツ係数は以下の表の通りです。
能力喪失期間(年) | ライプニッツ係数 | 能力喪失期間(年) | ライプニッツ係数 | 能力喪失期間(年) | ライプニッツ係数 | 能力喪失期間(年) | ライプニッツ係数 |
1 | 0.9524 | 18 | 11.6896 | 35 | 16.3742 | 52 | 18.4181 |
2 | 1.8594 | 19 | 12.0853 | 36 | 16.5469 | 53 | 18.4934 |
3 | 2.7232 | 20 | 12.4622 | 37 | 16.7113 | 54 | 18.5651 |
4 | 3.5460 | 21 | 12.8212 | 38 | 16.8679 | 55 | 18.6335 |
5 | 4.3295 | 22 | 13.1630 | 39 | 17.0170 | 56 | 18.6985 |
6 | 5.0757 | 23 | 13.4886 | 40 | 17.1591 | 57 | 18.7605 |
7 | 5.7864 | 24 | 13.7986 | 41 | 17.2944 | 58 | 18.8195 |
8 | 6.4632 | 25 | 14.0939 | 42 | 17.4232 | 59 | 18.8758 |
9 | 7.1078 | 26 | 14.3752 | 43 | 17.5459 | 60 | 18.9293 |
10 | 7.7217 | 27 | 14.6430 | 44 | 17.6628 | 61 | 18.9803 |
11 | 8.3064 | 28 | 14.8981 | 45 | 17.7741 | 62 | 19.0288 |
12 | 8.8633 | 29 | 15.1411 | 46 | 17.8801 | 63 | 19.0751 |
13 | 9.3936 | 30 | 15.3725 | 47 | 17.9810 | 64 | 19.1191 |
14 | 9.8986 | 31 | 15.5928 | 48 | 18.0772 | 65 | 19.1611 |
15 | 10.3797 | 32 | 15.8027 | 49 | 18.1687 | 66 | 19.2010 |
16 | 10.8378 | 33 | 16.0025 | 50 | 18.2559 | 67 | 19.2391 |
17 | 11.2741 | 34 | 16.1929 | 51 | 18.3390 |
ではここで具体的に後遺障害14級に認定された被害者の逸失利益の計算を行います。ただし被害者の状況は以下の通りとします。
被害者の年齢・性別・職業 | 35歳・男性 |
事故前の収入 | 420万円 |
後遺障害の症状 | むち打ち症 |
後遺障害認定内容 | 後遺障害第14級9号 |
労働能力喪失期間 | 2年 |
労働能力喪失率 | 5% |
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間におけるライプニッツ係数
=420万円×0.05(5%)×1.8597≒39万円
よって上記の例の際の後遺障害逸失利益は約39万円となります。
交通事故の被害者になってしまった場合、加害者に対して損害賠償金として請求できるものは逸失利益だけではありません。
ここでは後遺障害と認定された場合に請求できるその他の損害賠償金を記載して置きます。
積極損害とは交通事故により被害者が出費しなければならなかった損害を言います。具体的には治療費、入院費などを含みます。また具体的な損害項目を一覧にして記載しておきます。
積極損害の項目 | 内容 |
①治療費・入院費 | 必要かつ相当な範囲で実費全額。健康保険の利用も可 |
②付添看護費 | ●職業付添人の場合…実費全額●近親者付添人の場合…入院付添 1日につき5,500円~7,000円 …通院付添 1日につき3,000円~4,000円 |
③将来の介護費用(必要な場合) | ●職業付添人の場合…実費全額●近親者付添の場合…1日につき8,000~9,000円 |
④入院雑費 | 1日につき1,400円~1,600円 |
⑤交通費 | 本人の通院におき、原則実費●タクシー代…ケガの相当性により認められる●自家用車…ガソリン代、高速代、駐車場代など |
⑥装具 | ●義足、車いす、義眼、かつら、眼鏡、コンタクトレンズなど |
⑦子供の学習費・保育費など | 受傷を原因とした学習の遅れを取り戻すための学習費や子供を預けなければならない場合の費用 |
⑧弁護士費用 | 訴訟になった場合認められる。裁判所認容額の1割程度 |
休業損害とは事故の被害者が入院や治療のために仕事を休んだ際の損害です。被害者は休業により受けた損害分を加害者に請求することができます。これは逸失利益とは別で請求できます。
たとえば月収30万円のサラリーマンが二カ月休業した場合の休業損害は60万円となります。
慰謝料とは損害を被ったことに対する精神的な負担を金銭で表したものです。そして入通院慰謝料は入院や通院を行ったことに対する慰謝料です。入通院慰謝料は通院や入院した期間により増額されます。
また慰謝料は入通院慰謝料、後述する後遺障害慰謝料ともに相場があります。それぞれ「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」です。それぞれの慰謝料の相場は「自賠責保険基準」<「任意保険基準」<「弁護士基準」の順に高くなります。
後遺障害慰謝料は、事故により被害が後遺障害を負ってしまったことに対する精神的な負担に対する慰謝料です。
自賠責保険基準での後遺障害14級の後遺障害慰謝料は32万円です。弁護士費用の後遺障害慰謝料は110万円となっています。
慰謝料に関して詳しく知りたい方は「交通事故慰謝料を正しく計算し適正な慰謝料を獲得する全手順」を参考にしてください。
ここでは後遺障害14級として認められる症状を一覧にして紹介しておきます。
14級1号 | 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
14級2号 | 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
14級3号 | 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
14級4号 | 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
14級5号 | 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
14級6号 | 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの |
14級7号 | 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
14級8号 | 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
逸失利益は後遺障害を負ってしまった場合の収入の減少に関する保障です。後遺障害と認定されるには申請を行う必要があります。また交通事故の損害賠償にはその他にも紹介した通り、様々なものがあります。
交通事故はほとんどが示談で解決しますが、示談交渉を弁護士に依頼していれば損害賠償額の増額などのメリットがあります。交通事故の被害者になってしまった場合、一度弁護士に相談していてはいかがでしょうか。
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